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第三百九十九話

ー/ー



 所変わって、繁華街エリア。丙良の守護するエリアであったのだが、未だに丙良自身はカルマからの傷に苦しんでいたのだ。信一郎にはバレているのだが、胸元に受けた残留魔力は悪さをしており、痛覚と魔力探知能力がだいぶ狂ったまま。
 痛みを感じすぎる、のではなく、痛みを感じなさすぎるのだ。
 それによる弊害は、痛みを気にしなさすぎるが故に、『自らの限界を超えて戦いすぎる』部分にある。一見メリットのように思える効果だが、永遠に踊ることが可能な体を得ていたとて、永遠に踊ることが出来る体力を備えていなければ話にならないのだ。

(――意図的に、僕の内にある限界値(リミット)が壊されている。未だにこれだけが治らないだなんて……カルマは一体何をしたいんだ)

 魔力探知能力に関しては、完全にデメリットと言えるほどに大味なものとなっている。本来、信玄以上に繊細かつ鋭敏な感覚を備えているのが丙良なのだが、エントランス方面にて戦いが起こったこと以外、魔力探知による認識が、(もや)が掛かったように感知してしまうのだ。
 誤検知を非常に起こしやすい状態であるため、余計に戦闘に向いている状況ではないのだが、戦える面子の中でまだ自由に動ける存在は――現状この面子以外居ないと勘付いてしまったのだ。

(――もう音とこれまでの感覚で認識する以外ないよな。クソ、男性陣の中でも繊細な魔力操作ができる唯一くらいの存在なんだけどなぁ……!)

 しかし、いくらくやもうと現状が変わる訳はなし。遠くの方から大勢の理性を失った構成員たちが駆けてきたのだ。

「……本当、病人相手でも容赦なし、か。世知辛いね」

 ライセンスを装填しようとしていたものの、ロック・バスターに流し込む起動用の魔力が想像以上に流れ込んだ結果、想像以上の脱力感が丙良を襲う。痛覚の麻痺だけではなく、魔力量操作感覚も盛大に麻痺してしまったのだ。

「ッ……! クソッ!!」

 すぐさま、肉体をフルに生かした上でロック・バスターを構成員に対し何度も乱雑に振るう丙良。それぞれの単体戦闘力はそこまでではないために、この迂闊に変身できない状況においても、何とかやれている。
 これまでの繊細な戦い方ではなく、どこか大雑把な戦いになりつつあるのを抑制しようとするも、体の内がそれを否定する。理性が、本能が、肉体が否定しても、魔力がそれら全てを撥ね退け丙良(ほんにん)を突き動かすのだ。

(――コントロールが、効かない……!)

 すぐさま拳を地面に叩き込んで、土の魔力を流動。これまでのコンパクトな戦いとは異なり、どこか原典(オリジナル)のヘラクレスを彷彿とさせるような、ダイナミックな戦いを展開していく。地面を隆起させる、だなんてことはこれまでもやってきたことだが、規模が多少収まった断崖をその場に生み出す能力で、構成員たちを完全に戦闘不能状態に。

(――こんな戦いは、僕らしくない。それに、総魔力量(キャパ)の関係上こんなことをしていたら…………)

 しかし、丙良はどこか、このような戦いを『憧れていた』節はあった。自らの因子に根性負けしないような、雄々しい戦いを望んでいた節はあったのだ。だが、長期戦を考えるとデメリットが多い、現状の未熟な自分が短期戦で納められるほどの、十全な火力を持ち合わせているとは思えない。
 だからこそ、いつの間にか守りに入った戦いを好むようになっていた。動く要塞、と言う異名を語られるほどの、堅実な戦いを是とするようになったのだ。
 今まさに、振るう加減の無い力は――己の求めていたものであった。名前負けしない、英雄『ヘラクレス』に似合ったものであった。

「……僕は……」

 次第に、大剣を振るう勢いがさらに強まっていき、雑兵を徹底的に蹴散らしていく。己の限界を超えた上で、次第に筋繊維が壊れていくのを感じていく。痛みが一切ないのが、恐怖でしかなかったのだが……それ以上に、ようやく己が望むような戦いが出来ている事実が、嬉しくもあり悲しくもあったのだ。

(……決して、僕一人ではこの域には辿り着かない。教会の持つ常軌を逸した歪んだ魔力が、僕を少し狂わせているんだ――きっと、きっとそうなんだ)

