第三百九十六話
ー/ー 全ての話を聞き届けた信玄は、自分で自分の顔面を何度も殴り飛ばし、毒を無理やり解除た上で、無理やり脳の感覚を取り戻し、そのまま水の結界をぶった斬る。
「――俺の勘も、捨てたもんじゃアねえな。ここまで綺麗すぎる絶望的な物語ねえよ。そりゃあ……重鎮の一人……いや、当事者を殺してやりたい気持ちも分かる。一か月前の俺だったら……容赦なく殺そうとしていたよ」
『――でも、今の君の気迫を見る限り……どうも地下には進ませてくれないようだ。君の心がそう言っているように聞こえる』
「エスパーでもねえのに、よく分かるな。まあエスパーなのは俺の方だが」
痛みを知るからこそ、念剣を地面に突き刺し、信玄は前を見据える。理由こそ違えど、実の弟を計画の悪用目的で殺された、その怒りが未だに残る中でも――信玄は冷静であったのだ。
「……知ってはいると思うが……俺の弟は来栖善吉に殺された。『弟が殺された』事実をだしに、犯人を伏せた状態で俺を新生山梨支部の幹部に据えるためだ。目的は非常に分かりやすく、英雄学園側の戦力を削ぐための一手。挙句の果てに洗脳されて……俺は自らの後輩を殺そうとした。間抜けだよな」
『……』
「それに……俺は加賀美陽を……礼安の大切な友人を成り行きで殺してしまった。今も……その罪の意識に苛まれている。週の休みには、神奈川まで朝早く出向いて、墓地に手を合わせることは欠かさねえ。それが……俺に課せられた宿命だからだ」
それを誇ることはしない。当然の義務だと思っているからこそである。
「――俺は、成り行きでもその男が仇だろうと、背負うべきものはあると思ってる。それが……罪の十字架だ。どこまで行っても消えることのない業を、背負い続ける。でも、手前が可哀想に思われちゃあ駄目なんだ」
千葉での経験から、信玄の言葉には重みが生まれる。圧倒的な重圧に圧し潰されながらも、それでも前を向いて歩き続ける。心の強い者でしか選べない道ではあるが、それと同時に自分が傷つくことが確定する茨の道。
先を行く存在だからこそ、道を逸れていってしまった存在へ、手を差し伸べるのだった。
「しっかりと前を向いて、ふんじばって歩く。色々失ったアンタをとやかく責めることはしねえが……今のアンタは、そんな境遇で悲劇の主人公やっている気がしてよ。ずっと下向いて、復讐のことを考えて……婚約者と妹さんが可哀想だ」
ある意味、職業病のようなものかもしれない。そして、奪い返す対象のことを考えると当然かもしれない。
重鎮に関しては、他人の婚約者と妹を性的に奪い去っていった、そのことに対して訴えれば映像証拠も残っているため、奪い返すことは容易であろう。その確固たる証拠がもみ消されなければ、の話だが。
「――殺すことだけが、復讐じゃあねえ。一発顔面に入れること以外に、出し抜くことはいくらでもある。まあ、俺が『弟しか命を奪われていないから』、なんて言われてしまえばそれまでかもしれねえが……アンタが殺しに手を染めなかったら……こっちにやれたことはあったかもしれねえんだ」
境遇は共感の余地以外ない。そして自分の立たされた立場に関しても同情しかないだろう。しかし、そこで『殺し』を選択したことで、彼は共感・同情と敵対視がハーフアンドハ―フになってしまったのだ。
なぜならば、犯罪者になってしまったから。
英雄は、主に無辜の人々を救う存在。例外として、ある程度救う余地のある存在に対し手を差し伸べることはあるだろうが、救いようのないほどに漆黒の意思に心を犯されたものは……一度灸を据える必要性があったのだ。
歯を噛み締めるほどの重苦しい表情で俯く高野であったが、それを信玄は「だが」と制止させる。それもそのはず、彼の表情は――敵視しているものでは無かったのだ。
「――だからこそ、分かるんだよ。同じような立場に立ったからこそ、俺はアンタの……高野涼音という『漢』の、覚悟の強さを。その重役は許せねえし、俺だって当事者だったら殺してやりてェ。今の俺がこうして『俺』で居られんのは……多くの仲間たちや慎ちゃん、そして……琴音のおかげだ。決して幸運自慢じゃアねえ、『俺だからこそアンタを救ってやれるかもしれねえ』って事を示したいんだよ」
