ep132 夕方②

ー/ー



「クロー、そこにいたか」

 物思いにふける俺の背後からカレンがやって来た。

「あんたはもういいのか?」

「私がそんなに酒呑みに見えるか?」

「そういう意味で聞いたんじゃないが」

「トレブルたちが入ってきて酒を飲み始めたからな。私はもう出たほうがいいと思ってな」

 カレンの顔はやや赤くなっていた。マジメな彼女は飲むフリをせずにちゃんと飲んでいた。しかしさすがは勇者の妹。まったくもってキチンとしている。

「結構飲んでいたように見えたけど、しっかりしているんだな」

「ああ。あれぐらいはわけない」

「女隊長はダテじゃないってわけか」

「違う。私は酒豪ではない。これは単純なカラクリだ」

「……魔法か?」

「補助魔法のちょっとした応用だ。もっとも本来は酒に使うものではないので完全に酔わないというわけではないが。私は立場上、酒席の重要性もよく知っている。かといって酔い潰れるわけにもいかない。そこで、この方法に至ったというわけだ。一応言っておくが、これは魔力の微調整が必須でそれなりの魔法技術を要するのだぞ?」

 カレンは見せたことのないドヤ顔をチラッと見せた。やはり多少は酔っているのだろうか。でも、いざ戦いとなったらシャキッとするんだろうな。この魔法剣士様は。

「ところでエレサはどうした?」

「奴はギャングどもと飲み比べをやっていたぞ。奴こそは酒豪かもな。ダークエルフは様々な物に対して強い耐性を持っていると聞いたことがあるが、まさか酒に対してもとはな」

「さっきも酔ってはいたみたいだが」

「酔いはするがいくらでも飲めるらしい」

「なんだそれ。酒好きなら最高の体質じゃんか。金はかかりそうだが」

「確かにな」

 カレンはくすくすと笑った。俺は少々驚く。
 
「初めてあんたの笑顔を見たな」

「そ、そうか? 悪いか?」

「悪くないよ。むしろそのほうが良いんじゃないか? あんた美人だし」

「なっ!」
 カレンが身構える。
「わ、私を口説いているのか!?」

「あんた、絶対俺に対して間違ったイメージ持っているよな……」

「カレンだ」

「え?」

「私はカレン。あんたって呼ぶのはやめて」

 カレンがムスッとする。

「あ、ああ、そうだな。カレン」と名を呼ぶと、カレンはフフッと微笑んだ。
 その時だ。

「なに抜けがけをしている!」
 何処からエレサが飛び出してきて俺たちの間へ割って入ってきた。
「クローはわたしの!」と叫びながらエレサは俺の腕にひしと抱きついた。

「だいぶ酔っているな。大丈夫か?」

「だいじょーぶだもん。わたしね? いくらでも飲めるから」

 エレサは酔いに任せて俺の肩に頬をスリスリと寄せて甘えてくる。

「宿に戻るか?」

「え? わたしのこと抱きたいの?」

「違う!」

「いいよ。クローなら」

「いやよくないだろ」

「よくなくない」

 エレサは俄然ピッタリとくっついてきた。

「やっぱり私のイメージ通りの男だな」

 カレンがつーんと冷たい視線を浴びせてくる。

「だから違うっての! これはエレサが勝手に…」

「勝手?」
 エレサが敏感に反応する。
「その言いかたヒドい!」

「待てエレサ! そういう意味ではなくて…」

「さっきもあんまり一緒に飲んでくれなかったし。なんだか楽しくもなさそうだったし」

 エレサは駄々をこねるように言った。

「それは別にエレサのせいではないよ」

「じゃあなんなの!?」

 エレサは頬をふくらませてムーッとした。
 俺はくっついてくるエレサをやさしく解く。

「シヒロは今ひとりぼっちだろ? いくら身の安全が保証されているとはいってもひとりで寂しいはずだろ。それを考えるとな」

 これは本音だ。そもそもわざわざヘッドフィールドまで来たのもシヒロを取り返すためだ。様々な事情を考慮して今はこの状況に甘んじているが、その目的は絶対に揺らぐことはない。
 
