【従業員】天使たちはここにいた
ー/ー 最近誕生したばかりのパエデロス国には、建国される以前から遠方にも名が知れ渡っている名物が多い。天使の店もまた、そのうちのひとつだった。
特徴として従業員のほとんどが亜人であり、異種族だという点が挙げられる。店長もそれはそれは愛くるしいエルフの少女なのも人気を呼んでいた。
また、魔力の乏しいものでも魔法を扱えるという魔具店としても評判が高く、店の従業員を一目見たい者と質の高い魔具を求めている者とで半々くらいとなっている。
冒険者たちにとって、天使のいる店でもあり、天国のような店とも言えた。
最近では、諸事情により日中に話題の店長が顔を出すことも少なくなったものの、それでも店は大繁盛。その人気っぷりは魔具店としては国内一、はたまた大陸一といっても過言ではないだろう。
今日も今日とて、店内は冒険者たちでごった返している。
「あざっしたぁ!」
ふと、そんな天使の店の出入り口で一際目を惹く巨体が満面の笑みで客を見送る。黒光りしたムキムキの筋肉の眩しい彼女の名はノイデス・ノウマウス。
ハーフオーガの従業員だ。
接客も慣れたものだが、店内の棚と棚の隙間を所狭しと歩く彼女の姿は見ようによっては進撃する巨人のようにも思えなくもなかった。実際のところ、ノイデスがこの店で働き始めた当初は筋肉に威圧されて客が避けて通っていたくらいだ。
今では大分馴染んでおり、むしろ彼女の笑顔を見るために足を運ぶ客もいるとか。
「おう、ノイちゃん。うっかり棚を倒すんじゃないぞ。ははは」
「うっせいや、からかうんじゃねえ。また直すからいいんだよ」
客に大股開きっぷりを笑われつつも照れくさそうに怒る。既にいくつか棚を壊した前科がある手前、強く否定できないところがむず痒かったようだ。
「おい、てめえ! 俺の足を踏むんじゃねえ!」
「ああん? おめえこそ、さっきから背中押してくんなよ!」
店の一角、何やら穏やかではない声が聞こえてくる。どうやら客の冒険者が言い争いをしている様子だ。それを察知するや否や、ノイデスはノッシノシとまた大股開きでそちらの方へと向かっていく。
「おいこらぁ! ケンカすんなら外に出な!」
「ひぃぃ! の、ノイデスさん……」
「ご、ごめんなさい……、そんなつもりじゃあ……あわわ」
グイグイと迫ってくるノイデスの圧ときたら、蛇に睨まれた蛙のよう。背伸びしても足りない背丈の差に、冒険者の男二人はたちまちたじたじ。いたたまれなくなり、すごすごと店の出口へと逃げていった。
悪い客がいてもこれこのように、ノイデスの眼光と筋肉が用心棒の役割を果たす。
「ノイデスさん、お客をそんな風に追い払うものじゃないですよ」
店内の一角に設けられた工房から呆れるような声が届く。そこには、ちょこんと座る小さな女の子が剣を回転砥石で磨きながら溜め息をついていた。
彼女の名はサンシ・マルバ。ノイデスと同じくこの店の従業員をやっているドワーフだ。見かけは幼い少女だが、鍛冶を担当しており、冒険者の武具の手入れから修繕までをこなすベテランだ。ちなみに五十歳は越えている。
「俺はただ注意しただけだっての。向こうが勝手に逃げたんじゃねえか」
ノイデスは頬を膨らませてふてくされる。内心、本当に注意をしただけのつもりなのにあんな怯えた様子で逃げられたものだから傷ついてる側面もあった様子。
こう見えて、彼女はまだ若い。サンシと比べれば尚のこと。
「みなさぁん、お弁当できましたよぉ~」
のほほんとしたゆるやかなボイスとともに店の奥から姿を現したのは褐色肌に白髪のエルフ、デニア・アスタロイズだった。何やら食欲のそそる薫りを立ち上らせながらも大きな箱をうんしょと運んでくる。
