表示設定
表示設定
目次 目次




第73話 不必要な犠牲

ー/ー



「見ましたか、この行いを。全て『ウロボロス』によるものです。いくら『元序列第一位』であろうとも『ヴァルハラ』に堕とされるような者に大義などありません」

 謁見の間に死神が集められている。一矢が初めて招集を受けた時よりもかなり死神の数は減っている。

 しかしそれぞれが歴戦の死神であったり、ヴァルキリーが温存していた死神なのだ。

 数は減ったが質の面ではまだ敵対勢力と争う戦力は残っている。

 浅瀬の海のようになった新宿駅前と、そこに現れたベオウルフ、そして皆殺しにされた一般人。

 謁見の間にはそれら短時間の映像が繰り返し空間に投影されている。

「ベオウルフは人間を死神の手で統治すると言いました。しかし、その結果がこれです。彼は人間を平気で巻き込むような戦いをする死神だったのです。手を取り合う道は絶たれました。最早我々は彼らと戦うしかないのです」

 シュヴェルトライテ。彼女は張献忠が虐殺を敢行することも、ベオウルフに勝てないということも理解した上で彼を派遣していた。

 伯爵の暗躍により東京の霊的バランスが極端に崩れたのは事実だ。そして一部の死神の間でヴァルキリーの統治を不安視する声があるということも知っている。

 彼らを粛清することは容易い。だがそのようなことをしていては人心はさらに離れていく。故に先手を打ち「ウロボロス」の正当性を否定した。

 新たな反動勢力「ウロボロス」は一度新宿の「ヴァルハラ」化を解き、姿を消した。術式の解析防止策だろう。

 だがヴァルキリー側にそれを解析できるような術師はいない。

 ベオウルフが発したという「モルガン」という名前。それが「モルガン・ル・フェ」であれば彼女の持つ空間干渉能力を超える術師など存在しないに等しいからだ。

 それでも尚ヴァルキリーを警戒する慎重さは「血戦派」の頭首ロデリックを思わせ、いざという時の行動の大胆さは「ラグナロク」の首領カグツチを思わせる。

 ベオウルフ。かつて“厄災”を打ち払った十人の死神の筆頭であり、かつて死神に序列制度があった際の『序列第一位』の主席死神。

 そして彼を含めた生き残りは皆ヴァルキリーたちが「ヴァルハラ」に閉じ込めてしまった。

 “厄災”に手も足も出なかった当時のヴァルキリーに見切りを付けて裏切るかもしれなかったからだ。

「そして今になって反旗を翻しているのです。やはり私たちは正しかった……」

 そうやってシュヴェルトライテは当時の判断を正当化する。

 そして死神たちが退出し、ヴァルキリーだけになった空間でヘルムヴィーゲがシュヴェルトライテに歩み寄り言った。

「姉上。ハッキリ言わせてもらいます。わたしはああいうやり方は嫌いだ。あのイカレが権能を発動し続けたらどうなったかあなたにもわかるはずだ」

「その分我々の正当性を証明する材料となります。必要な犠牲です」

 シュヴェルトライテはヘルムヴィーゲに平然と言ってのけた。東京でどれだけ死者が出てもかまわないということを。

「アンタおかしいよ。ベオウルフは言ってたよな? 『死神は弱い。頼りない』って。けどアンタのやってることは弱いなんてことよりもよっぽど『悪』だ! そうだろ!?」

「口の利き方に気を付けなさい。私たちは正しい。あの者たちが余計なことをするから強硬策に打って出たまで。あなたこそ死神を犠牲にするような策を立てるでしょう?」

「兵隊と民草が同じもんか! あいつらだって覚悟を持って戦ってる! 何もわからず殺されてるわけじゃない!」

 ヘルムヴィーゲは剣に手をかける。圧倒的な権能を持った姉への反逆行為。殺されても仕方がない。だが彼女はそうせずにはいられなかった。

「お、お姉さま……『ウロボロス』が、出たって……」

 事が起こる直前。再び一触即発の二人に怯え切ったロスヴァイセが報告に来た。

「ヘルムヴィーゲ。出陣なさい。私はここで全体の指揮をします」

 ヘルムヴィーゲは無言で転移し、ロスヴァイセも続いて出て行った。

「私たちは正しい……私は、正しい……」

 シュヴェルトライテは自らに言い聞かせる。繰り返し、繰り返し。



 ヴァルキリーによる公権力への介入で、無人になった新宿駅周辺を再び浅瀬の海が覆っている。

 前回と異なるのはその範囲が広がっているということだ。ヴァルキリー軍が布陣し終えると同時に、三人の死神が転移してくる。どれもヴァルキリーと見紛うかと思うほどの霊力を秘めている。

