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第四百六話

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 灰崎は確かに元ヤクザ。そうであることは事実であるため、一切否定しない上に、そう言うように色眼鏡で見られることを何とも思わないだろう。元々、数年間の積み重ねがあり、どれほど善行を重ねようと一般人から怖がられるだなんて日常茶飯事であったため、今更それを憂うだなんてことはない。自分の渡世の親である王漣に、示しがつかないためである。
 しかし、眼前の相手は元々英雄学園に所属している存在。灰崎自身に因縁をつけ無抵抗の状態で変身してまで排他しようとした存在。挙句の果てに、原初の英雄たる信一郎の存在を軽んじた。そのせいで一組最下位から二組、さらに一年次最低組である六組に下げられた、『自業自得』という言葉が一番似合う存在だろう。
 そんな存在が、一組であり学園を守ろうと動いている灰崎が、半ば自棄になった結果以前から教会と手を組んでいたことが明かされた挙句、今こうして学園の平穏を脅かそうとしている。
 これほどまでに、見てくれと境遇が正反対な存在が居るだろうか。

「どれほど……どれほど私達が苦労していると思っている? どれほどお前らのような強者に虐げられてきたと思っている!? どれほど努力を重ねようと、度重なる活躍でそれらが帳消しになっていく、負の循環(ループ)に置かれている者の気持ちが――――」

「ならこう言えるだろうな、『そんなもの知るか』。俺はそんなどん底の状況を味わっても、それでも這い上がり続ける存在を複数知っている。不幸自慢をするよりも、己の力を高めて物言ったらどうなんだ、クソッタレ。群れることでしか何も出来ない、自己主張をすることが出来ない存在(ガキ)が、粋がるんじゃアない」

 灰崎も、傍に立つ千尋も、往々にして山梨県、千葉県で多くの経験をした。一般の人間が到底味わえないような、それこそ並の英雄だって味わえないような、刺激的な日々を送ってきた。
 その中で、二人はそれぞれ抗った。最初千尋は一般人であったために、抗う力は弱かったのだが、結局持ち前の根性と度量で乗り切った。一般人の中で、中華マフィアの凄絶な襲撃を乗り切った、だなんて猛者は後にも先にも存在しないだろう。
 灰崎もまた、山梨での一件以前に、育児放棄の上に過度な暴力、妹を惨殺されたことと言い、地獄の鬼も泣き叫ぶような拷問じみた日々を送っていた。
 だからこそ、眼前の存在……渡部正人(ワタベ マサト)の言葉がどこまでも薄っぺらく感じるのだ。こちらも不幸自慢をする気はない上に、同情される気もないだろうが、たかだか上に別格の存在が居るという矮小な自尊心(プライド)を傷付けられたという劣等感(コンプレックス)如きで、大勢を巻き込んだ平和を脅かす行為を企てる方が問題である。

「お前は、一人で大小関係なしに、何かを成したか? お前は、一人で何かしらの苦難を乗り越えたか、あるいはその問題と向き合っているか? 少なくとも、俺からはそう見えない。どこまでも今の境遇に甘んじて、成長することをやめてしまった愚か者のようにしか見えない。偽りの力を手にしてまで、叶えたい薄っぺらな欲望なんぞ――――」

「……私は、お前じゃアねえが、ヤクザに全て奪われてんだよ。姉貴以外の、全てを」

 その一言に引っ掛かりを覚えたのもつかの間、周りにいた栃木支部構成員たちが、灰崎たちを取り囲む。それぞれが歯茎をむき出しにしたまま涎を垂らし、眼前の獲物を狙っていたのだ。皆口々に、二人を食べたそうにしていながら、その場の頂点(ボス)である渡部の指示に従ったまま、食欲を無限に増殖させていく。

「――今更、更生しようだなんて、虫が良すぎるんだよ。ヤクザも元ヤクザも、皆等しく地獄に落ちて裁きを食らって、二度と転生なんてしなければいいんだ」

「…………」

「全部、全部全部全部……ヤクザだなんて、消えてしまえばいいのによ」

 心の底から、反社会的勢力全てを恨む渡部。しかし、今自分が所属している組織自体が、そうであることを分かっていないかのような口ぶりであったのだ。
 だからこそ、灰崎は立ち向かうことを決めた。眼前の、悪い大人に憎しみの感情を利用された、哀れかつ無知な子供に。

