ep128 喧嘩

ー/ー



「ねえクロー? どうしてなにも答えてくれないの?」

 エレサは俺の手をさらに自らの胸へ、むにゅっと押しつけた。とその時。

「おい。朝っぱらから道端で何をやっているんだ」

 側面の方向から女性の声が俺たちへ届いた。即座に俺は最悪だと思った。この声の主は、確実にこの状況を悪く解釈するに決まっている。それでも振り向かないわけにもいかない。ああ、メンドクサイ。

「カレンか……」

「まさかあの魔剣使いがこんなスケコマシだとはな」

 カレンは軽蔑の眼差しで吐き捨てた。案の定のリアクションだ。

「違う、これは」

 サッと手を引っ込めた。が、エレサはおかまいなしに俺の胸へ飛び込むかのようにピッタリと身を寄せてくる。

「クロー。あんな女のことはどうでもいい。わたしを見て」

「あの、エレサ。とりあえず落ち着こうか」

「話をそらさないで!」

「いや、カレンも見てるし」

「あんなメスゴリラ隊長のことなんかどうでもいい。ねえクロー?」

「メスゴリラだと?」

 カレン隊長の片方の眉がピクッと上がった。明らかに危険な反応である。

「ねえクロー!」

「いや、エレサ。ちょっと待て」

「待たない!」

「そうじゃなくて……」

 そうこうしているうちに、カレンがぬらりと接近してきてしまう。

「おいダークエルフ」

 カレンはエレサの肩をぐっと引っ張った。

「なに? 今オマエは関係ないでしょ?」

 エレサは挑発的に座らせた眼をギロリと向けて、カレンの手を不快感たっぷりに払い除けた。

「……百歩譲って名前を呼ばないのはまだいい」
 カレンは、真面目な人がブチ切れる寸前の妙に静かな口調で言った。
「だが、メスゴリラはさすがに看過できないな」

 当然ながらダークエルフは怯まない。
 
「オマエがわたしの邪魔をするからだろ? メスゴリラ剣士」

「貴様……反省するどころか、どこまでも私を愚弄する気か」

「なんでわたしがオマエに対して反省しなきゃならないの? 意味がわからない」

「……わかった。なら嫌でも反省してもらうぞ。へらず口のダークエルフめ!」

 カレンはエレサをどんと突き飛ばすと、ついに剣を抜いてしまった。

「やれるものならやってみろ。メスゴリラ隊長」

 エレサは闇の魔力を練り始めた。
 
「え〜と、あの〜、ケンカは、やめたほうが……」

 俺の弱々しい仲裁の声など、荒ぶる女たちへ届くわけもなかった。まもなく二人の戦闘が開始する。

「ダークエルフ!」
「メスゴリラ剣士!」

 女二人が天下の往来で朝っぱらからぶつかり合いの大喧嘩。しかもここはギャングの街。否が応でも血気盛んな連中がわらわらと集まってくるのは自然の摂理。

「女同士のケンカ?」
「あれは……昨日のヤツらじゃねえか!」
「姉御の命令で手出しはしてねえが、おれらの縄張りでチョーシ乗ってんじゃねえぞコラァ!」

 やがてギャング連中も二人のケンカに雪崩れこんでいく。

「オラァァァ!」
「フザケてんじゃねえぞぉ!」
「ブッ殺せぇぇ!」

 怒号が飛び交い大乱闘が始まる。
 アイとの約束の手前、俺は集団から退いて参戦は控えた。付近の建物の屋根に上がり、遠目からエレサとカレンの様子だけを注意深く見守る。

「まったくあいつら。カレンはもう少し冷静かと思っていたけどな……」

 はぁーっとため息をつく。大事にならなければいいが。いやすでに大事なのか?


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む ep129 探り合い


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「ねえクロー? どうしてなにも答えてくれないの?」
 エレサは俺の手をさらに自らの胸へ、むにゅっと押しつけた。とその時。
「おい。朝っぱらから道端で何をやっているんだ」
 側面の方向から女性の声が俺たちへ届いた。即座に俺は最悪だと思った。この声の主は、確実にこの状況を悪く解釈するに決まっている。それでも振り向かないわけにもいかない。ああ、メンドクサイ。
「カレンか……」
「まさかあの魔剣使いがこんなスケコマシだとはな」
 カレンは軽蔑の眼差しで吐き捨てた。案の定のリアクションだ。
「違う、これは」
 サッと手を引っ込めた。が、エレサはおかまいなしに俺の胸へ飛び込むかのようにピッタリと身を寄せてくる。
「クロー。あんな女のことはどうでもいい。わたしを見て」
「あの、エレサ。とりあえず落ち着こうか」
「話をそらさないで!」
「いや、カレンも見てるし」
「あんなメスゴリラ隊長のことなんかどうでもいい。ねえクロー?」
「メスゴリラだと?」
 カレン隊長の片方の眉がピクッと上がった。明らかに危険な反応である。
「ねえクロー!」
「いや、エレサ。ちょっと待て」
「待たない!」
「そうじゃなくて……」
 そうこうしているうちに、カレンがぬらりと接近してきてしまう。
「おいダークエルフ」
 カレンはエレサの肩をぐっと引っ張った。
「なに? 今オマエは関係ないでしょ?」
 エレサは挑発的に座らせた眼をギロリと向けて、カレンの手を不快感たっぷりに払い除けた。
「……百歩譲って名前を呼ばないのはまだいい」
 カレンは、真面目な人がブチ切れる寸前の妙に静かな口調で言った。
「だが、メスゴリラはさすがに看過できないな」
 当然ながらダークエルフは怯まない。
「オマエがわたしの邪魔をするからだろ? メスゴリラ剣士」
「貴様……反省するどころか、どこまでも私を愚弄する気か」
「なんでわたしがオマエに対して反省しなきゃならないの? 意味がわからない」
「……わかった。なら嫌でも反省してもらうぞ。へらず口のダークエルフめ!」
 カレンはエレサをどんと突き飛ばすと、ついに剣を抜いてしまった。
「やれるものならやってみろ。メスゴリラ隊長」
 エレサは闇の魔力を練り始めた。
「え〜と、あの〜、ケンカは、やめたほうが……」
 俺の弱々しい仲裁の声など、荒ぶる女たちへ届くわけもなかった。まもなく二人の戦闘が開始する。
「ダークエルフ!」
「メスゴリラ剣士!」
 女二人が天下の往来で朝っぱらからぶつかり合いの大喧嘩。しかもここはギャングの街。否が応でも血気盛んな連中がわらわらと集まってくるのは自然の摂理。
「女同士のケンカ?」
「あれは……昨日のヤツらじゃねえか!」
「姉御の命令で手出しはしてねえが、おれらの縄張りでチョーシ乗ってんじゃねえぞコラァ!」
 やがてギャング連中も二人のケンカに雪崩れこんでいく。
「オラァァァ!」
「フザケてんじゃねえぞぉ!」
「ブッ殺せぇぇ!」
 怒号が飛び交い大乱闘が始まる。
 アイとの約束の手前、俺は集団から退いて参戦は控えた。付近の建物の屋根に上がり、遠目からエレサとカレンの様子だけを注意深く見守る。
「まったくあいつら。カレンはもう少し冷静かと思っていたけどな……」
 はぁーっとため息をつく。大事にならなければいいが。いやすでに大事なのか?