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第四百話

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 人体の出力よりも遥か上を行く怪人体。それに対し、武器はともかくとして生身で挑んでいる現状況は、ただ無謀と言わざるを得ない状況であった。
 普通ならば、苦とも思わないほどの出力の攻撃であったが、既に魔力が底を突いており、振るう大剣の威力はたかが知れていた。
 事情を深くは知らない新香であったが、加減する理由は無かったために的確に攻撃を加えていく。丙良自身の無防備な肉体が、乱雑な拳や蹴りによって徐々に傷ついていく。

『――全く、病み上がりだからこうまで無様な姿を見せるのかしら。アタシだって暇じゃアないんだけど』

「そうだな……僕だって遊びでやっているんじゃあない……!」

 しかし、態度と出力が伴っていないために、怪人の膂力をフルに活かされ、ノーガードの腹部にフロントキックを叩き込まれる。
 思い切り吹き飛ばされた結果、なけなしの魔力で地面を流動させ何とかクッションにするも、臓物(モツ)と骨が複数死んでしまった。

『……どことなく、アタシと親近感が湧く魔力が中にあるわね。それ……教祖サマの力じゃアないの?』

「――ッ」

『それで動揺して、本来の出力を出せていなかったのね。なら、猶予をあげるから少しくらいまともになって頂戴な。悪いけれど、アタシ……弱い者いじめは趣味じゃアないの』

 しかし、どれほど魔力をせがもうと、当人は既にガス欠状態。力もうと大剣を握り締めようと、当人の力は増えやしない。その事実に直面した瞬間に、丙良は涙が零れ出していたのだ。

『……あらあら、さっきの構成員相手取るので全部持ってかれた、って事? ってことは……カルマ様が何かした結果――自分のリズムを乱されて搾り取られた、って事でしょうね。ご愁傷様』

 徐々に腕の形をした包帯が、丙良に迫りくる。それを避ける、だなんて芸達者なことは出来ずに、ただ情けなく立ちはだかるのみであったのだが――それ以前に、丙良の足は既に言うことを聞かない状態にあったのだ。
 すぐさま巨大な拳の形に生成された包帯が、容赦なく丙良を殴り飛ばす。情けなくロック・バスターと分かたれ、そのまま建物の壁に叩きつけられる。

『――何だろうね、貴方から親近感溢れるオーラが感じられる。何なんだか――分かる?』

 その問いに、丙良は一切答えられない。ここまで何もできない状況は、他に無かったのだ。故の、心の底からの絶望感と敗北感が、丙良の脳を犯していたのだ。
 眼前の存在には今敵うはずはない、生きたいのなら『懸命にこの場から逃げろ』と。何かしらの理由を付け、逃げ果せても他の強い存在がどうにかしてくれる、そんな――英雄(ヒーロー)にあるまじき暗い思考が過っていたのだ。

『貴方の中に巣食っているオーラは……『絶望』そのもの。アタシが芸能界でさんざ味わった、負の感情を全て煮詰めた結果、生まれ落ちるもの。この状況――以前も違うシチュエーションでアタシも味わったことがあるもの』

 最悪のシチュエーション。ここまで無力感に苛まれる状況はない。自分が招いた事象の結果ではあるのだが、ここまで自分を貶めることになるとは思いもよらなかったのだ。
 元々は、無力感から来るコンプレックス。それが次第に、周りと比較した結果徐々に自分に絶望していく、劣等感のバイアスがかかった虚無そのものであったのだ。自分では、信玄を救うことが出来なかった。こうして構成員を蹂躙したのも、結局は自分の力ではなくカルマによる影響がほとんど。自分は何も出来ず、ただ大剣を振るって攻撃するのみ。
 仮免許(カリメン)を持っていたから何なのだ、
 一年先輩だからと言って何なのだ、
 何を功績として齎せたのか。
 あの時の無力な自分がそのまま大きくなっただけではないのか。

『――アタシも、元々は幸香同様芸能界に居た身。それなりに名の知れた――声優兼ナレーターだった。でも……今こうして教会の栃木支部に所属する身として、そして教祖たるカルマ様のために尽力している。それもこれも、無力だった自分を変えるため、そして――』

