第四百一話
ー/ー 新香の経歴は、一見実に華々しいものである。有名なアニメ作品に主役ではないものの、脇役として複数出演。デビューはおろか、声優を目指す専門学校に通い卒業したとしても日の目を浴びることすら出来ない存在がごまんと存在する中で、デビュー出来た上に有名作品への出演も果たせたことは、当人に添えられた『華』そのものだった。
そして、新香はそれを誇りに思っていた。仕事に対しては、今の高梨のような情熱と積極性を持って取り組んできたのもあり、若い新香は文字通り新星であった。
(アタシの仕事で、多くの人を幸せにできる! もっと、もっと経験を積んで立派な声優に、立派なナレーターになるんだ!)
実に殊勝な、壮大な夢を抱いていた。
しかし、事態は何事も、そうとんとん拍子に進むはずはない。
ある時請け負った仕事は、これまた誰もが知るほどの有名作品への出演オファーであった。だが、それはただの出演オファーではなかった。
国内アニメ映画によくある、声優経験が無く、演技力など大したことの無い芸能人を起用した、所謂『作品の面白さ』や『メッセージ性』を持たせたものでは無く、ただ『そのアイドルを使いたいから、客寄せパンダとして起用する』ような、作品に対して真摯さも何もない、実に下劣な趣旨によるものであった。
最初は難色を示していたものの、今後のキャリアに繋がるなら、と新香はその仕事を受けた。それなりにギャランティも弾まれるため、悪くはない提案だと思っていた。
しかし、新香は絶句した。台本をほんの少し読み込んだだけで分かってしまうような程の、お粗末な出来がそこに広がっていたのだ。取って付けたかのようなキャラクターの動きや台詞、それだけではなく芸能人が演じる主人公を『上げる』ような描写が多く取り入れられており、声優としての仕事を軽んじられているような錯覚に陥ったのだ。
実際問題、『このアイドルを使いたいから』と言う思いが先行し、碌でもない出来になる実写映画、というものはこの世にごまんと存在する。各種動画サイトにおいても、それらは所謂『厳しいイジり』の対象になることが多いのだが、アフレコを終えて先行試写会をも終えた後、アニメ映画を閲覧した観客から漏れ出たのは歓声ではなく、落胆の溜息であった。
その瞬間に、「経験になるから」「ギャランティが多少良かったから」程度でこの仕事を受けたことを後悔した。試写会の時点でこの様子ならば、きっと本公開の後に待っているのは――望まないブーイングのみ。
結果。その新香の悪い予想は全て現実のものとなった。無論監督や主演を務めた芸能人の最低な演技力に批判をぶつける存在もいたが、それだけではなく、サブ役であった新香らにも批判は殺到し、一時期まともに仕事が出来ずにいたのだ。
「○○って有名作品に出て、将来を約束されたかと思ったら……こんなクソ映画に出るだなんてがっかりだよ」
「○○の後にこれは草、噂では大分ギャラ良かったらしいからそれに目がくらんだんじゃあねえの?」
「主演の○○君と○○君、ひいては有名アイドルグループの○○をオファーした有能な監督・脚本さんを悪く言わないで! 悪いのは○○君を引き立てられなかった、脇役風情の奴らのせいなんだから!!」
たった一回の出演が、そこまでの波紋を呼ぶとは、新香は夢にも思わなかった。噂だけが独り歩きし、結果新たなデマを生み。そのアニメ映画は『日本アニメ映画界の歴史的汚点』とまで映画評論家や世間から酷評される、『史上最も笑えないクソ映画』作品となり、新香は心を痛めた。
何せ、あの映画に出演した新香の元には、多くの週刊誌取材班が押し寄せていたのだ。あの映画に出演したことを面白おかしくネタにしてやろうと、『表現の自由』を盾に意地汚い精神を一切包み隠さず追求しにかかっている。それは新香だけではなく、他の出演者も同様であったが、彼女自身にそれをいなせるほどの、度量も覚悟も無かったのだ。
結果、精神病を患った彼女は仕事を一時休業。ほとぼりが冷めるまで、誰の目にも留まらないような、質素な生活を送ろうとしたのだ。
そして、新香はそれを誇りに思っていた。仕事に対しては、今の高梨のような情熱と積極性を持って取り組んできたのもあり、若い新香は文字通り新星であった。
(アタシの仕事で、多くの人を幸せにできる! もっと、もっと経験を積んで立派な声優に、立派なナレーターになるんだ!)
