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第80話 狙撃

ー/ー



「ヴァルキリー相手によくやるものだ。これが元『序列第二位』の実力か……」

 椿から見て、ジャンヌ・ダルクはシュヴェルトライテの権能「剣閃」による無数の刃を時に避け、時に捌き、次第に順応しているように思えた。

 当然「戦いに勝利する」彼女の権能が作用し、ジャンヌの身体能力の底上げや「剣閃」への妨害干渉が行われ、シュヴェルトライテが本来の実力を出し切れていないという側面もある。

 だがシュヴェルトライテも霊力を出し惜しみしない。

 ただジャンヌを足止めするだけでなく、その猛攻により傷を次々と負わせ着実に、そして一歩ずつ彼女を後退させる。

(最も警戒すべき権能を持ったパーシバルはベオウルフに向かいましたか。私の権能では『ベオウルフを失った上での勝利』という最悪の事態を招きかねません。それを見越して足止めにヴァルキリーをぶつけてきたと)

 ジャンヌは捌き切れなかった刃に頬を切られながら思案する。

 そして駅からすぐの大学敷地内へと前進したベオウルフはレグネル・ロートブログとパーシバルに向かい合った。

 つまりはジャンヌの権能領域の範囲外である。

「戦士の気配がするね。僕はイェーアト族の勇士、ベオウルフ」

「儂はヴァイキングの王、レグネル・ロートブログ。戦るか?」

 次の瞬間には二人の拳がぶつかり合っていた。

「パーシバル! お前さんは手を出すな! こいつは儂の獲物だ!」

 そういいながらも格闘戦最強ベオウルフの拳とぶつかり合ったレグネルの拳にはひびが入っている。

「言ってくれるね。でも一つ忠告しておこうか。君一人で戦況がひっくり返るなどといった自惚れはしない方がいい。だが拳で戦り合おうという姿勢はいいね。同郷として嬉しい限りだ」

「儂の方こそあの伝説とステゴロ勝負なんざ夢にも見なかったものよ! 儂は今、死神になってから一番興奮しておる! なあベオウルフ! 巨人殺しよ!」

 凄まじい速さで互いに拳をぶつけ合う二人。

 ダメージを負っているのはレグネルの方だが、それを物ともせずに拳を乱打する。

 そしてパーシバルは聖槍を構え、ベオウルフが傷を負い一瞬の隙を見せた瞬間を狙う「ふり」をしている。

 ベオウルフを始めとした「ウロボロス」陣営は、この戦闘を主席ベオウルフを攻略する作戦として理解したようである。

 その真の狙いが副主席ジャンヌ・ダルクであることも知らずに。



 車持皇子(くらもちのみこ)の作戦は単純といえば単純なものであった。魔術師による「加工」を聖槍に施し、いつでも一発の弾丸に変換できるようにするのだ。それは任意のタイミングで一瞬のうちに行われる。

 そしてその「加工」を施したのはグリムゲルデに引きずりだされた魔術師アオイ。

 「ヴァルハラ」にいるはずの魔術師であるものの「ウロボロス」に未参加のシモン・マグスの調査も兼ねた呼び出しであった。

 その弾丸は椿のタイミングで車持皇子の作成した狙撃銃でいつでも発射できるようになっている。

 つまりそれはジャンヌが傷ついた上で、彼女が戦闘に勝利、もしくは戦闘を中断し一区切りついた瞬間である。

 そして今回一矢は後詰めとして狙撃地点の後方に配置されていた。護衛にメイジー。彼が前線に投入されなかった理由はただ一つ。真っ先に彼を殺しに来るベオウルフの注意を逸らす必要があったからだ。



「あなたはそうやって遠距離から攻撃するしかできないのですか? 現世への介入が消極的なヴァルキリーらしい戦い方ですが、それでは私には勝てませんよ」

 打開策のないジャンヌはシュヴェルトライテを煽ってみることにする。

 プライドの高いヴァルキリーなら乗ってくるのではないかという予想によるもの。

「そうでしょうか。十分に足止めができていると思いますが。もっと下がってベオウルフから離れたいのであればそうして差し上げましょう」

 そう言うと彼女は剣を抜きジャンヌを襲っていた刃の渦を止める。

 ジャンヌはシュヴェルトライテに後退させられた分を一息に前進しようと足に力を入れるが、シュヴェルトライテが身に纏う圧倒的な霊力量を観測し再び防御の構えを取る。

 そしてシュヴェルトライテを中心とした刃の渦が発生し、ジャンヌに向けて前進する。

 ジャンヌにとって降りかかる刃を斬り払うのは容易なことであったが、相手がその渦を纏って剣戟を仕掛けてくることは想定外のことであった。

 最終的な彼女の「勝利」もより苦難に満ちたものになるだろうとジャンヌは考える。

(いっそカインや田村麻呂のところまで退くというのは?)

