第81話 千切られた蛇
ー/ー ベオウルフと素手で殴り合ったレグネル・ロートブログ。
彼の身体は至る所の骨が折られ、右腕ももがれている。
それでもなお勝負を諦めない。その姿はさながら狂戦士を思わせた。
対するベオウルフは傷一つ負わずその姿を見つめている。
「ふぅー……儂では力不足だったか? ベオウルフよ。これではあまりに一方的過ぎて我ながら不甲斐ないというもの」
「いいや。その雄姿こそ僕が死神に求めているもの。人間を守る力を持ち、彼らの盾となって戦う死神は君のようでなくてはならないと僕は思う。残念だよ。殺してしまうのが惜しいほどに、そして──」
聖槍を構えベオウルフの隙を伺うパーシバルを見やる。その視線は冷たかった。
「君は何のつもりだ? 権能による不意打ちをかける気か知らないが、仲間を見殺しにする姿勢は褒められたものじゃない。今後の世界に不要な死神だと判断した」
「違うな、王よ。その男は我らヴァルキリー軍に命を捧げた男。それ以上パーシバルを侮辱することは儂が許さん」
レグネルがそう言うと突如としてパーシバルの手足が塵と化していく。死神の死に際に起こる現象である。
パーシバルは死を覚悟した笑みを浮かべて言う。
「主君のため、国のために戦うのが騎士道であれば、世界に殉ずるのもまた騎士道というもの。レグネルよ、よく耐えてくれた。私は先にヘルムヴィーゲ閣下の下に行く。達者でな」
「ハッ! このナリで達者もクソもあったものかよ。あばよ!」
パーシバルは全身が塵となって消える。そして消えるその直前、その腕には聖槍ロンギヌスはない。
ベオウルフは「ウロボロス」がなんらかの策略にはめられたものと理解する。その対象が自分ではないことにも。
そして即座にその対象を看破する。山手結界を順繰りに陥落させていくために最も重要な存在。
「──ジャンヌ・ダルク」
生憎ベオウルフは彼女の権能領域外にいた。
すぐさま眼前のレグネルだけでも殺して彼女の状態を確認しようとするが、彼には「素手の相手に剣を使えない」誓いがある。素手で殺すには時間がかかり過ぎると判断した。
急ぎ来た道を戻りジャンヌのいた地点へと進む。
権能領域内であるはずの場所に彼女の気配はない。ジャンヌに何かあったのは明白であった。
そしてベオウルフが見たのは満身創痍になりながらもヴァルキリーと戦うオルフェウスと、身体の半分が塵と化しつつあるジャンヌ・ダルクだった。
そこでベオウルフはパーシバルのロンギヌスが何らかの形でジャンヌに作用したことを悟る。
「私は見誤っていました……パーシバルがそちらに回った以上、ヴァルキリーの狙いがあなたであると。故にあなたの向かおうとしていたところを狙われたのです。そしてパーシバルが自身の権能を手放し死ぬ覚悟をしていたということも、想定外でした……」
そう彼女が語る合間にも崩壊は進んでいく。
「ベオウルフ! 加勢してくれないか!? ジャンヌの権能はもう働いてないから俺死ぬ! 死ぬって!」
オルフェウスは竪琴をかき鳴らしシュヴェルトライテの無数の刃を音による衝撃波で弾き返している。
乱入時の権能の無効化は二度は通用せず、刃の物量に負け彼の全身は切り裂かれていく。すかさずベオウルフはフルンティングを顕現させ刃を打ち払う。
以前「ヴァルハラ」の門が開いたときそれを封じたヴァルキリー・シュヴェルトライテ。
ベオウルフの現役時代はヘルムヴィーゲが現世を取り仕切っていた。このヴァルキリーは上位の「運行管理」役のヴァルキリーだと彼は戦いながら考える。
思案している間にジャンヌ・ダルクが完全に塵となって消滅した。
そしてそれを見たカインが目を丸くする。
ジャンヌの権能を当てにして逃げ込んできたのだ。神に近い人間としていくら膂力が優れていようが、レックスの長年に渡って磨き上げてきた武技には歯が立たなかった。
「モルガン! 僕たちをヴァルハラに戻してくれ! 計画を変更する!」
大声でベオウルフが転送を依頼する。
ジャンヌは死に、図らずも「ウロボロス」メンバーの三人がヴァルキリーと元序列第八位のいる場所で合流してしまった。数で勝るがさらなる犠牲が出る可能性を考慮したからだ。
「その必要があるかはこれを見て判断すべきであろう」
坂上田村麻呂の声。戦死したジャンヌ以外の「ウロボロス」が全員集結していた。
モルガンも一時様子を見ているようで、すぐさま転送は行われない。
坂上は一振りの剣を放り捨てる。金色の柄に煌めく鋼の剣。敵の死神が持っていた時は真っ黒な瘴気に覆われていたが、それも治まり刀身にはわずかにひびが入っている。
魔剣「ティルヴィング」だった。
「第三の権能『鎮国剣』まで使うことになるとは思わなんだが、我の敵は斬った。随分と手間をかけたがな」
(敵はヘルムヴィーゲ以上の強力なヴァルキリーとレックス。レックスは僕が抑えて残りがヴァルキリーを叩く。成功すれば『ウロボロス』の勝ちは確定する。やれるか……?)
だが腕を飛ばされたオルフェウスの叫び声がベオウルフの思考を遮る。
山手結界の礎を「ヴァルハラ」に隷属させることはモルガンにも出来るが、彼の演奏がより効果的だった。
「モルガン、転送だ!」
即座に判断したベオウルフにより「ウロボロス」の死神たちが一斉に転送される。
「ご苦労様でした。レックス。ジャンヌ・ダルクは死にました。我々の勝利です」
「だがティルヴィングは死んだ」
路上に捨てられた魔剣を見てレックスが言う。
「……死んでねえよ。完全に破壊されたわけじゃない。元の性能には戻りゃしないが、やりようはあるさ」
魔剣「ティルヴィング」から声がする。不服そうな表情が想像できるような声だった。
「それにしても第三持ちなんか聞いたことないぜ。レックス、あんたが戦ればよかったんじゃないか?」
「『身体強化』しか権能がない俺がか?」
「それマジの話だったのかよ」
そこへボロボロのレグネルや、車持皇子。そして椿を始めとした事務所メンバーが集まってくる。
「賊軍『ウロボロス』は敗走しました! 謁見の間に帰還次第、ジャンヌの死を全死神に通達します!」
シュヴェルトライテが勝利を宣言し剣を掲げる。
それぞれの足止め、椿の狙撃、パーシバルの死など様々な要因が積み重なって得た大きな勝利だった。
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