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10輪:か、皮が…

ー/ー




 ────え!?


 次の瞬間には、視界に真っ白な天井とピンクの医療用カーテンが映った。

美鎖子は状況がわからず、目だけをキョロキョロと動かして辺りを見渡した。


美鎖子(こっこここここってびょびょ病院…?て!点滴っ…)

 しかし点滴の袋の中身がほとんど入っていなかったので、病院のベッドで相当な時間気絶していたことに美鎖子は気づいた。

すると「開けますね」という小さな声とともにカーテンが開いた。


看護師「あ!目覚めましたか?気分はどうすか?」

 看護師は微笑みながら、優しく声をかけてくれた。


美鎖子「ぁ、あい」

 美鎖子は返事をしようとしたけれど、喉がカサカサで思い通りに声を出せなかったため情けない返事をした。


神楽(かぐら)釉氷(ゆうひ)「みーちゃん大丈夫?」

 すると看護師の奥から美鎖子の母が顔を覗かせた。

看護師の声で美鎖子が目を覚ましたことに気がついたようだった。


美鎖子「マ、ママ」

 美鎖子はか細い声を出しながら、起きあがろうと手足をバタつかせた。

しかし「落ち着いてください」と看護師さんに宥められてしまったので、冷凍マグロのようにピンと固まった。

看護師はそんな美鎖子の背中に腕をまわし、そっと起こしてくれた。


釉氷「みーちゃん倒れて、体育の荒川先生?が背負って病院まで連れてきてくれたのよ?」

 美鎖子は母の瞳をじっと見つめた。

その目は充血していて。


美鎖子「ママ、ママっ」

 美鎖子は母に“口元に涎の跡が付いていますよ”と指で合図を送った。

母は「あらやだ、恥ずかしい」と握っていたハンカチで口元をゴシゴシと拭き始めた。

看護師はそれを見て「ふふふ」と軽く笑って、点滴の針を抜くためワゴンを取りに行った。


 美鎖子は母を見ていると気が抜けて、大きなため息が出た。

けれど次の瞬間、視界がフェードアウトした時の記憶がフラッシュバックした。

こちらに近づいてくる、焦ったような表情をした稜太郎がぼんやりと。


美鎖子「え。マっママ。あの、私ってどっどうやって運ばれたの?」

釉氷「だから荒川先生が背負って」

 母はまだ口元をハンカチで拭っていた。

力強く拭き過ぎて肌が赤くなってきている。


美鎖子(あーあー違う違う、そうじゃなくて)

美鎖子「保健室には?」

 母はその質問に、何かを思い出したかのように目を大きくさせて反応した。

そして「あ!そうそうそうそう!」と段々と声を大きくして、
ハンカチを持った手で“ちょっと聞いてよ”と言わんばかりのジェスチャーをとった。


釉氷「みーちゃんのこと運んでくれた子、みーちゃんが頭打たないようにしてくれたみたいで」

 美鎖子は素早く息を吸い込んで、呼吸を止めた。


釉氷「ほらあのヤンキー?ツッパリ?みたいな子よ!あの子!
でね左手でこう、庇ってくれたみたいで」

 母はジェスチャーを交えながら説明した。

母の抱きしめるような仕草を見た美鎖子は、すぐに瞼を薄める。


釉氷「骨折はしてみたいなのよ。でもか、皮がベロンて」

美鎖子(・・・か、皮が、ベ、ベロンて?)

 母がハンカチをバナナの皮のように剥いたのを見て、美鎖子の身体が勝手にソワソワと動き始めた。


美鎖子「え、え?えっええと…大っ丈夫な、の?そっそれは…?」

釉氷「そうなのよ!すごくね、ママね、謝ったのよぉ」

美鎖子「うっうん!そりゃ!」

 美鎖子は大きな声で相槌を打った。


釉氷「でもね、その子のお姉さんたちが『この子がで安心したぁ』って。
『大丈夫ですよぉ』って、すごく笑ってたのよ」

美鎖子(『で安心した』?弟の怪我に大爆笑?)

