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002 コキンメの受難

ー/ー



 ー≪コキンメ魔法具屋≫ー

「失礼しますザックです、魔晶石を持ってきました」

 翌朝、部屋に魔晶石の入った布袋を持ってザックが入って来た。コキンメは布袋を受けとり中身を確認するとザックに尋ねた。

「仕事はちゃんとさせたようだな、あのガキはどうした?」
「叩いても蹴っても反応がありませんでしたし、これだけの魔晶石に魔力を込めたら魔力枯渇になっているでしょう。もう使い物にはなりませんね」

 ザックは致し方なし、と確認をしないまま思い込みで報告をした。それを聞いたコキンメはアースの処分を言い渡した。

「そうか、まぁこうして最後に役に立ってくれたのだから感謝しなくてはな。お前はあのガキを貧民地区の入り口にでも捨ててこい」
「分かりました」

 小屋に戻ると机にうつ伏せのアースを見下ろした。魔力欠乏症は意識が戻らない以外、体におかしなところはない為、まるで()()()()ようにしか見えない。(こうしていると寝息が聞こえてきそうだな…)すると担いだはずみでアースの傍にあった魔晶石が転がった。ザックはそれを拾い上げて確認するとそれをゴミ箱に捨てた。

「なんだ異物入り(ゴミ)か」

 アースを担いで大通りから人気のない路地に入る。少し進むと地面にうずくまっている人がそこかしこに見て取れた。貧民街の人間は気力が感じられず周りには無関心だ。

「よっと、この辺でいいだろ」

 ザックが担いでいたアースを地面に置くと、周りを見回す。
 ……相変わらず辛気臭いところだぜ。
 長居は無用とばかりにそそくさと貧民街を後にした。


 数日後、ホーラン子爵から持ち込み依頼が入って来た。滅多にない依頼だが、クライアントが持ち込む魔晶石に魔力を込めて返すというもので、持ち込まれる魔晶石が高価なほど依頼料も破格となる。

「ホーラン子爵様、本日は持ち込みでの依頼という事ですが…」
「うむ、この魔晶石を頼みたい。以前同じくらいの魔晶石を頼んだのだが、ウチに身を寄せている食客がいたく気に入っててね。また頼みたい」
「承知しました。魔晶石を確認してもよろしいですか?」

 コキンメが魔晶石を預かる。ホーラン子爵が持ち込んだ魔晶石は滅多に見られないほど大きく、魔力を込めるのは並大抵の事ではなさそうだったが、コキンメの頭には報酬の事しかなかった。

「コキンメ、魔晶石(これに)魔力を込めるのは大変だが、頼んだぞ」
「承知しました。最優先でやらせていただきます」
 

 作業小屋では、持ち込まれた魔晶石を中心に作業員たちが遠巻きに注視していた。誰も魔力を込める事が出来なかったのだ。

「貴様らなにサボってやがる。今日のノルマはホーラン子爵の魔晶石1個だけだろう。なんでまだ出来ていないんだ!」
「それがザックさん、この魔晶石おかしいんです。魔力を込めようとしても反発して全く魔力を受け付けません」
「なにを言ってる、魔晶石1個に魔力を込めるだけだ。コキンメ様からは前にも依頼があったと聞いているぞ。その時と同じ事をすればいいだけだろうが」

 しかし男たちは互いに顔を見合わせ言いにくそうにしながらもザックに伝えた。

「その非常に言いにくいのですが、前の時はあのガキがやっていたので我々だとどうしていいか分かりません」
「あのガキが?」

 結局だれも魔力を込める事は出来なかった。アースの事は隠したままザックはコキンメに報告した。

「コキンメ様、ホーラン子爵のご依頼の件ですが…」
「おお、終わったか。ホーラン子爵の御用商人になれるチャンスなのだ。ほれさっさと寄越せ」
「……すいませんでしたー!」

 しかし、ザックは魔晶石を渡す替わりに土下座をした。その様子にコキンメは嫌な予感を覚えた。

「どういう事だ?魔晶石はどうした、魔力は込め終わったのか?」

 問いただされたザックは一言も発する事はできなかった。いくら聞いても「すいませんでした」の一点張りだ。ホーラン子爵からの持ち込み依頼はどうしてもやらないといけないため、コキンメは渋々同業者のアントンに頼むことにした。

