表示設定
表示設定
目次 目次




エリシア、折れる

ー/ー



 エリシアのお屋敷に、新人の男の子が入ってきた。



 エリシアが外出している間に、簡単な業務を先輩メイドたちから教わり、ようやく昼休憩の時間になった。



「私たちはちょっと忙しいから、あなたは……どっかその辺で食べてて。」



 そう言って、先輩のメイドは広間にあるすごく大きなテーブルを指差した。



「えっと……」



 新人の子は、昼ごはんを乗せたお盆を手にして、広間に入る。だが、近づいてみると、テーブルには椅子がびっしりと並んでいて、どこに座ればいいのか分からない。



 途方に暮れつつも、新人の子は一番奥の、広間全体が見渡せる場所に座った。



(ここなら問題ない、よね……?)



 広い部屋と豪華なテーブルに緊張しながらも、彼はそっと箸を手に取った。



 新人の子が広間の奥で食事を取っていると——。



 ——ガチャ。



 重厚な扉が開く音が響き、広間に緊張が走った。



「エリシア様、ごきげんよう。」

「ごきげんよう!」
「ごきげんよう!」



 メイドたちは一斉に姿勢を正し、エリシアを出迎えた。

 ゆったりとした足取りで広間に入ってきたエリシアは、視線を一巡させると、一人のメイドに声をかけた。



「昼食にしますわ。今日のメニューは?」

「ルノワールの卵サンドでございます。」



「それは良いですわね!」



「テーブルまでお運びします。」

「いや、いいですわよ。早く終わらせて休憩なさい。」



 エリシアはメイドからサンドイッチの箱を受け取ると、広間のテーブルに向かった。



 しかし——。



「ちょっと!誰!?」



 鋭い声が響く。



「ええ!?」



 驚いた声を上げたのは、奥の席に座り、昼食を食べていた新人の子だった。

 エリシアは彼を鋭く睨みつける。



「ぼ、僕は……新しく……その……」

「新人の子!?」



「ええ……」

「そこ私の席ですわよ!何してますの!?」



 激昂するエリシア。

 新人の子が座っていたのは、広間の最奥にある、明らかに特別感のある席。家主であるエリシア専用の席だった。よく見れば、椅子の作りも他のものと比べて全然違う。

 エリシアは息を荒らげながら怒鳴りつけるが、新人の子は慌てるどころか、なぜか堂々とした態度で返答した。



「ご、ご飯を食べてます……」



「そりゃ見りゃわかりますわよ!——じゃなくてそこは私の席ですわよ!」



「も、申し訳ありません!今すぐにご飯を食べ……」



「だから!あのねぇ……ご飯ならそこ以外の席で食べてくださる!?」



 エリシアは怒りを抑えきれない様子で声を張り上げる。



 だが、新人の子はなぜかその椅子に座ったまま返答した。



「す、すいません!すいません!」

「いや!謝る前に退きなさいよ!」



 エリシアの声がさらに怒りを帯びる。



 その時、騒ぎを聞きつけたメイド長が慌てて広間に駆け込んできた。



 一瞬で状況を把握すると、厳しい口調で新人の子に声をかける。



「ちょっとあなた!その席は……今すぐ退きなさい!」



「メイド長!あなたもねぇ!なんでこんなことを最初に——」



 エリシアは言葉を詰まらせ、怒りの絶頂に達した。



「キエエエェエえええぇえぇ〜!」



 甲高い怒声が広間に響き渡る。メイド長は深々と頭を下げながら必死に謝罪した。



「申し訳ありません!エリシア様!私の教育不足でございます!」



 しかし、二人のやり取りをよそに、新人の子は怯えた様子で、なぜかまだその席に座り続けて昼食を取っていた。



(ひ、ひえええぇ……)



 内心で恐怖に震えながらも、箸を手にする手だけは止まらない。広間には緊張感が漂い続け、エリシアはその光景にさらに眉をひそめるのだった。



 「てか何食ってますの!?早く退きなさいって!」



 エリシアは痺れを切らし、新人の子の肩に手をかけた。



 ——ポタポタ。



 彼がさっと退けば話は終わるはずだった。しかし、新人の子はその場に座ったまま、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。



