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【2】

ー/ー



 喉がカラカラだ、と無意識に飲み物を求めて冷蔵庫を開けた俺は固まった。
 中に詰め込まれたラップを掛けた皿は、──ローストビーフにサラダ、あとは何だろう。この箱はケーキ?
 反射的に目をやったコンロの上の鍋も……?

「もうすぐ付き合って一年だね〜。『五月二日』って半端だけど、ゴールデンウィーク( G  W )真っ只中だし祝日の前日で絶対忘れなくていいよね。今年は平日で仕事だけどさ。ねえ、二人でお祝いしようよ」
 不意に脳裏に蘇る、恋人の声。

「いいよ。じゃあ、どっか予約しとくか。行きたい店ある?」
 そういえば同僚が「記念日だからフレンチ行ったんだよ。まあそんな高い店じゃないけどな」とか言ってたな、と当然のように答える。
 こういうのは「恋人同士」の義務だろ。それくらい俺だって承知してるさ。

「は? あたしが家でご馳走作るよ。料理好きだしそこそこ得意なんだ。知ってるでしょ。宗の食べたいもの作るからリクエストして〜」
 笑いながら口にする葉菜子に、正直驚いた。

「うーん、だったらローストビーフかな。前作ってくれたやつすげえ美味かった。外で食うのよりずっと!」
「ええ〜、そんなもんでいいの? すごい簡単なんだけど! じゃあ、あと適当になんか作るわ」
 屈託ない、可愛らしい笑顔。

「葉菜子──」
 冷蔵庫の扉を閉めると同時に振り向く。
 ああ、そうだよ。お前がそういう子だから好きになって、付き合ったんだ。
 あのとき、確かに思い出したのに。「思い出した」のは忘れてたからだ、ってのも。
 あれは先月初めだった。
 絶対忘れない、覚えやすいはずの「記念日」なのに。
 俺はまた、忘れてたんだ。……自分のことだけだったのはどっちだよ。

「そうだ、朝になったら植物園、──バラ園へ行こうか。お前、行きたがってたもんな」
 優しく葉菜子に語り掛け、その背を撫でる。
 もっと早く、なんでもっと早く……!


    ◇  ◇  ◇
「ほら、葉菜子。ホントにすげえキレイだよな。──こうやってその気になればいつでも来られるのに、なんですぐ連れて来てやらなかったんだろ」
 夜明けを待ち、開園時間に合わせてやって来た植物園。
 その一画に新しく作られたらしいバラ園で、俺はポケットからスマホを取り出す。
 後悔したって遅いんだ。あとからするから後悔なんだ。わかってるさ、それくらい。

 腕を組んだカップル、さり気なく寄り添ってる老夫婦、一人で来てるらしい男、女。皆一様に穏やかな表情で、咲き誇るバラを眺めて笑い合ったり写真を撮ったり。
 ああ、いいな。こういう世界も、いいよなあ。
 噎せ返るようなバラの香りに、俺の中に溜まった黒い何かが浄化されてくみたいだ。
 葉菜子。俺にこれを見せて、味わわせたかったのか? 疲れてイライラしてる俺のために、普通に誘ったんじゃ無理だってお前は知ってたから強引に「連れてけ」って迫ったのか。
 いくらなんでも考えすぎかな?
 けど俺、葉菜子がバラが好きなんて今まで聞いたことなかった。
 だから、もしかしたら。いや、きっと……?



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 喉がカラカラだ、と無意識に飲み物を求めて冷蔵庫を開けた俺は固まった。
 中に詰め込まれたラップを掛けた皿は、──ローストビーフにサラダ、あとは何だろう。この箱はケーキ?
 反射的に目をやったコンロの上の鍋も……?
「もうすぐ付き合って一年だね〜。『五月二日』って半端だけど、|ゴールデンウィーク《 G  W 》真っ只中だし祝日の前日で絶対忘れなくていいよね。今年は平日で仕事だけどさ。ねえ、二人でお祝いしようよ」
 不意に脳裏に蘇る、恋人の声。
「いいよ。じゃあ、どっか予約しとくか。行きたい店ある?」
 そういえば同僚が「記念日だからフレンチ行ったんだよ。まあそんな高い店じゃないけどな」とか言ってたな、と当然のように答える。
 こういうのは「恋人同士」の義務だろ。それくらい俺だって承知してるさ。
「は? あたしが家でご馳走作るよ。料理好きだしそこそこ得意なんだ。知ってるでしょ。宗の食べたいもの作るからリクエストして〜」
 笑いながら口にする葉菜子に、正直驚いた。
「うーん、だったらローストビーフかな。前作ってくれたやつすげえ美味かった。外で食うのよりずっと!」
「ええ〜、そんなもんでいいの? すごい簡単なんだけど! じゃあ、あと適当になんか作るわ」
 屈託ない、可愛らしい笑顔。
「葉菜子──」
 冷蔵庫の扉を閉めると同時に振り向く。
 ああ、そうだよ。お前がそういう子だから好きになって、付き合ったんだ。
 あのとき、確かに思い出したのに。「思い出した」のは忘れてたからだ、ってのも。
 あれは先月初めだった。
 絶対忘れない、覚えやすいはずの「記念日」なのに。
 俺はまた、忘れてたんだ。……自分のことだけだったのはどっちだよ。
「そうだ、朝になったら植物園、──バラ園へ行こうか。お前、行きたがってたもんな」
 優しく葉菜子に語り掛け、その背を撫でる。
 もっと早く、なんでもっと早く……!
    ◇  ◇  ◇
「ほら、葉菜子。ホントにすげえキレイだよな。──こうやってその気になればいつでも来られるのに、なんですぐ連れて来てやらなかったんだろ」
 夜明けを待ち、開園時間に合わせてやって来た植物園。
 その一画に新しく作られたらしいバラ園で、俺はポケットからスマホを取り出す。
 後悔したって遅いんだ。あとからするから後悔なんだ。わかってるさ、それくらい。
 腕を組んだカップル、さり気なく寄り添ってる老夫婦、一人で来てるらしい男、女。皆一様に穏やかな表情で、咲き誇るバラを眺めて笑い合ったり写真を撮ったり。
 ああ、いいな。こういう世界も、いいよなあ。
 噎せ返るようなバラの香りに、俺の中に溜まった黒い何かが浄化されてくみたいだ。
 葉菜子。俺にこれを見せて、味わわせたかったのか? 疲れてイライラしてる俺のために、普通に誘ったんじゃ無理だってお前は知ってたから強引に「連れてけ」って迫ったのか。
 いくらなんでも考えすぎかな?
 けど俺、葉菜子がバラが好きなんて今まで聞いたことなかった。
 だから、もしかしたら。いや、きっと……?