表示設定
表示設定
目次 目次




山彦・二

ー/ー



「摩虎羅ちゃ〜〜ん!!」


 山中に木霊する若い女の声。その間延びした呼びかけに反応するように前を走る山彦のシルエットがボヤけるように崩れる。

 …………ただ、それは一瞬だった。

 崩れたと思った次の瞬間には、普通の猿くらいの背丈しかなかったそいつが、一気にその2倍(120〜130cm)程に膨張していたからだ。

 焦げ茶の毛並に覆われていたその体は、赤茶色のツルッとしたような体表に変わり、ヒョロっとした手足の長い体付きは何となくエイリアンを彷彿させる。


「探したんだから〜〜……」


 その山彦だったエイリアンっぽい奴が、今はピンクのパステルカラーのアウトドアウェアを着た、如何にもお嬢様然とした女に抱き合ってる。声は聞こえない(出せない)が、再会の喜びと追われた恐怖でも主に伝えてるんだろうか?


 ………………こっちからは後ろ姿しか見えないが、間違い無い。

 奴は、オカルト界の重鎮六道家の所有する式神(十二神将)の内の一体(申の摩虎羅)だ……


「おい、あれって……」
「ああ……メドゥーサに化けて、お前を尋問した奴だ。懐かしいだろ?」
「……………………」←無骸


 隣で戸惑うように呟く、雪之丞に答える。

 この男(武威)、過去霊的格闘道場(白龍会)所属としてGS試験に参加した際、魔族との繋がりを証明する為に摩虎羅と対面していた。本人にとっちゃ糞みてぇな記憶だろうがな……

 申の摩虎羅……変身能力が特徴で、人間や妖怪は勿論様々な物に姿を変える事が出来る。その能力で、さっきまで山彦に化けてたんだ。目の前の連中のやり取りから察するに、除霊中にはぐれた感じか……?


「はっ!あん時のか……いい思い出だぜっ」
「傍に行って、再会のキスでもしてやれや」
「……………………」

「馬鹿言ってんじゃねぇ!」
「しかし、厄介な事になったぞ……」
「……………………」


 やれやれだ………俺の中でここまで張り詰めていた焦燥感が、一旦は虚しさ混じりの安堵と化す。

 得体の知れない脅威と追って来たが、蓋を開ければ事は単純だった。式神なんだから、妖気なんて感じ取れるはずがない。そして、更に奴は式神の特性を隠す為に霊気の痕跡も消せるはずだ。

 道理で何も感じない訳だ。見るのは初めてじゃないんだし、途中で気付くべきだったぜ………まぁ、でもそれは良い。


 …………問題なのは……参ったな。

 向かいから来た人間が、同じ霊能者の上にまさか知り合いだったとは………そいつらに、無骸(協会ブラックリスト)と一緒に居る所を見られた。素性がバレたら事務所潰れるぞ。


「どうする?野郎(・・)完全に警戒してるぞ」
「逃げたら、怪しまれる。2人とも取り敢えず堂々としてろ」
「……………………」


 雪之丞の言う野郎にも、俺は見覚えがあった。

 以前、同じ部屋に入院したんだったな。誰かさんの暴走に巻き込まれた所為で…………いや、そうじゃなくて侍らしい上品な顔立ちをしたこのイケメン野郎は、確か『鬼道』と言う名の優秀な式神使いだったはずだ。

 こっちは機能的なダークオリーブのアウトドアウェアを身に付けて、俺達を油断無く睨み着けていた。


 そんな奴らと俺達は、約10メートル程の距離を隔てながら対峙している。真ん中に雪之丞、俺と無骸がそのサイドを挟む感じだ。至近距離には、程遠いが十分視認は出来る。摩虎羅を必死に追って来た結果だが、ここで変な行動でも起こそうもんなら六道に完全にマークされるぞ。