 あの時、闇に堕ちた信玄を救えなかったのは、自分の『罪』。あの日から、信玄が成長を続けている中、自分は教会の力に背を押され、狂ったように力を振るうことを快感だと思ってしまっている。
 それは、自分の力ではない上に――自分の無力さを如実に示すものであったのだ。
 そうしなければ、自分は『強くなれない』と言う絶望そのものが、無限に形を変え、丙良の心を蝕んでいく。一息に蝕むのではない、徐々に狂わせ理性すら食いつぶさんとする、その狡猾さが、カルマの意思そのものであった。
 現状、丙良はマスターライセンスを得られるような経験を積んではいない。言ってしまえば、それは当然のようなもの。大人になって、ようやく発現できる存在もいる。ほとんどの英雄が無縁のものであり、手に出来ないことは恥ではない。
 しかし、今の丙良はどこまで行っても思考が狂ってしまっている。礼安や院が三枚目のライセンスを手に入れている中、自分はマスターライセンスを手に入れられるほどの実力はまだ持ち合わせていない。そんな当然のような事実にすら、恐怖していたのだ。
 『先輩』だなんて慕われている存在のそれなのか、と疑惑を持たれ、信玄から関係を断たれたら、きっと、丙良は――

「――ゥウうう、ウうウううあァ、アアアアあああああアアああアあッ!!」

 その場にロック・バスターを叩きつけ、雑兵を圧倒的土流によって圧し潰し、その場に残るは幹部の一人のみとなった。
 ほんの一瞬、過ぎった最悪の感情が、丙良を支配しかけた瞬間に、根源的恐怖から来るヒステリーを起こした結果、偶発的ではあるものの理性を取り戻したのだ。しかし、根底に巣食っている、今振るっているこの力に対する恐怖心は――底なし沼のようであったのだ。

「……お前は、誰だ」

 憔悴しきった丙良の表情を、弱者を蔑むような目で見下す一人の女。元々は『高梨派』であったのだが、当人に備わっているはずのある程度の優しさが、完全に消え去っていた。
 背丈としては、男性顔負けと言えるほどの長身でありながら、眉目秀麗を地で行くほどの美女。年齢は高梨と同級生であるため同じ二十七歳なのだが、少々こちらの方が大人びた印象を受ける。
 元々、高梨と同じように飾りっ気のない服しか着てこなかったのだが、まるで夜会に赴く露出少な目の真紅のナイトドレスを着用。元々装飾品を付けるような性格ではないため、最低限度のネックレス程度以外は身に着けていない。しかし、醸し出されるオーラは、これまでの幹部連中のものよりも少し歪でありながら大きく見えたのだった。

「――アタシのこと? そんな状態で名乗ったところで……いたぶる間覚えていられるのかしら」

「……五月蠅い、五月蠅い五月蠅ァァァァい!!」

 徐々に自分の中が犯されているような感覚に陥っていく。実際にはそんなことはただの被害妄想であるはずなのに、恐怖心による認識感覚の麻痺が、こうまで元の好青年を変えるのだ。誰に対しても丁寧に接していた丙良が、完全に恐怖によって老け込んでいたのだ。

「――本当、元の好青年(イケメン)形無しね。じゃあ一応名乗ってあげるけれど……アタシは新香由紀(シンコウ ユキ)。支部長代理こと、副支部長同様……カルマ様に力を授かった存在。正直、アタシが言うことではないけれど……そこまで強さに自信はない訳。でも――今の丙良慎介(あなた)くらいだったら平気で伸せそうな気がするわね」

「舐めるな……僕は――負けない、負けられない!!」

 ロック・バスターを支えに、何とか立ち上がる丙良。そんな彼を、心の底から憐れむような目で見つめる新香。

(――事前に情報は入れておいた。でも……だからこそ余計に理解できないわ。そこまで人にたった一度の失態で蔑まれて、それでも被害に遭う人々のための『傘』になりつづけるのかしら)

 魔力が安定しないために、一切変身行為が出来ない丙良と、チーティングドライバーを容赦なく装着し、そのまま起動させる新香。

「悪く思わないで。アタシは……己が復讐を完遂するために動くんだから――変身」

『Loading――――Game Start』

 捩じれた喉元にぽっかりと孔が開いた、口にマスク型の鉄仮面を付けた怪人の姿が、顕現する。女性的な細い四肢がより目立つように、包帯が巻かれているのだが、どこか幽霊を彷彿とさせるかのように、実体である部分とそうでない部分が分かれる、不定形の姿でありながら、そこに確かに存在している。さらに体中に本のページを彷彿とさせるような、敗れてしまった冊子を無理やり人体にしたような胴体部。

『――こうなるのは、久しぶりね。どうあっても……嫌なことを思い出させるわ』

 どこか悲しそうな声を漏らしながらも、新香は丙良にゆっくりと歩み寄るのだった。内包されている気持ちが、慈愛と殺意であることを察知した丙良は、ロック・バスターを何とか構え、怪人と対峙するのだった。