 とっさにそう考えたジャンヌは頭の中からそれを打ち消す。

 カインはレックスと戦闘中であり、かつての二人の序列も近い。実力は拮抗しているだろう。

 故にヴァルキリーとの戦いに巻き込むわけにはいかない。
 
 逆に坂上田村麻呂が戦っているティルヴィングは今まで見せていなかった力で戦闘している様子。これも邪魔立てできない。

「ならばこの身を賭してでもヴァルキリーを討ち取るまで……!」

 ジャンヌはそう決意するとシュヴェルトライテが纏う刃の渦に飛び込んでいく。が、竪琴の旋律と共にその足が突然止まる。

「おやおや我らが副主席殿。もう少し自分の身を案じてみてはいかがかな? 君がいなきゃ俺みたいな権能頼りの死神なんか簡単に死んじゃうんだからさ!」

 そういって両者の間に割り込んだオルフェウスは竪琴をかき鳴らす。目白駅の制圧が終わった証拠だ。

「『嵐よ止め』……ここからは俺がお相手しようか」

「そうですか。あなたには荷が勝ちすぎると思いますが」

 シュヴェルトライテの周囲を渦巻いていた無数の刃がガラガラと音を立てて地面に落ちる。

 ジャンヌ対シュヴェルトライテの戦闘はオルフェウス対シュヴェルトライテのものに移行した。

 すぐさまベオウルフへの加勢に向かおうと駆け出すジャンヌ・ダルク。

『必ず勝利し目的を達成する相手に勝つにはどう勝てばいいのか? 答えは簡単です。勝った瞬間、次の戦いに移行する前に叩く。これに限ります』

 ジャンヌを狙う椿の脳裏に車持皇子の言葉が蘇る。

 厳密に言えば彼女は戦いに勝ったわけではないが、現在どの戦いにも属していないフリーの状態と言える。

「ツバキさん。ジャンヌがシュヴェルトライテとオルフェウスの戦闘域から離れたよ。周囲に戦闘の気配なし」

 観測手のつぐみから標的であるジャンヌとの距離や風向きの情報が続いて報告される。

「逆にベオウルフとレグネルの戦闘域が近い。すぐだよ!」

「了解!」

 椿は引き金に指をかける。車持皇子により命中率も増していると聞くが、願掛け程度に考える。狙撃の基本は変わらないからだ。

「──ロンギヌス・バレット、装填完了。照準よし、発射」

 対死神用に改良を加えられた絶大な威力のある狙撃銃だが、命中してもそれが傷を作らなければ意味がない。だがその迷いを振り払うように椿がジャンヌを狙い撃つ。

 銃声。命中。

 そしてジャンヌ・ダルクが倒れた。

 ヴァルキリー側にはそれが決定打となったか不明だったが、ベオウルフは確かにそれを感じ取った。

 即ち同胞の死である。


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「ヴァルキリー相手によくやるものだ。これが元『序列第二位』の実力か……」
 椿から見て、ジャンヌ・ダルクはシュヴェルトライテの権能「剣閃」による無数の刃を時に避け、時に捌き、次第に順応しているように思えた。
 当然「戦いに勝利する」彼女の権能が作用し、ジャンヌの身体能力の底上げや「剣閃」への妨害干渉が行われ、シュヴェルトライテが本来の実力を出し切れていないという側面もある。
 だがシュヴェルトライテも霊力を出し惜しみしない。
 ただジャンヌを足止めするだけでなく、その猛攻により傷を次々と負わせ着実に、そして一歩ずつ彼女を後退させる。
(最も警戒すべき権能を持ったパーシバルはベオウルフに向かいましたか。私の権能では『ベオウルフを失った上での勝利』という最悪の事態を招きかねません。それを見越して足止めにヴァルキリーをぶつけてきたと)
 ジャンヌは捌き切れなかった刃に頬を切られながら思案する。
 そして駅からすぐの大学敷地内へと前進したベオウルフはレグネル・ロートブログとパーシバルに向かい合った。
 つまりはジャンヌの権能領域の範囲外である。
「戦士の気配がするね。僕はイェーアト族の勇士、ベオウルフ」
「儂はヴァイキングの王、レグネル・ロートブログ。戦るか?」
 次の瞬間には二人の拳がぶつかり合っていた。
「パーシバル! お前さんは手を出すな! こいつは儂の獲物だ!」
 そういいながらも格闘戦最強ベオウルフの拳とぶつかり合ったレグネルの拳にはひびが入っている。
「言ってくれるね。でも一つ忠告しておこうか。君一人で戦況がひっくり返るなどといった自惚れはしない方がいい。だが拳で戦り合おうという姿勢はいいね。同郷として嬉しい限りだ」
「儂の方こそあの伝説とステゴロ勝負なんざ夢にも見なかったものよ! 儂は今、死神になってから一番興奮しておる! なあベオウルフ! 巨人殺しよ!」
 凄まじい速さで互いに拳をぶつけ合う二人。
 ダメージを負っているのはレグネルの方だが、それを物ともせずに拳を乱打する。
 そしてパーシバルは聖槍を構え、ベオウルフが傷を負い一瞬の隙を見せた瞬間を狙う「ふり」をしている。
