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第三百九十一話

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 所変わって、病院エリア。ここは信玄の守護するエリアである。
 これだけのお祭りごとではあるが、病院は平常運転。未だ、合同演習会の傷を癒す者であったり、それ以外の外的要因によって傷ついた存在であったりが多く収容されている。後は、一般人でありながら、大金を叩いてこちらの恵まれた医師と施設の世話になりたいという存在が収容。つまるところ、下に行っていないだけで、VIPがここにいることは確定事項である。
 信一郎から、指折りの実力者にしかここを守る存在としては適していない、と信玄があてがわれたのだった。

「――しっかし。俺っち一人に任せるには……些か荷が重すぎねェかい? まあまあ敷地面積デカいんだぞここの病院」

 そうぼやきながら、そして念銃を肩にて遊ばせながら、今か今かと敵襲の時を待ち侘びていた。すると、そこに現れるはたった一人の存在であった。
 これまでのようなオフィススーツと言うよりは、今回学園での催し事があるために、タキシードほどのスーツを着用した状態でありながら、発する威圧感は招かれざる者としての風格そのものであった。
 やってきた男は、まるでオペラ座の怪人のファントムよろしく、片側の顔の大体を覆う、白色の仮面をつけている。身なりはまるで服飾人形(マネキン)のように、気味が悪いほど整っており、泣き黒子と口元の黒子の二つがあらゆる女を魅了する。
 仮面でおおわれてこそいるものの、元々持ち合わせた美形が隠しきれず漏れ出すほどの妖艶(セクシー)さを湛えていたのだった。表情が冷徹そのものであることも、余計に人気を煽るようなものだろう。

「……悪ィけどさ、ここで開かれている催し事なんてジジババの井戸端会議くらいしか見世物はねえぞ? やれ手前の薬がどれくらい処方されただの、孫が生意気でそこまで可愛いもんじゃあねえだの、時間を無駄に使いたいならうってつけだけどよ」

「――森信玄(モリ ノブハル)、ですか。死んだ弟のために、悪鬼羅刹(あっきらせつ)に身を堕とすことを誓った悲しき不幸者……果てには成り行きとは言え、武器(ウエポン)科の女を一人――殺めた存在」

 その侵入者の物言いに、眉を顰める信玄。
 事実ではあったのだが、そこまで的確に言い当てられると、心が――否が応でもざわついてしまう。
 あの時の恐怖心は、未だに夢に見るほどのものであり、忘れてはならない痛みであることを自覚していながらも、いつか解放されるのだろうか、と言う夢想を抱いてしまう。
 だが、それから逃げることを止めた。そうでなければ、きっと加賀美にも信之にも示しがつかないのだろうと、自分を内心奮い立たせていたのだ。

「……アンタ、何者だよ。俺っちの痛み(かこ)ほじくり返して、それでサイナラなら……まだ許してやろうって気にはなっているが。立ち去らねえなら容赦はしねえぞ――人の痛みをわざわざ刺激するってのは……そう言うことだろ」

「そうか、ならば自らの退路を断ってやりましょう。私の因果を、宿命を……貴方と結びつけるために」

 仰々しい台詞と共に、腰に()いた長い鞘からぬるりと抜き出すは、一本の細剣(レイピア)。それをまるで中世の騎士のように素早く、それでいて華麗に何度か薙ぎながらも、最終的には少し離れた位置にいる信玄にその切っ先を突き付けるのだった。

「私は――高野涼音(タカノ スズネ)。元々舞台俳優として輝いていたために、ある程度大仰な語りが癖になっています。故あって、己が目的のためにこうして馳せ参じた次第です。お見知りおきを、敵味方問わず血に塗れ過ぎた、悲しき英雄(ヒーロー)

 切っ先と目線にブレはない。洗脳された上で立ち向かっているとはいえ、元来持ち合わせる覚悟は相当の比重である。

「……ですが、私はフェアな戦いを望みます。それに、『殺し』は悪だという認識は変わりません。和氣さんに命じられこそしたものの……後ろにて治療行為を行っている皆様を傷付けるような……下種(げす)な真似は絶対にしません。そんなことをしても……私の恨みは晴らせませんので」

「アンタ……ウチに見物に来たVIPの一人……恨んでんのか」

「ええ――それはもう」

 これまで突きつけてきた切っ先を下げ、歯を食いしばりながら何かを思う高野。そこにどんな思いが宿っているのか、信玄自身には理解できなかったものの――苦労者同士、似たような何かを感じ取っていたのだ。