それと同時くらいに、店のカウンターへと冒険者たちが待ってましたとばかりに殺到していった。弁当という通り、冒険のためには必要不可欠な食料だ。
本来、魔具を主に取り扱っている店ではあるものの、この店の常連たる冒険者たちの需要もあって、こういった食料も販売している。
その中でもとびきり人気なのは、ジャガイモをスライスして油で揚げ、塩で味付けをした携帯食料。店長の名前からとってその名もミモザチップス。売り上げ数だけなら魔具にも匹敵するほど。何故か酒のつまみとして買っていく客もいる。
そんな傍らで密かに根強く人気があるのはデニア特製のお弁当だ。遠方の大陸出身のエルフ特有の独特な味付けに加え、エルフならではの薬学の知識が詰め込まれた栄養豊富なお弁当は、そんじょそこらの調理師など目ではないほど希少だった。
嘘か誠かは定かではないが、このデニア弁当をひとつ旅に持っていくだけで三日三晩は冒険に集中できるとまで言われているらしい。
そうこうしているうちにも、カウンターの前に長蛇の列が出来上がっていくが――なんということだろう、冒険者たちは立ち止まることなく次から次へと捌けていく。
「ミモザチップス十袋ですね、ありがとうございます。はい、そちらはお弁当二つ。あ、はい、こちらの魔具はですね――」
何かの目の錯覚でなければ、そのカウンターの向こう側には同じ顔をした従業員が五、六人くらい同時に接客しているように見えた。硬貨一枚間違うことなく正確無比にお金のやり取りを併行にこなし、目にも留まらぬ超高速で会計を終わらせている。
何が恐ろしいかって、カウンターの向こうにいる従業員はデニアともう一人しかいないということだ。あまりの接客の速さに分身して見えているだけに過ぎない。
一見して複数人いるかのように見える彼女の名はヤスミ・イクソラ。この天使の店では逆に珍しい人間の従業員だ。
黒髪を個性的なツインテールにしている彼女は、初見こそ何処か珍妙な印象を受けがちだが、明るく懇切丁寧な応対で評判もいい。何より、これだけ客が押し寄せているのにも関わらず、笑顔を絶やすことなく客を捌けているのがその証拠だろう。
「はぁい、いつもありがとうございまぁす。またのおこしをお待ちしておりまぁす」
真横の異様な俊敏さとは打って変わってのんびりとした口調のデニアは、むしろヤスミと対照的であるがゆえに、そのおっとり具合に拍車が掛かる。
店を出た客たちのなんとほっこりとした顔。
満足感に満ちあふれて店を後にしていく。
「あざっしたぁ!」
ついでに、ノイデスの笑顔に見送られながら。
噂に違わぬ天使の店。一度訪れれば常連になること間違いなしと言えよう。
やがて日が落ちて、辺りが薄暗くなっていく頃合い。繁華街の方に人々が流れ込んでいき、酒場が賑わっていく、そんな時間帯。
さすがにそろそろ魔具店の客もぞろぞろと移動していくのかと思いきや、それは全くの真逆で、どういうわけかドドドドドと地鳴りが響き渡る勢いで天使の店に冒険者が押し寄せる――否、雪崩れ込んできた。
そのタイミングくらいだっただろうか。
天使の店の裏口を潜ってカウンター側から小さな二人が姿を現す。
「ただいまれす。みなさん、お疲れしゃまでふ~」
「今帰ったぞ」
「あ、店長ぅ~、お嬢様ぁ~、丁度いいタイミングでしたねぇ~」
太陽に照らされる小麦の如く金髪に透き通った空色の瞳の少女と、月の如く美しき銀髪と血の如く紅い瞳をした少女がそこに立つ。
「「「うおおおおおお!!!! 待ってましたぁぁぁ!!!!」」」
あたかも見計らったかのような突然の満員御礼。そう、この店の天使は今まさに帰ってきたばかり。ここからが本当の意味で天使の店となるのだ。
