#13
ー/ー その後、ミィールカの街から馬車が燃える煙を見つけた衛兵達が駆け付けてきた。
燃える馬車とヘルハウンドの死骸、そしていくつもの街を襲っていた「黒騎士」の死体に衛兵達はあっけにとられた様子だった。
けど、私がゴーヨックの馬車にヘルハウンドの幼生体が捕らえられていると告げると、彼等の表情は一瞬で引き締まった。
「……これは、確かにヘルハウンドだな」
「では裏市場で魔物の取り引きが行われていたという噂は事実だったのか……?」
「これは我々手の手には負えないな。騎士団に伝令だ。お嬢さん、これはお手柄ですぞ」
「えっと……もしかして、魔物売買は問題だった、とかですか?」
「問題と言うよりも犯罪ですな。幼生体の頃から躾をすれば魔物は強力な戦力になる。そんなものが市中に出回ることがどれだけ危険か」
「……そう、なんですね」
そんな危険な魔物をかすり傷だけで殲滅してみせるイサミを見ている私は、深刻な表情でヘルハウンドの脅威を語る衛兵達の言葉がいまいちぴんとこなかった。
いや、でもよく考えれば彼等が言っているのが「普通」なんだ。
だってイサミは女神によって異世界召喚されたチート能力持ちの勇者様だ。
魔王すら簡単に屠る彼は、街の人達や衛兵、なんなら普通の冒険者とは格が違うのだろう。
だからイサミ準拠で物事を考えると、きっと常識外れだと思われてしまうに違いない。
そう考えた私は、衛兵達の言葉に素直に頷くことにした。
結局、私達は黒騎士討伐と魔物密売事件の事情聴取を受けるため、2日ほどミィールカの街へ留め置かれることになった。
もちろん参考人かつ黒騎士討伐の功労者だから、泊まったのは留置所じゃなくてちゃんとした宿だったよ?
宿泊費に食費だって騎士団持ちだったし!
衛兵と騎士団の調べによって、結局ゴーヨックはただの悪徳商人じゃなくて、魔物をはじめとした様々な禁制の品を扱う密売人……つまり犯罪者だったことが明らかになった。
で、偶然その場に居合わせただけとは言え、私達が結果的にゴーヨックを捕縛した扱いになったことで、騎士団から報奨金として金貨300枚を貰ってしまった。
そしてさらに黒騎士についても、魔王であるとは認知されなかったものの、領内の街を度々襲撃していた邪悪なる存在として扱われ、こちらも討伐報酬として金貨800枚がギルドから支払われた。
両方で締めて金貨1,100枚。日本円にすると1,100万円だ。
これ、高校生2人が貰っていい金額じゃないよね?
「でもサチ、このカネでもプレートアーマー買われへんのやろ?」
「……そう考えると滅茶苦茶高いね、鎧……」
イサミが言うとおりだ。
鎧1着が日本円で1,500万円って高すぎでしょ……。
でも、黒騎士討伐のご褒美はこれで終わりじゃなかった。
なんでも黒騎士が装備していた鎧は素材こそ不明ながら立派な装飾が施されていて美術品としての価値が高いと評価されたんだ。
そして領主がその鎧を買いとると申し出てくれた。
……実のところ、イサミがこの鎧を使えないかと思ってスペクタクルズで鑑定したら、呪いの武具だったんだよね。
まあそれもそうだろう。なにせ黒騎士はただの騎士じゃなくて、魔王だったんだから。
なので使い道のない鎧を領主に譲ることに同意したんだけ
、問題はその買い取り額だ。
その額、なんと金貨3,000枚!
今回の件で貰った金貨はヘルハウンドの討伐報酬を抜いても、合わせて4,100枚になるんだけど……これってもう、一生遊んで暮らせる額じゃない?
……いや、黒騎士を倒したのはイサミだから、私が遊んで暮らすのはダメだし、イサミのエンゲル係数を考えると1年ぐらいで使い切りそうな気もするけど。
「で、イサミ?私の取り分なんだけど。端数の金貨100枚ぐらいなら貰ってもいいかな?」
「あん?何言うとんねん」
イサミは三白眼で私を睨み付けるとそう言った。
……まぁ、普通はそうだよね。
私、結局ほとんど役に立ってないし。
まぁ、自分の食い扶持ぐらいは自分で稼げるようにならないとなぁ。
そう思いながら、私はイサミに図々しいことを言ったことを詫びるために、頭を下げた。
「……あー、ごめん。うん、そうだよね。私、役に立ってないから……」
「ちゃうわ!山分け、山分けに決まっとるやろうが!金貨2,000枚ずつ!端数の100枚はぱーっと飲み食いや!」
「……いいの?」
「当たり前やろ?」
「金額、判ってる?2,000円相当じゃなくて、日本円で2,000万円相当だよ?」
「なら、余計に山分け以外ないやろ!それにサチがおらんかったら、俺死んどったかもしれんしな」
「……うん、そっか。ありがとうね、イサミ」
結局、イサミはヘルハウンドに半壊させられた革鎧を買い直し、金属製の籠手を新調ししていた。全部合わせて金貨75枚……ってもらった褒美の額に見合わない安い買い物だよね。
私はと言えば、ギルドで斡旋して貰ったマジックアイテムを買うことにした。
今の私は身の回りの品すらイサミのアイテムボックスで運んで貰っている状況だ。
さすがにそれはおんぶにだっこだから、せめて自分の持ちものと、イサミが怪我をした時のためのポーション類を運べるようにするための切り札を入手したんだ。
「……それ、リュックサックか?」
「まぁ、見た目はそうだけどね。ホールディングバッグって言うんだって」
「でもリュックやよな?なんでそれが金貨700枚もするんや?」
「ただのリュックじゃないし!色んなものが沢山収納できて、重さも軽くなる便利アイテムだし!」
「……アイテムボックスの方が便利やんな?」
身もふたもない事を言うイサミの足を蹴っ飛ばし、私達は次の魔王を倒す旅に出る。
手に入れたバッグの中に、夢と希望とポーションと食料を一杯に詰めこんで。
「さて、次の魔王は……げっ、495Kmも先だって!ずいぶんと遠いね」
「また馬車でも乗ったらええやん」
「あー、それがいいね。歩き回るのも楽しいけど、さすがに東海道五十三次並の距離を歩きで制覇する気にはならないし」
「ごじゅうさんつぎってなんや?骨接ぎにしても多ないか?」
「はぁ……イサミ?旅の間にちょっと常識の勉強しようか?」
「パスパス!そんなんはええから、早う次いこうや!」
そう言うとイサミは馬車乗り場とは逆の方向へ向かって逃げ出してしまった。
私はため息を1つついてからイサミに声を掛ける。
「勇者様、魔王はそちらではありません!」
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