「ちょっと!泣いてる場合!?ほら!椅子から立ち上がって!」



 メイド長が慌てて促すが、新人の子は泣きながらも、箸を持つ手を止めることなく食事を続けている。



「ひぐっ……もぐ……す、すみません……もぐもぐ……」



 その姿にエリシアの目がさらに鋭くなる。

「あ゛ん!?あ、そう!あああ〜!わかりましたわ!そうですのね!」



 声を荒げながらエリシアは腰に手を当て、大きく息を吸い込んだ。

「これはもう私に対する挑戦ですわよ!」



 宣戦布告とみなしたエリシアは、なおも食べ続ける新人の子に向かって、怒りの炎をメラメラと燃やしていた。広間の緊張は最高潮に達し、メイド長は冷や汗をかきながら事態を収拾しようとするが、収まる気配は全くないのだった。



「ちょっと……!あなたねぇ!もう良い加減にしなさい!そこはエリシア様の席だって言ったでしょ!」



 メイド長が声を荒げて叱りつける。しかし——。



「う、ひっぐ……うぇえぇん……」



 ——ポロポロ。



 新人の子は止まらない涙をこぼしながら、鼻をすすりつつ呟いた。



「だって……お昼ご飯……ひっぐ……食べないと……」



「えぇ……」



 その予想外の返答に、エリシアとメイド長は揃ってドン引きする。



「この子雇ったのだれ?」



 エリシアが冷たい声で問いかけると、メイド長はしどろもどろになりながら答えた。



「いや……その……最終面接はエリシア様が……」

「……」
「……」



 その場に気まずい沈黙が流れる中、新人の子のすすり泣きだけが響く。



「うぇええ……ぐす……ひっぐ……」



 やがて、エリシアは無言で自分のサンドイッチの箱を手に取ると、新人の子の隣に腰を下ろした。そして何も言わずにサンドイッチを食べ始める。



「た、食べ終わったら……業務に戻りなさいな……」



 新人の子は涙をこぼしながらも、小さくうなずいた。



「ひっぐ……ぐす……」

「……」
「……」



 エリシアとメイド長は視線を交わすこともなく、広間には気まずい沈黙だけが続いた。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む いつも読んでくれてありがとう!