特徴として従業員のほとんどが亜人であり、異種族だという点が挙げられる。店長もそれはそれは愛くるしいエルフの少女なのも人気を呼んでいた。
また、魔力の乏しいものでも魔法を扱えるという魔具店としても評判が高く、店の従業員を一目見たい者と質の高い魔具を求めている者とで半々くらいとなっている。
冒険者たちにとって、天使のいる店でもあり、天国のような店とも言えた。
最近では、諸事情により日中に話題の店長が顔を出すことも少なくなったものの、それでも店は大繁盛。その人気っぷりは魔具店としては国内一、はたまた大陸一といっても過言ではないだろう。
今日も今日とて、店内は冒険者たちでごった返している。
「あざっしたぁ!」
ふと、そんな天使の店の出入り口で一際目を惹く巨体が満面の笑みで客を見送る。黒光りしたムキムキの筋肉の眩しい彼女の名はノイデス・ノウマウス。
ハーフオーガの従業員だ。
接客も慣れたものだが、店内の棚と棚の隙間を所狭しと歩く彼女の姿は見ようによっては進撃する巨人のようにも思えなくもなかった。実際のところ、ノイデスがこの店で働き始めた当初は筋肉に威圧されて客が避けて通っていたくらいだ。
今では大分馴染んでおり、むしろ彼女の笑顔を見るために足を運ぶ客もいるとか。
「おう、ノイちゃん。うっかり棚を倒すんじゃないぞ。ははは」
「うっせいや、からかうんじゃねえ。また直すからいいんだよ」
客に大股開きっぷりを笑われつつも照れくさそうに怒る。既にいくつか棚を壊した前科がある手前、強く否定できないところがむず痒かったようだ。
「おい、てめえ! 俺の足を踏むんじゃねえ!」
「ああん? おめえこそ、さっきから背中押してくんなよ!」
店の一角、何やら穏やかではない声が聞こえてくる。どうやら客の冒険者が言い争いをしている様子だ。それを察知するや否や、ノイデスはノッシノシとまた大股開きでそちらの方へと向かっていく。
「おいこらぁ! ケンカすんなら外に出な!」
「ひぃぃ! の、ノイデスさん……」
「ご、ごめんなさい……、そんなつもりじゃあ……あわわ」
グイグイと迫ってくるノイデスの圧ときたら、蛇に睨まれた蛙のよう。背伸びしても足りない背丈の差に、冒険者の男二人はたちまちたじたじ。いたたまれなくなり、すごすごと店の出口へと逃げていった。
悪い客がいてもこれこのように、ノイデスの眼光と筋肉が用心棒の役割を果たす。
「ノイデスさん、お客をそんな風に追い払うものじゃないですよ」
店内の一角に設けられた工房から呆れるような声が届く。そこには、ちょこんと座る小さな女の子が剣を回転砥石で磨きながら溜め息をついていた。
彼女の名はサンシ・マルバ。ノイデスと同じくこの店の従業員をやっているドワーフだ。見かけは幼い少女だが、鍛冶を担当しており、冒険者の武具の手入れから修繕までをこなすベテランだ。ちなみに五十歳は越えている。
「俺はただ注意しただけだっての。向こうが勝手に逃げたんじゃねえか」
ノイデスは頬を膨らませてふてくされる。内心、本当に注意をしただけのつもりなのにあんな怯えた様子で逃げられたものだから傷ついてる側面もあった様子。
こう見えて、彼女はまだ若い。サンシと比べれば尚のこと。
「みなさぁん、お弁当できましたよぉ~」
のほほんとしたゆるやかなボイスとともに店の奥から姿を現したのは褐色肌に白髪のエルフ、デニア・アスタロイズだった。何やら食欲のそそる薫りを立ち上らせながらも大きな箱をうんしょと運んでくる。
それと同時くらいに、店のカウンターへと冒険者たちが待ってましたとばかりに殺到していった。弁当という通り、冒険のためには必要不可欠な食料だ。
