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#12

ー/ー



 とりあえず戦闘は終わったけど、状況はあまり良くない。
 イサミは負傷しているし、横転した馬車は積み荷が散乱している上にヘルハウンドの吐いた炎で半焼してしまった。
 そして馬車に乗っていたゴーヨックさんも怪我をして気を失っている。

 どうしたものだろう。
 とりあえず、私が一番気にすべきはイサミの怪我だろう。
 冒険者ギルドで回復ポーションは売ってたけど、1本で金貨50枚……つまりヘルハウンド1体の討伐報酬と同額だったから、つい買うのをためらったんだよね……。
 こんな事ならお金をケチらずに買っておけば良かった

 そう思いながら、まずはスペクタクルズでイサミの状態を確認する。
 表示された記号を地面に書いて、眼鏡を掛け替えてから確認するという面倒な作業を経て判ったことは……。

-----------------
名前:結城 勇(イサメ)
クラス:ユウしゃ/ファイニャー
レベノ:9
HP 79/91
-----------------

「……あれ?イサミ、レベル上がってるよ?」
「そうなん?自分ではさっぱりわからんわ」
「HPは……12減ってるけど、確か前は上限が84だったから、実質5しか減ってないってこと?そんなに怪我してるのに?」
「まぁ、ちょい痛いけど平気やで?」

 納得いかなかった私は気を失ったままのゴーヨックさんのステータスも確認した。
 彼のデータは職業「コモン(一般人)」でレベルは0、HPは2/4と表示されていた。

 つまり……。

「一般人なら余裕で死ぬダメージを受けてるけど、レベル9ファイニャーのイサミは平気ってこと?」
「だからなんやねん、ファイニャーって」
「たぶん戦士(ファイター)のことだと思うけど……。っていうか、冒険者ってこんなに打たれ強いの?勇者だけの特例措置?」
「いや、俺に聞かれても知らんて」

 イサミが特別頑強なのは耐久力(CON)が16だったことで説明はつく、か。
 じゃあ出血はしてるけど急いで手当てする必要はないし、むしろ体力を半分失ってるゴーヨックさんの方が危険ってことかな?

「なぁサチ、この爺さんなんで黒騎士に襲われとったんやろ?」
「んー、そう言えば前回もヘルハウンドに追われてたよね?黒騎士、道行く馬車を見境無く追ってる感じじゃなかったし、馬車が横転してからも執拗に攻撃してたし……」

 ミャ~

 私達がそんな話をしていると、先ほど姿を現した黒猫がいつの間にか荷崩れした馬車の荷台の上に座って、こちらを呼ぶように鳴いていた。

「サチ、呼んどるで?」
「……なんか本当に呼ばれてる感じがするよね……。猫の女神様のお導きかな?」
「荷物の中に煮干しでも入っとるんとちゃうか?」
「まさか!いや、でも猫嫌いを悪徳判定するポンコツ女神様だからなぁ……」

 そんな不敬なことを言いながら、荷物を覗き込んだ私は仰天することになった。

 なぜなら……荷台の奥には小さな檻があり、その中には赤く輝く目を持った、黒い子犬が捕らわれていたからだ。
 これって、もしかして……。

「なんやこれ。子犬……にしてはえらい睨んどんな」
「イサミ、これたぶんヘルハウンドの幼生体だよ」
「ようせい……?羽生えて飛ぶやつか?」
「いや、そうじゃなくて。ヘルハウンドの子犬だよ」

 ゴーヨックさん……いや、ゴーヨックの積み荷の中には檻に入ったヘルハンドの子犬がいた。
 そして黒騎士達は荷馬車を執拗に攻撃していたように見えたけど……もしかしたら、積み荷を確認しようとしていた?
 もしそうだとしたら、それが意味することは……。

「この間の襲撃も、今回の黒騎士も……この子を助けに来てた、ってこと?」
「なんや、それ……なら悪いのはこのジジイなんか?」
「黒騎士を倒しちゃったから真相は判らないけど……可能性は高いかな」

