ep129 探り合い

ー/ー



「おい魔剣使い」

 唐突に背後から誰かが呼びかけてきた。また女の声だ。今度は誰だと思ったが、すぐにわかった。

「あんたか」

 振り向くとアイが立っていた。

「なんなんだ朝からこの騒ぎは」

「なんなんだろうな」

 俺はしらじらしく返した。一部始終を見ていたことは黙っておきたい。
 
「ん? 集団の中、というよりド真ん中にダークエルフとカレンがいないか?」

 ですよね。やっぱ気づきますよね。

「あの二人が乱闘の中心になっていないか?」

 でしょうね。あの二人から始まりましたからね、コレ。

「で……お前はここで何をしているんだ? ただの野次馬でもないだろう」

 アイは怪訝に満ち満ちた顔をしている。

「俺は二人の様子を見守っているだけだ」と、答えておいた。

「朝から街をブラついて何をしていた?」

 アイの鋭い視線が俺に貼りついて離れない。まるで職務質問してくる警察官のような目だ。どうやら乱闘が始まる前から俺が街を歩いていたことを知っているようだ。もはや誤魔化しても無意味どころかマイナスにしかならないと思われる。

「街の構造、全体像を知っておくためだ。何かあった時のためにな。いつもやっていることだ」

 正直に答えた。これは奏功した。アイは納得したようだ。

「なるほどな。魔剣使いとは中々慎重な男なのだな」

「とがめないのか? あんたらのナワバリなのに」

「それで咎めるぐらいならそもそも簡単に街へ入れないだろう。ここはお前が思っているより自由な街だ」

 アイと会話を交わしながら、にわかに俺は少し相手を探ってみようという気が湧いてくる。

「あんたらは……〔フリーダム〕とはどういう関係なんだ?」

 大体の予想はついている。しかし、これはやはりちゃんと確認しておかねばならない。

「そうか、そうだな」
 アイは顎に手を当て、そういえばという顔をする。
「よくよく考えたらカレンもまだ知らないのだな。説明が遅れたが、我々のボス、ジェイズキングは〔フリーダム〕の幹部だ」

「そうか、やはりな……」

「とはいっても、ヘッドフィールドごと〔フリーダム〕の傘下に入ったわけでもないがな」

「あんたらにはあんたらの事情がある、シヒロの拉致もその事情のひとつ、違うか?」

 俺は自分の推測を、いささか抽象的ではあるが真っ直ぐにぶつけてみた。変に探り合いをするよりもそれがいいと思ったからだ。

「銀髪の魔剣使いクロー。昨日は考えなしに行動する奴かと思えば、今は実に思慮深い。まったく不思議な男だ」

 アイの目に、やや感心の色が浮かんだように見えた。よくわからないが、多少の好感を与えたのだろうか。

「それはどうも」

「お前の推察を否定しないとだけ言っておこう」

 アイの発言と様子を観察するに、俺の推測は間違ってはいないと見て良さそうだ。であれば、致命的な判断ミスは避けられる。
 俺はこの会話に、僅かばかりではあるが小さな手応えを感じた。

「よし……」俺がほとんど聞こえないぐらいにつぶやくと、今度はアイがここからはあたしの番だとでも言いたげに水を向けてくる。

「ではあたしからももうひとつ訊く」

「なんだ?」

「なぜカレンと行動を共にしている? 魔剣使いは国際平和維持軍に追われていると聞いていたが」

「俺とカレンは、サンダースでキラース相手に共闘した。といっても彼女と俺が仲間同士になったというわけではない。俺は俺の目的のために、カレンはカレンの目的のために、つまりお互い利害が一致して行動を共にしているだけだ」

「お前たちにもお前たちの事情がある、ということだな」

「そういうことだ」

 俺の回答を受けて、アイはやや考えこむような素振りを見せる。俺は視線を騒々しい乱闘のほうへ戻すと、今更にも思えることを言ってみた。

「あんたは、あの乱闘を止めないのか?」

「お前こそ仲間がいるだろう? 助けに行かないのか?」

「魔剣使いの俺があの中に入っていくと事態がややこしくなりかねない気がしてね。それに、派手ではあるがあれは喧嘩だ。殺し合っているわけじゃない。もちろん、あいつらが危険だと判断すればいつでも飛び込めるようここで見張っている。まあその心配もなさそうだけど。あいつらはめちゃくちゃ強いからな」