 そして、そうこう考えてる内に式神と感動の再会を終えた摩虎羅の主が、可憐だが幼さの残る顔をこっちに……正確には、雪之丞へ向けて来た。


「おっ、お前……」
「あなたは……」


 どうした?そんな、変な声出して……


「誰だっけ?」
「どなたですか………?」
「「「……………………」」」


 思わず内心でコケる……

 覚えてねぇのかよ………まぁ、この2人は互いに一度しか会ってないからな。

 だが、そんな事より………


「…………そういや、アレだな。確か、香港で会ったんだよな?何年振りだ?」
「そんなに何年も経ってないと思うけどぉ〜〜、やっぱり思い出せないわぁ〜〜……」


 どうする?この状況……

 無骸も一緒に居んのに、自己紹介なんてする訳にも行かねぇし、そのまま逃げたら普通に怪しまれる。


 ただ、状況は待ってはくれない。

 俺がそう逡巡してる間にも、彼女と一緒に居る鬼道が口を開いたので、それを遮る形で口を開く。向こうに主導権を握られるのは、不味い。


「こ、この方は__」
「『六道冥子』女史……名門六道家の次期当主にして、最強の式神使いだ」

※『GS美神』の横島ではなく、『幽遊白書』に出てる鴉の囁くような声を想像して脳内補完して下さい←ウザっ

 …………大好物を撒いてやったぞ。さぁ、食い付け戦闘狂(馬鹿)


「「さ、最強(……)!?」」


 …………予想外なのも一緒に食い付いてきた。ニュアンスは、真逆だったが………


「最強って……冥子!お前、ガキっぽい癖にそんな凄い奴だったんだな♪」
「え……あ、いや………」


 いきなり、名前呼びでそれかよ……しょうのねぇ野郎だな。

 まぁ、いい。女史も鬼道もマスク(虚吸の面)のお陰で俺=横島と気付いてない様だし、そうと分かれば追撃だ。


「武威、その人を舐めるなよ。数分で、高層ビルを更地に出来る破壊力(暴走)を持ってるお方だ。油断すれば、お前も塵になる」
「はっ、上等だ!ますます、やり合いたくなってきたぜ♪」
「……………………」←無骸
「あ……あの………」
「お、おい……」


 いきなり変に持ち上げられて(嘘ではないが)、戸惑う本人とその間に入ろうとする鬼道。その鬼道へ、俺は更に先回りする。


「フフ……ご心配なく。この男も、解っていますよ。互いに取り込み中だし、今ここで仕掛けたりはしません」
「当たりめぇだ。俺だってそのくらいの分別はある」
「……………………」←無骸


 ……本当か?

 いや、本当であって欲しい………


「そ、その……」
「ここでって……」


 当然2人とも納得してないが、それでいい。納得されても困るし、混乱してる内に退散だ。


「仕掛ける時は場所を選ぶし、不意打ちなんかしねぇ。それでいいだろ?」
「そうだ。お前と女史がぶつかり合えば、周りの被害は甚大だ。ちゃんと人の居ない所でやれよ」
「……………………」
「え……えぇ………!?」
「おい、そんな勝手に……」

