第177話 ただのお使いが尻ぬぐいに
ー/ー「急に呼び出しとはどういう了見だ、ダリア」
「いや、私が呼んだのはミモザちゃんだけだったんだけど」
授業を終えるなり、何やら放課後に残って職員室まで来いなどと言われたら心配するに決まっておるだろう。
ミモザともに入ってきた職員室内は、生徒たちが帰ったとは思えないほど教職員たちが忙しそうにしていた。そんな慌ただしさとは何処吹く風で、ダリアと対面する。
「ぇぇとぉ……私が何かしましらか?」
「大丈夫。あのこととは関係ないから。……おほん。またミモザちゃんと商談しようと思ってね。教材を作ってもらいたいの」
あのこととは何のことなのか皆目見当もつかないが、肩透かしもいいところだ。
この学校の備品の一部もミモザやその従業員の作ったもので、今も大層愛用されているらしい。
「教材れすか。どういうものでふか?」
「まず、リコリスちゃんに破壊された机や椅子ね。かなりの数になっちゃったから困ってるのよ」
最近は大人しくなっている方とはいえ、あれだけ連日バカスカ壊されていればそうもなるだろうな。
「あと、授業に使う備品ね。実は前々から手配してた奴が倉庫ごとぶっ飛ばされちゃって新しく手配するにも時間が掛かっちゃうのよ」
リコリスの奴め、とんでもなく面倒なことを。
パエデロスはそれなりに大きな国ではあるが、実は生産力は乏しい。おおよそ多くの物資が輸出入で賄われている側面がある。
そのくせして、パエデロスそのものは隣国からは遠く離れた僻地みたいな位置にあるせいでちょっと希少なものとなると時間を要するのだ。
「詳しいリストはこれになるわ。報酬は割り増しで払うし、無理そうなら他も当たるつもりよ」
そういってダリアから羊皮紙を受けとるミモザ。
すると結構な品々がズラリと書き並べてある。これがそのままリコリスの被害だというなら納得だが、それはそれとしてさすがに多すぎる。
「こんなの材料の調達だけでも大変じゃないか」
「分かってるわよ。私だってそこまでミモザちゃんに負担を押しつけるつもりはないわ。今パエデロスで声掛けられる行商人にもあたって何とかしてる最中なの」
品質的な話をすれば、ミモザの店に匹敵するところもそう多くはない。
ほとんどの店が遠方から輸入してくるのに対し、こちらは自作メインだしな。
声が掛かったのも必然ではあるのか。
……とはいえ、仮にも学校の生徒に商談を持ちかける教師というのはどうなんだ。
「ふみゅ……作るならすぐれすが、やっぱり材料の調達に時間が掛かりそうでふね。明日一日学校を休めばなんとか」
「一日でできるのなら大したものだわ。今掛け合ってるところだと材料を取り寄せるだけで何日も掛かるみたいだし、それだったら休みも許可するわよ」
思わず我が出資してやろうか、とか言い出しそうになったが、別に我もパイプをそんなに持ってるわけでもないし、そもそも既に学校に出資している立場なのだから、実質的にやることは変わらず、取り寄せに掛かる時間が短縮できるわけではない。
ここはミモザの判断に任せるしかないのか。
「いくら休みをもらってもこれだけ調達するのは、さすがに一人では大変だろう」
「そうれすね。外に出ることになりまふから従業員のみんなにも声をかけましゅ」
「私も手伝いたいのは山々だけど、まあ、ご覧の通り立て込んでてね」
そりゃ見りゃあ分かる。校長の代役だけでも激務だろうに。
「ふははははははははははっ!!!! 心配することはない。我も手を貸そう!」
「フィーしゃん……ありがとうございまふ」
一先ずは明日は大忙しになりそうだな。
そんなことを考えていたら、何やら職員室内がワッと騒がしくなる。
ただでさえ騒がしいのに、何があったんだ。
