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第四百五話

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 所変わって、ローカルエリア。ここはあの埼玉での案件以降、学園長の独断によって学園都市自体を拡張しながら、これまで案件を熟してきてその土地で仕事をするよりも、こちらに店を構えた方がある程度利があるのでは、というしっかりとした根本がある。
 現在は資本主義の波にのまれ、教会による助力込みで何とかやっていけていた店や、単純な出稼ぎなど、様々な目的の合致によって出来上がったのだ。
 しかしどうも、灰崎はこの空間に関して、どうも居心地が悪いように思っていたのだ。
 それもそのはず、今はグレープ・フルボディが水没しきって、ミディアムのみとなったグレープ、その内の高級レストランもそこに店を構えているため、馴染の店の前で防衛行動を行うという行為自体に、むず痒さを覚えていたのだ。
 無論それらの店の人間は非戦闘員であるため、学園祭という大義名分にて結果的に避難済み。しかし、表層で起きていることを知ったら、そしてその結果店が大破したら……学園長に批判が行ってしまうため、恩人に対する不義理のようになってしまいそうで、それだけは避けたかった。

「――本当、何でここをあてがったんだか。さらに俺なんて、まだまだの存在だってのに……」

「何がまだまだよ、アタシにとっては命の恩人だってのに――彼氏くん」

 予想だにしない声に思わず体がびくついてしまう灰崎。ここにいると思わなかった存在、用務員服姿の千尋がここにいたのだ。

「バッ……何でここにいるんだ!? 学園祭の諸々がある、とか言って地下の方に行かなかったか!?」

「そうだけど……シフト制なの。アタシの順番は終わって、今元蛇使(だし)組の皆々様が頑張ってやってる。人多いから、今日のお給金(ギャラ)凄いんだ」

「いやまあそれは分かったよ、だから何でここにいるんだよ!?」

「――まあ、端的に言っちゃうと学園長さんに、ここで戦う予定の廉治を援護しろって。その方が廉治がやる気出るー、とか言って。ご丁寧に……『あん時』扱ってたアタッシュケースの改良版まで用意してくれたし」

 千尋は手に持ったアタッシュケースを高らかに掲げ、不敵に笑んでいた。既に煙草は吸ったままで、実にファンキーな戦い方を望む一般人であると、元ヤクザの灰崎は辟易していた。
 本人が居てやる気が出ない、なんてことはない。もう恋人になったのもあり、彼女を守ろうとするバイアスがかかり強くなるのは必然だろう。しかし、それと同時に弱みになるのも事実。ハイリスクハイリターン、という奴だろう。

「――悪いが、十割そっちに意識を避けるとは思わないでくれよ」

「虚勢MAXで格好つけて、無責任に「絶対に守ってやる」の一言が出ない辺り、やっぱり信頼置けるわ。ちゃんと現実主義(リアリスト)な部分もあるというか」

「嘘は吐きたくない。だが――」

 ドライバーを装着しながら、学生陣でありながら一人だけ決まったスーツ姿の灰崎は、千尋を背に堂々と立つ。
 短期間でありながら、英雄学園の豊富なカリキュラムによって鍛え抜かれたその肉体は、元よりもさらに仕上がった。よくある死因の一つである銃殺や短刀(ドス)による刺殺など、一切起こり得ないまでにフェンリルと共に鍛え上げたのだった。

「――生きて帰る。それで、来月辺りに組まれた千尋との『遠出をする』という予定を果たす。物事に『絶対』は存在しないが……俺が千尋を……前を見て護る。だから――後ろは任せた」

「現実見ながらも……結構、心に来るクサい台詞、言えんじゃん。そう言う所も好きだよ、本当に」

 すぐさま千尋は、慣れた手つきで超高性能アタッシュケースを起動。早速『王将』のホログラムをタッチ。黒光りしていたアタッシュケースは即座に展開され、何重にも精密機器が飛び出しホログラムが周囲の状況を偵察する。

