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第79話 聖女抹殺計画

ー/ー



 目白駅での戦闘が始まる前のヴァルキリー軍作戦会議での議題は、「いかにジャンヌ・ダルクを抹殺するか」という一点に尽きた。

 仮にベオウルフや坂上田村麻呂、カイン、オルフェウスを殺すことはできても彼女の権能がある限りは「ウロボロス」に何らかの形で勝利が訪れる。

 それだけは避けなければならないというのがヴァルキリー軍の総意であった。

 だがジャンヌの権能は彼女自身にも作用するという点が最も厄介だった。

 万一ベオウルフたちを始末することができても、彼女が生存している限りは山手結界を陥落させるという「ウロボロス」の勝利が満たされてしまうことすら考えられる。

「我々が真に『勝つ』ためにはジャンヌ・ダルクを殺す方法を考えなければなりません」

 シュヴェルトライテは勝利の条件を会議の参加者に伝える。

 参加者はヴァルキリーの三騎。

 ヘルムヴィーゲ軍からは指折りの実力者でもあるティルヴィング、レグネル・ロートブログ、パーシバル。そして付き人としてヘルムヴィーゲに付き従ってきた車持皇子(くらもちのみこ)

 さらに反逆者ではあるが「ウロボロス」に対抗し得る駒としてレックス。

 最後にジャンヌの権能を逆に利用できるかもしれない天ケ瀬一矢とその監督役の椿響子の十名。

「殺すと言ってもどうするのだ。儂らではベオウルフに歯が立たんぞ」

「ジャンヌの護衛に複数の死神が付く可能性もある。無策で勝てる相手ではないでしょう」

 レグネルとグリムゲルデがシュヴェルトライテに意見する。

「策はあります。パーシバル」

 シュヴェルトライテが会議に参加しているパーシバルに声をかけた。

「はっ。我が槍に曇りなし。私の聖槍ロンギヌスであればかつての『序列第二位』の死神であろうと殺すことができましょう」

「その『二撃目』が当たるという保証があればの話だがな」

 椿が口を挟み、パーシバルの希望的観測を打ち消す。

 「二撃目」で必ず殺せる攻撃であれば、まず一撃攻撃を誰かが入れた上でさらにロンギヌスによる攻撃を当てなければならない。

 ジャンヌはヘルムヴィーゲと対等に打ち合っていた女だ。そう簡単な話とは思えない。

「だからこそ確実に当てる策を考えるのです。私かティルヴィングのような足止め可能な実力者が彼女を釘付けにし、アマガセが権能を相殺する。その上でジャンヌ・ダルクを殺します。これが私の考えたプランです」

「アマガセをサカノウエやカインから守る戦力は?」

 普段意見することのないレックスが珍しく発言する。

「アマガセ・カズヤはあなたやレグネル、残りのヴァルキリーで死守します」

「ベオウルフはどうする? 他を抑えても一番の危険人物が野放しなら本末転倒じゃないのか?」

 椿が再び追及する。本来ベオウルフにぶつける戦力などいくらあっても足りないほどなのだ。

 そしてそれを聞き、シュヴェルトライテは決意に満ちた顔で告げた。

「……更なるヴァルキリーを召喚します。名はヴァルトラウテ。私と同じく戦闘向きのヴァルキリーです」

「で、でもお姉さま……これ以上『運行管理』からヴァルキリーを外したら、世界全体の異形が激増するわ……!」

 ロスヴァイセが慌てて口を開く。

 かつてシュヴェルトライテが降臨した際に、彼女が自身を「現世に召喚される最後のヴァルキリー」だと宣言したことを覚えていたからである。

「仕方ないことなのです。山手結界が崩壊する被害に比べれば、世界の運行が多少乱れるのも許容範囲というもの。東京が魔界と化せば、連鎖的に地脈で繋がっている地点も魔界となります。日本が落とされれば、付近の海が。付近の海が汚染されれば大陸へと魔界は広がりましょう。そうなってからでは遅いのです」