「……千尋、怪我だけはするなよ」

「何を今更。正直、まだあん時戦った『流浪の獣(リウラン・ショウ)』の構成員の方が、能力値(パラメータ)全て上回っているよ」

「――そうか」

 渡部は静かにチーティングドライバーを着用し、自らの心臓に拳を当て急激に魔力を増幅させていく。以前とは異なる力に、灰崎は思わず千尋と自分を分断する強固な氷の壁を急造。自分もろとも、彼女を攻撃する可能性を考えての行動であったのだが、彼の憎悪は灰崎にのみ向いていた。

「アァ……気持ちがいい……これまでにない力だ……! 流石、『人工因子』の力は通常の因子の力すら喰らい、どこまでも成長していく無限大の可能性そのもの!!」

「……『人工因子』……?」

 これまで聞いたことのない概念に頭を悩ませる灰崎。しかし、そんなことお構いなしに渡部はドライバー上部を押しこんで、雄叫びを上げながら変身。
 悪魔のような捩じれた角を生やし、体は元々のそこまで育っていない肉体から限界以上に育ち切った結果、全長はおよそ五メートル、非常にバランスの悪い筋肉質な体へ変貌。
 ありあまる力で薙ぎ払われた丸太のような腕によって、変身時に周囲の構成員を容赦なく気絶させていくほどには、パワフルさは十分。人の面影など、おおよその骨格以外ありはしない中で、人外じみた力を得たことに恍惚の表情を浮かべていたのだった。

『あァ……コレが、コレが人工因子の力ァァァッ!! 復讐、復讐、復讐ゥゥゥゥゥッ!!』

 徐々に自我が消えていく中で、振るわれる拳は灰崎の方へ向かっていく。

「――そうかよ。どこまで諭しても変わらねえのなら……俺も『鬼』になるしかねえよな……行くぜ、フェンリル。狩りの時間だ」

 どこからともなく、氷でできた小さな狼が、灰崎の周りを楽し気に飛び回る。それと共に、ドライバーにライセンスを認証、装填。眼前の悪魔を滅するべく、覚悟を決めたのだった。

「行くぞ――変身ッ!!」

 自分の境遇を恨み、英雄学園上位勢を恨み、ヤクザを恨む男と、更生目指し努力・研鑽を重ねることを忘れない、勤勉な元ヤクザの男。非常に対照的な存在が、ローカルエリアにて激突する。



