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第74話 白き姿の反逆者

ー/ー



 アーサー王はこの世界で最も有名とも言える聖剣エクスカリバーを手にし、王として認められた。

 そして人ならざる者から与えられたその強力な力はヴァルキリーの格好の標的となった。アーサーを死神に転生させようとしたのである。

 だがそれは叶わなかった。聖剣の加護がヴァルキリーの干渉を跳ねのけたのだ。そして彼を慕う強力な円卓の騎士達。

 故にヴァルキリーは一人の人間が持つには有り余る力を手にしたと認識したアーサー王を何が何でも失墜させようとしたのである。

 そして楽園の管理者モルガン・ル・フェに白羽の矢が立った。

 ヴァルキリーは彼女を死神として、アーサーを破滅させるべく行動させた。その死神としてのあり方はとても歪なものだった。

 狩る対象が存在しなかったのである。

 ヴァルキリーはモルガンによってアーサー王を殺すことは最初から諦め、死神としての権能と在り方を「アーサーの破滅」と設定して彼女を作成した。

 死神となったモルガンは「アーサーの破滅」を目的としてあらゆる手を尽くした。

 後にアーサー王を殺すことになるモルドレッドを彼との間に産み、手にしていればどんな傷も受けない聖剣の鞘を盗み湖に沈めた。

 ヴァルキリーによって強力に設定された「権能」は彼女の意思では制御できなかったからだ。

 玉座を奪ったモルドレッドはアーサーによって殺されたが、アーサーは最後の戦闘で致命傷を負う。

 そしてアーサーを破滅させたことで正気に戻ったモルガンは彼の傷を癒すべく、アヴァロンへ運んだが「権能」による縛りが作動しなくなった時点で既に遅かった。

 かくしてアーサー王は滅びたのだった。

 彼女はアーサー王の遺体を抱きかかえながら自身を滅びの魔女に仕立て上げたヴァルキリーをひたすらに恨んだ。
 
 そしてモルガンは元の魔女に戻されることもなく、ただヴァルキリーに無視された。狩りの対象もいないので滅ぶこともない。生になんの意味も見出せないまま流浪した。

 極東で起きた事件で世界が歪み、ベオウルフからの接触があるまでは。



「滅びなさい……ヴァルキリー……」

「黙れ。ティルヴィングはサカノウエの相手をしろ。わたしはベオウルフを引き受ける。残りはジャンヌ・ダルクをなるべく遠くに追いやって分断しろ。あいつが一番厄介だからな」

 直属の精鋭たちに命令を飛ばすヘルムヴィーゲ。

 だが姉の引き起こした虐殺の件で味方の戦意を煽ることはしない。シュヴェルトライテの所業は嫌悪すべきことだと理解しているからだ。

 そして名前の由来でもある「鉄兜」の権能を展開しベオウルフに相対する。

「勝てないと知っていてよくやるね。そもそもヴァルキリーは僕たちが怖いから『ヴァルハラ』に閉じ込めたんじゃなかったのかい?」

「要は負けなければいいんだろ? それにわたしの見解じゃあお前たちが怖いから幽閉したんじゃない。相手すんのがダルいからだ」

 ヴァルキリーの権能でベオウルフの動きを封じようとするが、モルガンの管理領域だからなのか上手く作用しない。ヘルムヴィーゲは殴り合いを覚悟する。

 動いたのはほぼ同時。わずかにベオウルフが速く、ヘルムヴィーゲの胸を殴り付ける。

 彼女は吹き飛ばされそうになりながらギリギリのところで踏みとどまった。

「効かないな。鈍ったんじゃないのか?」

「口から血を流しながら言われても説得力がないね」

 死神の上位存在であるヴァルキリー。そしてその中でも「鉄兜」による硬化で最も防御面において優れたヘルムヴィーゲを一撃で負傷させたベオウルフ。彼女はその危険性を再確認する。

(鈍ったどころじゃない……! ここまで、強かったか……! だが!)

 急接近し拳を振り上げるベオウルフに抜剣するヘルムヴィーゲ。

 ベオウルフの動きが止まる。これはヴァルキリーとして知り得るベオウルフの「誓い」を突いた賭けだった。

「『剣を持たない者には剣で相手をしない』というのがお前の『誓い』だったな。なら逆はどうだ? あの時グレンデルが剣を持っていたら剣で勝負していただろ?」

「悪いけど剣を持った相手に素手で挑むのは僕の『誓い』には抵触しない。だが……上手く僕の『誇り』を突いたね。そんなに剣で勝負したければお相手しようか」

 ヘルムヴィーゲは自身をプライドが高いということを自覚した上で、似た者同士の彼の扱いを心得ていた。剣だとしても油断はできないが、彼女にとっては素手でやり合うより百倍ましだ。

