第四百八話
ー/ー 灰崎の方は、空中を上手く生かしながら、氷の力による一時的な足場の建設、敵の足止めなど、徹底的に防御方面の施策を行っていたのだ。
しかし、それを意に介すことなく、灰崎を徹底的に攻め立てる存在が一人いた。それこそ、渡部正人であったのだ。
『潰スゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!』
氷の防壁を叩き割らんとする勢いで、全力の雑な殴りを灰崎本人に叩き込む。ある程度防御力が高い灰崎であったが、全力で防御をしているのにも拘らず、そして魔力によって氷の強度を圧倒的に上げているのにも拘らず、それでも多少強度が足らないのか、ひび割れがそこかしこに見られていた。
(クソ、以前よりも圧倒的に力が上昇していやがる……! 以前は生身でも平気で御せるほどの存在だったが……それほどに『人工因子』とやらが悪さをしているって訳か……!!)
人工因子の全貌を掴むため、その場から氷の壁を残しながら横に離脱し、無防備な肝臓部に思い切り膝蹴りを叩き込むも、それを手前で制止するは土の力であった。
(土の力、にしては『熱い』……まさか)
様子見がてら腹の様子を観察していたほんの数秒にて、殺意の籠った拳がスタンバイ済み。思い切りよく、灰崎の顔面に突き刺さるのだった。
それを見てしまった千尋は、思わず彼の名を叫ぶも、ローカルエリアに立ち並ぶ店数件を巻き込んでもなお、彼自身が転げまわる中でブレーキのかからない勢いに絶望していたのだ。いくら灰崎の力を信じているとはいえ、これほどの破壊力相手に立ち回ることなど出来るのか、と。
しかし、ここで千尋が握りしめる長棒が、彼女自身の脳内に語り掛ける。電気信号を音に変換しているようなもので、決して明瞭な声ではないものの、意思確認のためにはこの程度で十分であった。
『提案……『角行』形態から『金将』形態へ変更。ナノマシンによるテクノロジーは、かの有名な中国古典『韓非子』に由来する『矛と盾』……その内の盾を担うものこそ、この『金将』にございます』
「――それなら、あの馬鹿力……抑えられる?」
『疑問解消。満点の解答をするならば――十分可能です』
「オッケー、それが聞ければ十分!! 千葉県では廉治一人でどうにかしちゃったのもあって……フラストレーション溜まってんのよね!!」
すぐさま戦火揺らめく中、灰崎の元へ走り出す千尋。そのすぐそばを、灰崎を付け狙う渡部が走り去っていく。しかし、距離と速度の関係上、ぎりぎり態勢を整えている灰崎の元に辿り着くのが早いのは――千尋であった。
瓦礫など一切気にせず、ジャンプやスライディングを行った結果、用務員服のズボンや上着に大きなスリットが入るものの、彼女自身動きやすくなるためそれでよかった。
「廉治!! これを受け取れェッ!!」
すぐさま近づいた千尋は、フリスビーの要領で絶対防御の盾である『金将』を投げ飛ばす。金将は攻防一体の盾であり、各所変形ギミックを搭載した盤石の盾である。
しかも、それはあるべき姿の内の一つに過ぎない。千葉県にて扱った際は、女性でも簡単に扱いやすく、それでいて簡単に制圧しやすいようなタワーシールド型になっていたものの、これはナノマシンの活かし方で無限に形を変えることが出来る。
灰崎の元へ投げられた中で、流体へ変化する。そして彼が少しでも手を触れた瞬間に、形を変えていく。新たなる姿は――棘付きの盾であった。
しかも、ただのスパイクシールドではなく、本人の発想力によってより攻撃的になった結果、攻撃をある程度受けることが出来ながら、獣の爪を思わせるような鋭利な三叉棘があしらわれた、攻撃すること自体を躊躇われるようなものである。
それを容赦なしに殴りつける渡部。案の定、その勢い故に拳は完全に壊れ果てる。
爪が拳に深く突き刺さり、多量の出血と共に魔力が漏れ出ていく。
「オーケー、今だよ!!」
千尋が手元にあるアタッシュケースのホログラムを操作し、『金将』であったものを急速に変換する。多少なり博打にはなるものの、英雄が扱うのだからオーバースペックなものでも上等――そうチャレンジ精神込みで願った彼女の心は、見事に的中するのだった。
変更先は、『飛車』。そのモードへとすぐさま変換すると、これまで盾の役割を果たしていた兵器は、腕全体を覆う超強化両腕部装甲、『龍王が如く』へと変形したのだ。
なぜ、千葉県の時点でこの機能が封印されていたか、と言うならば。その最たる理由こそ、『度を越えた破壊力』故であった。
装着者のことを一切考えないほどの、『一撃入魂』をテーマに、両肘の部分には仰々しい加速機構まで備えられた、人間の腕をぶっちぎってでも一撃お見舞いしてやりたいという暴力的思考を叶えたいのならまさにうってつけなのだが、悲しいことに居装甲を纏った英雄でない限り、まず耐えられないほどの衝撃が自分の身を襲う。
