第10話 一難去ってまた一難
ー/ー「にー、しー、ご。あれ〜〜? おっかしいな〜? 数が合わないよ〜」
そう疑問を口にしながら、何事もなかったかのように、炎の渦から幼い少女がひょっこりと現れる。
「あの爆発でも傷一つないのか……」
ガソリンによる大爆発の後。
パトカーの影で息を潜めていたトーマスは心底驚愕していた。
「もしかしてニナニナと、かくれんぼしたいのかな〜? かな〜?」
ニナニナが歩き出したその方向には────トーマスがいた。
「ツイてないな、まったく。予備の弾薬も、これだけか──」
トーマスは最後の弾薬をARのM4カービンに装填する。
その間にも2人の距離は徐々に縮まっていく。
彼女の歩が進む度に足音は大きくなりトーマスに緊張が走った。
「……神よ。この困難を切り抜ける力を、どうかお与え下さい──」
右手で額から胸、左肩から右肩へと動かし、トーマスは十字を切った。
次の瞬間────「パシュッ」という炭酸飲料を開けるような音が鳴った。
「──うぉっ!」
素っ頓狂な声がたちまち響き、ドサリと倒れるような音がした。
それが気になったトーマスは、状況判断のため恐る恐る……音がした方を覗いた。
「な、何だ……?」
小さな悪魔が何故かうつ伏せに倒れていた。
「死体ごっこか……? 騙し討ちは、勘弁してくれよ〜?」
周囲も警戒しつつ、トーマスは彼女に接近する。
「すぅ……すぅ……」
幼い少女は小さな寝息を立て、幸せそうにすやすやと眠っていた。
「──新手だな。これは、麻酔か……?」
首元に赤いスタビライザーが装着された、ダート状の投薬器が刺さっていた。
トーマスは警戒レベルを最大限に引き上げる。
「近くに隠れて様子を伺ってやがるな……?」
麻酔銃は火薬式と空気式の2つに分けられるが、トーマスは射程が短い後者だと結論を出した。
「パシュッ」という炭酸飲料にも似た音が、何よりの証拠であったからだ。
しかし──人影は何処にも見当たらない。
「……行こう」
留まるのは危険と判断し、トーマスは駆け出す。
その後を赤い液体が、地を這うようにして、トーマスを追った。
「どぅあッ!」
バキッと砕けた音が同時にトーマスはひっくり返った。
「イタタタタ。あん……? 骨?」
道に転がっていた物の正体は、肉塊の一部がまだ残っている食べくさしの骨だった。
「何の骨だぁ、こりゃあ……?」
トーマスが立ち上がり静かに数歩踏み出すと、意外にも答えはすぐに見つかった。
「こりゃあ、ひでぇなっ」
車窓に大量の血がこぶり付いた、パトカーをトーマスは発見。
車内の様子を車窓の隙間から、ちらりと覗くとは言葉を失った。
そこには下半身しかない、小太りの警官の無残な姿がいたのだ。
「案の定……か」
トーマスは声を発さずに、小太り警官の亡骸に十字を切り、故人の祈りを捧げる。
「だが……妙だな」
祈り終わったところで、再度死体を確認したトーマスにある疑問が生じた。
「──嬢ちゃんが背負った、あのどデカい武器でこうなるか? まず、あの凄まじい破壊力で、形状が残るはずがない。それに断面が明らかに捕食放棄したように見える──ハッ!!」
そこである答えにトーマスは辿り着いた。
「……なるほどな。1人だけ心当たりがある。嬢ちゃんの戻りが異様に早いとは思ったが、そういうことか──」
その背後にトーマスの背丈を超える、赤い液体が忍び寄る。
「俺としたことが……うっかりしていた。新手なんかじゃない。ずっと側で見ていた、そうだろ……?」
トーマスは後ろに振り返り、堂々と自身を襲おうとする赤い液体にこう言った。
「なあお前────クルクスだろ?」
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