 そしてベオウルフ。この男の剣は生前役に立たなかったフルンティングとネイリングの二振り。ヴァルキリーであるヘルムヴィーゲであれば圧倒できる自負があった。

 激しい剣戟が始まる。ヴァルキリーの高濃度の霊力が宿った剣は一撃ごとが重い。

 だが想定以上にベオウルフは食らいついてくる。これはヘルムヴィーゲにとって誤算だった。

 彼女はジークルーネが保持したまま一時的に消失した「権能剥奪」の権能を発動させるための一瞬の隙を突こうと立ち回る。

 ヘルムヴィーゲは自身の首を狙ったフルンティングによる横薙ぎの一閃を「鉄兜」で強化した顎と肩で挟む。一度限りの曲芸技。上手く一瞬の隙を作り出せた。

 その瞬間ヘルムヴィーゲは背後に大きく跳躍する。ベオウルフを殺すために。

 権能を剥奪してしまえばどんな死神も死ぬ。彼女は文言を唱え始めた。

「主神よ! ヴァルキリー第六女、ヘルムヴィーゲの名において歎願する! この者ベオウルフの権能を剥奪したまえ!」

 だがその隙にヘルムヴィーゲの剣がフルンティングにより弾き飛ばされる。

「な……貴様! 何故生きている!」

 この時点で最早「ウロボロス」の死神はヴァルキリーの「権能」を持ってしても手に負えるものではなくなっていた。その事実はヘルムヴィーゲに大きな隙を作った。

「素手になったね」

 ベオウルフは既にフルンティングを放り捨て、再び距離を詰めていた。

 無防備の顔面に迫る右ストレート。「権能剥奪」のために「鉄兜」の権能は切っていた。これではいくらヴァルキリーであろうとひとたまりもない。

 だがその拳は何者かの両腕に力強く掴まれ止められる。

 白いコートと腰に履いた刀が特徴的な男。レックス。

「レックス! まだ生きていたのか!」

「こちらの台詞だ。あの魔境でまだ滅びていなかったとは」

 ベオウルフはレックスの腕を振り払うと、ヘルムヴィーゲには興味が失せたとばかりにレックスと向かい合う。

 レックスも愛刀の「白鴉」(しろがらす)は抜かずに真っ向から勝負するつもりのようだ。

 過去の「序列第一位」と「序列第八位」による、かつて「世界を救った死神」同士の戦いが始まろうとしていた。


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 アーサー王はこの世界で最も有名とも言える聖剣エクスカリバーを手にし、王として認められた。
 そして人ならざる者から与えられたその強力な力はヴァルキリーの格好の標的となった。アーサーを死神に転生させようとしたのである。
 だがそれは叶わなかった。聖剣の加護がヴァルキリーの干渉を跳ねのけたのだ。そして彼を慕う強力な円卓の騎士達。
 故にヴァルキリーは一人の人間が持つには有り余る力を手にしたと認識したアーサー王を何が何でも失墜させようとしたのである。
 そして楽園の管理者モルガン・ル・フェに白羽の矢が立った。
 ヴァルキリーは彼女を死神として、アーサーを破滅させるべく行動させた。その死神としてのあり方はとても歪なものだった。
 狩る対象が存在しなかったのである。
 ヴァルキリーはモルガンによってアーサー王を殺すことは最初から諦め、死神としての権能と在り方を「アーサーの破滅」と設定して彼女を作成した。
 死神となったモルガンは「アーサーの破滅」を目的としてあらゆる手を尽くした。
 後にアーサー王を殺すことになるモルドレッドを彼との間に産み、手にしていればどんな傷も受けない聖剣の鞘を盗み湖に沈めた。
 ヴァルキリーによって強力に設定された「権能」は彼女の意思では制御できなかったからだ。
 玉座を奪ったモルドレッドはアーサーによって殺されたが、アーサーは最後の戦闘で致命傷を負う。
 そしてアーサーを破滅させたことで正気に戻ったモルガンは彼の傷を癒すべく、アヴァロンへ運んだが「権能」による縛りが作動しなくなった時点で既に遅かった。
 かくしてアーサー王は滅びたのだった。
 彼女はアーサー王の遺体を抱きかかえながら自身を滅びの魔女に仕立て上げたヴァルキリーをひたすらに恨んだ。
 そしてモルガンは元の魔女に戻されることもなく、ただヴァルキリーに無視された。狩りの対象もいないので滅ぶこともない。生になんの意味も見出せないまま流浪した。
 極東で起きた事件で世界が歪み、ベオウルフからの接触があるまでは。
「滅びなさい……ヴァルキリー……」
