第1部1章『いつかまた大宇宙のどこかで』CM41F3C-開端の惑星
――さあ、物語を始めるよ。これは私が「あなた」に語る物語。私が「あなた」に知って欲しい、私の旅の記憶。ヒトではない「あなた」に、私が語る、ヒトの物語だ――
>>Towa
「The stars do blink and silent watch, My voice with wind doth fade, to stillness melt......」
(星は瞬き、静かに見守る声は風に消え、静寂に溶けゆく……)
虹の光のように柔らかく、しかし深く響くアリアは風に溶け、そして静寂が訪れた。私が捧げ持った鈍色の水晶は歌声に共鳴するように、鮮やかな碧へと色付いてゆく。
「ありがとう、トワ。皆さん、これが水晶の歌い手の能力、調律です」
リーザロッテ先生は私にかるく会釈すると、教室に集まった20名ほどの少年少女に向かってそう告げた。
「私たちモーリオンギルドのメンバーは皆、水晶と共鳴する素質を受け継いでいますが、シンガーになるためには高い能力が必要です。このクラスを選択した皆さんはシンガー志望ですから、まずは皆さんにどの程度の素質があるか測定してみましょう」
ギルドの中でも花形であるシンガーを希望する子供は多い。だが実際にシンガーになれるのは極一握り。子供達は今日の素質測定に自分たちの夢が掛かっていることを意識して、緊張した面持ちで先生を見つめている。そういえば私も以前はあそこにいたんだっけ……。
そんなことを思いながら、説明を続けている先生に軽く頭を下げ、調律が済んだ水晶を手に私は教室を後にした。
――遥か未来。
銀河にその版図を広げた人類は、既にかつての故郷の名さえ忘れ去っていた。
幾千幾万年もの時が流れ、人類は一度、大空白と呼ばれる混迷の時代を迎えた。
英知の多くを失いながらも、人々は再び星の世界へとその歩みを進める。
だが物語が始まるのは銀河の中心ではなく、その遥か片隅にある小さな辺境の惑星。
静かに鼓動を始めた虹色の運命は、今ここから少女の歌声と共に大宇宙へと広がってゆく――
CM41F3Cと言う星がある。
名前すら与えられず、ただ星図上での識別ために与えられた番号で呼称される、最果ての惑星。かろうじて人類が生存可能な環境こそあるものの、痩せた土地は作物を育てるには向かず、ただひたすら荒野と岩山が続く不毛の惑星。おまけに人を襲う危険な原生生物まで生息していて、銀河に版図を広げ無数の生存可能な惑星を見出した人類にとってはコストを掛けて開拓する価値のない、見捨てられるべき星。それが私の故郷だ。
本来であれば移民船団が素通りするような星だけど、衛星軌道上からの調査によって希少な資源が少量産出される可能性が判明したため小規模な開拓団が試験的に入植し、居留地を築いて数十年が経つ。
このCM41F3Cに入植している開拓団は、C3(シーキューブ)と呼ばれる水晶状の資源の流通を専業とするモーリオンギルドと呼ばれる通商組織のメンバーのみで構成されていた。C3の「調律」には特殊な資質が必要になるけど、これは遺伝によってのみ獲得できるものなので、ギルドは血統集団としての側面も持っていたからだ。
これが職業訓練校であり、義務教育機関でもある、スクールで習うこの星とギルドに関する説明だ。
現在この惑星に駐留しているギルドメンバーの総数は約2000人。私達がいる居留地と呼ばれている本拠地とそこに隣接したC3採掘場。それに加えて極小規模な試掘場が2カ所。合計3カ所で行われるC3の採掘がこの星に存在する対外的な生産活動の全てだ。
モーリオンギルドが扱う希少資源である「輝彩水晶核(ColorCrystalCore)」、通称C3は水晶に似た結晶体で、採掘時は黒みを帯びた結晶体の形態をとっている。そこに水晶の歌い手との共鳴、すなわち調律が行われることで、C3は色彩を帯び様々な能力を保有するようになる。