 美鎖子は眉を顰めて“なぜ?”と考えたけれど、いくら考えても分からなかった。


釉氷「その子」

美鎖子「みっ三毛くんね」

釉氷「あらミケくんって言うの、可愛い名前ねぇ」

美鎖子「苗字ね」

釉氷「あっそうよね、そうね。そうそう、それでね。
そのミケくんが小学生の時?3階?か4階?から飛び降りたことがあったらしいんだけど、その時は無傷だったらしいのよぉ」

美鎖子(“小学生の時、3階か4階から飛び降りたことあったらしいんだけど、無傷だった”?)

 美鎖子は母親の言葉を心で復唱し、目を(しばたた)かせた。


美鎖子(みっ三毛くんの話なの?それともハリウッドスターの逸話?
というかなぜ三毛くんは4階から飛び降りてるの?)

看護師「失礼します、点滴の針抜いていきますね」

 美鎖子は頭にクエスチョンマークがたくさん浮かんだまま、看護師に点滴の針を抜いてもらった。


釉氷「それでね、ミケくんに何かお礼しないとってママ思ってぇ。
みーちゃん、何かミケくんの好きなものとか知ってる?」

 看護師が点滴の処理をしている後ろで、母は普通に会話を続けた。


 美鎖子は看護師が血の付いた針をテープで包むところを見ながら、稜太郎について考えた。

というより、自分を庇おうとする稜太郎の姿が頭の中で何度もリピート再生されて、母の質問に対する答えが全く浮かんでこなかった。


看護師「少々お待ちください」

 看護師がベッド脇から離れると、美鎖子は倒れる前に見た稜太郎の横顔をふと思い出した。

そして母の方を向き直すと、人差し指を立てながら答えた。


美鎖子「シュガーシガレット、で」





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 ────え!?
 次の瞬間には、視界に真っ白な天井とピンクの医療用カーテンが映った。
美鎖子は状況がわからず、目だけをキョロキョロと動かして辺りを見渡した。
美鎖子(こっこここここってびょびょ病院…?て!点滴っ…)
 しかし点滴の袋の中身がほとんど入っていなかったので、病院のベッドで相当な時間気絶していたことに美鎖子は気づいた。
すると「開けますね」という小さな声とともにカーテンが開いた。
看護師「あ!目覚めましたか?気分はどうすか?」
 看護師は微笑みながら、優しく声をかけてくれた。
美鎖子「ぁ、あい」
 美鎖子は返事をしようとしたけれど、喉がカサカサで思い通りに声を出せなかったため情けない返事をした。
|神楽《かぐら》|釉氷《ゆうひ》「みーちゃん大丈夫?」
 すると看護師の奥から美鎖子の母が顔を覗かせた。
看護師の声で美鎖子が目を覚ましたことに気がついたようだった。
美鎖子「マ、ママ」
 美鎖子はか細い声を出しながら、起きあがろうと手足をバタつかせた。
しかし「落ち着いてください」と看護師さんに宥められてしまったので、冷凍マグロのようにピンと固まった。
看護師はそんな美鎖子の背中に腕をまわし、そっと起こしてくれた。
釉氷「みーちゃん倒れて、体育の荒川先生?が背負って病院まで連れてきてくれたのよ?」
 美鎖子は母の瞳をじっと見つめた。
その目は充血していて。
美鎖子「ママ、ママっ」
 美鎖子は母に“口元に涎の跡が付いていますよ”と指で合図を送った。
母は「あらやだ、恥ずかしい」と握っていたハンカチで口元をゴシゴシと拭き始めた。
看護師はそれを見て「ふふふ」と軽く笑って、点滴の針を抜くためワゴンを取りに行った。