 何をもって悪とするのかは難しい。
 理由はともあれ街や無関係な人々を攻撃していた以上、黒騎士の行いは正義とはいえないからだ。
 そしてそんな黒騎士の行いを誘発したゴーヨックは……。

「……なら、街の平和を乱す悪党、ちゅうこっちゃな?」
「まぁ、間接的にはそうなるかな。実際、この前の街が襲われたのも、たぶん私達がヘルハンドの死骸を持ち込んだっていうより、あそこに滞在してたであろうゴーヨック狙いだった可能性があるし」

 私の言葉にイサミは鼻で笑うと、傍らに放り出していた大剣を拾い上げると立ち上がった。厳しい視線が向くのは、倒れ伏して意識を失ったゴーヨックだ。

「サチ、悪徳商人を狩ったらカネになるんやっけ?」

 イサミが口にした言葉に、私はナビに指定した「悪徳商人」の定義を再び考えさせられることになった。

 前回、私は「悪徳」とは猫の女神の道徳観や価値観に起因する判定……つまり猫嫌いを示していると思い込んだ。
 けど実際あの時もゴーヨックがヘルハウンドの子犬を運んでいたとしたら?

 そう言えばあの時、私が抱いていた黒猫(ブラックフェラル)はフレーメン反応を起こしていたっけ。
 私はゴーヨックに指を突きつけられたことに黒猫が反応してると思ったんだけど、もしゴーヨックの指にヘルハウンドの臭いが付いていたら……?
 強いフレーメン反応が出た理由は、指だけでなく獣の臭いだった可能性が高い。

 つまり、ゴーヨックは最初から自分が運んでいるものが黒騎士に追われる危険な代物だと知っていて、街に立ち寄れば人々に迷惑を掛けることを承知した上で街に逃げ込んでいたとしたら……?
 そしておそらくだけどこんな危険なものを商人が運ぶ理由は1つだ。
 私達の後ろにあるのが商業都市の呼ばれる街であるなら、ここで魔物の幼生体が売買されていることも考えられる。
 この世界でそれが違法かどうかはわからないけど、これまでの旅で私達はモンスターを連れた人、いわゆるテイマーには出会っていない。
 なら、魔物はおおっぴらに連れ歩ける存在ではないってことだ。

 ……要するにそれらを総合して考えると。
 ゴーヨックは「本物の悪徳商人」だった……ってことだろうか?

 イサミが無言でこちらを見ていることに気が付いた私は、確証を持てないままではあったけど、彼の言葉を肯定した。

「そうだけど……」
「なら、話は早いな。結局、こいつの方がホンモノの『魔王』やったちゅうこっちゃ」

 そう言うとイサミは大剣を振りかぶる。振り下ろされる軌跡の先にいるのは……未だ意識を失った、ゴーヨック。

 街に被害をもたらしたゴーヨックは討たれるべき悪だ。
 それは私も理解している。
 なんなら、悪徳商人を狩って資金稼ぎをしようとイサミに提案したのは私だし。

 ……けど。

「勇者様、魔王はそちらではありません」
「……理由、聞いてええか?」

 私の言葉に、イサミは振り上げた大剣を留めたまま、静かに聞いてきた。

「……だって、いくら悪党でも……これは人間だから。私、イサミに人殺しにはなって欲しくないよ」
「……そうか」

 短くそう答えると、イサミは振り上げていた大剣を放り投げ……そして、その場へ座り込んだ。

「ああ、腹減ったなぁ……。今回もただ働きやんな?」
「そんなことないよ。ヘルハウンド5体分で金貨250枚。黒騎士は……まぁ、ギルドで討伐報酬貰えなかったら鎧を売ってお金にしよう」
「ちゃっかりしとるなぁ、サチは」