そのため、今回の学園防衛戦になるまでこの機能を完全封印。来るべきタイミングで解禁する、という中で……ようやく今回初お披露目と相成ったのだ。
当人の脳波を感知し、一気に肘の部分に備えられている加速機構が点火。まるで中規模ロケットでも宇宙に発射するのか、という勢いのまま、灰崎が渡部の顔面に拳をフルスイング。
あまりにもの衝撃に、一瞬全ての音が消える瞬間が生まれるほどの、超轟音。顔面に叩き込まれた勢いのままに、ローカルエリアの建物をなぎ倒していきながら、先ほど以上の勢いで吹き飛んでいくのだった。
「いッッッッッッッッた!? 右腕全部がイカれるかと思ったぞ!?」
「ま、まあまあ……ひとまずは喜ぶかお礼言ってもらわないと。以前の借りはこれでチャラ、にはならないけど……少しくらい、アタシとこのアタッシュケースちゃんもやれるでしょ」
思わず失笑した灰崎に食って掛かる千尋であったが、灰崎はその勢いをジェスチャーで納めながら、千尋の元に降り立つのだった。
「――悪かった……感謝する、千尋。俺だけでは、正直ちょっと危なかった」
「ん、素直でよろしい。来週のお楽しみ、楽しみにしてるから」
「そうかい」
そうとだけ言い残すと、灰崎は無防備な千尋に対し、後ろに下がるようすぐさま手をかざす。向こうから漏れ出す反応が――先ほどから一切消えることなくそこにあり続けていたのだ。
破壊力抜群な一撃を叩き込んだとしても、その巨躯は――一切止まらなかったのだ。
『殺ス……殺ス殺ス殺ス……ッッッッ!!』
頬をさすりながらも、そして明確なダメージこそ負っていたものの、それでもまだ立って向かっている渡部。
先ほどよりもさらに理性は無くなり、目は完全に白目をむいており、体中の血管は脈動を続けている。心臓部にその脈動は終結していきながら、傷はどんどん癒えていく。
どこまでも一人の標的に固執し続ける狂戦士そのものであったのだ。
そのとても人間とは思えないほどに薄気味悪い光景に、千尋は戦々恐々としていた。
「あれだけの破壊力ある攻撃受けて……何でピンピンしてんのよ」
「――アイツ、恐らくだが……二つのベース能力を併せ持っている。その証拠に……ほら、見てみろ、アイツの背中側」
まるで筋肉のみで出来上がった達磨のような、巨大な体格の後ろには――そこには存在しないはずの疑似的なマグマが出来上がっていた。先ほど灰崎が知覚した『土』の力と、灰崎を一度殴りつけた時に発揮した『火』の力を結集させ、程度は低いものの簡易的なマグマのクッションを作り上げたのだ。
無論、その能力を持つ者にとって、その熱さは無害。灰崎は一切の能力が扱えなくなるほどに支障を受けるのにも拘らず、不平等極まりなかった。
「――だが、どこまでも哀しい奴だよ。手前の心には憎い存在が居ただろうに、今やそれ以上の悪鬼羅刹と成り果てた。手前の経緯だって知らねえのによ、こっちは。恨まれる理由でも何でも、知った上で相対したかったよ」
そんな灰崎の慈しみの言葉は、傍にて先ほどまで伸びていた構成員一人の耳に入った。あまりにもの衝撃に目を覚まし、自分ではまず介入の余地のない戦いを陰から見守っていたのだ。
「……アンタは?」
「俺は……あの子の親戚……のようなものさ。もう血縁関係者なんてのは……一人しかいない。渡部正人という男はどうしようもないほど面倒臭がりな奴だが……それ以上に苦難を経験した存在なんだ」
昔から彼との付き合いがある、親戚同然のような存在。そんな彼は、しみじみと異業と成り果てた渡部を眺めながら――何とか言葉を紡いでいく。過去を想起しながら、同じ痛みを味わった存在として……彼に向き合うのだった。
「――俺は……あの子の悲しみを受け止めきれなかった。アンタらは確かに『強い』存在だろうが……アイツは、正人は……違うんだ――」
しかし、それを意に介すことなく、灰崎を徹底的に攻め立てる存在が一人いた。それこそ、渡部正人であったのだ。
『潰スゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!』
氷の防壁を叩き割らんとする勢いで、全力の雑な殴りを灰崎本人に叩き込む。ある程度防御力が高い灰崎であったが、全力で防御をしているのにも拘らず、そして魔力によって氷の強度を圧倒的に上げているのにも拘らず、それでも多少強度が足らないのか、ひび割れがそこかしこに見られていた。
(クソ、以前よりも圧倒的に力が上昇していやがる……! 以前は生身でも平気で御せるほどの存在だったが……それほどに『人工因子』とやらが悪さをしているって訳か……!!)
