清々しい朝というものは存在しない。あるのはほの暗い闇の朝のみ。
最近、私が書いた小説は投稿サイトでランクインすることが増えた。そう、私はいわゆる素人作家である。あくまでも|今《・》|は《・》。
そう遠くない未来にラララ文庫新人賞を受賞して書籍化して、コミカライズ、さらには、アニメ4クール連続で放送される人気作家になるのだ。そのまま美人コミカライズ担当マンガ家と結婚するのだ。
「夢なんていくら高く言ってもいいもんなー」
空虚なことをつぶやいた時刻は深夜の3時前。
明日はスキマバイトのカフェの夕勤がある。
「少し寝るか」
寝るとは言っても、実際にぐっすり寝るつもりはない。今書いてる新作の『そんな!? この私が皇太后の息子に転生していただなんて!?』の展開をメモに書き起こしておくのだ。
ベッドに布団のセッティングをする。その後、スマホを充電器にさして充電する。そのまま、電子メモパッドで脳内の展開やセリフをメモをする。
脳内はフルスロットルに稼働していて、次から次へと展開やセリフがぼこぼこ湧いてくる。それこそ沸騰しているやかんのようだ。
「今日は調子がいいな」
急に脳内に声が聞こえた。
(寝なさい、夜の睡眠こそ作家の必需行為)
そう、その声は私がこの作品がアニメ化したならばメインヒロインの|梨香《リカ》妃の声優候補ナンバーワンの|雨水《ウスイ》 |京香《キョウカ》の声だ。
「脳内に聞こえるこの声は……?」
何度も繰り返し聞こえる雨水の『寝なさい、夜の睡眠こそ作家の必需行為』という声。
「そうだ、梨香后も言ってるだし、きちんと寝るか」
夢こそ見なかったがどこかのきれいな川を見た気がする。そして、その川を渡ろうとして作中の梨香后や架空の脳内担当編集に止められた気がする。
「いや、これが夢か」
起きると太陽がのぼりきっていてそろそろ沈む用意を始めている。
「あぁ、このあと、カフェのスキマバイトだ」
身支度をし、シャワーを浴びて脳内BGMとしてオリジナルのテーマソングを流してスキマバイトのカフェに向かった。
カフェのバイトや社員にあいさつをして一通りのマニュアルを読む。脳内ではこのマニュアルの一部の表現をいずれ書く現実舞台の作品に活かそうと考えていた。
カフェのスキマバイトの仕事は接客がメインだ。幸いなことにこのカフェはアイスコーヒーとホットコーヒー、それにホットドックのみの取り扱いだ。ホールに出る前、一瞬だが頭がクラッとした。
「あぁ、体内のマナが……とか厨ニ臭いことは言わないのが私の流儀」
ホールに出て1組目の接客をした。この人たちは普通の人間だ。ただ、会話内容が幼稚だ。チャリンチャリンと入店音がなり新たなお客様の来訪だ。
『対応よろしく』
バイトさんに頼まれて入り口に向かった。
「いらっしゃ……」
そこに見えたのはオークとエルフが談笑をしていつつ2人という意味でピースをしている。
「ホットコーヒーをよろしく」
エルフに見えるお客様が注文した。おかしい、エルフがこの世に存在するわけがない。仮にうちのこがこの世に現れたとしても、エルフもオークも出したことはない。出したとしても魔獣や神などの人外で人に似た存在や魔物は取り扱わない。
「レッツミーさん?」
「いや、疲れていただけです。大丈夫です」
エルフとオークの談笑を片耳にホール業務をしていると、また、新たなお客様が来た。
今度はゴスロリ少女とおじさんの組み合わせだ。これはいわゆる警察案件ではないか? このままだとゴスロリ少女がかわいそうなことになる。
「まぁ、私はスキマバイトだし」
一応、先ほど心配してくれたバイトさんにこういうお客様が来たと伝えた。バイトさんは不思議な顔と同時にニコニコしている。
「給仕者よ、ホットコーヒーと温かいウルフをここに」
私のことをみて注文をしている。何かが胸の奥に刺さる。やはり、警察に通報すべきか?
エルフとオークの談笑が終わり『おあいそだ!』とオークが言っている。対応に向かいそのまま会計をしてもらった。ゴールドで払われるかと思ったがちゃんと日本円で払ってくれた。
ゴスロリ少女とおじさんもホットコーヒーとホットドックを食べている。
味の感想も聞こえる。途中聞こえる単語に私がどこにも出さず非公開作品フォルダに保存してる地名などの固有名詞が聞こえていた。
客が全員去ってスキマバイトの終わる時間だ。
「今日も定刻通り」
バイトさんは勤務が私より少し早めに終わっていたのに更衣室から出た私の肩をトントンと叩いた。
「あの……ちょっと、あたしの部屋へ来てくれませんか?」
意味が分からない。スキマバイトの私が誘われる訳がない。このバイトさんの顔を見るのも初めてだ。と思ったが、この女性らしい小顔と目元がくりくりしててかわいい童顔系の雰囲気にどこかで知り合ったことがある気がする。
そう、私の新作の梨香后だ。
「梨香后……?」
この後、私がどうしたかはわからない。
さっきのゴスロリ少女たちは私の非公開作品の固有名詞を出していた。エルフとオークもよくよく考えれば中学生の時に書いた『最強の友情物語』という異種族コミュニケーションをテーマにした小説で使用したキャラクターだ。
「あぁ、おかしくなったのは私か? 世界の方か?」