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出会い② 3輪:ごめんの理由

ー/ー




 1分もしないうちに遠くの方からサイレンが聞こえてきた。


 美鎖子は急いで心を引き戻し、救急隊の邪魔にならないように、おじさんのそばから離れようとした。

けれど足腰がすくんで立ち上がれなくなってしまった。


 救急車が到着すると、店員の誘導を無視していた人々だったが、降りてくる救急隊のためにさーっと道を開けた。

その流れのまま現場を後にする人もいたが、おじさんにスマホを向けている人の多くはその場に留まった。


 救急隊がおじさんの元に駆けつけると、稜太郎は救急隊と心臓マッサージを交代した。

そしておじさんの倒れた状況や、心配蘇生を始めて何分ほど経ったかなどを事細かに伝えた。


救急隊「大丈夫ですか?下がれますか?」

 救急隊の1人が声をかけたので、美鎖子は「すすすすすみません!」と大声で謝り立ち上がろうと努力した。

けれどその身体に上手く力が篭ることはなかった。


 美鎖子の異変に気づいたのか、稜太郎はこちらに来ると横にしゃがんだ。

そして美鎖子の腕を自分の肩にまわすと、美鎖子を軽々と持ち上げた。


 美鎖子は正座した状態で宙に浮いた。

(はた)から見れば大変不恰好な状態だったけれど、その体勢のまま歩道の隅まで運ばれて行ったのだ。


美鎖子「すっすみません!!」

 稜太郎は美鎖子の腕を外すと、膝の上にそっと置いてくれた。


稜太郎「僕の方こそごめんね」

美鎖子(この短時間の間に、何回三毛くんに謝られたんだろう…)

 美鎖子はそう思いながら、稜太郎の横顔を見つめた。

稜太郎は美鎖子の隣でヤンキー座りをして、赤いパーカーのポケットから深緑色のサングラスを取り出していた。


 薄めの唇。

鼻筋の通った鼻。

少し垂れ目な大きな瞳。

整えた訳ではなさそうだが、綺麗な形をした眉。


美鎖子(“ワンちゃん”って感じの優しい顔だな。
サングラスをしている時とだいぶ印象が違う…)

 美鎖子はまじまじと稜太郎の顔を見てしまった。

その視線に気づいた稜太郎は、サングラスをかけようとしていた手を止めて「どうしたの?」と尋ねてきた。


美鎖子「あっいや、えっあっ…」

 美鎖子は稜太郎の顔を眺めていたことがバレてしまったことに焦り、口をもごもごさせた。

しかし“このままでは気まずい”と、ずっと疑問に感じていたことを聞いてみた。


美鎖子「…あっあのなんで、そんな、そんなに謝るですか?」

 稜太郎はサングラスをきちんと掛けた。

それからおじさんを乗せたストレッチャーが救急車に運び込まれる様子を、未だにスマホに収めようとする人たちの方に目を向けた。

そして小さくため息を漏らすと頬杖をつき、少し掠れた声で答えた。


稜太郎「…怖い思いをさせたと思って」

 それは三毛くんのせいじゃないです、と美鎖子は言おうとしたけれど、口に出す前に飲み込んだ。

自分のせいじゃないことくらい稜太郎は分かった上で、何度も謝り続けていたのだと推測したからだ。


 美鎖子は稜太郎の言葉に何も返すことができず、ただ俯いて制服のスカートをくしゃくしゃに握り締めた。





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 1分もしないうちに遠くの方からサイレンが聞こえてきた。
 美鎖子は急いで心を引き戻し、救急隊の邪魔にならないように、おじさんのそばから離れようとした。
けれど足腰がすくんで立ち上がれなくなってしまった。
 救急車が到着すると、店員の誘導を無視していた人々だったが、降りてくる救急隊のためにさーっと道を開けた。
その流れのまま現場を後にする人もいたが、おじさんにスマホを向けている人の多くはその場に留まった。
 救急隊がおじさんの元に駆けつけると、稜太郎は救急隊と心臓マッサージを交代した。
そしておじさんの倒れた状況や、心配蘇生を始めて何分ほど経ったかなどを事細かに伝えた。
救急隊「大丈夫ですか?下がれますか?」
 救急隊の1人が声をかけたので、美鎖子は「すすすすすみません!」と大声で謝り立ち上がろうと努力した。
けれどその身体に上手く力が篭ることはなかった。
 美鎖子の異変に気づいたのか、稜太郎はこちらに来ると横にしゃがんだ。
そして美鎖子の腕を自分の肩にまわすと、美鎖子を軽々と持ち上げた。
 美鎖子は正座した状態で宙に浮いた。
|側《はた》から見れば大変不恰好な状態だったけれど、その体勢のまま歩道の隅まで運ばれて行ったのだ。
美鎖子「すっすみません!!」
 稜太郎は美鎖子の腕を外すと、膝の上にそっと置いてくれた。
稜太郎「僕の方こそごめんね」
美鎖子(この短時間の間に、何回三毛くんに謝られたんだろう…)
 美鎖子はそう思いながら、稜太郎の横顔を見つめた。
稜太郎は美鎖子の隣でヤンキー座りをして、赤いパーカーのポケットから深緑色のサングラスを取り出していた。
 薄めの唇。
鼻筋の通った鼻。
少し垂れ目な大きな瞳。
整えた訳ではなさそうだが、綺麗な形をした眉。
美鎖子(“ワンちゃん”って感じの優しい顔だな。
サングラスをしている時とだいぶ印象が違う…)
 美鎖子はまじまじと稜太郎の顔を見てしまった。
その視線に気づいた稜太郎は、サングラスをかけようとしていた手を止めて「どうしたの?」と尋ねてきた。
美鎖子「あっいや、えっあっ…」
 美鎖子は稜太郎の顔を眺めていたことがバレてしまったことに焦り、口をもごもごさせた。
しかし“このままでは気まずい”と、ずっと疑問に感じていたことを聞いてみた。
美鎖子「…あっあのなんで、そんな、そんなに謝るですか?」
 稜太郎はサングラスをきちんと掛けた。
それからおじさんを乗せたストレッチャーが救急車に運び込まれる様子を、未だにスマホに収めようとする人たちの方に目を向けた。
そして小さくため息を漏らすと頬杖をつき、少し掠れた声で答えた。
稜太郎「…怖い思いをさせたと思って」
 それは三毛くんのせいじゃないです、と美鎖子は言おうとしたけれど、口に出す前に飲み込んだ。
自分のせいじゃないことくらい稜太郎は分かった上で、何度も謝り続けていたのだと推測したからだ。
 美鎖子は稜太郎の言葉に何も返すことができず、ただ俯いて制服のスカートをくしゃくしゃに握り締めた。