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第三百九十七話

ー/ー



 すると、信玄は、病院内で震えていた一人のナースに声をかける。丁度近くにいたのもあり、恐る恐るではあるがすぐに駆け付けた。

「――高野。お前……そこまでその事件に執着している、ってことは……多分持っているよな、証拠物(アレ)

『……あの下種男の、スマートフォンですか』

「そ。それ、この人に渡してくれねえか。事が済んだら……これとアンタの証言含め、その業界に突き出す。んでもって……各種設備整った『ここ』で、心と体の治療を施す。今俺が決めた」

『!? ど、どうしてそこまで……』

「? 『俺がルール』だから」

 腕を組んで、高野を見やる信玄。その目には、既に敵意よりも慈しみの心が見えたのだ。『大切』が身勝手に侵され続ける限り、彼の悪行はどこまでも止まらない。ならば、少しでも彼に救いを与えたかったのだ。
 確かに『殺人』は許されない行為である。信玄も周りから許しの言葉を貰ったものの、そして殺された当の本人から、ほんの少しの『奇跡』の時間に許しを貰ったものの、本人はそう思っていない。『殺人』をしっかり悪だと認識している犯罪者、ということが知れただけで、信玄は救ってやろうという気になれたのだ。

「――俺さ。軟派(なんぱ)な男を多少なり演じてんのよ。でも女性関係に関しては非常に気ィ使ってて、カレカノの関係にまで進むには……それ相応の順序と相性、ってのが必要だと思ってる。アンタは、その彼女よりも関係が進んだ存在である、婚約者がいた。でもそれを奪われた……その痛み、少しでも和らげてやりたくってよ」

 どこぞの世紀末の覇者は、非常に豪胆な姿勢を保ちながら、「最終的には自分の傍にその女が居ればいい」と言ってのけた。
 しかし、そう実際に思える存在は極少数。信玄が実際にそう思えるかどうかは、その当事者にならなければ分からないものの……そこまでの強い覚悟を決めることは出来ないだろう。何せ、それ以前に失ったものが多すぎるからだ。
 ある意味、高野は『有り得たかもしれない自分』。そう思えたがゆえに、放っておけなかったのだ。
 高野はほんの少し迷っていたものの、ナースに自ら持っていた証拠品であるスマホを手渡す。仰々しい見た目でありながら、紳士的な態度に驚きを隠せていなかったようだが、信玄が背を優しく押すと静かに頷き、そのまま病院の方へ駆けて行ったのだった。

「――本当に、病院の人間は傷つけないのな。有言実行って奴だ」

『……恨みの対象では、ありませんから』

 残るは、英雄・信玄と怪人・高野の一対一の構図のみ。不安げな高野とは対照的に、信玄は柔らかな相好(そうごう)を湛えていた。

「……何、俺が嘘こいたとか思っちゃってる?」

『な、何でそれを』

「さっき言ったろ、俺はエスパーなの。念能力使いだからさ、多少なり人の心の機微読めんのよ、心の声も。まあ俺の得意分野はサイコキネシスとか、実際に手を振れずに物動かすとかそっち方面だけど」

 だからこそ、信玄は突き刺していた念剣を手にとって、高野に宣戦布告としてその切っ先を向ける。英雄が扱うものの都合上、人を殺めるような鋭利なものでは無いのだが、その件には自らが犯した罪と向き合う覚悟を帯びていた。目の前の共感できる『友』を、これ以上間違った道に進ませないための、宣戦布告であったのだ。

「――男に二言は無ェ。俺はアンタを……高野涼音(タカノ スズネ)と言う漢を、社会的に救う。そのために背負う十字架はあるだろうが――この剣に、絶対に誓って見せる。高野さんの『大切』は、俺たちが取り戻す。糞みたいな権力者を引きずりおろして、下らねェ『性の上納行為』なんぞ止めさせる。そのために……俺は高野さん、アンタを斬るぜ」

 これまでの柔和な表情はどこへやら、多少の有情を感じられこそするものの、悪人と相対するような真剣な表情へと切り替わる。
 その態度に、海のように深い心意気を感じ取った高野は、現役人生の中で最後の最後まで演じることのなかった、真なる敵としての役を演じる。

『……そうか。ならばこう言おう。私の敵であり心の友、『ラウル』よ……我が一撃を食らい、無様に沈黙するがいい。この剣は、我が愛しの想い人(クリスティーヌ)のために!』
「言ってろ。悪ィが、もう以前のような俺じゃあねえんだ――加減は出来ねえぞ、(エリック)よ。 別人ではあるが、俺にも彼女(クリスティーヌ)は居るんだ、まだ見ぬ明日のためにも――負ける訳にゃあいかねえんだわ」
 想像もしたことがない、『イフ』のオペラ座の怪人。片方の因子こそ違えど、エリック(高野)ラウル(信玄)の覚悟が、ぶつかり合う時であったのだ。