人工因子の全貌を掴むため、その場から氷の壁を残しながら横に離脱し、無防備な肝臓部に思い切り膝蹴りを叩き込むも、それを手前で制止するは土の力であった。
(土の力、にしては『熱い』……まさか)
様子見がてら腹の様子を観察していたほんの数秒にて、殺意の籠った拳がスタンバイ済み。思い切りよく、灰崎の顔面に突き刺さるのだった。
それを見てしまった千尋は、思わず彼の名を叫ぶも、ローカルエリアに立ち並ぶ店数件を巻き込んでもなお、彼自身が転げまわる中でブレーキのかからない勢いに絶望していたのだ。いくら灰崎の力を信じているとはいえ、これほどの破壊力相手に立ち回ることなど出来るのか、と。
しかし、ここで千尋が握りしめる長棒が、彼女自身の脳内に語り掛ける。電気信号を音に変換しているようなもので、決して明瞭な声ではないものの、意思確認のためにはこの程度で十分であった。
『提案……『角行』形態から『金将』形態へ変更。ナノマシンによるテクノロジーは、かの有名な中国古典『韓非子』に由来する『矛と盾』……その内の盾を担うものこそ、この『金将』にございます』
「――それなら、あの馬鹿力……抑えられる?」
『疑問解消。満点の解答をするならば――十分可能です』
「オッケー、それが聞ければ十分!! 千葉県では廉治一人でどうにかしちゃったのもあって……フラストレーション溜まってんのよね!!」
すぐさま戦火揺らめく中、灰崎の元へ走り出す千尋。そのすぐそばを、灰崎を付け狙う渡部が走り去っていく。しかし、距離と速度の関係上、ぎりぎり態勢を整えている灰崎の元に辿り着くのが早いのは――千尋であった。
瓦礫など一切気にせず、ジャンプやスライディングを行った結果、用務員服のズボンや上着に大きなスリットが入るものの、彼女自身動きやすくなるためそれでよかった。
「廉治!! これを受け取れェッ!!」
すぐさま近づいた千尋は、フリスビーの要領で絶対防御の盾である『金将』を投げ飛ばす。金将は攻防一体の盾であり、各所変形ギミックを搭載した盤石の盾である。
しかも、それはあるべき姿の内の一つに過ぎない。千葉県にて扱った際は、女性でも簡単に扱いやすく、それでいて簡単に制圧しやすいようなタワーシールド型になっていたものの、これはナノマシンの活かし方で無限に形を変えることが出来る。
灰崎の元へ投げられた中で、流体へ変化する。そして彼が少しでも手を触れた瞬間に、形を変えていく。新たなる姿は――棘付きの盾であった。
しかも、ただのスパイクシールドではなく、本人の発想力によってより攻撃的になった結果、攻撃をある程度受けることが出来ながら、獣の爪を思わせるような鋭利な三叉棘があしらわれた、攻撃すること自体を躊躇われるようなものである。
それを容赦なしに殴りつける渡部。案の定、その勢い故に拳は完全に壊れ果てる。
爪が拳に深く突き刺さり、多量の出血と共に魔力が漏れ出ていく。
「オーケー、今だよ!!」
千尋が手元にあるアタッシュケースのホログラムを操作し、『金将』であったものを急速に変換する。多少なり博打にはなるものの、英雄が扱うのだからオーバースペックなものでも上等――そうチャレンジ精神込みで願った彼女の心は、見事に的中するのだった。
変更先は、『飛車』。そのモードへとすぐさま変換すると、これまで盾の役割を果たしていた兵器は、腕全体を覆う超強化両腕部装甲、『龍王が如く』へと変形したのだ。
なぜ、千葉県の時点でこの機能が封印されていたか、と言うならば。その最たる理由こそ、『度を越えた破壊力』故であった。
装着者のことを一切考えないほどの、『一撃入魂』をテーマに、両肘の部分には仰々しい加速機構まで備えられた、人間の腕をぶっちぎってでも一撃お見舞いしてやりたいという暴力的思考を叶えたいのならまさにうってつけなのだが、悲しいことに居装甲を纏った英雄でない限り、まず耐えられないほどの衝撃が自分の身を襲う。
