SCENE149 お姉さんは探索者だから
ー/ー 迷路への挑戦者が現れた日の午後のこと、ダンジョンに衣織お姉さんがやってきた。
「よう、瞬。迷路は順調かい?」
「あっ、衣織お姉さん」
右手を上げて挨拶をしてくる衣織お姉さんを、僕は笑顔で迎える。
「一応、午前中に一組挑戦してくれたよ」
「ああ、配信は見てたよ。あれだけの迷路で、宝箱をひとつも見つけられないとは、ずいぶんと運の悪い連中だったな」
「うん、あれは僕も驚いた」
衣織お姉さんは、僕が行っていた迷路の配信を見ていたらしい。さすが僕のこととなると人が変わる衣織お姉さんだ。ぬかりはないんだなぁ。
「それで、衣織お姉さんは何をしに?」
僕は話題を切り替える。
質問をされた衣織お姉さんは、ちょっと悲しそうな顔をしたけれど、左手に持っていた紙袋を僕の前に差し出してくる。
なんだろうと思いながら僕は受け取って中身を確認する。
「あっ、服だ」
どうやら、瞳が作ってくれている服が入っていたみたいだ。追加物資は嬉しいんだけど、まだ景品が減っていないので、しばらくは在庫になりそうだな。
でも、あれから数日しか経っていないのに、もう三着も作っているとか、さすがに早くないかな。
「瞬の役に立つんだって、瞳は結構張り切っているよ。あれなら探索者にならなくても、ダンジョン産の素材を使った仕立て屋でやっていけるぞ」
「本当だね。ここまでちゃんとした服が作れるなんて、そういないんじゃないかな」
袋から引っ張り出した服を見ながら、僕はできばえに感心している。
「あら、服を持ってこられたんですか?」
「あっ、ラティナさん」
僕が服を確認していると、ラティナさんがやってきた。
「よう、ラティナ。調子はどうだい?」
「はい、おかげさまで元気ですよ」
衣織お姉さんが調子を尋ねると、ラティナさんはにっこりと微笑んでいた。
こうはいうものの、ダンジョン内というのはかなり暇だ。ラティナさんもかなり暇を持て余しているのが現状だ。
だから、バトラーからいろいろと教えてもらって、令嬢としての振る舞いを身につけているところらしい。バトラーもいいところの執事だったみたいだから、ラティナさん相手にしっかりと教えているみたいだよ。
「それにしても衣織殿。これまた立派な服でございますね」
バトラーが衣織お姉さんが持ってきた服に反応しているみたいだ。やっぱり、バトラーも気になるんだなぁ。
「ああ、これは瞬の妹である瞳が作った服なんだよ。私から見てみても、本当にこの服はすごいと思うんだ」
「ええ、素晴らしいですよ」
バトラーは服をまじまじと見つめながら、真剣な表情を見せている。
その姿を見た僕は、思わず提案をしてみることにした。
「そうだ。ラティナさんとバトラーの服を作ってもらうっていうことは可能かな、衣織お姉さん」
「うん? まあ、採寸しておけば、作ってもらえると思うぞ。素材はたくさんあるし、服の染色をしてくれる職員もいるしな」
僕の質問に、衣織お姉さんは答えているんだけど、その視線はどういうわけかラティナさんに向いていた。
理由は、ラティナさんがゴーレムだからかもしれない。
でも、石のドレスを着ているとはいえ、やっぱりね。年齢的にもおしゃれは楽しみたいと思うんだ。
「わ、わたくしは、別に服はいいですよ。ゴーレム族は普通の服は似合いませんし……」
話を聞いていたラティナさんは、ものすごく恥ずかしそうに反応している。
「私よりは、セイレーン様のために作られた方がよろしいかと思います」
「セイレーン? ああ、横浜ダンジョンのボスだっけか。だが、そっちの採寸は難しいだろう」
ラティナさんは、自分よりは公爵令嬢であるセイレーンさんの服を作った方がいいと提案しているみたいだ。
確かに、セイレーンさんはおしゃれ好きそうだからなぁ。
そう思った僕は、衣織お姉さんの反応に対して意見を言うことにした。
「そっちだったら、僕が直接連絡取れますよ。携帯電話に連絡先が入っていますからね」
「おお、そうだったのか。それなら、すぐにでも連絡を取ってくれ。衣装の希望とかもあったら、一緒に聞いておいてくれ」
「分かりました」
衣織お姉さんはそうとだけ言うと、服の入った紙袋を持ってボス部屋を出ていこうとする。
「あれ? もう帰っちゃうんですか?」
「ああ、剛力さんから連絡が入ってな。新しいダンジョンに挑戦することになったから、百鬼夜行の主要メンバーに招集がかかったんだ」
「そうなんですか。それだとしばらく会えそうにありませんね」
「そうなるな」
衣織お姉さんの話を聞いて、僕とラティナさんはちょっと残念に思ってしまう。
しばらく会えないとなると、やっぱり寂しくなっちゃうよ。
だけど、ダンジョンへの挑戦は探索者にとっては義務みたいなものだしなぁ。止められるわけもない。
だったらと、僕とラティナさんは頷き合う。
「人数は分かりませんが、僕たちのこれを持っていって下さい、衣織お姉さん」
「そうですよ。やはり、知り合いの方に危険が及ぶのは耐えられませんから」
僕と自分のうろこを、ラティナさんは護石をそれぞれ差し出していた。
衣織お姉さんはにこりと微笑むと、それを受け取っていた。
「助かる。無事に帰ってくるから安心してくれ」
そうとだけ言い残すと、衣織お姉さんはダンジョンを去っていった。
僕たちはその姿を、心配そうに見送っていたよ。