「よぉ、コキンメ久しぶりだな、最近ある貴族の評判がいいと聞いたぞ。御用商人になれるんじゃないかってな。それで今日はどうした」
「うむ…魔晶石の持ち込み依頼を受けたんだが、他の仕事が忙しくてウチの者の手が空かなくてな、お前の所でやってくれんか」

 他の所に仕事を回すしかない事にコキンメは忸怩たる思いだった。それを聞いたアントンは目を丸くして驚いた。強欲で有名なコキンメが仕事を回したのだ、しかもおいしい仕事をだ。

「おいおい、いいのかよ。そんな依頼を俺の所に回しても」
「いいんだ、少しは他のとこにも仕事を回さないとな」

 ホーラン子爵の魔晶石を受け取ると「任せとけ!」とアントンが太鼓判を押した。これで一安心とコキンメが胸をなでおろした。

 翌日、アントンの所に出向いたコキンメに返って来たのは仕事完了の報告ではなく、謝罪の言葉だった。アントンの所でも魔晶石に魔力を込める事は出来なかったのだ。

「すまんな、せっかく仕事を回してもらったのに。しかし魔晶石(こいつ)は多分どこに持って行っても無理だと思うぞ」
「無理?無理ってどういうことだ、アントン」
「どうもこうも、こんな高濃度の魔晶石に魔力を込められる人間なんて魔法師団でも一握りくらいしかいないんじゃないか」

 アントンの説明を聞いて目の前が真っ暗になった。魔法師団でも一握り?そんなヤツが市政にいるわけがない。何かの間違いだと思ったが、アントンの目利きが確かなのは知っていた。

「以前にも受けた仕事なんだろ?でもそんな凄いヤツを雇っていたなんてさすがコキンメ魔法具屋だな」
「まっまあな。じゃぁ邪魔したな」

 そそくさとアントンの店を後にすると、コキンメの頭の中はホーラン子爵への言い訳で一杯だった。
 ……まずいまずいまずい、もうあのガキはいない。
 コキンメの頭皮からは貴重な毛が何本も抜けていた。


 ホーラン子爵の邸宅は長い廊下の突き当りが主の執務室になっていて、コキンメとザックはまるで絞首刑台に繋がる階段の様だと思った。

「ホーラン子爵から呼び出しとはやはり、例の依頼についてでしょうか?」
「ああ、時間がかかるからと伸ばし伸ばししてきたがそろそろ限界だろう」

 2人はこれから訪れる事を想像して胃がキリキリと音を立てた。

 ”コンコン”
 部屋の扉がノックされ屋敷のメイドが館の主に客人の到着を知らせた。

「コキンメ様と従者の方をお連れしました」
 
 メイドに促されて二人が部屋に入ると、ソファにホーラン子爵ともう一人男が座っていた。金髪で長身、細身のエルフだ。
 コキンメはすぐにその男の正体が錬金術師のクリフトだと分かった。

 エルフ族はほとんど見かける事がない、彼らは魔法の探究者で他人とのつながりを嫌う。
 大抵は貴族の食客となり、研究資金を賄ってもらう代わりに厄介ごとを引き受ける。魔法の探究の為ならなんでも行うため、倫理観が欠如しているとも言われていた。ただし大抵の貴族にとってはその方が都合がよかった。

 ふと目を落とすとコキンメの目の前のテーブルには魔晶石と練成盤が二つずつ置いてあった。
 ……はて、依頼の話になぜこれらがここにあるのだ?

 場にそぐわない物にコキンメが疑問に思っているとホーラン子爵が口を開いた。

「コキンメ、なぜ呼び出されたかわかるか?」
「はっはい、あの恐れながら『魔晶石の依頼』の件でしょうか」
「わかっているなら何故すぐに持ってこない」
「すみません、魔力を込めるのに時間がかかっておりまして、今最優先でやってますので今暫くお待ち下さい」

 あからさまな言い訳にホーラン子爵が頭を抱えた。出来ないなら出来ないと言えば済むのに御用商人という肩書欲しさになかな諦めない。しかたなく依頼した内容の難しさをクリフトに説明させた。

「クリフト説明してやってくれ、この二人でも分かるようにな」
「…了解した。こちらは以前依頼したモノで、こちらはつい先日購入したモノだ。どちらも君たちの店の魔晶石だね。この練成盤は高品質な練成を必要とする時だけ使っているのだが、要求する魔力の出力が馬鹿みたいに高い。これを使う時は特別な魔晶石を必要とするのだが…」