本来、魔具を主に取り扱っている店ではあるものの、この店の常連たる冒険者たちの需要もあって、こういった食料も販売している。
その中でもとびきり人気なのは、ジャガイモをスライスして油で揚げ、塩で味付けをした携帯食料。店長の名前からとってその名もミモザチップス。売り上げ数だけなら魔具にも匹敵するほど。何故か酒のつまみとして買っていく客もいる。
そんな傍らで密かに根強く人気があるのはデニア特製のお弁当だ。遠方の大陸出身のエルフ特有の独特な味付けに加え、エルフならではの薬学の知識が詰め込まれた栄養豊富なお弁当は、そんじょそこらの調理師など目ではないほど希少だった。
嘘か誠かは定かではないが、このデニア弁当をひとつ旅に持っていくだけで三日三晩は冒険に集中できるとまで言われているらしい。
そうこうしているうちにも、カウンターの前に長蛇の列が出来上がっていくが――なんということだろう、冒険者たちは立ち止まることなく次から次へと捌けていく。
「ミモザチップス十袋ですね、ありがとうございます。はい、そちらはお弁当二つ。あ、はい、こちらの魔具はですね――」
何かの目の錯覚でなければ、そのカウンターの向こう側には同じ顔をした従業員が五、六人くらい同時に接客しているように見えた。硬貨一枚間違うことなく正確無比にお金のやり取りを併行にこなし、目にも留まらぬ超高速で会計を終わらせている。
何が恐ろしいかって、カウンターの向こうにいる従業員はデニアともう一人しかいないということだ。あまりの接客の速さに分身して見えているだけに過ぎない。
一見して複数人いるかのように見える彼女の名はヤスミ・イクソラ。この天使の店では逆に珍しい人間の従業員だ。
黒髪を個性的なツインテールにしている彼女は、初見こそ何処か珍妙な印象を受けがちだが、明るく懇切丁寧な応対で評判もいい。何より、これだけ客が押し寄せているのにも関わらず、笑顔を絶やすことなく客を捌けているのがその証拠だろう。
「はぁい、いつもありがとうございまぁす。またのおこしをお待ちしておりまぁす」
真横の異様な俊敏さとは打って変わってのんびりとした口調のデニアは、むしろヤスミと対照的であるがゆえに、そのおっとり具合に拍車が掛かる。
店を出た客たちのなんとほっこりとした顔。
満足感に満ちあふれて店を後にしていく。
「あざっしたぁ!」
ついでに、ノイデスの笑顔に見送られながら。
噂に違わぬ天使の店。一度訪れれば常連になること間違いなしと言えよう。
やがて日が落ちて、辺りが薄暗くなっていく頃合い。繁華街の方に人々が流れ込んでいき、酒場が賑わっていく、そんな時間帯。
さすがにそろそろ魔具店の客もぞろぞろと移動していくのかと思いきや、それは全くの真逆で、どういうわけかドドドドドと地鳴りが響き渡る勢いで天使の店に冒険者が押し寄せる――否、雪崩れ込んできた。
そのタイミングくらいだっただろうか。
天使の店の裏口を潜ってカウンター側から小さな二人が姿を現す。
「ただいまれす。みなさん、お疲れしゃまでふ~」
「今帰ったぞ」
「あ、店長ぅ~、お嬢様ぁ~、丁度いいタイミングでしたねぇ~」
太陽に照らされる小麦の如く金髪に透き通った空色の瞳の少女と、月の如く美しき銀髪と血の如く紅い瞳をした少女がそこに立つ。
「「「うおおおおおお!!!! 待ってましたぁぁぁ!!!!」」」
あたかも見計らったかのような突然の満員御礼。そう、この店の天使は今まさに帰ってきたばかり。ここからが本当の意味で天使の店となるのだ。
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