「よう、瞬。迷路は順調かい?」
「あっ、衣織お姉さん」
右手を上げて挨拶をしてくる衣織お姉さんを、僕は笑顔で迎える。
「一応、午前中に一組挑戦してくれたよ」
「ああ、配信は見てたよ。あれだけの迷路で、宝箱をひとつも見つけられないとは、ずいぶんと運の悪い連中だったな」
「うん、あれは僕も驚いた」
衣織お姉さんは、僕が行っていた迷路の配信を見ていたらしい。さすが僕のこととなると人が変わる衣織お姉さんだ。ぬかりはないんだなぁ。
「それで、衣織お姉さんは何をしに?」
僕は話題を切り替える。
質問をされた衣織お姉さんは、ちょっと悲しそうな顔をしたけれど、左手に持っていた紙袋を僕の前に差し出してくる。
なんだろうと思いながら僕は受け取って中身を確認する。
「あっ、服だ」
どうやら、瞳が作ってくれている服が入っていたみたいだ。追加物資は嬉しいんだけど、まだ景品が減っていないので、しばらくは在庫になりそうだな。
でも、あれから数日しか経っていないのに、もう三着も作っているとか、さすがに早くないかな。
「瞬の役に立つんだって、瞳は結構張り切っているよ。あれなら探索者にならなくても、ダンジョン産の素材を使った仕立て屋でやっていけるぞ」
「本当だね。ここまでちゃんとした服が作れるなんて、そういないんじゃないかな」
袋から引っ張り出した服を見ながら、僕はできばえに感心している。
「あら、服を持ってこられたんですか?」
「あっ、ラティナさん」
僕が服を確認していると、ラティナさんがやってきた。
「よう、ラティナ。調子はどうだい?」
「はい、おかげさまで元気ですよ」
衣織お姉さんが調子を尋ねると、ラティナさんはにっこりと微笑んでいた。
こうはいうものの、ダンジョン内というのはかなり暇だ。ラティナさんもかなり暇を持て余しているのが現状だ。
だから、バトラーからいろいろと教えてもらって、令嬢としての振る舞いを身につけているところらしい。バトラーもいいところの執事だったみたいだから、ラティナさん相手にしっかりと教えているみたいだよ。
「それにしても衣織殿。これまた立派な服でございますね」
バトラーが衣織お姉さんが持ってきた服に反応しているみたいだ。やっぱり、バトラーも気になるんだなぁ。
「ああ、これは瞬の妹である瞳が作った服なんだよ。私から見てみても、本当にこの服はすごいと思うんだ」
「ええ、素晴らしいですよ」
バトラーは服をまじまじと見つめながら、真剣な表情を見せている。
その姿を見た僕は、思わず提案をしてみることにした。
「そうだ。ラティナさんとバトラーの服を作ってもらうっていうことは可能かな、衣織お姉さん」
「うん? まあ、採寸しておけば、作ってもらえると思うぞ。素材はたくさんあるし、服の染色をしてくれる職員もいるしな」
僕の質問に、衣織お姉さんは答えているんだけど、その視線はどういうわけかラティナさんに向いていた。
理由は、ラティナさんがゴーレムだからかもしれない。
でも、石のドレスを着ているとはいえ、やっぱりね。年齢的にもおしゃれは楽しみたいと思うんだ。
「わ、わたくしは、別に服はいいですよ。ゴーレム族は普通の服は似合いませんし……」
話を聞いていたラティナさんは、ものすごく恥ずかしそうに反応している。
「私よりは、セイレーン様のために作られた方がよろしいかと思います」
「セイレーン? ああ、横浜ダンジョンのボスだっけか。だが、そっちの採寸は難しいだろう」
ラティナさんは、自分よりは公爵令嬢であるセイレーンさんの服を作った方がいいと提案しているみたいだ。
確かに、セイレーンさんはおしゃれ好きそうだからなぁ。
そう思った僕は、衣織お姉さんの反応に対して意見を言うことにした。
「そっちだったら、僕が直接連絡取れますよ。携帯電話に連絡先が入っていますからね」
「おお、そうだったのか。それなら、すぐにでも連絡を取ってくれ。衣装の希望とかもあったら、一緒に聞いておいてくれ」
「分かりました」
衣織お姉さんはそうとだけ言うと、服の入った紙袋を持ってボス部屋を出ていこうとする。
「あれ? もう帰っちゃうんですか?」
「ああ、剛力さんから連絡が入ってな。新しいダンジョンに挑戦することになったから、百鬼夜行の主要メンバーに招集がかかったんだ」
「そうなんですか。それだとしばらく会えそうにありませんね」
「そうなるな」
衣織お姉さんの話を聞いて、僕とラティナさんはちょっと残念に思ってしまう。
しばらく会えないとなると、やっぱり寂しくなっちゃうよ。
だけど、ダンジョンへの挑戦は探索者にとっては義務みたいなものだしなぁ。止められるわけもない。
だったらと、僕とラティナさんは頷き合う。
「人数は分かりませんが、僕たちのこれを持っていって下さい、衣織お姉さん」
「そうですよ。やはり、知り合いの方に危険が及ぶのは耐えられませんから」
僕と自分のうろこを、ラティナさんは護石をそれぞれ差し出していた。
衣織お姉さんはにこりと微笑むと、それを受け取っていた。
「助かる。無事に帰ってくるから安心してくれ」
そうとだけ言い残すと、衣織お姉さんはダンジョンを去っていった。
僕たちはその姿を、心配そうに見送っていたよ。
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