C3はSSからFまでの8段階の品質グレードを持ち、シンガーとしての資質が高い者ほど高ランクのC3を調律することができる。ギルドのメンバーは能力差こそあれど基本的に全員がシンガーとしての適性を持っているけど、ギルドからシンガー職として認められるためには最低でもCランクを調律できる事が条件で、おまけにこの能力は天性のものだから後から鍛えたりする事が出来ない。だから、シンガー育成コースに進むためには適性試験をクリアする必要があるわけだ。
C3の纏う色彩は歌い手によって異なるけど「朱」「碧」「蒼」の3色のいずれかとなる。色によって性質は異なるけど、いずれもエネルギーの増幅や変調といった機能を有している。そのため、小型のものは日用雑貨に。大型のものは恒星間航行を行う航宙船の推進装置や恒星間通信の中核部品として、あらゆる場面で用いられている。言うならば人類文明の中核を担う必需品ってことだ。
それ故にモーリオンギルドの持つ影響力は権力は絶大。経済力は言うまでもなく、各惑星の行政府や統治機関を上回る政治的影響力を持つと言われているけど……ギルド統括部はこれを否定、軋轢を避けるため各惑星への内政介入を厳禁とした不干渉の原則を方針として掲げている。
そして人類文明の最重要物資であるC3を自在に操るシンガーは多くの惑星において憧れの職業であると同時に、得体の知れない存在であると評されているらしい。シンガーの資質は遺伝に依存するから、ギルド未所属の野良シンガーなどという存在は基本的にありえないし、資質を開花させるためにはギルドの教育機関であるスクールで専門教育を受ける必要があるから。閉鎖的なギルドの特殊人材であるため、外部への露出が少ないこともシンガーを謎めいた存在としている一因でもあるんだけど……。
明日の筆記試験に備えてギルドの成り立ちとC3についてのテキスト内容を思い起こしながら、私は廊下を進む。そういえば当時10歳だった私、トワ・ブースタリアがシンガーとしての資質をギルドに見いだされたのは今から丁度4年前の事だった。
>>Towa:Four Years Ago
「皆さん、測定用のC3は行き渡りましたか?ではこれから順番に水晶を歌ってもらいますが、その前にもう一度あらためてお話ししておきたい事があります。もしシンガーになれるだけの素質が無いと判定された場合でも、悲しむ必要はありませんからね」
スクールの初等科最上級学年のクラスを担当しているリーザロッテ先生はそう言うと、私を含めたシンガー希望の生徒を見回した。
「シンガーになれるのはギルドメンバーの中でもほんの一握りですし、ギルドの仕事は水晶を歌うことだけではありません。C3の採掘や鑑定、輸送、設置。それに駐屯地の運営や事務仕事、商取引の管理も。いずれもギルドにとって重要な仕事です」
先生はそう言うけど、今ここにいる生徒はみんな自分はシンガーになると信じているし、それを疑ってもいない。私を含めた全員が。まぁ、私の場合は特に――。
「確かにシンガーは花形ですが、シンガーだけではギルドは立ちゆきません。ですから、それだけは忘れないで頂戴ね。……さて、では先ほどアイリスが歌ってくれたお手本を思い出しながら、順番に水晶を歌ってみましょうか」
初等科最上級学年である10歳の生徒のうち、今年は私をはじめとした23人がシンガー養成クラスへの所属を希望している。そしてクラスの全員に配布されたのは、小指の先ほどの小さなサイズのC3。実用品として使うには小さいサイズなので、調律やカットといったスクールでの練習用に使われているものだ。
私はそれに目をやり、鈍色の具合からC3がDランクのものだと見立てた。
「では最初はハインツから」
リーザロッテ先生に指名された男子生徒、ハインツは緊張した面持ちで水晶を手に歌うたう。彼が歌うのはスクールで教えられた標準的な調律歌。私にとっては面白みの無い歌だけど……これらの調律歌は一番安定して調律出来るといわれているものだから、初等科の生徒が歌うのは至極、当たり前の選択だ。
ハインツが歌っているのは朱を調律するための、情熱的な歌。歌声を聞きながら、私はやんちゃなところがあるハインツのイメージには良く合っていると思った。