「ええと……? 状況を見る限り……各所に敵は散らばっているみたい。病院の方にも出向く幹部はいるけれど、たった一人。それ以外は基本的に群れを成しての行動っぽい。まさかの親玉、あの女優さんに食って掛かってるっぽいけど」

「――戦況把握、感謝だ。そうなってくると、俺たちの元にやってくる存在がどういう存在か、というのも気になるところだが……どうだ?」

「ま、案の定多数の応援と共に誰か来てるっぽい。でも……見た目的に幹部っぽい威圧感無いんだよなあ……廉治、知ってる?」

 そう言って見せられた高解像度映像を見た瞬間に、灰崎は奇妙な運命という不確かな概念を否が応でも信じざるを得なくなる。
 そこに映っていたのは――ほぼ一か月前、灰崎に因縁をつけてきた存在そのものであったのだ。千尋は興味ない存在はストレス解消のため、洗いざらい皆忘れるようにしているため、その存在のことをすっかり忘れていた。

「――俺は、こいつに因縁があるらしい。まあ、そうなるのが必然なんだろうな」

「……『こいつ』? ……あ、一月前の!? こいつ、教会関係者だったなんて……って、元信者のアタシが言っちゃったらブーメランになるか……」

「……ほら、来たぞ。大勢引き連れてきたから……油断するなよ」

 すぐさまアタッシュケースを別形態である『桂馬』の状態へ切り替え、重散弾銃(ヘヴィー・ショットガン)と補助グローブを着用する千尋。灰崎の背を守るべく、背中合わせの状態になって男――渡部正人(ワタベ マサト)と灰崎は向き合うのだった。