 シュヴェルトライテが目を伏せながら告げた。そこで一矢は初めて自身の考えを表明する。

「俺もいいですか。そもそも俺の権能でジャンヌの権能は相殺できるのかということ。それに相殺することでジャンヌの『勝利する』権能が消失したとしても、そこからは単純な実力勝負です。ジャンヌは自身を守れるでしょうが、ジャンヌの権能を借り受けた俺は違う。戦いが終わるまで守ってもらう必要があると思います」

「この小僧の言う通りってもんだ。権能を相殺するところまでいいが、儂らで戦い終わるまで守り切るなんざそれこそ無謀ってもんだろうが!」

 一矢の主張に賛同するレグネル。追い打ちをかけるように椿も発言した。

「確実性に欠ける。賛同できない」

「失礼。一つだけ、案があります。ただし我が軍の払う犠牲をご理解いただきたい」

 それまで沈黙を貫いていた車持皇子が手を挙げる。

「なんでしょう。世界全体を巻き込む事態なのです。死神の犠牲で済めば十分というもの。申してごらんなさい」

「必ず勝利し目的を達成する相手に勝つにはどう勝てばいいのか? 答えは簡単です。勝った瞬間、次の戦いに移行する前に叩く。これに限ります」

「つまり不意打ちか! しかしあのクラスの死神を一息に殺すものとなると……」

 椿がパーシバルを見る。「二度目」の攻撃で必ず相手を死に至らしめる聖槍の担い手。

「そうです。まずはパーシバル卿の力をお借りします。つまりは聖槍ロンギヌスを。そして次にジャンヌ・ダルクを相手取れるほどの実力者。僭越ながらシュヴェルトライテ閣下が適任かと思います」