最後のフレーズまで歌い終わり、期待に満ちた目でC3を見つめるハインツの手の中で水晶が仄かに朱みを帯び、彼の顔には得意げな笑みが浮かぶ。
リーザロッテ先生はハインツの掲げるC3を見て満足げに頷くとその色味を携帯情報端末で撮影、記録すると次の生徒の名前を呼ぶ。
「はい、次はエミリーね」
私の友人であるエミリー・オンスが選んだ歌は静かで落ち着いた「蒼」の調律歌。すこしちゃっかりした所はあるけど、普段は落ち着いて心優しいエミリーにはお似合いの歌と色のチョイスだ。澄んだソプラノの歌声に共鳴した水晶は蒼に染まってゆく。その色はまるで彼女の髪色……グレイヘアーの中に混じるブルーメッシュの色と同じように蒼く輝いて見えた。
その後も先生は次々と子供達を指名し、少年少女の歌に水晶が色を帯びてゆく。
「では次はトワですね」
私の番だ。先生の声に頷くと、私も水晶を手に調律歌ではないアリアを口ずさむ。私の歌に怪訝な表情をするクラスメイト達。まぁ、そうだよね。一般的にオリジナルの歌は調律の効率が悪いと言われてるから。でも――。
私の手の中のC3は歌が始まると同時に強い輝きと共に碧に色付いてゆき――そして歌が終わる前に、砕け散った。
「トワ、怪我はありませんか?」
「大丈夫」
予想外の出来事に、見守っていたクラスメイト達は驚きのあまり声もでないようだけど、先生は……そして私も。冷静に、そしてさも当然のこと、そうなる事を知っていたかのようなやりとりを交わす。
「では続けましょうか。ケニー、次はあなたの番ですよ」
ケニーと呼ばれた少年は私の一件で動揺したまま歌ったせいかC3の色づきが悪かった。ケニーには悪い事をしたかな。あまり話したことはないクラスメイトだけど、後で謝っておこう。
その後も、クラスメイトの歌は続く。次の少年。次の少女も。その後は何事もなく順番に歌い、水晶に色彩を与えてゆく。
「それでは全員の測定が終わりましたから、今日はこれで解散です。結果は明日のお昼休みに掲示しますから、各自で確認して下さい。測定用のC3は記念に持って帰ってかまいませんよ」
私を除く全員の調律結果を撮影し終え、測定終了を告げるリーザロッテ先生の声に緊張から解放された級友達は表情を緩めた。友人同士連れだって教室から出てゆくクラスメイトと、私の方を心配そうな表情で見つめてくるエイミーに軽く手を振ってから、私は砕けたC3を所在なげに視線を落とした。この後、先生に声を掛けられると思って待っていたんだ。そして、予想通り――。
「トワ、あなたはこのあとで教官室へ来て下さいね」
しばらく後、教官室を訪れた私をリーザロッテ先生は笑顔で出迎えてくれた。教官室はいつも多くの生徒や先生がいるイメージだったけど、今日はリーザロッテ先生一人だけ。ちょっと雰囲気が違うけど、まぁ話の内容は想像が付いている。
「おめでとう、トワ。あなたは水晶の歌い手として非常に高い素質がある事が認定されました」
「うん」
予想していた先生の言葉に、私は平然と答える。そんな私の様子に、先生は少し不思議そうな表情を浮かべて、問うた。
「……あら、どうして合格なのか、とは聞かないの?」
「あのC3はDランク。C3は2ランク以上高い調律を施すと砕ける。シンガーと認められるのはCランク。だけど私は最低でもBランクだと証明したから」
先生の問いに、事実を回答する。それはいわゆるオーバーチューンという現象で、ギルド内でも現役シンガーぐらいにしか知られていない事象だ。もちろん、スクールでも習わない。
「……ええ、その通りです。オーバーチューンを施すとC3が砕けてしまう事は初等クラスでは説明していなかったと思うのですが……どこでそれを?」
「それは、秘密」
まさか自宅でふざけて歌った時に輸出サンプルのBランクC3を砕いたことがある、なんて言えるはずが無い。能力を隠すという意味じゃなくて、お高いBランクのC3を砕いたことがバレたら、お義父さんに叱られるからね。
「驚きました。あなたが才能のあるシンガーの卵だとは知っていましたが、まさかBランクとは。それに測定用のC3がDランクである事も見極めていたようですね。鑑定の仕事も勤まりそうです」
