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11話 脱走(1)

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 震える足でなんとか立ち上がるが、あまりの凄惨な光景に、またしても膝から崩れ落ちてしまう。
 他の生徒達はバタバタと廊下に向かって走って行くが、俺達は身動き一つ出来ずにただ呆けることしか出来なかった。
 無理だ、この状態から助かるなんて。
 あの肉片には、凛の体も……!

「翔! ねえ、大丈夫!」

 飛び交う悲鳴の中、僅かに聞こえるあの声。

「……り、ん?」

 立ちあがろうとする小春をしゃがませ、今度こそと足に力を入れた俺は、一歩ずつ声がする方に進んでいく。
 机と椅子が並んでいた後方を抜けると視界は完全に開け、教室の傍らで倒れている一人を見つけた。

「……っ! 翔!」

 駆け寄り肩を揺らすも反応がなく、やたら制服がボロボロで赤いシミに染まっていて、腕までもが赤く爛れていた。
 まさか、翔までも爆発に巻き込まれたのか!
 血の気が引いていく感覚に体の力が抜けていくと、翔の体の下より細い手の先が見えた。

「うわあああああああっ!」

 飛び散った肉片だと察した俺は、腰が抜けてしまって尻もちを付いてしまう。

「りんー!!」

 頭を抱えた俺の体は、ガタガタと震え出す。
 もう、嫌だ! もう、もう!

「……慎吾」

 翔の体下にあった手はパタパタと動き始めて身を怯ませるが、「力を貸して」の声でようやく、我に返る。
 恐る恐る近付くと、翔の下には凛がいて身動きが取れないようだった。

「凛! 無事だったのか!」
「……翔も。早く治療しないといけないけど、動けなくて……」

 落ち着いて翔の体に触れると、脈は触れ、息もしっかりしている。
 これがいわゆる、気絶している状態というものなのだろうか?
 ようやく状況が見えてきた俺は凛と協力して翔の体を動かそうとするが、体格が良いからかびくともせず、気を失った人間は予想外に重くて二人の力では全く動かなかった。

「……私も」

 小春が駆け寄り手伝ってくれるが、どうにも力が入らないようで、廊下にいる男子に声をかけようとした時。

「こ、はる……」

 声がする方に目を向けるとそれは翔の声で、意識が戻ったのかと思ったが呼びかけに反応はなかった。

「こはる。こはる……」
「……え?」

 繰り返されるうわ言に、俺達三人は何とも言えない空気となってしまう。
 凛、じゃないのか?
 翔の知りたくなかった一面に唖然としてしまうと、その声は止み、翔は静かに目を開けた。

「ってぇ……。あ、ごめん!」

 翔は何とか体を動かして、下敷きにしていた凛に抜けてもらう。
 翔は顔を歪めて「痛ってぇ」と声を漏らし、息は速くなっていた。
 無傷な凛に対して翔の体は明らかに火傷を負っているようで、どうやら凛を庇う為に身を挺したようだった。

『あららら? 他人を気遣える彼女に、それを命懸けで守る彼氏。美しい愛ですねー? ……それに比べて、この強欲に塗れた二人ときたら。どうやらビジネスカップルだったようです』