「私に不意打ちをしろと? 確かに世界そのものを守る戦いであれば、私も騎士道にこだわってはいられないだろう。だが、あれに槍での不意打ちなど通用するのか?」

「いいえ、パーシバル卿。あなたには死んでいただくのです」

 予想外の一言に驚く者もいれば無表情の者もいる。一矢は思わず驚きの声を上げた方だった。

「私も無為にヘルムヴィーゲ閣下の下で働いていたわけではありません。閣下ならこう戦うはずです。この戦は、勝てます」

 車持皇子はそう宣言してみせたのだった。


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 目白駅での戦闘が始まる前のヴァルキリー軍作戦会議での議題は、「いかにジャンヌ・ダルクを抹殺するか」という一点に尽きた。
 仮にベオウルフや坂上田村麻呂、カイン、オルフェウスを殺すことはできても彼女の権能がある限りは「ウロボロス」に何らかの形で勝利が訪れる。
 それだけは避けなければならないというのがヴァルキリー軍の総意であった。
 だがジャンヌの権能は彼女自身にも作用するという点が最も厄介だった。
 万一ベオウルフたちを始末することができても、彼女が生存している限りは山手結界を陥落させるという「ウロボロス」の勝利が満たされてしまうことすら考えられる。
「我々が真に『勝つ』ためにはジャンヌ・ダルクを殺す方法を考えなければなりません」
 シュヴェルトライテは勝利の条件を会議の参加者に伝える。
 参加者はヴァルキリーの三騎。
 ヘルムヴィーゲ軍からは指折りの実力者でもあるティルヴィング、レグネル・ロートブログ、パーシバル。そして付き人としてヘルムヴィーゲに付き従ってきた|車持皇子《くらもちのみこ》。
 さらに反逆者ではあるが「ウロボロス」に対抗し得る駒としてレックス。
 最後にジャンヌの権能を逆に利用できるかもしれない天ケ瀬一矢とその監督役の椿響子の十名。
「殺すと言ってもどうするのだ。儂らではベオウルフに歯が立たんぞ」
「ジャンヌの護衛に複数の死神が付く可能性もある。無策で勝てる相手ではないでしょう」
 レグネルとグリムゲルデがシュヴェルトライテに意見する。
「策はあります。パーシバル」
 シュヴェルトライテが会議に参加しているパーシバルに声をかけた。
「はっ。我が槍に曇りなし。私の聖槍ロンギヌスであればかつての『序列第二位』の死神であろうと殺すことができましょう」
「その『二撃目』が当たるという保証があればの話だがな」
 椿が口を挟み、パーシバルの希望的観測を打ち消す。
 「二撃目」で必ず殺せる攻撃であれば、まず一撃攻撃を誰かが入れた上でさらにロンギヌスによる攻撃を当てなければならない。
 ジャンヌはヘルムヴィーゲと対等に打ち合っていた女だ。そう簡単な話とは思えない。
「だからこそ確実に当てる策を考えるのです。私かティルヴィングのような足止め可能な実力者が彼女を釘付けにし、アマガセが権能を相殺する。その上でジャンヌ・ダルクを殺します。これが私の考えたプランです」
「アマガセをサカノウエやカインから守る戦力は?」
 普段意見することのないレックスが珍しく発言する。
「アマガセ・カズヤはあなたやレグネル、残りのヴァルキリーで死守します」
「ベオウルフはどうする? 他を抑えても一番の危険人物が野放しなら本末転倒じゃないのか?」
 椿が再び追及する。本来ベオウルフにぶつける戦力などいくらあっても足りないほどなのだ。
 そしてそれを聞き、シュヴェルトライテは決意に満ちた顔で告げた。
「……更なるヴァルキリーを召喚します。名はヴァルトラウテ。私と同じく戦闘向きのヴァルキリーです」
「で、でもお姉さま……これ以上『運行管理』からヴァルキリーを外したら、世界全体の異形が激増するわ……!」
 ロスヴァイセが慌てて口を開く。
 かつてシュヴェルトライテが降臨した際に、彼女が自身を「現世に召喚される最後のヴァルキリー」だと宣言したことを覚えていたからである。
「仕方ないことなのです。山手結界が崩壊する被害に比べれば、世界の運行が多少乱れるのも許容範囲というもの。東京が魔界と化せば、連鎖的に地脈で繋がっている地点も魔界となります。日本が落とされれば、付近の海が。付近の海が汚染されれば大陸へと魔界は広がりましょう。そうなってからでは遅いのです」
 シュヴェルトライテが目を伏せながら告げた。そこで一矢は初めて自身の考えを表明する。
「俺もいいですか。そもそも俺の権能でジャンヌの権能は相殺できるのかということ。それに相殺することでジャンヌの『勝利する』権能が消失したとしても、そこからは単純な実力勝負です。ジャンヌは自身を守れるでしょうが、ジャンヌの権能を借り受けた俺は違う。戦いが終わるまで守ってもらう必要があると思います」
「この小僧の言う通りってもんだ。権能を相殺するところまでいいが、儂らで戦い終わるまで守り切るなんざそれこそ無謀ってもんだろうが!」
 一矢の主張に賛同するレグネル。追い打ちをかけるように椿も発言した。
「確実性に欠ける。賛同できない」
「失礼。一つだけ、案があります。ただし我が軍の払う犠牲をご理解いただきたい」
 それまで沈黙を貫いていた車持皇子が手を挙げる。
「なんでしょう。世界全体を巻き込む事態なのです。死神の犠牲で済めば十分というもの。申してごらんなさい」
「必ず勝利し目的を達成する相手に勝つにはどう勝てばいいのか? 答えは簡単です。勝った瞬間、次の戦いに移行する前に叩く。これに限ります」
「つまり不意打ちか! しかしあのクラスの死神を一息に殺すものとなると……」
 椿がパーシバルを見る。「二度目」の攻撃で必ず相手を死に至らしめる聖槍の担い手。
「そうです。まずはパーシバル卿の力をお借りします。つまりは聖槍ロンギヌスを。そして次にジャンヌ・ダルクを相手取れるほどの実力者。僭越ながらシュヴェルトライテ閣下が適任かと思います」
「私に不意打ちをしろと? 確かに世界そのものを守る戦いであれば、私も騎士道にこだわってはいられないだろう。だが、あれに槍での不意打ちなど通用するのか?」
「いいえ、パーシバル卿。あなたには死んでいただくのです」
 予想外の一言に驚く者もいれば無表情の者もいる。一矢は思わず驚きの声を上げた方だった。
「私も無為にヘルムヴィーゲ閣下の下で働いていたわけではありません。閣下ならこう戦うはずです。この戦は、勝てます」
 車持皇子はそう宣言してみせたのだった。