そう思ってそちらの方に視線を向けると合点がいった。
「まったく……信じられないことをする。反省の色もなしとは呆れてものも言えん」
「だって臭かったってボンちゃんが言うのだもの。当然のことをしたまでよ」
眼鏡をギンギラギンと光らせ、怒りを露わにしているのはカーネ教師だ。
そして、その怒りを真っ向から浴びて、きょとんとした顔を見せるのは、このネルムフィラ魔導士学院で最大の問題児、リコリスだった。
その横には慌てふためいた様子のクラメもいた。
「ご、ごめ、ふひ、ごめんなさい、カーネ先生……私が余計なことを……」
「ふん。薬が臭うからといって空気を消すバカが何処にいる。危うく補習教室の生徒たちが窒息するところだ。私の教室で死人を出すつもりか」
相変わらず我の見ていない間にも変なトラブルを巻き起こしているようだ。
しかもトラブルの起こし方が異次元過ぎる。
カーネは魔法薬学に精通していることもあり、授業中でもそうでないときでも薬漬けであり、その臭いは一度嗅いだら忘れられないほど強烈だ。
嗅覚の優れたオークの血を引くクラメにとっては死活問題だったのかもしれない。
だが、クラメ一人を助けるつもりで多くの生徒の命を奪おうとするリコリスの非常敷きっぷりにはカーネでなくとも呆れ果てるわ。
「あら、さっちゃん。あなたもここにいたのね。珍しいわ。さっちゃんは何処の教室を壊したのかしら」
「おい、私の話はまだ終わっていないぞ」
リコリスはこちらに気付くなりごく自然と駆け寄ってくる。
カーネをここまで見事にシカトするとは、お前の神経はオリハルコンか。
「お前と一緒にするな。我はミモザの付き添いだ」
「ダリア先生にちょっと頼まれごとを……」
「とっても楽しそうだわ。何を頼まれたのかしら」
リコリスよ、せめてカーネを無視してやるな。
あの眼鏡から光線を放ちかねない勢いで睨み付けているぞ。
「ああ、例の件。ミモザ君に頼むことにしたのか」
状況を察するように眼鏡をすちゃりと指先で押し上げる。
「なら丁度いい。リコリス君。お前には罰として、ミモザ君の手伝いを命じる」
隠しきれないほどの怒気の篭もった口調で言い放つ。
いやいや、なんでそうなるんだよ、と言いたいところだったが、元を辿れば全部リコリスのせいだった。学校の備品を倉庫ごとぶっ放さなければこんなことにはならなかったのだ。当然の帰結といえるのか。
「ちょっと、カーネ先生、そんな急に……」
「ダリア先生。あなたは少し生徒を甘やかしすぎだ。どんな都合があるにせよ、な」
それはごもっともな意見。普通の生徒なら教室を破壊した時点で退学だ。
いくら監視するなんて名目がついてても、リコリスを制御できていない点を指摘されてしまえば言い返す言葉もないだろう。
「もののついでだ。お前が台無しにした魔法薬の材料も調達してきてもらおうか」
これは酷いもののついでもあったものだ。こっちのはれっきとした商談なのに、すっかりリコリスへの罰みたいになっているではないか。
「ふひぃ、あ、あの、カーネ先生。それなら、わ、私も一緒に行きます!」
「……まあいいだろう。特別に許可しよう」
なんかもう勝手に話が進められている。
あの眼鏡男、ギンギラギンとさりげなく全部をこっちに押しつけてきたぞ。
まるで全ての事情を分かっていててあえてそうしたかのよう。
「それで私は何をすればいいのかしら。お買い物すればいいの? それなら得意だわ。お金の使い方なら分かるもの」
諸悪の根源が人の気も知らず、こんなにもウキウキとした調子である。
買い物で済むくらいならわざわざ人に頼むか。
材料の調達くらいならどうにかなっただろうに、リコリスがついてくるとなった途端、急に先行き不安になってきた。