 冷酷な笑い声がスマホから響く中、翔と凛はその悲惨な光景を目の当たりにしていた。
 声を上げるわけでも、身を引くわけでもなく、ただ傍観しているだけだった。

「うわああああああ! いやだぁ! し、し、死にたくないよぉー!」

 廊下より響いた声は一段と大きく、次はバタバタバタバタと音を立てていく。

「はぁ! ちょっと圭祐ぇ! あんた、何考えてんの!」

 内藤さんの声がするも、反響した足音はどんどん小さくなっていった。

「ちょ、ちょっと! 外に出たらダメー!」

 小田くんを追いかけようとする凛は、バランスを崩して転けてしまう。
 翔が凛の手を強く掴んでおり、行ってはならないという意思だった。

「お、俺が行くから!」

 気付けばそう声に出し、消えてしまった足音を追いかけていた。


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 震える足でなんとか立ち上がるが、あまりの凄惨な光景に、またしても膝から崩れ落ちてしまう。
 他の生徒達はバタバタと廊下に向かって走って行くが、俺達は身動き一つ出来ずにただ呆けることしか出来なかった。
 無理だ、この状態から助かるなんて。
 あの肉片には、凛の体も……!
「翔! ねえ、大丈夫!」
 飛び交う悲鳴の中、僅かに聞こえるあの声。
「……り、ん?」
 立ちあがろうとする小春をしゃがませ、今度こそと足に力を入れた俺は、一歩ずつ声がする方に進んでいく。
 机と椅子が並んでいた後方を抜けると視界は完全に開け、教室の傍らで倒れている一人を見つけた。
「……っ! 翔!」
 駆け寄り肩を揺らすも反応がなく、やたら制服がボロボロで赤いシミに染まっていて、腕までもが赤く爛れていた。
 まさか、翔までも爆発に巻き込まれたのか!
 血の気が引いていく感覚に体の力が抜けていくと、翔の体の下より細い手の先が見えた。
「うわあああああああっ!」
 飛び散った肉片だと察した俺は、腰が抜けてしまって尻もちを付いてしまう。
「りんー!!」
 頭を抱えた俺の体は、ガタガタと震え出す。
 もう、嫌だ! もう、もう!
「……慎吾」
 翔の体下にあった手はパタパタと動き始めて身を怯ませるが、「力を貸して」の声でようやく、我に返る。
 恐る恐る近付くと、翔の下には凛がいて身動きが取れないようだった。
「凛! 無事だったのか!」
「……翔も。早く治療しないといけないけど、動けなくて……」
 落ち着いて翔の体に触れると、脈は触れ、息もしっかりしている。
 これがいわゆる、気絶している状態というものなのだろうか?
 ようやく状況が見えてきた俺は凛と協力して翔の体を動かそうとするが、体格が良いからかびくともせず、気を失った人間は予想外に重くて二人の力では全く動かなかった。
「……私も」
 小春が駆け寄り手伝ってくれるが、どうにも力が入らないようで、廊下にいる男子に声をかけようとした時。
「こ、はる……」
 声がする方に目を向けるとそれは翔の声で、意識が戻ったのかと思ったが呼びかけに反応はなかった。
「こはる。こはる……」
「……え?」
 繰り返されるうわ言に、俺達三人は何とも言えない空気となってしまう。
 凛、じゃないのか?
 翔の知りたくなかった一面に唖然としてしまうと、その声は止み、翔は静かに目を開けた。
「ってぇ……。あ、ごめん!」
 翔は何とか体を動かして、下敷きにしていた凛に抜けてもらう。
 翔は顔を歪めて「痛ってぇ」と声を漏らし、息は速くなっていた。
 無傷な凛に対して翔の体は明らかに火傷を負っているようで、どうやら凛を庇う為に身を挺したようだった。
『あららら? 他人を気遣える彼女に、それを命懸けで守る彼氏。美しい愛ですねー? ……それに比べて、この強欲に塗れた二人ときたら。どうやらビジネスカップルだったようです』
 冷酷な笑い声がスマホから響く中、翔と凛はその悲惨な光景を目の当たりにしていた。
 声を上げるわけでも、身を引くわけでもなく、ただ傍観しているだけだった。
「うわああああああ! いやだぁ! し、し、死にたくないよぉー!」
 廊下より響いた声は一段と大きく、次はバタバタバタバタと音を立てていく。
「はぁ! ちょっと圭祐ぇ! あんた、何考えてんの!」
 内藤さんの声がするも、反響した足音はどんどん小さくなっていった。
「ちょ、ちょっと! 外に出たらダメー!」
 小田くんを追いかけようとする凛は、バランスを崩して転けてしまう。
 翔が凛の手を強く掴んでおり、行ってはならないという意思だった。
「お、俺が行くから!」
 気付けばそう声に出し、消えてしまった足音を追いかけていた。