ep130 宴

ー/ー



  【5】 


「ったくねーちゃんたちよぉ! やるじゃねえか!」
「まったくいい度胸してやがる!」
「とんだ悪女だぜ!」

 あの大乱闘の後、なぜか俺たちは昼間っから街のギャングどもと酒場でどんちゃんやっていた。どういうわけかあの大喧嘩がきっかけで、俺たちはヘッドフィールドの連中に認められたらしい。昔読んだヤンキー漫画でよくあったような、殴り合って友情が芽生える的なやつか?

「いや〜あんたのツレのねーちゃんたちはとんでもねえな!」

 ギャングの一人がフロアの端の席に座る俺にむかって快活に言った。

「そいつはどうも」

 返事をしながらも俺は今ひとつ腑に落ちていなかった。俺は昨日、コイツらの前でボスの名前を出して大見得切って喧嘩を売った。その時はさっきの乱闘とは違い、ピーンと張りつめた殺伐とした空気だった。またそれだけじゃない。

「なあ、俺は魔剣使いでカレンは国際平和維持軍の隊長だぞ? 酒をくみ交わしていいもんなのか?」

「ああ? んなこまっけーことはおれは知らねえよ! とりあえずさっきのケンカは久しぶりにオモシロかったからなぁ! まあでも、ボスか姉御が命令すりゃあ、おれたちゃオメーらといつでも殺し合うぜ」

 なんだその回答は? コイツらの物事の判断基準が今ひとつ理解できない。懐が深いというかテキトーというか自由というかいい加減というか。
(これもジェイズキングという男によるものなのだろうか……)
 俺は〔狂戦士〕の異名を持つヘッドフィールドのボスに、ますます強い興味を抱いた。

「おっ、今日の主役の悪女ちゃんたちがこっちへ来たぜ」

 男がそう言った時、ふたりの美女がこちらへやって来た。

「クロー、そこにいたの」
「まったくなんなんだこの宴は? わけがわからないぞ?」

 エレサの顔は酒でほんのり紅くなっていたが、いつもと変わらない様子だ。カレンは何だかうんざりと困惑が入り混じっているようにうかがえる。
 
「おい女隊長。なんでわたしについてくる」
「別に貴様についてきてなどいない! あと私はカレンだ! このダークエルフめ!」

 また始まったぞ、このふたり。エレサとカレンの場合は、ケンカして友情が芽生えることはないようだ。俺としては仲良くならないまでも、せめていがみ合わない程度にはなって欲しいものだが。

「クローはなんでわたしから離れるの? わたしはクローと一緒に飲みたいのに」

 酒のせいなのか、エレサは猫のような甘え声で言う。

「おいクロー。私はもう少しお前と話し合っておきたいんだ」

 カレンは相変わらずお堅くマジメだ。それでも酒は飲んでいるようだが……というより、この人は酔ってもマジメなのかもしれない。

「女隊長はあっち行ってろ。クローはわたしとしっぽり飲むの」

 だからエレサさん。その言い方やめて。

「貴様に命令される筋合いはない! ダークエルフこそあっちへ行け!」

 ほらやっぱりこうなる。もう勘弁してくれ。

「女隊長はクローを狙っているのか?」

 エレサが言った。……え?

「当たり前だ!」

 即答するカレン。……え??

「ほ、本当なのか!? 女隊長!?」

「本当に決まっているだろ! ダークエルフ!」

「な、なるほど……そういうことなら仕方ない。オマエも女だしな。うん。わたしのライバルとして認めるわ、カレン」

 何に納得したのかわからないが、エレサはカレンに手を差し出した。
 これにはカレンも思わず「!」と面食らったようで、黙して佇んでしまう。しかしお堅くてマジメな彼女は、ここは誠意をもって応じるべきだと判断したのであろうか。それとも酒のせいなのか。

「よくわからないが……やっと私の名前を呼んだな。わかった。私もエレサと呼ばせてもらおう」

 カレンも手を差し返し、ふたりはぐっと握手を交わした。ここに謎の和解が成立する。
 俺にはどうもふたりの間になにか大きな認識の相違があるように思えるのだが……。

「これで正式に、わたしとカレンはライバル同士」

 エレサがニヤリとした。

「ああ……ん? そのライバルとは、一体どういう意味なんだ?」

 はて、とカレンが疑問を口にする。エレサは真顔になる。

「今さらなにを言っている。クローをめぐるライバルに決まっている」

 俺を巡るライバル? なんだそれは? 俺にもわからないのだが。

「クローをめぐるライバル?」
 カレンも俺同様に小首を傾げる。
「エレサはもうクローを倒そうとしたり捕らえようとしたりすることはないだろう?」

 カレンの言うとおりだ。エレサはなにを言っているんだ?