「いや、私が呼んだのはミモザちゃんだけだったんだけど」
授業を終えるなり、何やら放課後に残って職員室まで来いなどと言われたら心配するに決まっておるだろう。
ミモザともに入ってきた職員室内は、生徒たちが帰ったとは思えないほど教職員たちが忙しそうにしていた。そんな慌ただしさとは何処吹く風で、ダリアと対面する。
「ぇぇとぉ……私が何かしましらか?」
「大丈夫。あのこととは関係ないから。……おほん。またミモザちゃんと商談しようと思ってね。教材を作ってもらいたいの」
あのこととは何のことなのか皆目見当もつかないが、肩透かしもいいところだ。
この学校の備品の一部もミモザやその従業員の作ったもので、今も大層愛用されているらしい。
「教材れすか。どういうものでふか?」
「まず、リコリスちゃんに破壊された机や椅子ね。かなりの数になっちゃったから困ってるのよ」
最近は大人しくなっている方とはいえ、あれだけ連日バカスカ壊されていればそうもなるだろうな。
「あと、授業に使う備品ね。実は前々から手配してた奴が倉庫ごとぶっ飛ばされちゃって新しく手配するにも時間が掛かっちゃうのよ」
リコリスの奴め、とんでもなく面倒なことを。
パエデロスはそれなりに大きな国ではあるが、実は生産力は乏しい。おおよそ多くの物資が輸出入で賄われている側面がある。
そのくせして、パエデロスそのものは隣国からは遠く離れた僻地みたいな位置にあるせいでちょっと希少なものとなると時間を要するのだ。
「詳しいリストはこれになるわ。報酬は割り増しで払うし、無理そうなら他も当たるつもりよ」
そういってダリアから羊皮紙を受けとるミモザ。
すると結構な品々がズラリと書き並べてある。これがそのままリコリスの被害だというなら納得だが、それはそれとしてさすがに多すぎる。
「こんなの材料の調達だけでも大変じゃないか」
「分かってるわよ。私だってそこまでミモザちゃんに負担を押しつけるつもりはないわ。今パエデロスで声掛けられる行商人にもあたって何とかしてる最中なの」
品質的な話をすれば、ミモザの店に匹敵するところもそう多くはない。
ほとんどの店が遠方から輸入してくるのに対し、こちらは自作メインだしな。
声が掛かったのも必然ではあるのか。
……とはいえ、仮にも学校の生徒に商談を持ちかける教師というのはどうなんだ。
「ふみゅ……作るならすぐれすが、やっぱり材料の調達に時間が掛かりそうでふね。明日一日学校を休めばなんとか」
「一日でできるのなら大したものだわ。今掛け合ってるところだと材料を取り寄せるだけで何日も掛かるみたいだし、それだったら休みも許可するわよ」
思わず我が出資してやろうか、とか言い出しそうになったが、別に我もパイプをそんなに持ってるわけでもないし、そもそも既に学校に出資している立場なのだから、実質的にやることは変わらず、取り寄せに掛かる時間が短縮できるわけではない。
ここはミモザの判断に任せるしかないのか。
「いくら休みをもらってもこれだけ調達するのは、さすがに一人では大変だろう」
「そうれすね。外に出ることになりまふから従業員のみんなにも声をかけましゅ」
「私も手伝いたいのは山々だけど、まあ、ご覧の通り立て込んでてね」
そりゃ見りゃあ分かる。校長の代役だけでも激務だろうに。
「ふははははははははははっ!!!! 心配することはない。我も手を貸そう!」
「フィーしゃん……ありがとうございまふ」
一先ずは明日は大忙しになりそうだな。
そんなことを考えていたら、何やら職員室内がワッと騒がしくなる。
ただでさえ騒がしいのに、何があったんだ。
そう思ってそちらの方に視線を向けると合点がいった。
「まったく……信じられないことをする。反省の色もなしとは呆れてものも言えん」
