第24話:黄金の夜明け、約束の場所へ
ー/ー 伝説の始祖鳥の卵がもたらした光は、ゼノンが汚した大地を浄化し、スパイスの里に再び色鮮やかな花々を咲かせた。それから5年の月日が流れ、かつて戦場を駆けた『デリシャス・ワゴナー号』は、今や世界中の美食家がその出現を待ちわびる、伝説の「移動式オムライス専門店」として定着していた。
ある日の昼下がり、帝都の活気ある広場。ワゴナー号のカウンターには、一人の男が深く椅子に腰掛け、幸せそうに目を閉じていた。
「……あぁ。風が心地よい。端末の通知も、上官の怒鳴り声も、処刑の恐怖もない。……これこそが、私の求めていた真の平和です……」
かつての帝国軍副官、ハンスだ。彼は現在、新政府の最高幹部の一人として多忙な日々を送る傍ら、非番の日は必ずここで「常連客」として安眠を貪るのが日課となっていた。
「ハンスさん、また寝てるんですか? ほら、東の果てで見つけてきた新しいスパイスですよ!」
そう言って駆け寄ってきたのは、世界中を巡る「旅のスパイス探求家」となったエルナだ。20歳を越え、すっかり大人びた彼女の背負ったカバンからは、異国の芳醇な香りが溢れている。
「ちょっとピノ! コンロの調子がまたおかしいわよ! 火力が論理性(カイのこだわり)に追いついてないわ!」
「うるさいわね、店長(あたし)に命令しないでよ! 今メインメカニックとして調整中なんだから!」
店内の厨房では、店長兼メカニックのピノと、看板メイドとしてさらに磨きがかかったリゼ、ゼロが忙しく立ち働いている。
◇◆◇◆◇
そこへ、広場の喧騒を割って、豪華な装甲馬車が乗り付けてきた。現れたのは、帝国の治安を一点に担う最高司令官――ヴァネッサ・クインだ。
「カイ! お掃除しに来てあげたわよ、ねぇダーリン?」
「……ヴァネッサ。最高司令官が公務をサボって毎日店に乗り込んでくるのは、論理的に言って国家的な損失だ。帰れ」
カイがフライパンを振る手を止めずに突き放すが、ヴァネッサは慣れた手付きでカウンターに身を乗り出し、妖艶に微笑んだ。
「嫌よ。私の才能を国が放っておいてくれなくてね、結局この肩書きに戻されたけれど……私の心は、5年前からずっとあなたの専属護衛なんだから。知ってる? 私、この5年で100回以上はお見合いを断ってるのよ。いい加減、私の執念に年貢を納めたらどうかしら?」
「……。……ヴァネッサ様。マスターの防壁は、現在ルーチンワークとして処理されていますが……マスターの耳の表面温度が0.5度上昇。……これは『動揺』のサインです」
ゼロが冷たく分析を挟む。
カイは視線をフライパンに落としたまま、静かに思考した。
リゼやゼロは最高のパートナーだが、彼女たちはあくまでドールだ。いつまでも彼女たちの献身に甘え続けるわけにはいかない。そして何より、5年もの間、地位も名誉も投げ打つ覚悟を見せ続け、今や自分と同じだけの重荷を背負って国を支えているこの女の「非論理的な熱量」に、自分も無意識に救われていることは認めざるを得なかった。
(……そろそろ、こいつとの『契約』を更新してもいい時期か)
カイは口元をわずかに緩めたが、それを悟られぬよう、より一層手際よく卵を煽った。
◇◆◇◆◇
「お待たせいたしましたわ! 皆様、今日の一皿です!」
リゼが満面の笑みで、人数分の皿をテーブルに並べる。
「お待たせ。……『未来へ繋ぐ黄金のオムライス』だ」
それは、旅の初日に出会った時と同じ、素朴で、けれど究極まで磨き抜かれた一皿。
黄金の卵を割れば、中から立ち上る湯気と共に、これまでの旅の思い出――砂漠の熱気、潮風の香り、そして共に乗り越えてきた困難の数々が、スパイスの香りと共に脳裏を駆ける。
「……美味しい。やっぱり、カイ様の味が世界一ですわ」
リゼが最高に幸せそうな笑顔を見せ、一行は一つのテーブルを囲んで笑い合った。
営業終了後。リゼは一人、厨房で卵を手に取った。
「見ていてくださいませ、ご主人様。……今日こそ、完璧なメイドへの最後の一歩を……!」
リゼが精神を集中させ、指先に魔力を込めずに、そっと卵を調理台の角に当てた。
パカッ。
殻が綺麗に割れ、中身がボウルに吸い込まれる。……調理台は、無傷だ。
「で、できましたわ! ご主人様! 私、ついに一度も調理台を割らずに卵を割ることに成功しましたわーーーっ!!」
歓喜に震えるリゼは、そのままの勢いでカイに抱きついた。
「よくやった、リゼ。……だが、少し力が強――」
カイが言い終えるより早く、リゼの背中で「感極まった」冷却ブースターが限界を突破。黄金の魔力が暴走し、凄まじい推進力を生み出した。
「ひゃんっ!? 止まりませんわーーっ!」
「……警告。……お姉様の幸福出力、測定不能。……ワゴナー号、浮上します」
ズドォォォォォン!!
轟音と共に、移動販売店『デリシャス・ワゴナー号』は、夕焼け空に向かって弾丸のように飛んでいく。
「ちょっと! 私の旦那(予定)をどこへ連れて行くのよーーっ!」
叫びながら大剣を杖にして飛びつくヴァネッサ。
「私のバカンスが……また空の彼方へ……!」
常連客のハンスも椅子ごと巻き込まれ、空へ吸い上げられていく。
茜色の空に、カイの絶叫が虚しく響き渡った。
「……いつになったら、落ち着いて飯が食えるんだ……!!」
その嘆きは、幸せな笑い声と共に、黄金の夜明けへと溶けていった。
(全24話・完)
あとがき
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
元々は短めの自己紹介になるような短編を用意してみようかな、から始めた本作ですが、結果的に私は20‐30話くらいのお話を作るのが好きだし、向いていそう、ということで拡大版に仕上げてしまいました。
コメディタッチの準ハイファンタジー、そして私のお約束の戦闘メイドを活躍させる、という趣味全開のお話でしたが、いかがでしたでしょうか!?
面白かった、オススメしてもいいよ、という方は★で評価もお願いします!!
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