そう言って微笑むリーザロッテ先生。だけど私にはむしろ……どうしてC3を一目見ただけでランクが判らないのか、そちらの方が不思議だった。C3はあんなにも自分の事を話してくれているのに。
その後、私の才能を褒め称える先生の言葉に居心地が悪くなり、逃げるように教官室を後にした。
結局、この学年では私を含め4人の生徒がシンガー育成クラスへと進むことになった。後で聞いたらこの数字は例年よりも幾分成績がいいって、お義父さんが言っていたっけ。
>>Towa:Today
教材用の模範調律とはいえ調律済みのC3は星外へ輸出できる商品になるから、ギルドから調律報酬が貰える。さほど大きくないC3、それもCランクを1つだけなのでほんのお小遣い程度だろうけど。
リーザロッテ先生に依頼されたデモンストレーションのために欠席した自分の講義でノートの代筆を頼んでいる友達に何かを奢るぐらいの額になれば御の字ってとこかな?でもエミリーはお高いスイーツが好きだからなぁ。スクールの依頼で授業を休んで働いているのに、自腹を切ることになるのはとても理不尽だと思ったけど……まぁ、友達づきあいも必要だろう。
そんなことを思いながらスクールの隣に建物がある資材部の窓口にC3を提出し、調律の手数料としていくばくかのGCトークンを受け取った。予想よりは少しだけ高かったけど、エミリーが好きなスイーツには少し足りない。どうしたものか。
今日の講義は休むと伝えてあるのでスクールでの予定はこれで終わりだけど、家に帰るには少し時間が早い。この後はどうしようか?折角だから教室に戻って講義に途中参加する?それとも少し早いけど食堂へ行って一息つく?あるいは、資材部でC3調律のアルバイトでも引き受けようか。そんな事を考えていると、私を呼ぶ声がした。
「あ、トワ!ちょうど良かった、探してたんだよ!」
声の方に目をやると、予想通りの相手がいた。三つ編みにした長いライトブラウンの髪。朱水晶のように美しいクリムゾンの瞳。髪を束ねるリボンも瞳と同じ朱色でとてもよく似合っている。背は少し低いけれど、メリハリの効いたグラマーな肢体で、くるくると変わる豊かな表情は見るものを飽きさせず、そして魅了する。
どこに出しても恥ずかしくないその美少女は、私の幼なじみにして親友、そして……義理の姉でもある、アイリス。私の大好きなアイリス・ブースタリアだ。
「アイリス。何かあった?」
「うん、ちょっとね……」
私とアイリスは同じ家に住んでいる。私は両親を亡くし、7年ほど前からアイリスの家に養女として引き取られているので、家族として同じ屋根の下で暮らしている。だから今朝も普通に顔を合わせて話もしているし、毎朝のルーチンワークであるやらかしを叱られもした。それなのに、わざわざ探しに来るということは、何か急ぎの用事があるってことだろう。
感情が顔に出やすいアイリスが深刻そうな顔をしていないということは、トラブルの類いではない。むしろこれは何か新しいいたずらか、楽しい事を企んでいるときの表情だ。
「さっきジョッシュのヤツが北西の岩山で四つ脚の群れを見かけたんだって。で、一緒に狩りに行かないかってお誘いが来たんだけど、どうせならトワもどうかと思って。今日は模範調律終わったあとは暇って言ってたよね?」
四つ脚とはこの惑星の固有種である原生生物の一種だ。大型で危険な生物が多いこの星の原生生物の中では比較的危険度が小さく、またその肉は食用として重宝されている。この星には存在しないけど、人類が惑星開拓の際に持ち込むことが多い家畜である「豚」によく似ているって聞いたことがある。
ギルド保安部が積極的に駆除するような危険な存在じゃないし、肉は食用になるので狩れば資材部がGCと交換してくれる。何なら、持ち帰ってそのまま食卓に並べても良い。四つ脚は居留地の子供でも年長者であれば比較的容易に狩ることができるから、見つけたら早い者勝ちの狩りイベントが開催される、そんな存在なんだ。
「わかった。すぐ出発?」
先ほど支給されたGCは私が必要とする額より少し少なかったから、講義ノートのためにも参加しないという選択肢は無い。