 ヘルムヴィーゲはその三人を見て顔を歪める。ベオウルフと古風な日本の甲冑を身に着けた男、中世ヨーロッパの甲冑を着込んだ女。

「ベオウルフ、サカノウエ・タムラマロ、ジャンヌ・ダルクか。勝てないな、これは」

 彼女にしては珍しく弱気に思える発言であった。そしてベオウルフに問いかける。

「どうやって出てきたのか教えてくれないか? 興味本位だ。別に答えずに死んでくれても構わないが」

「君は相変わらずだな、ヘルムヴィーゲ。そうやって強者を装うのは疲れるだろうに」

 ベオウルフはわざとらしくヘルムヴィーゲを煽る。普段の彼女であれば乗っていたところであった、相手が「元序列第一位」の死神である以上、軽挙妄動は慎まなければならない。

「じゃあ答え合わせだ。モルガン・ル・フェが絡んでるなら答えは一つだろ? この空間にアヴァロンを重ねてるんだ。『ウロボロス』が行動出来るようにわざわざヴァルハラと同じ空間に作り変えてな。そこまでヴァルキリーが憎いか、モルガン」

「そうね、憎いわ。死神なんかにされなければあんな血塗られた人生を歩まずに済んだもの。滅びて頂戴、ヴァルキリー……!」

 空間から直接声がする。その死神は楽園アヴァロンの主、モルガン・ル・フェ。

 本来アヴァロンを管理する存在であった彼女は、死神などとは無縁の存在だった。

 モルガンがヴァルキリーを恨む理由は十分にある。

 それは人間には過ぎた力を手にしたアーサー王と聖剣エクスカリバーにまつわる悲劇。

 聖剣の加護により死神に堕とすことのできなかった彼を破滅させるために、モルガンは死神に仕立て上げられたのだから。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第74話 白き姿の反逆者