 ベオウルフを始めとした「ウロボロス」陣営は、この戦闘を主席ベオウルフを攻略する作戦として理解したようである。
 その真の狙いが副主席ジャンヌ・ダルクであることも知らずに。
 |車持皇子《くらもちのみこ》の作戦は単純といえば単純なものであった。魔術師による「加工」を聖槍に施し、いつでも一発の弾丸に変換できるようにするのだ。それは任意のタイミングで一瞬のうちに行われる。
 そしてその「加工」を施したのはグリムゲルデに引きずりだされた魔術師アオイ。
 「ヴァルハラ」にいるはずの魔術師であるものの「ウロボロス」に未参加のシモン・マグスの調査も兼ねた呼び出しであった。
 その弾丸は椿のタイミングで車持皇子の作成した狙撃銃でいつでも発射できるようになっている。
 つまりそれはジャンヌが傷ついた上で、彼女が戦闘に勝利、もしくは戦闘を中断し一区切りついた瞬間である。
 そして今回一矢は後詰めとして狙撃地点の後方に配置されていた。護衛にメイジー。彼が前線に投入されなかった理由はただ一つ。真っ先に彼を殺しに来るベオウルフの注意を逸らす必要があったからだ。
「あなたはそうやって遠距離から攻撃するしかできないのですか? 現世への介入が消極的なヴァルキリーらしい戦い方ですが、それでは私には勝てませんよ」
 打開策のないジャンヌはシュヴェルトライテを煽ってみることにする。
 プライドの高いヴァルキリーなら乗ってくるのではないかという予想によるもの。
「そうでしょうか。十分に足止めができていると思いますが。もっと下がってベオウルフから離れたいのであればそうして差し上げましょう」
 そう言うと彼女は剣を抜きジャンヌを襲っていた刃の渦を止める。
 ジャンヌはシュヴェルトライテに後退させられた分を一息に前進しようと足に力を入れるが、シュヴェルトライテが身に纏う圧倒的な霊力量を観測し再び防御の構えを取る。
 そしてシュヴェルトライテを中心とした刃の渦が発生し、ジャンヌに向けて前進する。
 ジャンヌにとって降りかかる刃を斬り払うのは容易なことであったが、相手がその渦を纏って剣戟を仕掛けてくることは想定外のことであった。
 最終的な彼女の「勝利」もより苦難に満ちたものになるだろうとジャンヌは考える。
(いっそカインや田村麻呂のところまで退くというのは?)
 とっさにそう考えたジャンヌは頭の中からそれを打ち消す。
 カインはレックスと戦闘中であり、かつての二人の序列も近い。実力は拮抗しているだろう。
 故にヴァルキリーとの戦いに巻き込むわけにはいかない。
 逆に坂上田村麻呂が戦っているティルヴィングは今まで見せていなかった力で戦闘している様子。これも邪魔立てできない。
「ならばこの身を賭してでもヴァルキリーを討ち取るまで……!」
 ジャンヌはそう決意するとシュヴェルトライテが纏う刃の渦に飛び込んでいく。が、竪琴の旋律と共にその足が突然止まる。
「おやおや我らが副主席殿。もう少し自分の身を案じてみてはいかがかな? 君がいなきゃ俺みたいな権能頼りの死神なんか簡単に死んじゃうんだからさ!」
 そういって両者の間に割り込んだオルフェウスは竪琴をかき鳴らす。目白駅の制圧が終わった証拠だ。
「『嵐よ止め』……ここからは俺がお相手しようか」
「そうですか。あなたには荷が勝ちすぎると思いますが」
 シュヴェルトライテの周囲を渦巻いていた無数の刃がガラガラと音を立てて地面に落ちる。
 ジャンヌ対シュヴェルトライテの戦闘はオルフェウス対シュヴェルトライテのものに移行した。
 すぐさまベオウルフへの加勢に向かおうと駆け出すジャンヌ・ダルク。
『必ず勝利し目的を達成する相手に勝つにはどう勝てばいいのか? 答えは簡単です。勝った瞬間、次の戦いに移行する前に叩く。これに限ります』
 ジャンヌを狙う椿の脳裏に車持皇子の言葉が蘇る。
 厳密に言えば彼女は戦いに勝ったわけではないが、現在どの戦いにも属していないフリーの状態と言える。
「ツバキさん。ジャンヌがシュヴェルトライテとオルフェウスの戦闘域から離れたよ。周囲に戦闘の気配なし」
 観測手のつぐみから標的であるジャンヌとの距離や風向きの情報が続いて報告される。
「逆にベオウルフとレグネルの戦闘域が近い。すぐだよ!」
「了解!」
 椿は引き金に指をかける。車持皇子により命中率も増していると聞くが、願掛け程度に考える。狙撃の基本は変わらないからだ。
「──ロンギヌス・バレット、装填完了。照準よし、発射」
 対死神用に改良を加えられた絶大な威力のある狙撃銃だが、命中してもそれが傷を作らなければ意味がない。だがその迷いを振り払うように椿がジャンヌを狙い撃つ。
 銃声。命中。
 そしてジャンヌ・ダルクが倒れた。
 ヴァルキリー側にはそれが決定打となったか不明だったが、ベオウルフは確かにそれを感じ取った。
 即ち同胞の死である。