「ジョッシュは直ぐにでも出たいらしいよ。一応、トワのブラスターも持ってきてる……けど」
「けど?」
「その格好で行くの?」
アイリスに言われ、私は自分の服装を確認した。男性もので膝上まで丈がある長い無地の白Tシャツ。お義父さんのお下がりの黒い鉱夫用ワークジャケット。ゴツめのワークブーツ。以上。
「特に問題ない」
「いや、大ありでしょ?」
そういうアイリスの服装を確認する。普段はお洒落な服装が多いアイリスだけど、今日は丈の短い白いタンクトップのシャツの上からラフに羽織ったブラウンのジャケット。デニム地のホットパンツ。ブーツは私と色違いだけど、おそろいのやつ。どちらかというとスポーティな服装だ。
「アイリスの服装とあまり変わらない。……あ」
「トワが今思ってることは間違ってるって断言できるけど。なにが違うと思ったか、一応言ってみて?」
「……私、下着はいてない。アイリスはたぶん、はいてる。そこが違う」
「はぁ……」
ものすごく呆れた様子でため息をつかれた。正直、私は服装やらオシャレやらには全く興味が無い。自室でいるときには別に服を着なくてもいいと思っているし、なんなら寒くさえなければ外を出歩く際も服が無くても困らない。
ただアイリスはそうではないようで、とにかく私に服を着せようとする。誰かに見られたらどうするんだって毎朝のように言われるけれど、私の答えはいつも同じ。「別に見られても減るものでもない」。
自分で言うのもなんだけど、アイリスと違って貧相な私の裸を見たがる人がいるとも思えないし。と、話が逸れた。
「あのね、トワ?さすがに居留地の外を出歩くのにそのブカブカな服はまずいでしょ?岩場なんだから引っかけるかもしれないし、歩きにくいと思わない?」
言われてみればアイリスの服装は彼女の体にフィットしている。私の服は男性用やお義父さんのお下がりなのでサイズが大きく、体に合っていない。でも、それなら……。
「別に。動きにくければ脱げばいい」
「はぁぁぁぁ……」
さらに呆れた様子でため息をつかれた。私、何か間違った答えを返したのかな?
「トワに女の子として……いや、ヒトとしての常識を求めるのは無理だって判ってるけど」
「なんかすごく酷いこと言われた気がする」
「とりあえず、ジョッシュも一緒に行くんだから。服を脱ぐ可能性があるなら、せめて下着だけは履きなさい。いや、そもそもちゃんと毎日下着は履きなさい」
「解せぬ」
そして先ほど入手したばかりの調律報酬は、パンツになった。どうしてこうなった。
待ち合わせは居留地の西側ゲート前との事なので、アイリスとゲート前へ急いだ。ゲートの前には停車した光子駆動の中型バギーと一組の男女。黒髪の優男は顔見知りであるジョッシュ。私の一つ年上で、アイリスの元クラスメイトだ。昔からことあるごとにアイリスに勝負を挑んではコテンパンに負けている姿をよく見ていたけど、まぁそれなりに努力家だと思う。彼は私達の姿を見つけると手を挙げて挨拶してきた。
もう一人、短い赤毛の女性の方は……よく知らない人だけど、たしかヘルミナと言っただろうか?話した事は無いけど、ジョッシュと一緒にいるところを何度か見かけた事がある……ような気がする。年齢は良くわからないけど、背丈は私とそう変わらないので、小柄な方だと思う。
ジョッシュは昨年スクールを卒業し、保安部で働いている。今日は非番なのか私服だけど、最近見かけるときは保安部要員の制服を着ている事が多い。ヘルミナは……雰囲気的にジョッシュの恋人、だと思う。前に見かけたのが資材部のあたりだから、資材部で働いているのかもしれない。
ちなみにアイリスは在学中から開拓団長である父親――私のお義父さんでもある――の手伝いをしており、スクール卒業時にギルドの管理官になる試験を受けたらしい。
本人はあまり詳しいことを教えてくれなかったけど、受験したというだけで周りの大人達が驚愕し、驚喜していたから、かなりすごい事なんだろう。そして最後に、まだスクールの学生である私。
この4人で四つ脚を狩ることになるようだ。