そのため、今回の学園防衛戦になるまでこの機能を完全封印。来るべきタイミングで解禁する、という中で……ようやく今回初お披露目と相成ったのだ。
当人の脳波を感知し、一気に肘の部分に備えられている加速機構が点火。まるで中規模ロケットでも宇宙に発射するのか、という勢いのまま、灰崎が渡部の顔面に拳をフルスイング。
あまりにもの衝撃に、一瞬全ての音が消える瞬間が生まれるほどの、超轟音。顔面に叩き込まれた勢いのままに、ローカルエリアの建物をなぎ倒していきながら、先ほど以上の勢いで吹き飛んでいくのだった。
「いッッッッッッッッた!? 右腕全部がイカれるかと思ったぞ!?」
「ま、まあまあ……ひとまずは喜ぶかお礼言ってもらわないと。以前の借りはこれでチャラ、にはならないけど……少しくらい、アタシとこのアタッシュケースちゃんもやれるでしょ」
思わず失笑した灰崎に食って掛かる千尋であったが、灰崎はその勢いをジェスチャーで納めながら、千尋の元に降り立つのだった。
「――悪かった……感謝する、千尋。俺だけでは、正直ちょっと危なかった」
「ん、素直でよろしい。来週のお楽しみ、楽しみにしてるから」
「そうかい」
そうとだけ言い残すと、灰崎は無防備な千尋に対し、後ろに下がるようすぐさま手をかざす。向こうから漏れ出す反応が――先ほどから一切消えることなくそこにあり続けていたのだ。
破壊力抜群な一撃を叩き込んだとしても、その巨躯は――一切止まらなかったのだ。
『殺ス……殺ス殺ス殺ス……ッッッッ!!』
頬をさすりながらも、そして明確なダメージこそ負っていたものの、それでもまだ立って向かっている渡部。
先ほどよりもさらに理性は無くなり、目は完全に白目をむいており、体中の血管は脈動を続けている。心臓部にその脈動は終結していきながら、傷はどんどん癒えていく。
どこまでも一人の標的に固執し続ける狂戦士そのものであったのだ。
そのとても人間とは思えないほどに薄気味悪い光景に、千尋は戦々恐々としていた。
「あれだけの破壊力ある攻撃受けて……何でピンピンしてんのよ」
「――アイツ、恐らくだが……二つのベース能力を併せ持っている。その証拠に……ほら、見てみろ、アイツの背中側」
まるで筋肉のみで出来上がった達磨のような、巨大な体格の後ろには――そこには存在しないはずの疑似的なマグマが出来上がっていた。先ほど灰崎が知覚した『土』の力と、灰崎を一度殴りつけた時に発揮した『火』の力を結集させ、程度は低いものの簡易的なマグマのクッションを作り上げたのだ。
無論、その能力を持つ者にとって、その熱さは無害。灰崎は一切の能力が扱えなくなるほどに支障を受けるのにも拘らず、不平等極まりなかった。
「――だが、どこまでも哀しい奴だよ。手前の心には憎い存在が居ただろうに、今やそれ以上の悪鬼羅刹と成り果てた。手前の経緯だって知らねえのによ、こっちは。恨まれる理由でも何でも、知った上で相対したかったよ」
そんな灰崎の慈しみの言葉は、傍にて先ほどまで伸びていた構成員一人の耳に入った。あまりにもの衝撃に目を覚まし、自分ではまず介入の余地のない戦いを陰から見守っていたのだ。
「……アンタは?」
「俺は……あの子の親戚……のようなものさ。もう血縁関係者なんてのは……一人しかいない。渡部正人という男はどうしようもないほど面倒臭がりな奴だが……それ以上に苦難を経験した存在なんだ」
昔から彼との付き合いがある、親戚同然のような存在。そんな彼は、しみじみと異業と成り果てた渡部を眺めながら――何とか言葉を紡いでいく。過去を想起しながら、同じ痛みを味わった存在として……彼に向き合うのだった。
「――俺は……あの子の悲しみを受け止めきれなかった。アンタらは確かに『強い』存在だろうが……アイツは、正人は……違うんだ――」
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