『Killing Engine Ignition』

『超必殺承認!!』

 高野は新たな細剣を生成し、信玄は胴側に居合切りの体勢で構え、お互いが静かにお互いの鼓動が重なる瞬間を待った。
 そして、その時が訪れるのは、ほんの数秒後のこと。
 互いの全力を出し切るほどの必殺技が、交差し、そのまま互いを通り過ぎるのだった。

ご照覧あれ、無数の蘭は絢爛に乱れ咲く(オーキッズ・ブルーム・プロフューズリー)・フューチャリング・ノブナガ!!』

 雄叫びも、何も無し。ただ、お互いが全力を出し切った後の残心が残るのみ。振り返るだなんて無粋は無く、ただ倒れ伏す音で理解するのみ。
 細剣が、無数に切り刻まれた上で、袈裟にぶった斬られるは――高野。
 全力の一撃を受けてなお、砕け散った細剣の持ち手を取り落す程度で耐えていたのだ。しかし、あまりにもの一撃に、本人の意識が徐々に薄れゆく中で、病院の方にて高野自身の証拠を預かったナースが、心配そうに高野を見やるのだ。
 その一瞬にて、高野は婚約者の幻覚を見た。「もう、戦わなくていい」、そう言われている気がしたのだ。
 無論、口がそのように動いていただけで、声は一切聞いていない。これが走馬灯なのか、という疑問は残ったのだが、高野は涙ながらに笑みながらその場に膝から崩れ落ち、美しく倒れ伏すのだった。信玄は微笑したまま変身を解除し、倒れ伏す彼に一礼するのだった。

「――高野さん。アンタとの約束、絶対果たすよ。何、俺の信頼する学園長ってよ……顔だけじゃあなくって、コネも無数に広がってんだわ。信用はそうそう置けねえが……信頼に足る存在だと思っている。手前の十字架は清算できねえだろうが……今後の幸せを祈っているよ」

 これにより、英雄学園英雄科二年一組・森信玄(モリ ノブハル)対、教会栃木支部幹部・高野涼音(タカノ スズネ)の戦いは、最初はこれまでに無いような存在として動揺を誘われたが、彼の過去を聞き届けた信玄が『漢』を見せ、結果的に高野の心の闇を晴らし、事態の収拾がついた後に彼の復讐の片棒を正規の形で担いで見せると誓い、見事勝利したのだった。