「――俺の勘も、捨てたもんじゃアねえな。ここまで綺麗すぎる絶望的な物語ねえよ。そりゃあ……重鎮の一人……いや、当事者を殺してやりたい気持ちも分かる。一か月前の俺だったら……容赦なく殺そうとしていたよ」
『――でも、今の君の気迫を見る限り……どうも地下には進ませてくれないようだ。君の心がそう言っているように聞こえる』
「エスパーでもねえのに、よく分かるな。まあエスパーなのは俺の方だが」
痛みを知るからこそ、念剣を地面に突き刺し、信玄は前を見据える。理由こそ違えど、実の弟を計画の悪用目的で殺された、その怒りが未だに残る中でも――信玄は冷静であったのだ。
「……知ってはいると思うが……俺の弟は来栖善吉に殺された。『弟が殺された』事実をだしに、犯人を伏せた状態で俺を新生山梨支部の幹部に据えるためだ。目的は非常に分かりやすく、英雄学園側の戦力を削ぐための一手。挙句の果てに洗脳されて……俺は自らの後輩を殺そうとした。間抜けだよな」
『……』
「それに……俺は加賀美陽を……礼安の大切な友人を成り行きで殺してしまった。今も……その罪の意識に苛まれている。週の休みには、神奈川まで朝早く出向いて、墓地に手を合わせることは欠かさねえ。それが……俺に課せられた宿命だからだ」
それを誇ることはしない。当然の義務だと思っているからこそである。
「――俺は、成り行きでもその男が仇だろうと、背負うべきものはあると思ってる。それが……罪の十字架だ。どこまで行っても消えることのない業を、背負い続ける。でも、手前が可哀想に思われちゃあ駄目なんだ」
千葉での経験から、信玄の言葉には重みが生まれる。圧倒的な重圧に圧し潰されながらも、それでも前を向いて歩き続ける。心の強い者でしか選べない道ではあるが、それと同時に自分が傷つくことが確定する茨の道。
先を行く存在だからこそ、道を逸れていってしまった存在へ、手を差し伸べるのだった。
「しっかりと前を向いて、ふんじばって歩く。色々失ったアンタをとやかく責めることはしねえが……今のアンタは、そんな境遇で悲劇の主人公やっている気がしてよ。ずっと下向いて、復讐のことを考えて……婚約者と妹さんが可哀想だ」
ある意味、職業病のようなものかもしれない。そして、奪い返す対象のことを考えると当然かもしれない。
重鎮に関しては、他人の婚約者と妹を性的に奪い去っていった、そのことに対して訴えれば映像証拠も残っているため、奪い返すことは容易であろう。その確固たる証拠がもみ消されなければ、の話だが。
「――殺すことだけが、復讐じゃあねえ。一発顔面に入れること以外に、出し抜くことはいくらでもある。まあ、俺が『弟しか命を奪われていないから』、なんて言われてしまえばそれまでかもしれねえが……アンタが殺しに手を染めなかったら……こっちにやれたことはあったかもしれねえんだ」
境遇は共感の余地以外ない。そして自分の立たされた立場に関しても同情しかないだろう。しかし、そこで『殺し』を選択したことで、彼は共感・同情と敵対視がハーフアンドハ―フになってしまったのだ。
なぜならば、犯罪者になってしまったから。
英雄は、主に無辜の人々を救う存在。例外として、ある程度救う余地のある存在に対し手を差し伸べることはあるだろうが、救いようのないほどに漆黒の意思に心を犯されたものは……一度灸を据える必要性があったのだ。
歯を噛み締めるほどの重苦しい表情で俯く高野であったが、それを信玄は「だが」と制止させる。それもそのはず、彼の表情は――敵視しているものでは無かったのだ。
「――だからこそ、分かるんだよ。同じような立場に立ったからこそ、俺はアンタの……高野涼音という『漢』の、覚悟の強さを。その重役は許せねえし、俺だって当事者だったら殺してやりてェ。今の俺がこうして『俺』で居られんのは……多くの仲間たちや慎ちゃん、そして……琴音のおかげだ。決して幸運自慢じゃアねえ、『俺だからこそアンタを救ってやれるかもしれねえ』って事を示したいんだよ」
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