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 所変わって、繁華街エリア。丙良の守護するエリアであったのだが、未だに丙良自身はカルマからの傷に苦しんでいたのだ。信一郎にはバレているのだが、胸元に受けた残留魔力は悪さをしており、痛覚と魔力探知能力がだいぶ狂ったまま。
 痛みを感じすぎる、のではなく、痛みを感じなさすぎるのだ。
 それによる弊害は、痛みを気にしなさすぎるが故に、『自らの限界を超えて戦いすぎる』部分にある。一見メリットのように思える効果だが、永遠に踊ることが可能な体を得ていたとて、永遠に踊ることが出来る体力を備えていなければ話にならないのだ。
(――意図的に、僕の内にある|限界値《リミット》が壊されている。未だにこれだけが治らないだなんて……カルマは一体何をしたいんだ)
 魔力探知能力に関しては、完全にデメリットと言えるほどに大味なものとなっている。本来、信玄以上に繊細かつ鋭敏な感覚を備えているのが丙良なのだが、エントランス方面にて戦いが起こったこと以外、魔力探知による認識が、|靄《もや》が掛かったように感知してしまうのだ。
 誤検知を非常に起こしやすい状態であるため、余計に戦闘に向いている状況ではないのだが、戦える面子の中でまだ自由に動ける存在は――現状この面子以外居ないと勘付いてしまったのだ。
(――もう音とこれまでの感覚で認識する以外ないよな。クソ、男性陣の中でも繊細な魔力操作ができる唯一くらいの存在なんだけどなぁ……!)
 しかし、いくらくやもうと現状が変わる訳はなし。遠くの方から大勢の理性を失った構成員たちが駆けてきたのだ。
「……本当、病人相手でも容赦なし、か。世知辛いね」
 ライセンスを装填しようとしていたものの、ロック・バスターに流し込む起動用の魔力が想像以上に流れ込んだ結果、想像以上の脱力感が丙良を襲う。痛覚の麻痺だけではなく、魔力量操作感覚も盛大に麻痺してしまったのだ。
「ッ……! クソッ!!」
 すぐさま、肉体をフルに生かした上でロック・バスターを構成員に対し何度も乱雑に振るう丙良。それぞれの単体戦闘力はそこまでではないために、この迂闊に変身できない状況においても、何とかやれている。
 これまでの繊細な戦い方ではなく、どこか大雑把な戦いになりつつあるのを抑制しようとするも、体の内がそれを否定する。理性が、本能が、肉体が否定しても、魔力がそれら全てを撥ね退け|丙良《ほんにん》を突き動かすのだ。
(――コントロールが、効かない……!)
 すぐさま拳を地面に叩き込んで、土の魔力を流動。これまでのコンパクトな戦いとは異なり、どこか|原典《オリジナル》のヘラクレスを彷彿とさせるような、ダイナミックな戦いを展開していく。地面を隆起させる、だなんてことはこれまでもやってきたことだが、規模が多少収まった断崖をその場に生み出す能力で、構成員たちを完全に戦闘不能状態に。
(――こんな戦いは、僕らしくない。それに、|総魔力量《キャパ》の関係上こんなことをしていたら…………)
 しかし、丙良はどこか、このような戦いを『憧れていた』節はあった。自らの因子に根性負けしないような、雄々しい戦いを望んでいた節はあったのだ。だが、長期戦を考えるとデメリットが多い、現状の未熟な自分が短期戦で納められるほどの、十全な火力を持ち合わせているとは思えない。
 だからこそ、いつの間にか守りに入った戦いを好むようになっていた。動く要塞、と言う異名を語られるほどの、堅実な戦いを是とするようになったのだ。
 今まさに、振るう加減の無い力は――己の求めていたものであった。名前負けしない、英雄『ヘラクレス』に似合ったものであった。
「……僕は……」
 次第に、大剣を振るう勢いがさらに強まっていき、雑兵を徹底的に蹴散らしていく。己の限界を超えた上で、次第に筋繊維が壊れていくのを感じていく。痛みが一切ないのが、恐怖でしかなかったのだが……それ以上に、ようやく己が望むような戦いが出来ている事実が、嬉しくもあり悲しくもあったのだ。
(……決して、僕一人ではこの域には辿り着かない。教会の持つ常軌を逸した歪んだ魔力が、僕を少し狂わせているんだ――きっと、きっとそうなんだ)
 あの時、闇に堕ちた信玄を救えなかったのは、自分の『罪』。あの日から、信玄が成長を続けている中、自分は教会の力に背を押され、狂ったように力を振るうことを快感だと思ってしまっている。
 それは、自分の力ではない上に――自分の無力さを如実に示すものであったのだ。