「――男ってのは、往々にして馬鹿な生き物でよ。喧嘩(タイマン)することでしか、己を語れねェ。俺も……そうだったからよ」

 思い返すは、合同演習会での記憶。レプリカの羽田空港にて、人ひとりいない希少価値(レアリティ)の高い状況にて、これまで経験してこなかった、兄弟同士の大喧嘩――ならぬ、究極の殺し合いを経験した。傷を治しながら、これまでの軋轢を解消するための殺し合いを経験したのだ。
 あまりにもの激戦により、もはや完全に崩壊した羽田空港跡地となった屋上にて、殴り合いの決闘を制して、信玄が勝利したあの時の楽しかった記憶。今はもう、信之が死んでしまった上に、概念すら世の中から消されてしまった状況によって、そんなことを経験することは……もう叶わないのかもしれない。
 しかし後にも先にも、あれだけ楽しい喧嘩を経験したのは、人生において二度だけであった。丙良と、信之と。

「アンタがどんな能力を持っているかは分からねえ。これからそれを探る目的もあるんだが……アンタの痛み、俺っちに見せろよ」

「それは……敵わない相談かもしれませんね。私は……あまり人に弱みを見せない質でして」

 細剣を傍に携えながら、顕現させるはチーティングドライバー。一瞬の逡巡を見せた後、それを下腹部に装着。すぐさま起動させるのだった。

『Loading――――Game Start』

「変身」

 異業へと変貌する高野。これまで示してきた公平(フェア)の精神が顕れている影響か、これまでの怪人よりも歪みや捩じれは少なめであった。
 強いて言うならば、当人の利き腕である右腕、そして左足が軽く捩じれているのみで、後はほとんど原型と変わらず。しかし、肌の感触や耐久性、そして顔の半分を覆うほどの仮面だったものが、どこか怪盗を彷彿とさせるような、純白の目元を覆うような仮面に変形している。人間の面影こそ残っているものの、生身で相対しては死亡は目に見えているだろう。

『――では、次は貴方の番です。私は元々仕事人間でして、支部長同様下調べは欠かしません。『信長』か『蘭丸』か。どちらを選択し――私と戦うのですか』

「……ンなもん決まってんだろ」

 念銃のライセンススロットを展開し、信長のライセンスを認証。それに怪人化した高野は頷くも、その後の行動で思わす目を細める。
 なんと、千葉での一件と同様に――『蘭丸』のライセンスをも認証し、二枚ともライセンススロットに装填したのだった。

『認証、織田信長、森蘭丸!!』

「俺っちは、正直なところ元有名人であるアンタを知らねえ。何せ、俺っちが見るものの中に舞台は入っていねえ。それを貶めることは一切言わねえし、今はただ魅力に気づいていないだけだろうけどよ。だが――アンタの公平(フェア)な精神は非常に気に入った。最初の痛みをほじくり返した発言はそれでチャラにしてやる。だからこそ――」

 二枚分のエネルギーが籠った装甲を、空高く撃ち出す信玄。首を鳴らしながら、高野に対し不敵に笑むのだった。

「……だからこそ、『俺』はアンタの怒りを、アンタの憎しみを、分かってやりてェ。そうなるまで狂った理由を――『俺』に拳や細剣(レイピア)通して……教えてみろよ! 変身!!」

 装甲が圧縮された弾を、頭上よりも少し高い位置にあった未だ体に届かぬ弾を、容赦なくハイキック。そのまま、全身に強化装甲を身にまとっていく。

『信長×(かけることの)蘭丸!! 天下布武に至る武士道、ここに極まれり!! ノブランフォーム!!』

「『あの時』とほぼ一緒かもしれねえが……『あの時』よりも今の方が――ワンチャン出力自体は上だ。確証はねえが――そんな気がするよ。流石、ドライバーを用いない者にのみ許された、因子連鎖変身(チェインライズ)だ」