 そう言って頭をかきながら笑うイサミの手を、人間の血で汚させずに済んだことに……私はほっとした。





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 とりあえず戦闘は終わったけど、状況はあまり良くない。
 イサミは負傷しているし、横転した馬車は積み荷が散乱している上にヘルハウンドの吐いた炎で半焼してしまった。
 そして馬車に乗っていたゴーヨックさんも怪我をして気を失っている。
 どうしたものだろう。
 とりあえず、私が一番気にすべきはイサミの怪我だろう。
 冒険者ギルドで回復ポーションは売ってたけど、1本で金貨50枚……つまりヘルハウンド1体の討伐報酬と同額だったから、つい買うのをためらったんだよね……。
 こんな事ならお金をケチらずに買っておけば良かった
 そう思いながら、まずはスペクタクルズでイサミの状態を確認する。
 表示された記号を地面に書いて、眼鏡を掛け替えてから確認するという面倒な作業を経て判ったことは……。
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名前:結城 勇(イサメ)
クラス:ユウしゃ/ファイニャー
レベノ:9
HP 79/91
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「……あれ?イサミ、レベル上がってるよ?」
「そうなん?自分ではさっぱりわからんわ」
「HPは……12減ってるけど、確か前は上限が84だったから、実質5しか減ってないってこと?そんなに怪我してるのに?」
「まぁ、ちょい痛いけど平気やで?」
 納得いかなかった私は気を失ったままのゴーヨックさんのステータスも確認した。
 彼のデータは職業「|コモン《一般人》」でレベルは0、HPは2/4と表示されていた。
 つまり……。
「一般人なら余裕で死ぬダメージを受けてるけど、レベル9ファイニャーのイサミは平気ってこと?」
「だからなんやねん、ファイニャーって」
「たぶん|戦士《ファイター》のことだと思うけど……。っていうか、冒険者ってこんなに打たれ強いの?勇者だけの特例措置?」
「いや、俺に聞かれても知らんて」
 イサミが特別頑強なのは|耐久力《CON》が16だったことで説明はつく、か。
 じゃあ出血はしてるけど急いで手当てする必要はないし、むしろ体力を半分失ってるゴーヨックさんの方が危険ってことかな?
「なぁサチ、この爺さんなんで黒騎士に襲われとったんやろ?」
「んー、そう言えば前回もヘルハウンドに追われてたよね?黒騎士、道行く馬車を見境無く追ってる感じじゃなかったし、馬車が横転してからも執拗に攻撃してたし……」
 ミャ~
 私達がそんな話をしていると、先ほど姿を現した黒猫がいつの間にか荷崩れした馬車の荷台の上に座って、こちらを呼ぶように鳴いていた。
「サチ、呼んどるで?」
「……なんか本当に呼ばれてる感じがするよね……。猫の女神様のお導きかな?」
「荷物の中に煮干しでも入っとるんとちゃうか?」
「まさか!いや、でも猫嫌いを悪徳判定するポンコツ女神様だからなぁ……」
 そんな不敬なことを言いながら、荷物を覗き込んだ私は仰天することになった。
 なぜなら……荷台の奥には小さな檻があり、その中には赤く輝く目を持った、黒い子犬が捕らわれていたからだ。
 これって、もしかして……。
「なんやこれ。子犬……にしてはえらい睨んどんな」
「イサミ、これたぶんヘルハウンドの幼生体だよ」
「ようせい……?羽生えて飛ぶやつか?」
「いや、そうじゃなくて。ヘルハウンドの子犬だよ」
 ゴーヨックさん……いや、ゴーヨックの積み荷の中には檻に入ったヘルハンドの子犬がいた。
 そして黒騎士達は荷馬車を執拗に攻撃していたように見えたけど……もしかしたら、積み荷を確認しようとしていた?