「カレンは意外と恥ずかしがり屋さんなんだな」

 エレサはクスッと笑った。

「なっ、なんだいきなり?」

 意表を突かれて動揺するカレン。

「でも、そのぶんカレンの気持ちもよくわかった」

「なにをわかったのだ??」

「クローに対するキモチ」

「……はっ??」

「カレンはわたしの恋のライバルってこと」

 エレサは悪戯っぽく微笑んだ。
 ん? 恋のライバル? 俺をめぐるライバル……えっ!?

「なにを言ってるんだ!?」

 俺とカレンの声が見事にユニゾンした。反射的に二人はパッと顔を見合わす。
 次の瞬間、「んあああぁぁ!」とカレンは何とも言いがたい表情で叫びながら俺のことをドンと突き飛ばした。

「うっ」

 俺は壁にズダンと吹っ飛んだ。
 まわりにいるギャングのヤローどもの冷やかし混じりの笑い声がどっと上がる。
 
「ハッハッハァ! 魔剣使いとやらはとんだスケコマシみてえだな! モテる男はツレーってか? ギャッハッハァ!」

 「クロー! だいじょうぶ?」

 エレサが俺の胸にガバッと飛び込んできた。

「いてっ」

 その勢いでさらにゴンと壁に頭をぶつけた。まったくもって踏んだり蹴ったりだ。

「ギャッハッハ! 魔剣使いもじゃじゃ馬にはかなわねえってか!」

 ギャングどもはまたも大ウケする。いやいやコントじゃないんだからな。勘弁してくれよまったく。

「ねえクロー? だいじょうぶ?」とエレサ。
「なぜ私が!? なぜ私が!?」とカレン。
「ギャッハッハァ!!」とギャラリー。

 酒場は、酒と料理と乱暴な笑い声に包まれる。
 その後も宴は大いに盛り上がった。


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  【5】 
「ったくねーちゃんたちよぉ! やるじゃねえか!」
「まったくいい度胸してやがる!」
「とんだ悪女だぜ!」
 あの大乱闘の後、なぜか俺たちは昼間っから街のギャングどもと酒場でどんちゃんやっていた。どういうわけかあの大喧嘩がきっかけで、俺たちはヘッドフィールドの連中に認められたらしい。昔読んだヤンキー漫画でよくあったような、殴り合って友情が芽生える的なやつか?
「いや〜あんたのツレのねーちゃんたちはとんでもねえな!」
 ギャングの一人がフロアの端の席に座る俺にむかって快活に言った。
「そいつはどうも」
 返事をしながらも俺は今ひとつ腑に落ちていなかった。俺は昨日、コイツらの前でボスの名前を出して大見得切って喧嘩を売った。その時はさっきの乱闘とは違い、ピーンと張りつめた殺伐とした空気だった。またそれだけじゃない。
「なあ、俺は魔剣使いでカレンは国際平和維持軍の隊長だぞ? 酒をくみ交わしていいもんなのか?」
「ああ? んなこまっけーことはおれは知らねえよ! とりあえずさっきのケンカは久しぶりにオモシロかったからなぁ! まあでも、ボスか姉御が命令すりゃあ、おれたちゃオメーらといつでも殺し合うぜ」
 なんだその回答は? コイツらの物事の判断基準が今ひとつ理解できない。懐が深いというかテキトーというか自由というかいい加減というか。
(これもジェイズキングという男によるものなのだろうか……)
 俺は〔狂戦士〕の異名を持つヘッドフィールドのボスに、ますます強い興味を抱いた。
「おっ、今日の主役の悪女ちゃんたちがこっちへ来たぜ」
 男がそう言った時、ふたりの美女がこちらへやって来た。
「クロー、そこにいたの」
「まったくなんなんだこの宴は? わけがわからないぞ?」
 エレサの顔は酒でほんのり紅くなっていたが、いつもと変わらない様子だ。カレンは何だかうんざりと困惑が入り混じっているようにうかがえる。
「おい女隊長。なんでわたしについてくる」
「別に貴様についてきてなどいない! あと私はカレンだ! このダークエルフめ!」