「黙れ。ティルヴィングはサカノウエの相手をしろ。わたしはベオウルフを引き受ける。残りはジャンヌ・ダルクをなるべく遠くに追いやって分断しろ。あいつが一番厄介だからな」
 直属の精鋭たちに命令を飛ばすヘルムヴィーゲ。
 だが姉の引き起こした虐殺の件で味方の戦意を煽ることはしない。シュヴェルトライテの所業は嫌悪すべきことだと理解しているからだ。
 そして名前の由来でもある「鉄兜」の権能を展開しベオウルフに相対する。
「勝てないと知っていてよくやるね。そもそもヴァルキリーは僕たちが怖いから『ヴァルハラ』に閉じ込めたんじゃなかったのかい?」
「要は負けなければいいんだろ? それにわたしの見解じゃあお前たちが怖いから幽閉したんじゃない。相手すんのがダルいからだ」
 ヴァルキリーの権能でベオウルフの動きを封じようとするが、モルガンの管理領域だからなのか上手く作用しない。ヘルムヴィーゲは殴り合いを覚悟する。
 動いたのはほぼ同時。わずかにベオウルフが速く、ヘルムヴィーゲの胸を殴り付ける。
 彼女は吹き飛ばされそうになりながらギリギリのところで踏みとどまった。
「効かないな。鈍ったんじゃないのか?」
「口から血を流しながら言われても説得力がないね」
 死神の上位存在であるヴァルキリー。そしてその中でも「鉄兜」による硬化で最も防御面において優れたヘルムヴィーゲを一撃で負傷させたベオウルフ。彼女はその危険性を再確認する。
(鈍ったどころじゃない……! ここまで、強かったか……! だが!)
 急接近し拳を振り上げるベオウルフに抜剣するヘルムヴィーゲ。
 ベオウルフの動きが止まる。これはヴァルキリーとして知り得るベオウルフの「誓い」を突いた賭けだった。
「『剣を持たない者には剣で相手をしない』というのがお前の『誓い』だったな。なら逆はどうだ? あの時グレンデルが剣を持っていたら剣で勝負していただろ?」
「悪いけど剣を持った相手に素手で挑むのは僕の『誓い』には抵触しない。だが……上手く僕の『誇り』を突いたね。そんなに剣で勝負したければお相手しようか」
 ヘルムヴィーゲは自身をプライドが高いということを自覚した上で、似た者同士の彼の扱いを心得ていた。剣だとしても油断はできないが、彼女にとっては素手でやり合うより百倍ましだ。
 そしてベオウルフ。この男の剣は生前役に立たなかったフルンティングとネイリングの二振り。ヴァルキリーであるヘルムヴィーゲであれば圧倒できる自負があった。
 激しい剣戟が始まる。ヴァルキリーの高濃度の霊力が宿った剣は一撃ごとが重い。
 だが想定以上にベオウルフは食らいついてくる。これはヘルムヴィーゲにとって誤算だった。
 彼女はジークルーネが保持したまま一時的に消失した「権能剥奪」の権能を発動させるための一瞬の隙を突こうと立ち回る。
 ヘルムヴィーゲは自身の首を狙ったフルンティングによる横薙ぎの一閃を「鉄兜」で強化した顎と肩で挟む。一度限りの曲芸技。上手く一瞬の隙を作り出せた。
 その瞬間ヘルムヴィーゲは背後に大きく跳躍する。ベオウルフを殺すために。
 権能を剥奪してしまえばどんな死神も死ぬ。彼女は文言を唱え始めた。
「主神よ! ヴァルキリー第六女、ヘルムヴィーゲの名において歎願する! この者ベオウルフの権能を剥奪したまえ!」
 だがその隙にヘルムヴィーゲの剣がフルンティングにより弾き飛ばされる。
「な……貴様! 何故生きている!」
 この時点で最早「ウロボロス」の死神はヴァルキリーの「権能」を持ってしても手に負えるものではなくなっていた。その事実はヘルムヴィーゲに大きな隙を作った。
「素手になったね」
 ベオウルフは既にフルンティングを放り捨て、再び距離を詰めていた。
 無防備の顔面に迫る右ストレート。「権能剥奪」のために「鉄兜」の権能は切っていた。これではいくらヴァルキリーであろうとひとたまりもない。
 だがその拳は何者かの両腕に力強く掴まれ止められる。
 白いコートと腰に履いた刀が特徴的な男。レックス。
「レックス! まだ生きていたのか!」
「こちらの台詞だ。あの魔境でまだ滅びていなかったとは」
 ベオウルフはレックスの腕を振り払うと、ヘルムヴィーゲには興味が失せたとばかりにレックスと向かい合う。
 レックスも愛刀の|「白鴉」《しろがらす》は抜かずに真っ向から勝負するつもりのようだ。
 過去の「序列第一位」と「序列第八位」による、かつて「世界を救った死神」同士の戦いが始まろうとしていた。