 信長のベースがありながら、そこに蘭丸の装甲が追加兵装としてスマートに合体。念剣も、以前()し折れたものを直してもらい、信之の遺品を握って今この場に立つのだ。

「――さァ、ここからが面白いところだ。簡単にバテてくれんなよ?」

『悪いですが、舞台上では多くのスタミナが要求されます。演者(アクター)である私の底力には――お気をつけて』

 静かなる戦いの開幕。西洋騎士と祖国の侍二人。実に異質でありながら、本質は似通った者同士の激突と相成った。



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 所変わって、病院エリア。ここは信玄の守護するエリアである。
 これだけのお祭りごとではあるが、病院は平常運転。未だ、合同演習会の傷を癒す者であったり、それ以外の外的要因によって傷ついた存在であったりが多く収容されている。後は、一般人でありながら、大金を叩いてこちらの恵まれた医師と施設の世話になりたいという存在が収容。つまるところ、下に行っていないだけで、VIPがここにいることは確定事項である。
 信一郎から、指折りの実力者にしかここを守る存在としては適していない、と信玄があてがわれたのだった。
「――しっかし。俺っち一人に任せるには……些か荷が重すぎねェかい? まあまあ敷地面積デカいんだぞここの病院」
 そうぼやきながら、そして念銃を肩にて遊ばせながら、今か今かと敵襲の時を待ち侘びていた。すると、そこに現れるはたった一人の存在であった。
 これまでのようなオフィススーツと言うよりは、今回学園での催し事があるために、タキシードほどのスーツを着用した状態でありながら、発する威圧感は招かれざる者としての風格そのものであった。
 やってきた男は、まるでオペラ座の怪人のファントムよろしく、片側の顔の大体を覆う、白色の仮面をつけている。身なりはまるで|服飾人形《マネキン》のように、気味が悪いほど整っており、泣き黒子と口元の黒子の二つがあらゆる女を魅了する。
 仮面でおおわれてこそいるものの、元々持ち合わせた美形が隠しきれず漏れ出すほどの|妖艶《セクシー》さを湛えていたのだった。表情が冷徹そのものであることも、余計に人気を煽るようなものだろう。
「……悪ィけどさ、ここで開かれている催し事なんてジジババの井戸端会議くらいしか見世物はねえぞ? やれ手前の薬がどれくらい処方されただの、孫が生意気でそこまで可愛いもんじゃあねえだの、時間を無駄に使いたいならうってつけだけどよ」
「――|森信玄《モリ ノブハル》、ですか。死んだ弟のために、|悪鬼羅刹《あっきらせつ》に身を堕とすことを誓った悲しき不幸者……果てには成り行きとは言え、|武器《ウエポン》科の女を一人――殺めた存在」
 その侵入者の物言いに、眉を顰める信玄。
 事実ではあったのだが、そこまで的確に言い当てられると、心が――否が応でもざわついてしまう。
 あの時の恐怖心は、未だに夢に見るほどのものであり、忘れてはならない痛みであることを自覚していながらも、いつか解放されるのだろうか、と言う夢想を抱いてしまう。
 だが、それから逃げることを止めた。そうでなければ、きっと加賀美にも信之にも示しがつかないのだろうと、自分を内心奮い立たせていたのだ。
「……アンタ、何者だよ。俺っちの|痛み《かこ》ほじくり返して、それでサイナラなら……まだ許してやろうって気にはなっているが。立ち去らねえなら容赦はしねえぞ――人の痛みをわざわざ刺激するってのは……そう言うことだろ」
「そうか、ならば自らの退路を断ってやりましょう。私の因果を、宿命を……貴方と結びつけるために」
 仰々しい台詞と共に、腰に|佩《は》いた長い鞘からぬるりと抜き出すは、一本の|細剣《レイピア》。それをまるで中世の騎士のように素早く、それでいて華麗に何度か薙ぎながらも、最終的には少し離れた位置にいる信玄にその切っ先を突き付けるのだった。
「私は――|高野涼音《タカノ スズネ》。元々舞台俳優として輝いていたために、ある程度大仰な語りが癖になっています。故あって、己が目的のためにこうして馳せ参じた次第です。お見知りおきを、敵味方問わず血に塗れ過ぎた、悲しき|英雄《ヒーロー》」
 切っ先と目線にブレはない。洗脳された上で立ち向かっているとはいえ、元来持ち合わせる覚悟は相当の比重である。
「……ですが、私はフェアな戦いを望みます。それに、『殺し』は悪だという認識は変わりません。和氣さんに命じられこそしたものの……後ろにて治療行為を行っている皆様を傷付けるような……|下種《げす》な真似は絶対にしません。そんなことをしても……私の恨みは晴らせませんので」