 テーブルの上に置いてある二つの魔晶石を手に取ると、クリフトがそれをコキンメ達に向け、魔晶石を練成盤に嵌めて起動した。
 しばらくすると左の練成盤の文様が点滅したかと思うと消えた。しかし右の練成盤はずっと安定して起動しており停まる気配はなかった。

「魔力を込めるのに時間は関係ない、込められるか否かだけだ。魔力が低い者はどれだけ時間をかけても無理なのだよ。さらに過剰に込めれば鈍く光る、まぁそこまで出来る者はほとんどいないがね。それより1つ聞きたいのだが」

 そう言ってクリフトが1つの魔晶石を出した。魔晶石は薄っすらとだが黄色の光を帯びていた。

「なんですか、この魔晶石は黄色く光っているようですが」
「これほど魔力を込められるから君の所に持ち込み依頼をしたのだぞ、以前依頼した時の事も覚えていないのか」
「まぁまぁ、ホーラン。彼らは平民だ、この魔晶石の素晴らしさに気づかないのも無理ない」

 いちいちエルフだ貴族だ平民だなどと、選民意識が強いヤツだとコキンメは心の中で思っていると、隣のザックが「あっ!」と驚きの声をだした。

「ん?なんだ、以前依頼した事を思い出したのか?」
「あ~~、いえその」
「なんだ、思い出したことがあるなら言ってみなさい」

 少しでもホーラン子爵に好印象を与えるため、煮え切らないザックに知ってる事を話せと圧をかけた。

「今朝、その魔晶石みたいに黄色く光る奴を見たんで…」
「見ただと?という事はやはり限界を超えて魔力を込められる人間がいるという事だね。素晴らしい」
「クリフト、それほどの事なのかね」
「ああ、これはそれほどの事だとも、ホーラン」