 美鎖子は母を見ていると気が抜けて、大きなため息が出た。
けれど次の瞬間、視界がフェードアウトした時の記憶がフラッシュバックした。
こちらに近づいてくる、焦ったような表情をした稜太郎がぼんやりと。
美鎖子「え。マっママ。あの、私ってどっどうやって運ばれたの?」
釉氷「だから荒川先生が背負って」
 母はまだ口元をハンカチで拭っていた。
力強く拭き過ぎて肌が赤くなってきている。
美鎖子(あーあー違う違う、そうじゃなくて)
美鎖子「保健室には?」
 母はその質問に、何かを思い出したかのように目を大きくさせて反応した。
そして「あ!そうそうそうそう!」と段々と声を大きくして、
ハンカチを持った手で“ちょっと聞いてよ”と言わんばかりのジェスチャーをとった。
釉氷「みーちゃんのこと運んでくれた子、みーちゃんが頭打たないようにしてくれたみたいで」
 美鎖子は素早く息を吸い込んで、呼吸を止めた。
釉氷「ほらあのヤンキー?ツッパリ?みたいな子よ!あの子!
でね左手でこう、庇ってくれたみたいで」
 母はジェスチャーを交えながら説明した。
母の抱きしめるような仕草を見た美鎖子は、すぐに瞼を薄める。
釉氷「骨折はしてみたいなのよ。でもか、皮がベロンて」
美鎖子(・・・か、皮が、ベ、ベロンて?)
 母がハンカチをバナナの皮のように剥いたのを見て、美鎖子の身体が勝手にソワソワと動き始めた。
美鎖子「え、え?えっええと…大っ丈夫な、の?そっそれは…?」
釉氷「そうなのよ!すごくね、ママね、謝ったのよぉ」
美鎖子「うっうん!そりゃ!」
 美鎖子は大きな声で相槌を打った。
釉氷「でもね、その子のお姉さんたちが『この子が《《ちゃんと血が出る子》》で安心したぁ』って。
『大丈夫ですよぉ』って、すごく笑ってたのよ」
美鎖子(『《《ちゃんと血が出る子》》で安心した』?弟の怪我に大爆笑?)
 美鎖子は眉を顰めて“なぜ?”と考えたけれど、いくら考えても分からなかった。
釉氷「その子」
美鎖子「みっ三毛くんね」
釉氷「あらミケくんって言うの、可愛い名前ねぇ」
美鎖子「苗字ね」
釉氷「あっそうよね、そうね。そうそう、それでね。
そのミケくんが小学生の時?3階?か4階?から飛び降りたことがあったらしいんだけど、その時は無傷だったらしいのよぉ」
美鎖子(“小学生の時、3階か4階から飛び降りたことあったらしいんだけど、無傷だった”?)
 美鎖子は母親の言葉を心で復唱し、目を|瞬《しばたた》かせた。
美鎖子(みっ三毛くんの話なの?それともハリウッドスターの逸話?
というかなぜ三毛くんは4階から飛び降りてるの?)
看護師「失礼します、点滴の針抜いていきますね」
 美鎖子は頭にクエスチョンマークがたくさん浮かんだまま、看護師に点滴の針を抜いてもらった。
釉氷「それでね、ミケくんに何かお礼しないとってママ思ってぇ。
みーちゃん、何かミケくんの好きなものとか知ってる?」
 看護師が点滴の処理をしている後ろで、母は普通に会話を続けた。
 美鎖子は看護師が血の付いた針をテープで包むところを見ながら、稜太郎について考えた。
というより、自分を庇おうとする稜太郎の姿が頭の中で何度もリピート再生されて、母の質問に対する答えが全く浮かんでこなかった。
看護師「少々お待ちください」
 看護師がベッド脇から離れると、美鎖子は倒れる前に見た稜太郎の横顔をふと思い出した。
そして母の方を向き直すと、人差し指を立てながら答えた。
美鎖子「シュガーシガレット、《《ワンカートン》》で」