実に殊勝な、壮大な夢を抱いていた。
しかし、事態は何事も、そうとんとん拍子に進むはずはない。
ある時請け負った仕事は、これまた誰もが知るほどの有名作品への出演オファーであった。だが、それはただの出演オファーではなかった。
国内アニメ映画によくある、声優経験が無く、演技力など大したことの無い芸能人を起用した、所謂『作品の面白さ』や『メッセージ性』を持たせたものでは無く、ただ『そのアイドルを使いたいから、客寄せパンダとして起用する』ような、作品に対して真摯さも何もない、実に下劣な趣旨によるものであった。
最初は難色を示していたものの、今後のキャリアに繋がるなら、と新香はその仕事を受けた。それなりにギャランティも弾まれるため、悪くはない提案だと思っていた。
しかし、新香は絶句した。台本をほんの少し読み込んだだけで分かってしまうような程の、お粗末な出来がそこに広がっていたのだ。取って付けたかのようなキャラクターの動きや台詞、それだけではなく芸能人が演じる主人公を『上げる』ような描写が多く取り入れられており、声優としての仕事を軽んじられているような錯覚に陥ったのだ。
実際問題、『このアイドルを使いたいから』と言う思いが先行し、碌でもない出来になる実写映画、というものはこの世にごまんと存在する。各種動画サイトにおいても、それらは所謂『厳しいイジり』の対象になることが多いのだが、アフレコを終えて先行試写会をも終えた後、アニメ映画を閲覧した観客から漏れ出たのは歓声ではなく、落胆の溜息であった。
その瞬間に、「経験になるから」「ギャランティが多少良かったから」程度でこの仕事を受けたことを後悔した。試写会の時点でこの様子ならば、きっと本公開の後に待っているのは――望まないブーイングのみ。
結果。その新香の悪い予想は全て現実のものとなった。無論監督や主演を務めた芸能人の最低な演技力に批判をぶつける存在もいたが、それだけではなく、サブ役であった新香らにも批判は殺到し、一時期まともに仕事が出来ずにいたのだ。
「○○って有名作品に出て、将来を約束されたかと思ったら……こんなクソ映画に出るだなんてがっかりだよ」
「○○の後にこれは草、噂では大分ギャラ良かったらしいからそれに目がくらんだんじゃあねえの?」
「主演の○○君と○○君、ひいては有名アイドルグループの○○をオファーした有能な監督・脚本さんを悪く言わないで! 悪いのは○○君を引き立てられなかった、脇役風情の奴らのせいなんだから!!」
たった一回の出演が、そこまでの波紋を呼ぶとは、新香は夢にも思わなかった。噂だけが独り歩きし、結果新たなデマを生み。そのアニメ映画は『日本アニメ映画界の歴史的汚点』とまで映画評論家や世間から酷評される、『史上最も笑えないクソ映画』作品となり、新香は心を痛めた。
何せ、あの映画に出演した新香の元には、多くの週刊誌取材班が押し寄せていたのだ。あの映画に出演したことを面白おかしくネタにしてやろうと、『表現の自由』を盾に意地汚い精神を一切包み隠さず追求しにかかっている。それは新香だけではなく、他の出演者も同様であったが、彼女自身にそれをいなせるほどの、度量も覚悟も無かったのだ。
結果、精神病を患った彼女は仕事を一時休業。ほとぼりが冷めるまで、誰の目にも留まらないような、質素な生活を送ろうとしたのだ。
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