 一瞬だけ俯いて、言葉を紡ぐ新香。完全に状況としては彼女に軍配が上がっている状況ながら、その声は震えていたのだった。


『――そして、あの芸能界(せかい)への復讐のために、アタシは動き続けるの』



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 人体の出力よりも遥か上を行く怪人体。それに対し、武器はともかくとして生身で挑んでいる現状況は、ただ無謀と言わざるを得ない状況であった。
 普通ならば、苦とも思わないほどの出力の攻撃であったが、既に魔力が底を突いており、振るう大剣の威力はたかが知れていた。
 事情を深くは知らない新香であったが、加減する理由は無かったために的確に攻撃を加えていく。丙良自身の無防備な肉体が、乱雑な拳や蹴りによって徐々に傷ついていく。
『――全く、病み上がりだからこうまで無様な姿を見せるのかしら。アタシだって暇じゃアないんだけど』
「そうだな……僕だって遊びでやっているんじゃあない……!」
 しかし、態度と出力が伴っていないために、怪人の膂力をフルに活かされ、ノーガードの腹部にフロントキックを叩き込まれる。
 思い切り吹き飛ばされた結果、なけなしの魔力で地面を流動させ何とかクッションにするも、|臓物《モツ》と骨が複数死んでしまった。
『……どことなく、アタシと親近感が湧く魔力が中にあるわね。それ……教祖サマの力じゃアないの?』
「――ッ」
『それで動揺して、本来の出力を出せていなかったのね。なら、猶予をあげるから少しくらいまともになって頂戴な。悪いけれど、アタシ……弱い者いじめは趣味じゃアないの』
 しかし、どれほど魔力をせがもうと、当人は既にガス欠状態。力もうと大剣を握り締めようと、当人の力は増えやしない。その事実に直面した瞬間に、丙良は涙が零れ出していたのだ。
『……あらあら、さっきの構成員相手取るので全部持ってかれた、って事? ってことは……カルマ様が何かした結果――自分のリズムを乱されて搾り取られた、って事でしょうね。ご愁傷様』
 徐々に腕の形をした包帯が、丙良に迫りくる。それを避ける、だなんて芸達者なことは出来ずに、ただ情けなく立ちはだかるのみであったのだが――それ以前に、丙良の足は既に言うことを聞かない状態にあったのだ。
 すぐさま巨大な拳の形に生成された包帯が、容赦なく丙良を殴り飛ばす。情けなくロック・バスターと分かたれ、そのまま建物の壁に叩きつけられる。
『――何だろうね、貴方から親近感溢れるオーラが感じられる。何なんだか――分かる?』
 その問いに、丙良は一切答えられない。ここまで何もできない状況は、他に無かったのだ。故の、心の底からの絶望感と敗北感が、丙良の脳を犯していたのだ。
 眼前の存在には今敵うはずはない、生きたいのなら『懸命にこの場から逃げろ』と。何かしらの理由を付け、逃げ果せても他の強い存在がどうにかしてくれる、そんな――|英雄《ヒーロー》にあるまじき暗い思考が過っていたのだ。
『貴方の中に巣食っているオーラは……『絶望』そのもの。アタシが芸能界でさんざ味わった、負の感情を全て煮詰めた結果、生まれ落ちるもの。この状況――以前も違うシチュエーションでアタシも味わったことがあるもの』
 最悪のシチュエーション。ここまで無力感に苛まれる状況はない。自分が招いた事象の結果ではあるのだが、ここまで自分を貶めることになるとは思いもよらなかったのだ。
 元々は、無力感から来るコンプレックス。それが次第に、周りと比較した結果徐々に自分に絶望していく、劣等感のバイアスがかかった虚無そのものであったのだ。自分では、信玄を救うことが出来なかった。こうして構成員を蹂躙したのも、結局は自分の力ではなくカルマによる影響がほとんど。自分は何も出来ず、ただ大剣を振るって攻撃するのみ。
 |仮免許《カリメン》を持っていたから何なのだ、
 一年先輩だからと言って何なのだ、
 何を功績として齎せたのか。
 あの時の無力な自分がそのまま大きくなっただけではないのか。
『――アタシも、元々は幸香同様芸能界に居た身。それなりに名の知れた――声優兼ナレーターだった。でも……今こうして教会の栃木支部に所属する身として、そして教祖たるカルマ様のために尽力している。それもこれも、無力だった自分を変えるため、そして――』
 一瞬だけ俯いて、言葉を紡ぐ新香。完全に状況としては彼女に軍配が上がっている状況ながら、その声は震えていたのだった。
『――そして、あの|芸能界《せかい》への復讐のために、アタシは動き続けるの』