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8輪:天は二物も三物も与える

ー/ー




 美鎖子(みさこ)の嫌な予感はすぐに的中した。

垂れ幕のスローガンに色を塗ったり、点数板の板を切り出したり、
出場選手の名簿を整理したり、応援用のポンポン作ったり…。

美鎖子は体育祭委員の仕事以外にも、各部活動の仕事にまで手を貸していた。


神楽(かぐら)美鎖子(みさこ)「ポンポンって割いた方が良いですかね?」

3年生「いや予行練習の前日に全部割くから、その段ボールにまとめて体育倉庫に置いておいて」

美鎖子「わかりました。他に何かすることありますか?」

2年生「あ!それからこれと…」


 ゴールデンウィークの後半から連日30度を超す気温が続いた。

美鎖子は暑さで頭が回らないのか、それとも仕事の多さで頭が回らないのか分からなくなっていた。

先輩に頼まれた仕事を書き殴ったタスク帳は、4月に新しく買ったばかりにも関わらず、汗で大きくうねっている。


3年生「ねえ!1年のあのサングラスの子!めちゃくちゃ足速いらしいよ!」

 多くの生徒たちが備品作りをしている体育館に、3年生が飛び込んで来た。


美鎖子(『1年のあのサングラスの子』って…たぶん三毛(みけ)くんだ。
もうすでに全校生徒の有名人(?)になってるんだ)

 すると2年生は「じゃっこれお願いね」と雑に美鎖子に仕事を押し付けて、体育館を飛び出して行った。

他の人たちも釣られて今までしていた作業を放置して、グラウンドが見える体育館通路の方へ出て行ってしまった。


 いつの間にか体育館にひとり取り残された美鎖子は、少しの間呆気にとられた。

けれどすぐに我に返ると、床に置きっぱなしにされたハサミなどを片づけ、それから備品の入った段ボールを持って体育館通路に出た。

体育館通路では多くの生徒たちが柵に手をかけ、グランドを眺めながら話をしている。


1年生「この間の体力測定の50m走、6秒だったらしいですよ!」

3年生「6秒?6秒台ってこと?」

1年生「いやたしか6秒(ゼロ)なんとかって」

2年生「えー?!余裕で全国優勝目指せるじゃん!えぇ陸部入らないかなぁ」


美鎖子(あぁ!三毛くんがAEDを取りに行った時、異様に早く帰ってきたのはそういうことだったんだ!
店員さんのことも置いてきてたし)

 稜太郎(りょうたろう)に関する話をもっと聞きたくなった美鎖子は、わざとゆっくり歩き出した。


1年生「1500mも3分台らしいっすよ!」

3年生「は?え?怖っ」

2年生「サッカー部入んねぇかなぁ!」

1年生「球技できないとか、泳げないとかで帳尻合わせてもらわないと困りますよ!」

3年生「あのなぁ?天は人に二物でも三物でも余裕で与えんだよ。
だから俺らにはが回ってこねぇんだよ。
でもこれが普通だ。覚えとけ、後輩たち」

1・2年生「まじそれっす」


美鎖子(有名人どころか、運動部の期待の星じゃない!)

 グラウンドを眺めていた人の「ほら!走るよ!」という声に美鎖子は立ち止まると、人々の隙間から稜太郎を探した。


 すると先生の「パンっ!」というピストルの真似をする声が聞こえた。

稜太郎のスタートの瞬間は生徒たちと重なって、見ることができなかった美鎖子。

しかし圧倒的な速さでゴールラインを駆け抜ける彼の姿は見ることができた。

そのダントツな速さに、歓声ではなく「速すぎっ!」という笑い声がどっと上がった。


美鎖子(凄過ぎると、人って笑うんだ)

 美鎖子は口角を緩ませて、スキップまでとはいかないが、身体を弾ませながら体育倉庫へと向かった。





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 |美鎖子《みさこ》の嫌な予感はすぐに的中した。
垂れ幕のスローガンに色を塗ったり、点数板の板を切り出したり、
出場選手の名簿を整理したり、応援用のポンポン作ったり…。
美鎖子は体育祭委員の仕事以外にも、各部活動の仕事にまで手を貸していた。
|神楽《かぐら》|美鎖子《みさこ》「ポンポンって割いた方が良いですかね?」
3年生「いや予行練習の前日に全部割くから、その段ボールにまとめて体育倉庫に置いておいて」
美鎖子「わかりました。他に何かすることありますか?」
2年生「あ!それからこれと…」
 ゴールデンウィークの後半から連日30度を超す気温が続いた。
美鎖子は暑さで頭が回らないのか、それとも仕事の多さで頭が回らないのか分からなくなっていた。
先輩に頼まれた仕事を書き殴ったタスク帳は、4月に新しく買ったばかりにも関わらず、汗で大きくうねっている。
3年生「ねえ!1年のあのサングラスの子!めちゃくちゃ足速いらしいよ!」
 多くの生徒たちが備品作りをしている体育館に、3年生が飛び込んで来た。
美鎖子(『1年のあのサングラスの子』って…たぶん|三毛《みけ》くんだ。
もうすでに全校生徒の有名人(?)になってるんだ)
 すると2年生は「じゃっこれお願いね」と雑に美鎖子に仕事を押し付けて、体育館を飛び出して行った。
他の人たちも釣られて今までしていた作業を放置して、グラウンドが見える体育館通路の方へ出て行ってしまった。
 いつの間にか体育館にひとり取り残された美鎖子は、少しの間呆気にとられた。
けれどすぐに我に返ると、床に置きっぱなしにされたハサミなどを片づけ、それから備品の入った段ボールを持って体育館通路に出た。
体育館通路では多くの生徒たちが柵に手をかけ、グランドを眺めながら話をしている。
1年生「この間の体力測定の50m走、6秒だったらしいですよ!」
3年生「6秒?6秒台ってこと?」
1年生「いやたしか6秒|0《ゼロ》なんとかって」
2年生「えー?!余裕で全国優勝目指せるじゃん!えぇ陸部入らないかなぁ」
美鎖子(あぁ!三毛くんがAEDを取りに行った時、異様に早く帰ってきたのはそういうことだったんだ!
店員さんのことも置いてきてたし)
 |稜太郎《りょうたろう》に関する話をもっと聞きたくなった美鎖子は、わざとゆっくり歩き出した。
1年生「1500mも3分台らしいっすよ!」
3年生「は?え?怖っ」
2年生「サッカー部入んねぇかなぁ!」
1年生「球技できないとか、泳げないとかで帳尻合わせてもらわないと困りますよ!」
3年生「あのなぁ?天は人に二物でも三物でも余裕で与えんだよ。
だから俺らには《《物》》が回ってこねぇんだよ。
でもこれが普通だ。覚えとけ、後輩たち」
1・2年生「まじそれっす」
美鎖子(有名人どころか、運動部の期待の星じゃない!)
 グラウンドを眺めていた人の「ほら!走るよ!」という声に美鎖子は立ち止まると、人々の隙間から稜太郎を探した。
 すると先生の「パンっ!」というピストルの真似をする声が聞こえた。
稜太郎のスタートの瞬間は生徒たちと重なって、見ることができなかった美鎖子。
しかし圧倒的な速さでゴールラインを駆け抜ける彼の姿は見ることができた。
そのダントツな速さに、歓声ではなく「速すぎっ!」という笑い声がどっと上がった。
美鎖子(凄過ぎると、人って笑うんだ)
 美鎖子は口角を緩ませて、スキップまでとはいかないが、身体を弾ませながら体育倉庫へと向かった。