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 エリシアのお屋敷に、新人の男の子が入ってきた。
 エリシアが外出している間に、簡単な業務を先輩メイドたちから教わり、ようやく昼休憩の時間になった。
「私たちはちょっと忙しいから、あなたは……どっかその辺で食べてて。」
 そう言って、先輩のメイドは広間にあるすごく大きなテーブルを指差した。
「えっと……」
 新人の子は、昼ごはんを乗せたお盆を手にして、広間に入る。だが、近づいてみると、テーブルには椅子がびっしりと並んでいて、どこに座ればいいのか分からない。
 途方に暮れつつも、新人の子は一番奥の、広間全体が見渡せる場所に座った。
(ここなら問題ない、よね……?)
 広い部屋と豪華なテーブルに緊張しながらも、彼はそっと箸を手に取った。
 新人の子が広間の奥で食事を取っていると——。
 ——ガチャ。
 重厚な扉が開く音が響き、広間に緊張が走った。
「エリシア様、ごきげんよう。」
「ごきげんよう!」
「ごきげんよう!」
 メイドたちは一斉に姿勢を正し、エリシアを出迎えた。
 ゆったりとした足取りで広間に入ってきたエリシアは、視線を一巡させると、一人のメイドに声をかけた。
「昼食にしますわ。今日のメニューは?」
「ルノワールの卵サンドでございます。」
「それは良いですわね!」
「テーブルまでお運びします。」
「いや、いいですわよ。早く終わらせて休憩なさい。」
 エリシアはメイドからサンドイッチの箱を受け取ると、広間のテーブルに向かった。
 しかし——。
「ちょっと!誰!?」
 鋭い声が響く。
「ええ!?」
 驚いた声を上げたのは、奥の席に座り、昼食を食べていた新人の子だった。
 エリシアは彼を鋭く睨みつける。
「ぼ、僕は……新しく……その……」
「新人の子!?」
「ええ……」
「そこ私の席ですわよ!何してますの!?」
 激昂するエリシア。
 新人の子が座っていたのは、広間の最奥にある、明らかに特別感のある席。家主であるエリシア専用の席だった。よく見れば、椅子の作りも他のものと比べて全然違う。
 エリシアは息を荒らげながら怒鳴りつけるが、新人の子は慌てるどころか、なぜか堂々とした態度で返答した。
「ご、ご飯を食べてます……」
「そりゃ見りゃわかりますわよ!——じゃなくてそこは私の席ですわよ!」
「も、申し訳ありません!今すぐにご飯を食べ……」
「だから!あのねぇ……ご飯ならそこ以外の席で食べてくださる!?」
 エリシアは怒りを抑えきれない様子で声を張り上げる。
 だが、新人の子はなぜかその椅子に座ったまま返答した。
「す、すいません!すいません!」
「いや!謝る前に退きなさいよ!」
 エリシアの声がさらに怒りを帯びる。
 その時、騒ぎを聞きつけたメイド長が慌てて広間に駆け込んできた。
 一瞬で状況を把握すると、厳しい口調で新人の子に声をかける。
「ちょっとあなた!その席は……今すぐ退きなさい!」
「メイド長!あなたもねぇ!なんでこんなことを最初に——」
 エリシアは言葉を詰まらせ、怒りの絶頂に達した。
「キエエエェエえええぇえぇ〜!」
 甲高い怒声が広間に響き渡る。メイド長は深々と頭を下げながら必死に謝罪した。
「申し訳ありません!エリシア様!私の教育不足でございます!」
 しかし、二人のやり取りをよそに、新人の子は怯えた様子で、なぜかまだその席に座り続けて昼食を取っていた。
(ひ、ひえええぇ……)
 内心で恐怖に震えながらも、箸を手にする手だけは止まらない。広間には緊張感が漂い続け、エリシアはその光景にさらに眉をひそめるのだった。
 「てか何食ってますの!?早く退きなさいって!」
 エリシアは痺れを切らし、新人の子の肩に手をかけた。
 ——ポタポタ。
 彼がさっと退けば話は終わるはずだった。しかし、新人の子はその場に座ったまま、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「ちょっと!泣いてる場合!?ほら!椅子から立ち上がって!」
 メイド長が慌てて促すが、新人の子は泣きながらも、箸を持つ手を止めることなく食事を続けている。
「ひぐっ……もぐ……す、すみません……もぐもぐ……」
 その姿にエリシアの目がさらに鋭くなる。
「あ゛ん!?あ、そう!あああ〜!わかりましたわ!そうですのね!」
 声を荒げながらエリシアは腰に手を当て、大きく息を吸い込んだ。
「これはもう私に対する挑戦ですわよ!」
 宣戦布告とみなしたエリシアは、なおも食べ続ける新人の子に向かって、怒りの炎をメラメラと燃やしていた。広間の緊張は最高潮に達し、メイド長は冷や汗をかきながら事態を収拾しようとするが、収まる気配は全くないのだった。
「ちょっと……!あなたねぇ!もう良い加減にしなさい!そこはエリシア様の席だって言ったでしょ!」
 メイド長が声を荒げて叱りつける。しかし——。
「う、ひっぐ……うぇえぇん……」
 ——ポロポロ。
 新人の子は止まらない涙をこぼしながら、鼻をすすりつつ呟いた。
「だって……お昼ご飯……ひっぐ……食べないと……」
「えぇ……」
 その予想外の返答に、エリシアとメイド長は揃ってドン引きする。
「この子雇ったのだれ?」
 エリシアが冷たい声で問いかけると、メイド長はしどろもどろになりながら答えた。
「いや……その……最終面接はエリシア様が……」
「……」
「……」
 その場に気まずい沈黙が流れる中、新人の子のすすり泣きだけが響く。
「うぇええ……ぐす……ひっぐ……」
 やがて、エリシアは無言で自分のサンドイッチの箱を手に取ると、新人の子の隣に腰を下ろした。そして何も言わずにサンドイッチを食べ始める。
「た、食べ終わったら……業務に戻りなさいな……」
 新人の子は涙をこぼしながらも、小さくうなずいた。
「ひっぐ……ぐす……」
「……」
「……」
 エリシアとメイド長は視線を交わすこともなく、広間には気まずい沈黙だけが続いた。