 無くしたものを見つけた様に、黄色く光る魔晶石がいかに素晴らしいのかを語るクリフト。

「よし、その魔晶石を作った人間を連れてくれば依頼の件はチャラにしてやる。どうせ出来ていないのだろう」
「すっすぐ連れてきます」

 図星を突かれたコキンメとザックがアースを探すために子爵邸を後にした。


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 ー≪コキンメ魔法具屋≫ー
「失礼しますザックです、魔晶石を持ってきました」
 翌朝、部屋に魔晶石の入った布袋を持ってザックが入って来た。コキンメは布袋を受けとり中身を確認するとザックに尋ねた。
「仕事はちゃんとさせたようだな、あのガキはどうした?」
「叩いても蹴っても反応がありませんでしたし、これだけの魔晶石に魔力を込めたら魔力枯渇になっているでしょう。もう使い物にはなりませんね」
 ザックは致し方なし、と確認をしないまま思い込みで報告をした。それを聞いたコキンメはアースの処分を言い渡した。
「そうか、まぁこうして最後に役に立ってくれたのだから感謝しなくてはな。お前はあのガキを貧民地区の入り口にでも捨ててこい」
「分かりました」
 小屋に戻ると机にうつ伏せのアースを見下ろした。魔力欠乏症は意識が戻らない以外、体におかしなところはない為、まるで|寝《・》|て《・》|い《・》|る《・》ようにしか見えない。(こうしていると寝息が聞こえてきそうだな…)すると担いだはずみでアースの傍にあった魔晶石が転がった。ザックはそれを拾い上げて確認するとそれをゴミ箱に捨てた。
「なんだ|異物入り《ゴミ》か」
 アースを担いで大通りから人気のない路地に入る。少し進むと地面にうずくまっている人がそこかしこに見て取れた。貧民街の人間は気力が感じられず周りには無関心だ。
「よっと、この辺でいいだろ」
 ザックが担いでいたアースを地面に置くと、周りを見回す。
 ……相変わらず辛気臭いところだぜ。
 長居は無用とばかりにそそくさと貧民街を後にした。
 数日後、ホーラン子爵から持ち込み依頼が入って来た。滅多にない依頼だが、クライアントが持ち込む魔晶石に魔力を込めて返すというもので、持ち込まれる魔晶石が高価なほど依頼料も破格となる。
「ホーラン子爵様、本日は持ち込みでの依頼という事ですが…」
「うむ、この魔晶石を頼みたい。以前同じくらいの魔晶石を頼んだのだが、ウチに身を寄せている食客がいたく気に入っててね。また頼みたい」
「承知しました。魔晶石を確認してもよろしいですか?」
 コキンメが魔晶石を預かる。ホーラン子爵が持ち込んだ魔晶石は滅多に見られないほど大きく、魔力を込めるのは並大抵の事ではなさそうだったが、コキンメの頭には報酬の事しかなかった。
「コキンメ、|魔晶石《これに》魔力を込めるのは大変だが、頼んだぞ」
「承知しました。最優先でやらせていただきます」
 作業小屋では、持ち込まれた魔晶石を中心に作業員たちが遠巻きに注視していた。誰も魔力を込める事が出来なかったのだ。
「貴様らなにサボってやがる。今日のノルマはホーラン子爵の魔晶石1個だけだろう。なんでまだ出来ていないんだ!」
「それがザックさん、この魔晶石おかしいんです。魔力を込めようとしても反発して全く魔力を受け付けません」
「なにを言ってる、魔晶石1個に魔力を込めるだけだ。コキンメ様からは前にも依頼があったと聞いているぞ。その時と同じ事をすればいいだけだろうが」
 しかし男たちは互いに顔を見合わせ言いにくそうにしながらもザックに伝えた。
「その非常に言いにくいのですが、前の時はあのガキがやっていたので我々だとどうしていいか分かりません」
「あのガキが?」
 結局だれも魔力を込める事は出来なかった。アースの事は隠したままザックはコキンメに報告した。
「コキンメ様、ホーラン子爵のご依頼の件ですが…」
「おお、終わったか。ホーラン子爵の御用商人になれるチャンスなのだ。ほれさっさと寄越せ」
「……すいませんでしたー!」
 しかし、ザックは魔晶石を渡す替わりに土下座をした。その様子にコキンメは嫌な予感を覚えた。
「どういう事だ?魔晶石はどうした、魔力は込め終わったのか?」
 問いただされたザックは一言も発する事はできなかった。いくら聞いても「すいませんでした」の一点張りだ。ホーラン子爵からの持ち込み依頼はどうしてもやらないといけないため、コキンメは渋々同業者のアントンに頼むことにした。
「よぉ、コキンメ久しぶりだな、最近ある貴族の評判がいいと聞いたぞ。御用商人になれるんじゃないかってな。それで今日はどうした」
「うむ…魔晶石の持ち込み依頼を受けたんだが、他の仕事が忙しくてウチの者の手が空かなくてな、お前の所でやってくれんか」
 他の所に仕事を回すしかない事にコキンメは忸怩たる思いだった。それを聞いたアントンは目を丸くして驚いた。強欲で有名なコキンメが仕事を回したのだ、しかもおいしい仕事をだ。
「おいおい、いいのかよ。そんな依頼を俺の所に回しても」
「いいんだ、少しは他のとこにも仕事を回さないとな」
 ホーラン子爵の魔晶石を受け取ると「任せとけ!」とアントンが太鼓判を押した。これで一安心とコキンメが胸をなでおろした。