 もしそうだとしたら、それが意味することは……。
「この間の襲撃も、今回の黒騎士も……この子を助けに来てた、ってこと?」
「なんや、それ……なら悪いのはこのジジイなんか?」
「黒騎士を倒しちゃったから真相は判らないけど……可能性は高いかな」
 何をもって悪とするのかは難しい。
 理由はともあれ街や無関係な人々を攻撃していた以上、黒騎士の行いは正義とはいえないからだ。
 そしてそんな黒騎士の行いを誘発したゴーヨックは……。
「……なら、街の平和を乱す悪党、ちゅうこっちゃな?」
「まぁ、間接的にはそうなるかな。実際、この前の街が襲われたのも、たぶん私達がヘルハンドの死骸を持ち込んだっていうより、あそこに滞在してたであろうゴーヨック狙いだった可能性があるし」
 私の言葉にイサミは鼻で笑うと、傍らに放り出していた大剣を拾い上げると立ち上がった。厳しい視線が向くのは、倒れ伏して意識を失ったゴーヨックだ。
「サチ、悪徳商人を狩ったらカネになるんやっけ?」
 イサミが口にした言葉に、私はナビに指定した「悪徳商人」の定義を再び考えさせられることになった。
 前回、私は「悪徳」とは猫の女神の道徳観や価値観に起因する判定……つまり猫嫌いを示していると思い込んだ。
 けど実際あの時もゴーヨックがヘルハウンドの子犬を運んでいたとしたら?
 そう言えばあの時、私が抱いていた|黒猫《ブラックフェラル》はフレーメン反応を起こしていたっけ。
 私はゴーヨックに指を突きつけられたことに黒猫が反応してると思ったんだけど、もしゴーヨックの指にヘルハウンドの臭いが付いていたら……?
 強いフレーメン反応が出た理由は、指だけでなく獣の臭いだった可能性が高い。
 つまり、ゴーヨックは最初から自分が運んでいるものが黒騎士に追われる危険な代物だと知っていて、街に立ち寄れば人々に迷惑を掛けることを承知した上で街に逃げ込んでいたとしたら……?
 そしておそらくだけどこんな危険なものを商人が運ぶ理由は1つだ。
 私達の後ろにあるのが商業都市の呼ばれる街であるなら、ここで魔物の幼生体が売買されていることも考えられる。
 この世界でそれが違法かどうかはわからないけど、これまでの旅で私達はモンスターを連れた人、いわゆるテイマーには出会っていない。
 なら、魔物はおおっぴらに連れ歩ける存在ではないってことだ。
 ……要するにそれらを総合して考えると。
 ゴーヨックは「本物の悪徳商人」だった……ってことだろうか?
 イサミが無言でこちらを見ていることに気が付いた私は、確証を持てないままではあったけど、彼の言葉を肯定した。
「そうだけど……」
「なら、話は早いな。結局、こいつの方がホンモノの『魔王』やったちゅうこっちゃ」
 そう言うとイサミは大剣を振りかぶる。振り下ろされる軌跡の先にいるのは……未だ意識を失った、ゴーヨック。
 街に被害をもたらしたゴーヨックは討たれるべき悪だ。
 それは私も理解している。
 なんなら、悪徳商人を狩って資金稼ぎをしようとイサミに提案したのは私だし。
 ……けど。
「勇者様、魔王はそちらではありません」
「……理由、聞いてええか?」
 私の言葉に、イサミは振り上げた大剣を留めたまま、静かに聞いてきた。
「……だって、いくら悪党でも……これは人間だから。私、イサミに人殺しにはなって欲しくないよ」
「……そうか」
 短くそう答えると、イサミは振り上げていた大剣を放り投げ……そして、その場へ座り込んだ。
「ああ、腹減ったなぁ……。今回もただ働きやんな?」
「そんなことないよ。ヘルハウンド5体分で金貨250枚。黒騎士は……まぁ、ギルドで討伐報酬貰えなかったら鎧を売ってお金にしよう」
「ちゃっかりしとるなぁ、サチは」
 そう言って頭をかきながら笑うイサミの手を、人間の血で汚させずに済んだことに……私はほっとした。