「そう…だね」

 エレサが目を伏せる。少し寂しそうに見えた。

「今度はシヒロも一緒に宴をやればいい」

 カレンが言った。俺を気遣ってくれたのだろうか。控えめながらも微笑も浮かべた。
 そうだな、と俺は小さく頷いた。


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「クロー、そこにいたか」
 物思いにふける俺の背後からカレンがやって来た。
「あんたはもういいのか?」
「私がそんなに酒呑みに見えるか?」
「そういう意味で聞いたんじゃないが」
「トレブルたちが入ってきて酒を飲み始めたからな。私はもう出たほうがいいと思ってな」
 カレンの顔はやや赤くなっていた。マジメな彼女は飲むフリをせずにちゃんと飲んでいた。しかしさすがは勇者の妹。まったくもってキチンとしている。
「結構飲んでいたように見えたけど、しっかりしているんだな」
「ああ。あれぐらいはわけない」
「女隊長はダテじゃないってわけか」
「違う。私は酒豪ではない。これは単純なカラクリだ」
「……魔法か?」
「補助魔法のちょっとした応用だ。もっとも本来は酒に使うものではないので完全に酔わないというわけではないが。私は立場上、酒席の重要性もよく知っている。かといって酔い潰れるわけにもいかない。そこで、この方法に至ったというわけだ。一応言っておくが、これは魔力の微調整が必須でそれなりの魔法技術を要するのだぞ?」
 カレンは見せたことのないドヤ顔をチラッと見せた。やはり多少は酔っているのだろうか。でも、いざ戦いとなったらシャキッとするんだろうな。この魔法剣士様は。
「ところでエレサはどうした?」
「奴はギャングどもと飲み比べをやっていたぞ。奴こそは酒豪かもな。ダークエルフは様々な物に対して強い耐性を持っていると聞いたことがあるが、まさか酒に対してもとはな」
「さっきも酔ってはいたみたいだが」
「酔いはするがいくらでも飲めるらしい」
「なんだそれ。酒好きなら最高の体質じゃんか。金はかかりそうだが」
「確かにな」
 カレンはくすくすと笑った。俺は少々驚く。
「初めてあんたの笑顔を見たな」
「そ、そうか? 悪いか?」
「悪くないよ。むしろそのほうが良いんじゃないか? あんた美人だし」
「なっ!」
 カレンが身構える。
「わ、私を口説いているのか!?」
「あんた、絶対俺に対して間違ったイメージ持っているよな……」
「カレンだ」
「え?」
「私はカレン。あんたって呼ぶのはやめて」
 カレンがムスッとする。
「あ、ああ、そうだな。カレン」と名を呼ぶと、カレンはフフッと微笑んだ。
 その時だ。
「なに抜けがけをしている!」
 何処からエレサが飛び出してきて俺たちの間へ割って入ってきた。
「クローはわたしの!」と叫びながらエレサは俺の腕にひしと抱きついた。
「だいぶ酔っているな。大丈夫か?」
「だいじょーぶだもん。わたしね? いくらでも飲めるから」
 エレサは酔いに任せて俺の肩に頬をスリスリと寄せて甘えてくる。
「宿に戻るか?」
「え? わたしのこと抱きたいの?」
「違う!」
「いいよ。クローなら」
「いやよくないだろ」
「よくなくない」
 エレサは俄然ピッタリとくっついてきた。
「やっぱり私のイメージ通りの男だな」
 カレンがつーんと冷たい視線を浴びせてくる。
「だから違うっての! これはエレサが勝手に…」
「勝手?」
 エレサが敏感に反応する。
「その言いかたヒドい!」
「待てエレサ! そういう意味ではなくて…」
「さっきもあんまり一緒に飲んでくれなかったし。なんだか楽しくもなさそうだったし」
 エレサは駄々をこねるように言った。
「それは別にエレサのせいではないよ」
「じゃあなんなの!?」
 エレサは頬をふくらませてムーッとした。
 俺はくっついてくるエレサをやさしく解く。
「シヒロは今ひとりぼっちだろ? いくら身の安全が保証されているとはいってもひとりで寂しいはずだろ。それを考えるとな」
 これは本音だ。そもそもわざわざヘッドフィールドまで来たのもシヒロを取り返すためだ。様々な事情を考慮して今はこの状況に甘んじているが、その目的は絶対に揺らぐことはない。
「そう…だね」
 エレサが目を伏せる。少し寂しそうに見えた。
「今度はシヒロも一緒に宴をやればいい」
 カレンが言った。俺を気遣ってくれたのだろうか。控えめながらも微笑も浮かべた。
 そうだな、と俺は小さく頷いた。