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「見ましたか、この行いを。全て『ウロボロス』によるものです。いくら『元序列第一位』であろうとも『ヴァルハラ』に堕とされるような者に大義などありません」
 謁見の間に死神が集められている。一矢が初めて招集を受けた時よりもかなり死神の数は減っている。
 しかしそれぞれが歴戦の死神であったり、ヴァルキリーが温存していた死神なのだ。
 数は減ったが質の面ではまだ敵対勢力と争う戦力は残っている。
 浅瀬の海のようになった新宿駅前と、そこに現れたベオウルフ、そして皆殺しにされた一般人。
 謁見の間にはそれら短時間の映像が繰り返し空間に投影されている。
「ベオウルフは人間を死神の手で統治すると言いました。しかし、その結果がこれです。彼は人間を平気で巻き込むような戦いをする死神だったのです。手を取り合う道は絶たれました。最早我々は彼らと戦うしかないのです」
 シュヴェルトライテ。彼女は張献忠が虐殺を敢行することも、ベオウルフに勝てないということも理解した上で彼を派遣していた。
 伯爵の暗躍により東京の霊的バランスが極端に崩れたのは事実だ。そして一部の死神の間でヴァルキリーの統治を不安視する声があるということも知っている。
 彼らを粛清することは容易い。だがそのようなことをしていては人心はさらに離れていく。故に先手を打ち「ウロボロス」の正当性を否定した。
 新たな反動勢力「ウロボロス」は一度新宿の「ヴァルハラ」化を解き、姿を消した。術式の解析防止策だろう。
 だがヴァルキリー側にそれを解析できるような術師はいない。
 ベオウルフが発したという「モルガン」という名前。それが「モルガン・ル・フェ」であれば彼女の持つ空間干渉能力を超える術師など存在しないに等しいからだ。
 それでも尚ヴァルキリーを警戒する慎重さは「血戦派」の頭首ロデリックを思わせ、いざという時の行動の大胆さは「ラグナロク」の首領カグツチを思わせる。
 ベオウルフ。かつて“厄災”を打ち払った十人の死神の筆頭であり、かつて死神に序列制度があった際の『序列第一位』の主席死神。
 そして彼を含めた生き残りは皆ヴァルキリーたちが「ヴァルハラ」に閉じ込めてしまった。
 “厄災”に手も足も出なかった当時のヴァルキリーに見切りを付けて裏切るかもしれなかったからだ。
「そして今になって反旗を翻しているのです。やはり私たちは正しかった……」
 そうやってシュヴェルトライテは当時の判断を正当化する。
 そして死神たちが退出し、ヴァルキリーだけになった空間でヘルムヴィーゲがシュヴェルトライテに歩み寄り言った。
「姉上。ハッキリ言わせてもらいます。わたしはああいうやり方は嫌いだ。あのイカレが権能を発動し続けたらどうなったかあなたにもわかるはずだ」
「その分我々の正当性を証明する材料となります。必要な犠牲です」
 シュヴェルトライテはヘルムヴィーゲに平然と言ってのけた。東京でどれだけ死者が出てもかまわないということを。
「アンタおかしいよ。ベオウルフは言ってたよな? 『死神は弱い。頼りない』って。けどアンタのやってることは弱いなんてことよりもよっぽど『悪』だ! そうだろ!?」
「口の利き方に気を付けなさい。私たちは正しい。あの者たちが余計なことをするから強硬策に打って出たまで。あなたこそ死神を犠牲にするような策を立てるでしょう?」
「兵隊と民草が同じもんか! あいつらだって覚悟を持って戦ってる! 何もわからず殺されてるわけじゃない!」
 ヘルムヴィーゲは剣に手をかける。圧倒的な権能を持った姉への反逆行為。殺されても仕方がない。だが彼女はそうせずにはいられなかった。
「お、お姉さま……『ウロボロス』が、出たって……」
 事が起こる直前。再び一触即発の二人に怯え切ったロスヴァイセが報告に来た。
「ヘルムヴィーゲ。出陣なさい。私はここで全体の指揮をします」
 ヘルムヴィーゲは無言で転移し、ロスヴァイセも続いて出て行った。
「私たちは正しい……私は、正しい……」
 シュヴェルトライテは自らに言い聞かせる。繰り返し、繰り返し。
 ヴァルキリーによる公権力への介入で、無人になった新宿駅周辺を再び浅瀬の海が覆っている。
 前回と異なるのはその範囲が広がっているということだ。ヴァルキリー軍が布陣し終えると同時に、三人の死神が転移してくる。どれもヴァルキリーと見紛うかと思うほどの霊力を秘めている。
 ヘルムヴィーゲはその三人を見て顔を歪める。ベオウルフと古風な日本の甲冑を身に着けた男、中世ヨーロッパの甲冑を着込んだ女。
「ベオウルフ、サカノウエ・タムラマロ、ジャンヌ・ダルクか。勝てないな、これは」
 彼女にしては珍しく弱気に思える発言であった。そしてベオウルフに問いかける。
「どうやって出てきたのか教えてくれないか? 興味本位だ。別に答えずに死んでくれても構わないが」
「君は相変わらずだな、ヘルムヴィーゲ。そうやって強者を装うのは疲れるだろうに」
 ベオウルフはわざとらしくヘルムヴィーゲを煽る。普段の彼女であれば乗っていたところであった、相手が「元序列第一位」の死神である以上、軽挙妄動は慎まなければならない。
「じゃあ答え合わせだ。モルガン・ル・フェが絡んでるなら答えは一つだろ? この空間にアヴァロンを重ねてるんだ。『ウロボロス』が行動出来るようにわざわざヴァルハラと同じ空間に作り変えてな。そこまでヴァルキリーが憎いか、モルガン」
「そうね、憎いわ。死神なんかにされなければあんな血塗られた人生を歩まずに済んだもの。滅びて頂戴、ヴァルキリー……!」
 空間から直接声がする。その死神は楽園アヴァロンの主、モルガン・ル・フェ。
 本来アヴァロンを管理する存在であった彼女は、死神などとは無縁の存在だった。
 モルガンがヴァルキリーを恨む理由は十分にある。
 それは人間には過ぎた力を手にしたアーサー王と聖剣エクスカリバーにまつわる悲劇。
 聖剣の加護により死神に堕とすことのできなかった彼を破滅させるために、モルガンは死神に仕立て上げられたのだから。