 翌日、アントンの所に出向いたコキンメに返って来たのは仕事完了の報告ではなく、謝罪の言葉だった。アントンの所でも魔晶石に魔力を込める事は出来なかったのだ。
「すまんな、せっかく仕事を回してもらったのに。しかし|魔晶石《こいつ》は多分どこに持って行っても無理だと思うぞ」
「無理?無理ってどういうことだ、アントン」
「どうもこうも、こんな高濃度の魔晶石に魔力を込められる人間なんて魔法師団でも一握りくらいしかいないんじゃないか」
 アントンの説明を聞いて目の前が真っ暗になった。魔法師団でも一握り?そんなヤツが市政にいるわけがない。何かの間違いだと思ったが、アントンの目利きが確かなのは知っていた。
「以前にも受けた仕事なんだろ?でもそんな凄いヤツを雇っていたなんてさすがコキンメ魔法具屋だな」
「まっまあな。じゃぁ邪魔したな」
 そそくさとアントンの店を後にすると、コキンメの頭の中はホーラン子爵への言い訳で一杯だった。
 ……まずいまずいまずい、もうあのガキはいない。
 コキンメの頭皮からは貴重な毛が何本も抜けていた。
 ホーラン子爵の邸宅は長い廊下の突き当りが主の執務室になっていて、コキンメとザックはまるで絞首刑台に繋がる階段の様だと思った。
「ホーラン子爵から呼び出しとはやはり、例の依頼についてでしょうか?」
「ああ、時間がかかるからと伸ばし伸ばししてきたがそろそろ限界だろう」
 2人はこれから訪れる事を想像して胃がキリキリと音を立てた。
 ”コンコン”
 部屋の扉がノックされ屋敷のメイドが館の主に客人の到着を知らせた。
「コキンメ様と従者の方をお連れしました」
 メイドに促されて二人が部屋に入ると、ソファにホーラン子爵ともう一人男が座っていた。金髪で長身、細身のエルフだ。
 コキンメはすぐにその男の正体が錬金術師のクリフトだと分かった。
 エルフ族はほとんど見かける事がない、彼らは魔法の探究者で他人とのつながりを嫌う。
 大抵は貴族の食客となり、研究資金を賄ってもらう代わりに厄介ごとを引き受ける。魔法の探究の為ならなんでも行うため、倫理観が欠如しているとも言われていた。ただし大抵の貴族にとってはその方が都合がよかった。
 ふと目を落とすとコキンメの目の前のテーブルには魔晶石と練成盤が二つずつ置いてあった。
 ……はて、依頼の話になぜこれらがここにあるのだ?
 場にそぐわない物にコキンメが疑問に思っているとホーラン子爵が口を開いた。
「コキンメ、なぜ呼び出されたかわかるか?」
「はっはい、あの恐れながら『魔晶石の依頼』の件でしょうか」
「わかっているなら何故すぐに持ってこない」
「すみません、魔力を込めるのに時間がかかっておりまして、今最優先でやってますので今暫くお待ち下さい」
 あからさまな言い訳にホーラン子爵が頭を抱えた。出来ないなら出来ないと言えば済むのに御用商人という肩書欲しさになかな諦めない。しかたなく依頼した内容の難しさをクリフトに説明させた。
「クリフト説明してやってくれ、この二人でも分かるようにな」
「…了解した。こちらは以前依頼したモノで、こちらはつい先日購入したモノだ。どちらも君たちの店の魔晶石だね。この練成盤は高品質な練成を必要とする時だけ使っているのだが、要求する魔力の出力が馬鹿みたいに高い。これを使う時は特別な魔晶石を必要とするのだが…」
 テーブルの上に置いてある二つの魔晶石を手に取ると、クリフトがそれをコキンメ達に向け、魔晶石を練成盤に嵌めて起動した。
 しばらくすると左の練成盤の文様が点滅したかと思うと消えた。しかし右の練成盤はずっと安定して起動しており停まる気配はなかった。
「魔力を込めるのに時間は関係ない、込められるか否かだけだ。魔力が低い者はどれだけ時間をかけても無理なのだよ。さらに過剰に込めれば鈍く光る、まぁそこまで出来る者はほとんどいないがね。それより1つ聞きたいのだが」
 そう言ってクリフトが1つの魔晶石を出した。魔晶石は薄っすらとだが黄色の光を帯びていた。
「なんですか、この魔晶石は黄色く光っているようですが」
「これほど魔力を込められるから君の所に持ち込み依頼をしたのだぞ、以前依頼した時の事も覚えていないのか」
「まぁまぁ、ホーラン。彼らは平民だ、この魔晶石の素晴らしさに気づかないのも無理ない」
 いちいちエルフだ貴族だ平民だなどと、選民意識が強いヤツだとコキンメは心の中で思っていると、隣のザックが「あっ!」と驚きの声をだした。
「ん?なんだ、以前依頼した事を思い出したのか?」
「あ~~、いえその」
「なんだ、思い出したことがあるなら言ってみなさい」
 少しでもホーラン子爵に好印象を与えるため、煮え切らないザックに知ってる事を話せと圧をかけた。
「今朝、その魔晶石みたいに黄色く光る奴を見たんで…」
「見ただと?という事はやはり限界を超えて魔力を込められる人間がいるという事だね。素晴らしい」
「クリフト、それほどの事なのかね」
「ああ、これはそれほどの事だとも、ホーラン」
 無くしたものを見つけた様に、黄色く光る魔晶石がいかに素晴らしいのかを語るクリフト。
「よし、その魔晶石を作った人間を連れてくれば依頼の件はチャラにしてやる。どうせ出来ていないのだろう」
「すっすぐ連れてきます」
 図星を突かれたコキンメとザックがアースを探すために子爵邸を後にした。