ep126 エレサ

ー/ー



 みんな各々の寝室へ入った。
 とりあえずベッドに横になる。

「正直、かなり質素だけど、ギャングの街だから仕方がないか。いや、そんなことよりもむしろ……」

 ギャングの街というわりには〔ヘッドフィールド〕には自由と秩序が存在した。決して豊かではないが、陰気に沈んでもいなかった。それらの事実も、まだ見ぬジェイズという男へ興味深い色彩を加えた。

「どんな男なんだろうか……」と一人言が漏れた時、コンコンと部屋がノックされた。

「誰だ……」

 一瞬、剣を出そうと考えるも、それはせずに警戒しながらカチャッと扉を開けた。

「クロー」

「エレサ?」

 来訪者は寝衣に着替えたエレサだった。なんとなくもじもじしている。

「あの、クロー」

「どうしたんだ?」

「少し、話がしたくて」

「じゃあ入るか?」

「うん」

 エレサは部屋に入ってくると、おもむろにベッドへ腰かけた。
 俺はドアを閉めるとベッド脇にある椅子へ座ろうとするが、
「こっち」とエレサが自分の隣へ座るようにジェスチャーした。

「ああ」

 俺は特になにも考えずに彼女の隣に腰をおろした。

「……」

 エレサは目を伏せて黙っている。俺はその長いまつ毛越しに見える彼女の目を覗った。エレサの表情や雰囲気は、なぜかとても女の子らしいもののように思わせた。

「エレサ。なにか俺と話したいことがあるのか?」

 俺は特段深く考えずに切り出した。

「うん」
 やや間を置いて、エレサが口をひらく。
「あのね?」

「ああ」

「もし……わたしがシヒロと同じように敵に攫われてしまったら、クローは同じようにわたしを助けに来てくれる?」

 エレサは俺の目をじっと見てきた。先ほどまでとは打って変わって、彼女の紫色の美しい瞳は俺をとらえて離さない。

「……」

 俺にはわからない。質問の意図が。
 どう答えるべきだろうか。そもそも彼女はなにを求めているんだ?
 彼女の欲している言葉が何かを考える。いや、それは考えるまでもない。わざわざこんな形でこんな質問をぶつけてくる時点で、彼女の欲している答えはひとつだ。

「……助けにいく。今回と同じように、エレサを助けにいく」

 それは嘘というわけでもなかった。だけどこの時、俺は自分の気持ちからというより、あくまで彼女の欲するものを頭で考えて口にした。
 
「うん……」

 エレサは恥ずかしそうにまた目を伏せると、滲みでるような喜びの表情を浮かべた。
 良かった。安心した。が……それは大きな間違いであったということを、後に俺は思い知らされることになる。
 俺が本来、伝えるべきことはそれではなかった。本当に伝えておくべきことはそれではなかったんだ。
 だけどこの時にはまったく気がつかなかった。これが後の悲劇への静かな船出となってしまったことに……。


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 みんな各々の寝室へ入った。
 とりあえずベッドに横になる。
「正直、かなり質素だけど、ギャングの街だから仕方がないか。いや、そんなことよりもむしろ……」
 ギャングの街というわりには〔ヘッドフィールド〕には自由と秩序が存在した。決して豊かではないが、陰気に沈んでもいなかった。それらの事実も、まだ見ぬジェイズという男へ興味深い色彩を加えた。
「どんな男なんだろうか……」と一人言が漏れた時、コンコンと部屋がノックされた。
「誰だ……」
 一瞬、剣を出そうと考えるも、それはせずに警戒しながらカチャッと扉を開けた。
「クロー」
「エレサ?」
 来訪者は寝衣に着替えたエレサだった。なんとなくもじもじしている。
「あの、クロー」
「どうしたんだ?」
「少し、話がしたくて」
「じゃあ入るか?」
「うん」
 エレサは部屋に入ってくると、おもむろにベッドへ腰かけた。
 俺はドアを閉めるとベッド脇にある椅子へ座ろうとするが、
「こっち」とエレサが自分の隣へ座るようにジェスチャーした。
「ああ」
 俺は特になにも考えずに彼女の隣に腰をおろした。
「……」
 エレサは目を伏せて黙っている。俺はその長いまつ毛越しに見える彼女の目を覗った。エレサの表情や雰囲気は、なぜかとても女の子らしいもののように思わせた。
「エレサ。なにか俺と話したいことがあるのか?」
 俺は特段深く考えずに切り出した。
「うん」
 やや間を置いて、エレサが口をひらく。
「あのね?」
「ああ」
「もし……わたしがシヒロと同じように敵に攫われてしまったら、クローは同じようにわたしを助けに来てくれる?」
 エレサは俺の目をじっと見てきた。先ほどまでとは打って変わって、彼女の紫色の美しい瞳は俺をとらえて離さない。
「……」
 俺にはわからない。質問の意図が。
 どう答えるべきだろうか。そもそも彼女はなにを求めているんだ?
 彼女の欲している言葉が何かを考える。いや、それは考えるまでもない。わざわざこんな形でこんな質問をぶつけてくる時点で、彼女の欲している答えはひとつだ。
「……助けにいく。今回と同じように、エレサを助けにいく」
 それは嘘というわけでもなかった。だけどこの時、俺は自分の気持ちからというより、あくまで彼女の欲するものを頭で考えて口にした。
「うん……」
 エレサは恥ずかしそうにまた目を伏せると、滲みでるような喜びの表情を浮かべた。
 良かった。安心した。が……それは大きな間違いであったということを、後に俺は思い知らされることになる。
 俺が本来、伝えるべきことはそれではなかった。本当に伝えておくべきことはそれではなかったんだ。
 だけどこの時にはまったく気がつかなかった。これが後の悲劇への静かな船出となってしまったことに……。