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【1】

ー/ー



「ねえ、(そう)。もうすぐ連休(GW)じゃん! あたし植物園行きたいんだ。リニューアルして薔薇園できたんだって! 連れてってよぉ」
「いや……、連休なんて混むだろ。また今度に──」
 面倒だな。
 気乗りしないままにはぐらかそうとした俺に、葉菜子(はなこ)は引かなかった。

「ええ〜、早くしないと終わっちゃうよ! 花なんて期間限定なのにぃ」
「だったらバラくらい買ってやるよ。抱えるようなでっかいのは無理でも花束をさ。な、それでいいだろ?」
 我儘な女。
 確かにモノをねだるようなことはしないけど、むしろその方が楽でいいよ。高すぎたら却下でいいんだし、多少の金で片付くならそうして欲しい。
 最近特に忙しくてそんな気にならない、ってのもあるけど、元々出掛けるの好きじゃないんだよなあ。
 今日は彼女の部屋だけど、こうして互いの部屋で過ごすのがお決まりになってた。

「花束もいいけどぉ。薔薇園の良さは全然違うんだって! お願い!」
「わかったよ。近いうちに」
「絶対よ、約束だからね! ほらあ、二日の夜はこの部屋(うち)来るでしょ? だから次の日行かない?」
「あー、そうだな……」
 頬をふくらませる恋人を適当に誤魔化すように口にする。

「じゃー、俺帰るわ」
 これから帰んのかったりぃな。もう俺の部屋で会うことにしようか。

「あ、宗!」
 バッグを掴んで立ち上がった俺に、葉菜子の声が掛かる。

「スマホ、ポッケに入れる癖やめなよ。また落とすよ」
 うるせえな。お前は俺の母ちゃんかよ。
 流石にパンツの後ろポケットにねじ込むことはしねえけど前にはよく、あと冬は上着のポケットに入れちまってた。楽なんだよ。
 ……それで落として大騒ぎしたのも事実だけどさ。

「はいはい。わかったよ」
 口先だけで答えて、俺は彼女の部屋をあとにした。


《宗、今日は遅くなるようなら連絡してね!》
 連休の合間の平日。
 昼休みに葉菜子からのメッセージを確認した途端、不満が湧き上がって来る。
 なんでそう勝手なんだよ。
 いやまあ、しばらく前から何度も「今夜は絶対空けといて」とは言われてたし、あいつの部屋に行くこともOKしたけどさ。

 仕事でのちょっとしたミスで、このところ残業続きだった。
 もちろん俺の責任なんだけど、だっていうならもう少し気を利かせろよ!
 傍から見たら、明るくてさっぱりしたいい子なのかもしれない。
 すごい美人とまでは行かなくても結構キレイな方だし。我儘ったってそこまで大したことないのも、本当はわかってる。
 だけど俺が大変なときくらい、こっちを思いやってくれたっていいだろ!

《わかった。いま仕事詰まってるから九時は過ぎると思う。》
 どうにか当たり障りのないメッセージを入力して、俺は溜息とともに送信ボタンを押した。

「いらっしゃい、宗。あのね──」
 とりあえず「約束」はしたから、と重い足で部屋を訪ねた俺を、葉菜子は満面の笑顔で迎えた。それさえ能天気で気に障る。
 正直、さっさと帰って寝たいんだよ。
 連休だって、正直言えば全部自分の休息に使いたい。
 俺は今大変なんだ。お前に愛想振りまく余裕なんかないんだってわかってくれてもいいだろ!

「いったいなんなんだ? 俺にも都合があるんだよ! 自分の要求ばっか押し付けんな!」
 苛立ちのままに吐き捨てた俺に、彼女は目を見開いた。

「え!? あ、あの……、どうしたの?」
 戸惑いを隠せない様子で、両手を差し伸べて来る、恋人。




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「ねえ、|宗《そう》。もうすぐ|連休《GW》じゃん! あたし植物園行きたいんだ。リニューアルして薔薇園できたんだって! 連れてってよぉ」
「いや……、連休なんて混むだろ。また今度に──」
 面倒だな。
 気乗りしないままにはぐらかそうとした俺に、|葉菜子《はなこ》は引かなかった。
「ええ〜、早くしないと終わっちゃうよ! 花なんて期間限定なのにぃ」
「だったらバラくらい買ってやるよ。抱えるようなでっかいのは無理でも花束をさ。な、それでいいだろ?」
 我儘な女。
 確かにモノをねだるようなことはしないけど、むしろその方が楽でいいよ。高すぎたら却下でいいんだし、多少の金で片付くならそうして欲しい。
 最近特に忙しくてそんな気にならない、ってのもあるけど、元々出掛けるの好きじゃないんだよなあ。
 今日は彼女の部屋だけど、こうして互いの部屋で過ごすのがお決まりになってた。
「花束もいいけどぉ。薔薇園の良さは全然違うんだって! お願い!」
「わかったよ。近いうちに」
「絶対よ、約束だからね! ほらあ、二日の夜は|この部屋《うち》来るでしょ? だから次の日行かない?」
「あー、そうだな……」
 頬をふくらませる恋人を適当に誤魔化すように口にする。
「じゃー、俺帰るわ」
 これから帰んのかったりぃな。もう俺の部屋で会うことにしようか。
「あ、宗!」
 バッグを掴んで立ち上がった俺に、葉菜子の声が掛かる。
「スマホ、ポッケに入れる癖やめなよ。また落とすよ」
 うるせえな。お前は俺の母ちゃんかよ。
 流石にパンツの後ろポケットにねじ込むことはしねえけど前にはよく、あと冬は上着のポケットに入れちまってた。楽なんだよ。
 ……それで落として大騒ぎしたのも事実だけどさ。
「はいはい。わかったよ」
 口先だけで答えて、俺は彼女の部屋をあとにした。
《宗、今日は遅くなるようなら連絡してね!》
 連休の合間の平日。
 昼休みに葉菜子からのメッセージを確認した途端、不満が湧き上がって来る。
 なんでそう勝手なんだよ。
 いやまあ、しばらく前から何度も「今夜は絶対空けといて」とは言われてたし、あいつの部屋に行くこともOKしたけどさ。
 仕事でのちょっとしたミスで、このところ残業続きだった。
 もちろん俺の責任なんだけど、《《恋人》》だっていうならもう少し気を利かせろよ!
 傍から見たら、明るくてさっぱりしたいい子なのかもしれない。
 すごい美人とまでは行かなくても結構キレイな方だし。我儘ったってそこまで大したことないのも、本当はわかってる。
 だけど俺が大変なときくらい、こっちを思いやってくれたっていいだろ!
《わかった。いま仕事詰まってるから九時は過ぎると思う。》
 どうにか当たり障りのないメッセージを入力して、俺は溜息とともに送信ボタンを押した。
「いらっしゃい、宗。あのね──」
 とりあえず「約束」はしたから、と重い足で部屋を訪ねた俺を、葉菜子は満面の笑顔で迎えた。それさえ能天気で気に障る。
 正直、さっさと帰って寝たいんだよ。
 連休だって、正直言えば全部自分の休息に使いたい。
 俺は今大変なんだ。お前に愛想振りまく余裕なんかないんだってわかってくれてもいいだろ!
「いったいなんなんだ? 俺にも都合があるんだよ! 自分の要求ばっか押し付けんな!」
 苛立ちのままに吐き捨てた俺に、彼女は目を見開いた。
「え!? あ、あの……、どうしたの?」
 戸惑いを隠せない様子で、両手を差し伸べて来る、恋人。