「本当に昨日とは別人のようだな。魔剣使い」

「状況が変われば対応も変わる。何かを知っているのと知っていないのとでは判断も行動も変わる。それだけだ」

 俺の説明を聞くと、アイはいったん視線を落としてから、口元にフッと微かな笑みを浮かべた。

「事情抜きに…ボスにお前を会わせてやりたくなったよ」

 彼女はそう言い残して、俺の元からシュッと風のように離れていった。


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「おい魔剣使い」
 唐突に背後から誰かが呼びかけてきた。また女の声だ。今度は誰だと思ったが、すぐにわかった。
「あんたか」
 振り向くとアイが立っていた。
「なんなんだ朝からこの騒ぎは」
「なんなんだろうな」
 俺はしらじらしく返した。一部始終を見ていたことは黙っておきたい。
「ん? 集団の中、というよりド真ん中にダークエルフとカレンがいないか?」
 ですよね。やっぱ気づきますよね。
「あの二人が乱闘の中心になっていないか?」
 でしょうね。あの二人から始まりましたからね、コレ。
「で……お前はここで何をしているんだ? ただの野次馬でもないだろう」
 アイは怪訝に満ち満ちた顔をしている。
「俺は二人の様子を見守っているだけだ」と、答えておいた。
「朝から街をブラついて何をしていた?」
 アイの鋭い視線が俺に貼りついて離れない。まるで職務質問してくる警察官のような目だ。どうやら乱闘が始まる前から俺が街を歩いていたことを知っているようだ。もはや誤魔化しても無意味どころかマイナスにしかならないと思われる。
「街の構造、全体像を知っておくためだ。何かあった時のためにな。いつもやっていることだ」
 正直に答えた。これは奏功した。アイは納得したようだ。
「なるほどな。魔剣使いとは中々慎重な男なのだな」
「とがめないのか? あんたらのナワバリなのに」
「それで咎めるぐらいならそもそも簡単に街へ入れないだろう。ここはお前が思っているより自由な街だ」
 アイと会話を交わしながら、にわかに俺は少し相手を探ってみようという気が湧いてくる。
「あんたらは……〔フリーダム〕とはどういう関係なんだ?」
 大体の予想はついている。しかし、これはやはりちゃんと確認しておかねばならない。
「そうか、そうだな」
 アイは顎に手を当て、そういえばという顔をする。
「よくよく考えたらカレンもまだ知らないのだな。説明が遅れたが、我々のボス、ジェイズキングは〔フリーダム〕の幹部だ」
「そうか、やはりな……」
「とはいっても、ヘッドフィールドごと〔フリーダム〕の傘下に入ったわけでもないがな」
「あんたらにはあんたらの事情がある、シヒロの拉致もその事情のひとつ、違うか?」
 俺は自分の推測を、いささか抽象的ではあるが真っ直ぐにぶつけてみた。変に探り合いをするよりもそれがいいと思ったからだ。
「銀髪の魔剣使いクロー。昨日は考えなしに行動する奴かと思えば、今は実に思慮深い。まったく不思議な男だ」
 アイの目に、やや感心の色が浮かんだように見えた。よくわからないが、多少の好感を与えたのだろうか。
「それはどうも」
「お前の推察を否定しないとだけ言っておこう」
 アイの発言と様子を観察するに、俺の推測は間違ってはいないと見て良さそうだ。であれば、致命的な判断ミスは避けられる。
 俺はこの会話に、僅かばかりではあるが小さな手応えを感じた。
「よし……」俺がほとんど聞こえないぐらいにつぶやくと、今度はアイがここからはあたしの番だとでも言いたげに水を向けてくる。
「ではあたしからももうひとつ訊く」
「なんだ?」
「なぜカレンと行動を共にしている? 魔剣使いは国際平和維持軍に追われていると聞いていたが」
「俺とカレンは、サンダースでキラース相手に共闘した。といっても彼女と俺が仲間同士になったというわけではない。俺は俺の目的のために、カレンはカレンの目的のために、つまりお互い利害が一致して行動を共にしているだけだ」
「お前たちにもお前たちの事情がある、ということだな」
「そういうことだ」
 俺の回答を受けて、アイはやや考えこむような素振りを見せる。俺は視線を騒々しい乱闘のほうへ戻すと、今更にも思えることを言ってみた。
「あんたは、あの乱闘を止めないのか?」
「お前こそ仲間がいるだろう? 助けに行かないのか?」
「魔剣使いの俺があの中に入っていくと事態がややこしくなりかねない気がしてね。それに、派手ではあるがあれは喧嘩だ。殺し合っているわけじゃない。もちろん、あいつらが危険だと判断すればいつでも飛び込めるようここで見張っている。まあその心配もなさそうだけど。あいつらはめちゃくちゃ強いからな」
「本当に昨日とは別人のようだな。魔剣使い」
「状況が変われば対応も変わる。何かを知っているのと知っていないのとでは判断も行動も変わる。それだけだ」
 俺の説明を聞くと、アイはいったん視線を落としてから、口元にフッと微かな笑みを浮かべた。
「事情抜きに…ボスにお前を会わせてやりたくなったよ」
 彼女はそう言い残して、俺の元からシュッと風のように離れていった。