 また始まったぞ、このふたり。エレサとカレンの場合は、ケンカして友情が芽生えることはないようだ。俺としては仲良くならないまでも、せめていがみ合わない程度にはなって欲しいものだが。
「クローはなんでわたしから離れるの? わたしはクローと一緒に飲みたいのに」
 酒のせいなのか、エレサは猫のような甘え声で言う。
「おいクロー。私はもう少しお前と話し合っておきたいんだ」
 カレンは相変わらずお堅くマジメだ。それでも酒は飲んでいるようだが……というより、この人は酔ってもマジメなのかもしれない。
「女隊長はあっち行ってろ。クローはわたしとしっぽり飲むの」
 だからエレサさん。その言い方やめて。
「貴様に命令される筋合いはない! ダークエルフこそあっちへ行け!」
 ほらやっぱりこうなる。もう勘弁してくれ。
「女隊長はクローを狙っているのか?」
 エレサが言った。……え?
「当たり前だ!」
 即答するカレン。……え??
「ほ、本当なのか!? 女隊長!?」
「本当に決まっているだろ! ダークエルフ!」
「な、なるほど……そういうことなら仕方ない。オマエも女だしな。うん。わたしのライバルとして認めるわ、カレン」
 何に納得したのかわからないが、エレサはカレンに手を差し出した。
 これにはカレンも思わず「!」と面食らったようで、黙して佇んでしまう。しかしお堅くてマジメな彼女は、ここは誠意をもって応じるべきだと判断したのであろうか。それとも酒のせいなのか。
「よくわからないが……やっと私の名前を呼んだな。わかった。私もエレサと呼ばせてもらおう」
 カレンも手を差し返し、ふたりはぐっと握手を交わした。ここに謎の和解が成立する。
 俺にはどうもふたりの間になにか大きな認識の相違があるように思えるのだが……。
「これで正式に、わたしとカレンはライバル同士」
 エレサがニヤリとした。
「ああ……ん? そのライバルとは、一体どういう意味なんだ?」
 はて、とカレンが疑問を口にする。エレサは真顔になる。
「今さらなにを言っている。クローをめぐるライバルに決まっている」
 俺を巡るライバル? なんだそれは? 俺にもわからないのだが。
「クローをめぐるライバル?」
 カレンも俺同様に小首を傾げる。
「エレサはもうクローを倒そうとしたり捕らえようとしたりすることはないだろう?」
 カレンの言うとおりだ。エレサはなにを言っているんだ?
「カレンは意外と恥ずかしがり屋さんなんだな」
 エレサはクスッと笑った。
「なっ、なんだいきなり?」
 意表を突かれて動揺するカレン。
「でも、そのぶんカレンの気持ちもよくわかった」
「なにをわかったのだ??」
「クローに対するキモチ」
「……はっ??」
「カレンはわたしの恋のライバルってこと」
 エレサは悪戯っぽく微笑んだ。
 ん? 恋のライバル? 俺をめぐるライバル……えっ!?
「なにを言ってるんだ!?」
 俺とカレンの声が見事にユニゾンした。反射的に二人はパッと顔を見合わす。
 次の瞬間、「んあああぁぁ!」とカレンは何とも言いがたい表情で叫びながら俺のことをドンと突き飛ばした。
「うっ」
 俺は壁にズダンと吹っ飛んだ。
 まわりにいるギャングのヤローどもの冷やかし混じりの笑い声がどっと上がる。
「ハッハッハァ! 魔剣使いとやらはとんだスケコマシみてえだな! モテる男はツレーってか? ギャッハッハァ!」
 「クロー! だいじょうぶ?」
 エレサが俺の胸にガバッと飛び込んできた。
「いてっ」
 その勢いでさらにゴンと壁に頭をぶつけた。まったくもって踏んだり蹴ったりだ。
「ギャッハッハ! 魔剣使いもじゃじゃ馬にはかなわねえってか!」
 ギャングどもはまたも大ウケする。いやいやコントじゃないんだからな。勘弁してくれよまったく。
「ねえクロー? だいじょうぶ?」とエレサ。
「なぜ私が!? なぜ私が!?」とカレン。
「ギャッハッハァ!!」とギャラリー。
 酒場は、酒と料理と乱暴な笑い声に包まれる。
 その後も宴は大いに盛り上がった。