「だって臭かったってボンちゃんが言うのだもの。当然のことをしたまでよ」
眼鏡をギンギラギンと光らせ、怒りを露わにしているのはカーネ教師だ。
そして、その怒りを真っ向から浴びて、きょとんとした顔を見せるのは、このネルムフィラ魔導士学院で最大の問題児、リコリスだった。
その横には慌てふためいた様子のクラメもいた。
「ご、ごめ、ふひ、ごめんなさい、カーネ先生……私が余計なことを……」
「ふん。薬が臭うからといって空気を消すバカが何処にいる。危うく補習教室の生徒たちが窒息するところだ。私の教室で死人を出すつもりか」
相変わらず我の見ていない間にも変なトラブルを巻き起こしているようだ。
しかもトラブルの起こし方が異次元過ぎる。
カーネは魔法薬学に精通していることもあり、授業中でもそうでないときでも薬漬けであり、その臭いは一度嗅いだら忘れられないほど強烈だ。
嗅覚の優れたオークの血を引くクラメにとっては死活問題だったのかもしれない。
だが、クラメ一人を助けるつもりで多くの生徒の命を奪おうとするリコリスの非常敷きっぷりにはカーネでなくとも呆れ果てるわ。
「あら、さっちゃん。あなたもここにいたのね。珍しいわ。さっちゃんは何処の教室を壊したのかしら」
「おい、私の話はまだ終わっていないぞ」
リコリスはこちらに気付くなりごく自然と駆け寄ってくる。
カーネをここまで見事にシカトするとは、お前の神経はオリハルコンか。
「お前と一緒にするな。我はミモザの付き添いだ」
「ダリア先生にちょっと頼まれごとを……」
「とっても楽しそうだわ。何を頼まれたのかしら」
リコリスよ、せめてカーネを無視してやるな。
あの眼鏡から光線を放ちかねない勢いで睨み付けているぞ。
「ああ、例の件。ミモザ君に頼むことにしたのか」
状況を察するように眼鏡をすちゃりと指先で押し上げる。
「なら丁度いい。リコリス君。お前には罰として、ミモザ君の手伝いを命じる」
隠しきれないほどの怒気の篭もった口調で言い放つ。
いやいや、なんでそうなるんだよ、と言いたいところだったが、元を辿れば全部リコリスのせいだった。学校の備品を倉庫ごとぶっ放さなければこんなことにはならなかったのだ。当然の帰結といえるのか。
「ちょっと、カーネ先生、そんな急に……」
「ダリア先生。あなたは少し生徒を甘やかしすぎだ。どんな都合があるにせよ、な」
それはごもっともな意見。普通の生徒なら教室を破壊した時点で退学だ。
いくら監視するなんて名目がついてても、リコリスを制御できていない点を指摘されてしまえば言い返す言葉もないだろう。
「もののついでだ。お前が台無しにした魔法薬の材料も調達してきてもらおうか」
これは酷いもののついでもあったものだ。こっちのはれっきとした商談なのに、すっかりリコリスへの罰みたいになっているではないか。
「ふひぃ、あ、あの、カーネ先生。それなら、わ、私も一緒に行きます!」
「……まあいいだろう。特別に許可しよう」
なんかもう勝手に話が進められている。
あの眼鏡男、ギンギラギンとさりげなく全部をこっちに押しつけてきたぞ。
まるで全ての事情を分かっていててあえてそうしたかのよう。
「それで私は何をすればいいのかしら。お買い物すればいいの? それなら得意だわ。お金の使い方なら分かるもの」
諸悪の根源が人の気も知らず、こんなにもウキウキとした調子である。
買い物で済むくらいならわざわざ人に頼むか。
材料の調達くらいならどうにかなっただろうに、リコリスがついてくるとなった途端、急に先行き不安になってきた。
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