私の中学には小さな画家がいた。物静かで、でも素直で真っ直ぐで。彼が微笑むたびに私の心は温かくなった。彼の描く優しい絵が私は好きだった。
律には才能がある。それを知ったのは高校に入った頃だった。
私と律は中学の時と同じように、美術室に二人きりで話していた。当たり障りのない会話だったけど、その時間は幸せだった。
でも、美術室の扉は開いた。
「浅葱律さんですよね。私、知ってます。ファンです!」
恥ずかしそうに言う女の子の後ろには数人の女生徒が立っていたが、みんな律のファンらしかった。彼女らの送る律への視線でそれを理解した。
いくつか賞を取っているのは知っていたが、そんなにも有名になっているとは思わなかった。大事に育てた子供が独り立ちしたような、嬉しいようで悲しい気持ちだった。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい」
ふんわりとした笑みに溶かされたのはその場にいた女子全員だった。その子達とは初対面だったけど、彼に魅了されたという確かな絆で私達はつながった。
その後も何度か彼女たちはやってきた。私たちが親しくなるのは必然で、同時に彼女たちはファンというより信者に近いのだということが分かった。それに気づいても、私達の関係が変わることはなかった。もっと深い出来事でしか私達は変われなかった。
優しい絵と称していた彼の作品は違うものに化けた。私は信者とは違って絵に惹かれたわけではなく律が好きだった。だからその絵ごと彼に恋をしていた。正直言って美的センスはなかった。そんな私を魅了する引力を放つ絵画だった。
目のくらむような眩しい光と、それを必死で掴み取ろうとする手が描かれていた。光を表すために使った色使いは美しいほど現実離れしていて、人間味溢れた手からは目が離せなかった。律の描く手に掴まれて、それを死ぬまで離せなかった。
目を閉じても浮かぶ律の絵。あんなにも必死な手は一体何を望んでいたんだろう。そんなことを考えながら眠りについた。