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 すると、信玄は、病院内で震えていた一人のナースに声をかける。丁度近くにいたのもあり、恐る恐るではあるがすぐに駆け付けた。
「――高野。お前……そこまでその事件に執着している、ってことは……多分持っているよな、|証拠物《アレ》」
『……あの下種男の、スマートフォンですか』
「そ。それ、この人に渡してくれねえか。事が済んだら……これとアンタの証言含め、その業界に突き出す。んでもって……各種設備整った『ここ』で、心と体の治療を施す。今俺が決めた」
『!? ど、どうしてそこまで……』
「? 『俺がルール』だから」
 腕を組んで、高野を見やる信玄。その目には、既に敵意よりも慈しみの心が見えたのだ。『大切』が身勝手に侵され続ける限り、彼の悪行はどこまでも止まらない。ならば、少しでも彼に救いを与えたかったのだ。
 確かに『殺人』は許されない行為である。信玄も周りから許しの言葉を貰ったものの、そして殺された当の本人から、ほんの少しの『奇跡』の時間に許しを貰ったものの、本人はそう思っていない。『殺人』をしっかり悪だと認識している犯罪者、ということが知れただけで、信玄は救ってやろうという気になれたのだ。
「――俺さ。|軟派《なんぱ》な男を多少なり演じてんのよ。でも女性関係に関しては非常に気ィ使ってて、カレカノの関係にまで進むには……それ相応の順序と相性、ってのが必要だと思ってる。アンタは、その彼女よりも関係が進んだ存在である、婚約者がいた。でもそれを奪われた……その痛み、少しでも和らげてやりたくってよ」
 どこぞの世紀末の覇者は、非常に豪胆な姿勢を保ちながら、「最終的には自分の傍にその女が居ればいい」と言ってのけた。
 しかし、そう実際に思える存在は極少数。信玄が実際にそう思えるかどうかは、その当事者にならなければ分からないものの……そこまでの強い覚悟を決めることは出来ないだろう。何せ、それ以前に失ったものが多すぎるからだ。
 ある意味、高野は『有り得たかもしれない自分』。そう思えたがゆえに、放っておけなかったのだ。
 高野はほんの少し迷っていたものの、ナースに自ら持っていた証拠品であるスマホを手渡す。仰々しい見た目でありながら、紳士的な態度に驚きを隠せていなかったようだが、信玄が背を優しく押すと静かに頷き、そのまま病院の方へ駆けて行ったのだった。
「――本当に、病院の人間は傷つけないのな。有言実行って奴だ」
『……恨みの対象では、ありませんから』
 残るは、英雄・信玄と怪人・高野の一対一の構図のみ。不安げな高野とは対照的に、信玄は柔らかな|相好《そうごう》を湛えていた。
「……何、俺が嘘こいたとか思っちゃってる?」
『な、何でそれを』
「さっき言ったろ、俺はエスパーなの。念能力使いだからさ、多少なり人の心の機微読めんのよ、心の声も。まあ俺の得意分野はサイコキネシスとか、実際に手を振れずに物動かすとかそっち方面だけど」
 だからこそ、信玄は突き刺していた念剣を手にとって、高野に宣戦布告としてその切っ先を向ける。英雄が扱うものの都合上、人を殺めるような鋭利なものでは無いのだが、その件には自らが犯した罪と向き合う覚悟を帯びていた。目の前の共感できる『友』を、これ以上間違った道に進ませないための、宣戦布告であったのだ。
「――男に二言は無ェ。俺はアンタを……|高野涼音《タカノ スズネ》と言う漢を、社会的に救う。そのために背負う十字架はあるだろうが――この剣に、絶対に誓って見せる。高野さんの『大切』は、俺たちが取り戻す。糞みたいな権力者を引きずりおろして、下らねェ『性の上納行為』なんぞ止めさせる。そのために……俺は高野さん、アンタを斬るぜ」
 これまでの柔和な表情はどこへやら、多少の有情を感じられこそするものの、悪人と相対するような真剣な表情へと切り替わる。
 その態度に、海のように深い心意気を感じ取った高野は、現役人生の中で最後の最後まで演じることのなかった、真なる敵としての役を演じる。
『……そうか。ならばこう言おう。私の敵であり心の友、『ラウル』よ……我が一撃を食らい、無様に沈黙するがいい。この剣は、我が|愛しの想い人《クリスティーヌ》のために!』
「言ってろ。悪ィが、もう以前のような俺じゃあねえんだ――加減は出来ねえぞ、|友《エリック》よ。 別人ではあるが、俺にも|彼女《クリスティーヌ》は居るんだ、まだ見ぬ明日のためにも――負ける訳にゃあいかねえんだわ」
 想像もしたことがない、『イフ』のオペラ座の怪人。片方の因子こそ違えど、|エリック《高野》と|ラウル《信玄》の覚悟が、ぶつかり合う時であったのだ。
『Killing Engine Ignition』
『超必殺承認!!』
 高野は新たな細剣を生成し、信玄は胴側に居合切りの体勢で構え、お互いが静かにお互いの鼓動が重なる瞬間を待った。
 そして、その時が訪れるのは、ほんの数秒後のこと。
 互いの全力を出し切るほどの必殺技が、交差し、そのまま互いを通り過ぎるのだった。
『|ご照覧あれ、無数の蘭は絢爛に乱れ咲く《オーキッズ・ブルーム・プロフューズリー》・フューチャリング・ノブナガ!!』
 雄叫びも、何も無し。ただ、お互いが全力を出し切った後の残心が残るのみ。振り返るだなんて無粋は無く、ただ倒れ伏す音で理解するのみ。
 細剣が、無数に切り刻まれた上で、袈裟にぶった斬られるは――高野。
 全力の一撃を受けてなお、砕け散った細剣の持ち手を取り落す程度で耐えていたのだ。しかし、あまりにもの一撃に、本人の意識が徐々に薄れゆく中で、病院の方にて高野自身の証拠を預かったナースが、心配そうに高野を見やるのだ。
 その一瞬にて、高野は婚約者の幻覚を見た。「もう、戦わなくていい」、そう言われている気がしたのだ。
 無論、口がそのように動いていただけで、声は一切聞いていない。これが走馬灯なのか、という疑問は残ったのだが、高野は涙ながらに笑みながらその場に膝から崩れ落ち、美しく倒れ伏すのだった。信玄は微笑したまま変身を解除し、倒れ伏す彼に一礼するのだった。
「――高野さん。アンタとの約束、絶対果たすよ。何、俺の信頼する学園長ってよ……顔だけじゃあなくって、コネも無数に広がってんだわ。信用はそうそう置けねえが……信頼に足る存在だと思っている。手前の十字架は清算できねえだろうが……今後の幸せを祈っているよ」
 これにより、英雄学園英雄科二年一組・|森信玄《モリ ノブハル》対、教会栃木支部幹部・|高野涼音《タカノ スズネ》の戦いは、最初はこれまでに無いような存在として動揺を誘われたが、彼の過去を聞き届けた信玄が『漢』を見せ、結果的に高野の心の闇を晴らし、事態の収拾がついた後に彼の復讐の片棒を正規の形で担いで見せると誓い、見事勝利したのだった。