「――よォ、元ヤクザ。復讐しに来てやったぜ、私のような英雄(ヒーロー)様がよォ」

「『元ヤクザ』、という肩書は一切否定しないが……それ以降の発言が皮肉のように思えるのは、俺だけか?」



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 所変わって、ローカルエリア。ここはあの埼玉での案件以降、学園長の独断によって学園都市自体を拡張しながら、これまで案件を熟してきてその土地で仕事をするよりも、こちらに店を構えた方がある程度利があるのでは、というしっかりとした根本がある。
 現在は資本主義の波にのまれ、教会による助力込みで何とかやっていけていた店や、単純な出稼ぎなど、様々な目的の合致によって出来上がったのだ。
 しかしどうも、灰崎はこの空間に関して、どうも居心地が悪いように思っていたのだ。
 それもそのはず、今はグレープ・フルボディが水没しきって、ミディアムのみとなったグレープ、その内の高級レストランもそこに店を構えているため、馴染の店の前で防衛行動を行うという行為自体に、むず痒さを覚えていたのだ。
 無論それらの店の人間は非戦闘員であるため、学園祭という大義名分にて結果的に避難済み。しかし、表層で起きていることを知ったら、そしてその結果店が大破したら……学園長に批判が行ってしまうため、恩人に対する不義理のようになってしまいそうで、それだけは避けたかった。
「――本当、何でここをあてがったんだか。さらに俺なんて、まだまだの存在だってのに……」
「何がまだまだよ、アタシにとっては命の恩人だってのに――彼氏くん」
 予想だにしない声に思わず体がびくついてしまう灰崎。ここにいると思わなかった存在、用務員服姿の千尋がここにいたのだ。
「バッ……何でここにいるんだ!? 学園祭の諸々がある、とか言って地下の方に行かなかったか!?」
「そうだけど……シフト制なの。アタシの順番は終わって、今元|蛇使《だし》組の皆々様が頑張ってやってる。人多いから、今日の|お給金《ギャラ》凄いんだ」
「いやまあそれは分かったよ、だから何でここにいるんだよ!?」
「――まあ、端的に言っちゃうと学園長さんに、ここで戦う予定の廉治を援護しろって。その方が廉治がやる気出るー、とか言って。ご丁寧に……『あん時』扱ってたアタッシュケースの改良版まで用意してくれたし」
 千尋は手に持ったアタッシュケースを高らかに掲げ、不敵に笑んでいた。既に煙草は吸ったままで、実にファンキーな戦い方を望む一般人であると、元ヤクザの灰崎は辟易していた。
 本人が居てやる気が出ない、なんてことはない。もう恋人になったのもあり、彼女を守ろうとするバイアスがかかり強くなるのは必然だろう。しかし、それと同時に弱みになるのも事実。ハイリスクハイリターン、という奴だろう。
「――悪いが、十割そっちに意識を避けるとは思わないでくれよ」
「虚勢MAXで格好つけて、無責任に「絶対に守ってやる」の一言が出ない辺り、やっぱり信頼置けるわ。ちゃんと|現実主義《リアリスト》な部分もあるというか」
「嘘は吐きたくない。だが――」
 ドライバーを装着しながら、学生陣でありながら一人だけ決まったスーツ姿の灰崎は、千尋を背に堂々と立つ。
 短期間でありながら、英雄学園の豊富なカリキュラムによって鍛え抜かれたその肉体は、元よりもさらに仕上がった。よくある死因の一つである銃殺や|短刀《ドス》による刺殺など、一切起こり得ないまでにフェンリルと共に鍛え上げたのだった。
「――生きて帰る。それで、来月辺りに組まれた千尋との『遠出をする』という予定を果たす。物事に『絶対』は存在しないが……俺が千尋を……前を見て護る。だから――後ろは任せた」
「現実見ながらも……結構、心に来るクサい台詞、言えんじゃん。そう言う所も好きだよ、本当に」
 すぐさま千尋は、慣れた手つきで超高性能アタッシュケースを起動。早速『王将』のホログラムをタッチ。黒光りしていたアタッシュケースは即座に展開され、何重にも精密機器が飛び出しホログラムが周囲の状況を偵察する。
「ええと……? 状況を見る限り……各所に敵は散らばっているみたい。病院の方にも出向く幹部はいるけれど、たった一人。それ以外は基本的に群れを成しての行動っぽい。まさかの親玉、あの女優さんに食って掛かってるっぽいけど」
「――戦況把握、感謝だ。そうなってくると、俺たちの元にやってくる存在がどういう存在か、というのも気になるところだが……どうだ?」
「ま、案の定多数の応援と共に誰か来てるっぽい。でも……見た目的に幹部っぽい威圧感無いんだよなあ……廉治、知ってる?」
 そう言って見せられた高解像度映像を見た瞬間に、灰崎は奇妙な運命という不確かな概念を否が応でも信じざるを得なくなる。
 そこに映っていたのは――ほぼ一か月前、灰崎に因縁をつけてきた存在そのものであったのだ。千尋は興味ない存在はストレス解消のため、洗いざらい皆忘れるようにしているため、その存在のことをすっかり忘れていた。
「――俺は、こいつに因縁があるらしい。まあ、そうなるのが必然なんだろうな」
「……『こいつ』? ……あ、一月前の!? こいつ、教会関係者だったなんて……って、元信者のアタシが言っちゃったらブーメランになるか……」
「……ほら、来たぞ。大勢引き連れてきたから……油断するなよ」
 すぐさまアタッシュケースを別形態である『桂馬』の状態へ切り替え、|重散弾銃《ヘヴィー・ショットガン》と補助グローブを着用する千尋。灰崎の背を守るべく、背中合わせの状態になって男――|渡部正人《ワタベ マサト》と灰崎は向き合うのだった。
「――よォ、元ヤクザ。復讐しに来てやったぜ、私のような|英雄《ヒーロー》様がよォ」
「『元ヤクザ』、という肩書は一切否定しないが……それ以降の発言が皮肉のように思えるのは、俺だけか?」