「アンタ……ウチに見物に来たVIPの一人……恨んでんのか」
「ええ――それはもう」
 これまで突きつけてきた切っ先を下げ、歯を食いしばりながら何かを思う高野。そこにどんな思いが宿っているのか、信玄自身には理解できなかったものの――苦労者同士、似たような何かを感じ取っていたのだ。
「――男ってのは、往々にして馬鹿な生き物でよ。|喧嘩《タイマン》することでしか、己を語れねェ。俺も……そうだったからよ」
 思い返すは、合同演習会での記憶。レプリカの羽田空港にて、人ひとりいない|希少価値《レアリティ》の高い状況にて、これまで経験してこなかった、兄弟同士の大喧嘩――ならぬ、究極の殺し合いを経験した。傷を治しながら、これまでの軋轢を解消するための殺し合いを経験したのだ。
 あまりにもの激戦により、もはや完全に崩壊した羽田空港跡地となった屋上にて、殴り合いの決闘を制して、信玄が勝利したあの時の楽しかった記憶。今はもう、信之が死んでしまった上に、概念すら世の中から消されてしまった状況によって、そんなことを経験することは……もう叶わないのかもしれない。
 しかし後にも先にも、あれだけ楽しい喧嘩を経験したのは、人生において二度だけであった。丙良と、信之と。
「アンタがどんな能力を持っているかは分からねえ。これからそれを探る目的もあるんだが……アンタの痛み、俺っちに見せろよ」
「それは……敵わない相談かもしれませんね。私は……あまり人に弱みを見せない質でして」
 細剣を傍に携えながら、顕現させるはチーティングドライバー。一瞬の逡巡を見せた後、それを下腹部に装着。すぐさま起動させるのだった。
『Loading――――Game Start』
「変身」
 異業へと変貌する高野。これまで示してきた|公平《フェア》の精神が顕れている影響か、これまでの怪人よりも歪みや捩じれは少なめであった。
 強いて言うならば、当人の利き腕である右腕、そして左足が軽く捩じれているのみで、後はほとんど原型と変わらず。しかし、肌の感触や耐久性、そして顔の半分を覆うほどの仮面だったものが、どこか怪盗を彷彿とさせるような、純白の目元を覆うような仮面に変形している。人間の面影こそ残っているものの、生身で相対しては死亡は目に見えているだろう。
『――では、次は貴方の番です。私は元々仕事人間でして、支部長同様下調べは欠かしません。『信長』か『蘭丸』か。どちらを選択し――私と戦うのですか』
「……ンなもん決まってんだろ」
 念銃のライセンススロットを展開し、信長のライセンスを認証。それに怪人化した高野は頷くも、その後の行動で思わす目を細める。
 なんと、千葉での一件と同様に――『蘭丸』のライセンスをも認証し、二枚ともライセンススロットに装填したのだった。
『認証、織田信長、森蘭丸!!』
「俺っちは、正直なところ元有名人であるアンタを知らねえ。何せ、俺っちが見るものの中に舞台は入っていねえ。それを貶めることは一切言わねえし、今はただ魅力に気づいていないだけだろうけどよ。だが――アンタの|公平《フェア》な精神は非常に気に入った。最初の痛みをほじくり返した発言はそれでチャラにしてやる。だからこそ――」
 二枚分のエネルギーが籠った装甲を、空高く撃ち出す信玄。首を鳴らしながら、高野に対し不敵に笑むのだった。
「……だからこそ、『俺』はアンタの怒りを、アンタの憎しみを、分かってやりてェ。そうなるまで狂った理由を――『俺』に拳や|細剣《レイピア》通して……教えてみろよ! 変身!!」
 装甲が圧縮された弾を、頭上よりも少し高い位置にあった未だ体に届かぬ弾を、容赦なくハイキック。そのまま、全身に強化装甲を身にまとっていく。
『信長|×《かけることの》蘭丸!! 天下布武に至る武士道、ここに極まれり!! ノブランフォーム!!』
「『あの時』とほぼ一緒かもしれねえが……『あの時』よりも今の方が――ワンチャン出力自体は上だ。確証はねえが――そんな気がするよ。流石、ドライバーを用いない者にのみ許された、|因子連鎖変身《チェインライズ》だ」
 信長のベースがありながら、そこに蘭丸の装甲が追加兵装としてスマートに合体。念剣も、以前|圧《へ》し折れたものを直してもらい、信之の遺品を握って今この場に立つのだ。
「――さァ、ここからが面白いところだ。簡単にバテてくれんなよ?」
『悪いですが、舞台上では多くのスタミナが要求されます。|演者《アクター》である私の底力には――お気をつけて』
 静かなる戦いの開幕。西洋騎士と祖国の侍二人。実に異質でありながら、本質は似通った者同士の激突と相成った。