 そうしなければ、自分は『強くなれない』と言う絶望そのものが、無限に形を変え、丙良の心を蝕んでいく。一息に蝕むのではない、徐々に狂わせ理性すら食いつぶさんとする、その狡猾さが、カルマの意思そのものであった。
 現状、丙良はマスターライセンスを得られるような経験を積んではいない。言ってしまえば、それは当然のようなもの。大人になって、ようやく発現できる存在もいる。ほとんどの英雄が無縁のものであり、手に出来ないことは恥ではない。
 しかし、今の丙良はどこまで行っても思考が狂ってしまっている。礼安や院が三枚目のライセンスを手に入れている中、自分はマスターライセンスを手に入れられるほどの実力はまだ持ち合わせていない。そんな当然のような事実にすら、恐怖していたのだ。
 『先輩』だなんて慕われている存在のそれなのか、と疑惑を持たれ、信玄から関係を断たれたら、きっと、丙良は――
「――ゥウうう、ウうウううあァ、アアアアあああああアアああアあッ!!」
 その場にロック・バスターを叩きつけ、雑兵を圧倒的土流によって圧し潰し、その場に残るは幹部の一人のみとなった。
 ほんの一瞬、過ぎった最悪の感情が、丙良を支配しかけた瞬間に、根源的恐怖から来るヒステリーを起こした結果、偶発的ではあるものの理性を取り戻したのだ。しかし、根底に巣食っている、今振るっているこの力に対する恐怖心は――底なし沼のようであったのだ。
「……お前は、誰だ」
 憔悴しきった丙良の表情を、弱者を蔑むような目で見下す一人の女。元々は『高梨派』であったのだが、当人に備わっているはずのある程度の優しさが、完全に消え去っていた。
 背丈としては、男性顔負けと言えるほどの長身でありながら、眉目秀麗を地で行くほどの美女。年齢は高梨と同級生であるため同じ二十七歳なのだが、少々こちらの方が大人びた印象を受ける。
 元々、高梨と同じように飾りっ気のない服しか着てこなかったのだが、まるで夜会に赴く露出少な目の真紅のナイトドレスを着用。元々装飾品を付けるような性格ではないため、最低限度のネックレス程度以外は身に着けていない。しかし、醸し出されるオーラは、これまでの幹部連中のものよりも少し歪でありながら大きく見えたのだった。
「――アタシのこと? そんな状態で名乗ったところで……いたぶる間覚えていられるのかしら」
「……五月蠅い、五月蠅い五月蠅ァァァァい!!」
 徐々に自分の中が犯されているような感覚に陥っていく。実際にはそんなことはただの被害妄想であるはずなのに、恐怖心による認識感覚の麻痺が、こうまで元の好青年を変えるのだ。誰に対しても丁寧に接していた丙良が、完全に恐怖によって老け込んでいたのだ。
「――本当、元の|好青年《イケメン》形無しね。じゃあ一応名乗ってあげるけれど……アタシは|新香由紀《シンコウ ユキ》。支部長代理こと、副支部長同様……カルマ様に力を授かった存在。正直、アタシが言うことではないけれど……そこまで強さに自信はない訳。でも――今の|丙良慎介《あなた》くらいだったら平気で伸せそうな気がするわね」
「舐めるな……僕は――負けない、負けられない!!」
 ロック・バスターを支えに、何とか立ち上がる丙良。そんな彼を、心の底から憐れむような目で見つめる新香。
(――事前に情報は入れておいた。でも……だからこそ余計に理解できないわ。そこまで人にたった一度の失態で蔑まれて、それでも被害に遭う人々のための『傘』になりつづけるのかしら)
 魔力が安定しないために、一切変身行為が出来ない丙良と、チーティングドライバーを容赦なく装着し、そのまま起動させる新香。
「悪く思わないで。アタシは……己が復讐を完遂するために動くんだから――変身」
『Loading――――Game Start』
 捩じれた喉元にぽっかりと孔が開いた、口にマスク型の鉄仮面を付けた怪人の姿が、顕現する。女性的な細い四肢がより目立つように、包帯が巻かれているのだが、どこか幽霊を彷彿とさせるかのように、実体である部分とそうでない部分が分かれる、不定形の姿でありながら、そこに確かに存在している。さらに体中に本のページを彷彿とさせるような、敗れてしまった冊子を無理やり人体にしたような胴体部。
『――こうなるのは、久しぶりね。どうあっても……嫌なことを思い出させるわ』
 どこか悲しそうな声を漏らしながらも、新香は丙良にゆっくりと歩み寄るのだった。内包されている気持ちが、慈愛と殺意であることを察知した丙良は、ロック・バスターを何とか構え、怪人と対峙するのだった。