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 灰崎は確かに元ヤクザ。そうであることは事実であるため、一切否定しない上に、そう言うように色眼鏡で見られることを何とも思わないだろう。元々、数年間の積み重ねがあり、どれほど善行を重ねようと一般人から怖がられるだなんて日常茶飯事であったため、今更それを憂うだなんてことはない。自分の渡世の親である王漣に、示しがつかないためである。
 しかし、眼前の相手は元々英雄学園に所属している存在。灰崎自身に因縁をつけ無抵抗の状態で変身してまで排他しようとした存在。挙句の果てに、原初の英雄たる信一郎の存在を軽んじた。そのせいで一組最下位から二組、さらに一年次最低組である六組に下げられた、『自業自得』という言葉が一番似合う存在だろう。
 そんな存在が、一組であり学園を守ろうと動いている灰崎が、半ば自棄になった結果以前から教会と手を組んでいたことが明かされた挙句、今こうして学園の平穏を脅かそうとしている。
 これほどまでに、見てくれと境遇が正反対な存在が居るだろうか。
「どれほど……どれほど私達が苦労していると思っている? どれほどお前らのような強者に虐げられてきたと思っている!? どれほど努力を重ねようと、度重なる活躍でそれらが帳消しになっていく、負の|循環《ループ》に置かれている者の気持ちが――――」
「ならこう言えるだろうな、『そんなもの知るか』。俺はそんなどん底の状況を味わっても、それでも這い上がり続ける存在を複数知っている。不幸自慢をするよりも、己の力を高めて物言ったらどうなんだ、クソッタレ。群れることでしか何も出来ない、自己主張をすることが出来ない|存在《ガキ》が、粋がるんじゃアない」
 灰崎も、傍に立つ千尋も、往々にして山梨県、千葉県で多くの経験をした。一般の人間が到底味わえないような、それこそ並の英雄だって味わえないような、刺激的な日々を送ってきた。
 その中で、二人はそれぞれ抗った。最初千尋は一般人であったために、抗う力は弱かったのだが、結局持ち前の根性と度量で乗り切った。一般人の中で、中華マフィアの凄絶な襲撃を乗り切った、だなんて猛者は後にも先にも存在しないだろう。
 灰崎もまた、山梨での一件以前に、育児放棄の上に過度な暴力、妹を惨殺されたことと言い、地獄の鬼も泣き叫ぶような拷問じみた日々を送っていた。
 だからこそ、眼前の存在……|渡部正人《ワタベ マサト》の言葉がどこまでも薄っぺらく感じるのだ。こちらも不幸自慢をする気はない上に、同情される気もないだろうが、たかだか上に別格の存在が居るという矮小な|自尊心《プライド》を傷付けられたという|劣等感《コンプレックス》如きで、大勢を巻き込んだ平和を脅かす行為を企てる方が問題である。
「お前は、一人で大小関係なしに、何かを成したか? お前は、一人で何かしらの苦難を乗り越えたか、あるいはその問題と向き合っているか? 少なくとも、俺からはそう見えない。どこまでも今の境遇に甘んじて、成長することをやめてしまった愚か者のようにしか見えない。偽りの力を手にしてまで、叶えたい薄っぺらな欲望なんぞ――――」
「……私は、お前じゃアねえが、ヤクザに全て奪われてんだよ。姉貴以外の、全てを」
 その一言に引っ掛かりを覚えたのもつかの間、周りにいた栃木支部構成員たちが、灰崎たちを取り囲む。それぞれが歯茎をむき出しにしたまま涎を垂らし、眼前の獲物を狙っていたのだ。皆口々に、二人を食べたそうにしていながら、その場の|頂点《ボス》である渡部の指示に従ったまま、食欲を無限に増殖させていく。
「――今更、更生しようだなんて、虫が良すぎるんだよ。ヤクザも元ヤクザも、皆等しく地獄に落ちて裁きを食らって、二度と転生なんてしなければいいんだ」
「…………」
「全部、全部全部全部……ヤクザだなんて、消えてしまえばいいのによ」
 心の底から、反社会的勢力全てを恨む渡部。しかし、今自分が所属している組織自体が、そうであることを分かっていないかのような口ぶりであったのだ。
 だからこそ、灰崎は立ち向かうことを決めた。眼前の、悪い大人に憎しみの感情を利用された、哀れかつ無知な子供に。
「……千尋、怪我だけはするなよ」
「何を今更。正直、まだあん時戦った『|流浪の獣《リウラン・ショウ》』の構成員の方が、|能力値《パラメータ》全て上回っているよ」
「――そうか」
 渡部は静かにチーティングドライバーを着用し、自らの心臓に拳を当て急激に魔力を増幅させていく。以前とは異なる力に、灰崎は思わず千尋と自分を分断する強固な氷の壁を急造。自分もろとも、彼女を攻撃する可能性を考えての行動であったのだが、彼の憎悪は灰崎にのみ向いていた。
「アァ……気持ちがいい……これまでにない力だ……! 流石、『人工因子』の力は通常の因子の力すら喰らい、どこまでも成長していく無限大の可能性そのもの!!」
「……『人工因子』……?」
 これまで聞いたことのない概念に頭を悩ませる灰崎。しかし、そんなことお構いなしに渡部はドライバー上部を押しこんで、雄叫びを上げながら変身。
 悪魔のような捩じれた角を生やし、体は元々のそこまで育っていない肉体から限界以上に育ち切った結果、全長はおよそ五メートル、非常にバランスの悪い筋肉質な体へ変貌。
 ありあまる力で薙ぎ払われた丸太のような腕によって、変身時に周囲の構成員を容赦なく気絶させていくほどには、パワフルさは十分。人の面影など、おおよその骨格以外ありはしない中で、人外じみた力を得たことに恍惚の表情を浮かべていたのだった。
『あァ……コレが、コレが人工因子の力ァァァッ!! 復讐、復讐、復讐ゥゥゥゥゥッ!!』
 徐々に自我が消えていく中で、振るわれる拳は灰崎の方へ向かっていく。
「――そうかよ。どこまで諭しても変わらねえのなら……俺も『鬼』になるしかねえよな……行くぜ、フェンリル。狩りの時間だ」
 どこからともなく、氷でできた小さな狼が、灰崎の周りを楽し気に飛び回る。それと共に、ドライバーにライセンスを認証、装填。眼前の悪魔を滅するべく、覚悟を決めたのだった。
「行くぞ――変身ッ!!」
 自分の境遇を恨み、英雄学園上位勢を恨み、ヤクザを恨む男と、更生目指し努力・研鑽を重ねることを忘れない、勤勉な元ヤクザの男。非常に対照的な存在が、ローカルエリアにて激突する。