「それでは女史、私達はこれで」
「じゃあな冥子……と、もう一人♪」
「……………………」
「あ、あの……ちょっ………」
「おい、あんたら!」


 言うだけ言うと、何事も無かったように回れ右をして足早に退散する。2人の声なんて、当然ガン無視だ。

 鬼道が追い掛けて来たら本気で走って逃げようかと思ったが、幸いにも奴は追っては来なかった。




    ◇◇◇


「……あんな、その場しのぎで大丈夫だったのか?」
「いいんだよ。あの場さえ乗り切りゃ、後はどうとでも言い訳出来る」
「……………………」

「じゃあ、後で何て言い訳する気だ?」
「茸でも採ってたって、言えば良いだろ……?」
「……………………」

「マジかよ!?雑だなぁっ!!」
「雑で良いんだよ。完璧にしようとすりゃ粗が目立つ」
「……………………」




    ◇◇◇

《後日美神除霊事務所》


「玲子ちゃ〜ん……」
「何よ……?」

「あたし、襲われるのかしら〜〜?」
「し、知らない……」



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 進級


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「摩虎羅ちゃ〜〜ん!!」
 山中に木霊する若い女の声。その間延びした呼びかけに反応するように前を走る山彦のシルエットがボヤけるように崩れる。
 …………ただ、それは一瞬だった。
 崩れたと思った次の瞬間には、普通の猿くらいの背丈しかなかったそいつが、一気にその2倍(120〜130cm)程に膨張していたからだ。
 焦げ茶の毛並に覆われていたその体は、赤茶色のツルッとしたような体表に変わり、ヒョロっとした手足の長い体付きは何となくエイリアンを彷彿させる。
「探したんだから〜〜……」
 その山彦だったエイリアンっぽい奴が、今はピンクのパステルカラーのアウトドアウェアを着た、如何にもお嬢様然とした女に抱き合ってる。声は聞こえない(出せない)が、再会の喜びと追われた恐怖でも主に伝えてるんだろうか?
 ………………こっちからは後ろ姿しか見えないが、間違い無い。
 奴は、オカルト界の重鎮六道家の所有する式神《十二神将》の内の一体《申の摩虎羅》だ……
「おい、あれって……」
「ああ……メドゥーサに化けて、お前を尋問した奴だ。懐かしいだろ?」
「……………………」←無骸
 隣で戸惑うように呟く、雪之丞に答える。
 |この男《武威》は、過去霊的格闘道場《白龍会》所属としてGS試験に参加した際、魔族との繋がりを証明する為に摩虎羅と対面していた。本人にとっちゃ糞みてぇな記憶だろうがな……
 申の摩虎羅……変身能力が特徴で、人間や妖怪は勿論様々な物に姿を変える事が出来る。その能力で、さっきまで山彦に化けてたんだ。目の前の連中のやり取りから察するに、除霊中にはぐれた感じか……?
「はっ!あん時のか……いい思い出だぜっ」
「傍に行って、再会のキスでもしてやれや」
「……………………」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!」
「しかし、厄介な事になったぞ……」
「……………………」
 やれやれだ………俺の中でここまで張り詰めていた焦燥感が、一旦は虚しさ混じりの安堵と化す。
 得体の知れない脅威と追って来たが、蓋を開ければ事は単純だった。式神なんだから、妖気なんて感じ取れるはずがない。そして、更に奴は式神の特性を隠す為に霊気の痕跡も消せるはずだ。
 道理で何も感じない訳だ。見るのは初めてじゃないんだし、途中で気付くべきだったぜ………まぁ、でもそれは良い。
 …………問題なのは……参ったな。
 向かいから来た人間が、同じ霊能者の上にまさか知り合いだったとは………そいつらに、無骸(協会ブラックリスト)と一緒に居る所を見られた。素性がバレたら事務所潰れるぞ。
「どうする?|野郎《・・》完全に警戒してるぞ」
「逃げたら、怪しまれる。2人とも取り敢えず堂々としてろ」
「……………………」
 雪之丞の言う野郎にも、俺は見覚えがあった。
 以前、同じ部屋に入院したんだったな。誰かさんの暴走に巻き込まれた所為で…………いや、そうじゃなくて侍らしい上品な顔立ちをしたこのイケメン野郎は、確か『鬼道』と言う名の優秀な式神使いだったはずだ。
 こっちは機能的なダークオリーブのアウトドアウェアを身に付けて、俺達を油断無く睨み着けていた。
 そんな奴らと俺達は、約10メートル程の距離を隔てながら対峙している。真ん中に雪之丞、俺と無骸がそのサイドを挟む感じだ。至近距離には、程遠いが十分視認は出来る。摩虎羅を必死に追って来た結果だが、ここで変な行動でも起こそうもんなら六道に完全にマークされるぞ。
 そして、そうこう考えてる内に式神と感動の再会を終えた摩虎羅の主が、可憐だが幼さの残る顔をこっちに……正確には、雪之丞へ向けて来た。
「おっ、お前……」
「あなたは……」
 どうした?そんな、変な声出して……
「誰だっけ?」
「どなたですか………?」
「「「……………………」」」
 思わず内心でコケる……
 覚えてねぇのかよ………まぁ、この2人は互いに一度しか会ってないからな。
 だが、そんな事より………
「…………そういや、アレだな。確か、香港で会ったんだよな?何年振りだ?」
「そんなに何年も経ってないと思うけどぉ〜〜、やっぱり思い出せないわぁ〜〜……」
 どうする?この状況……
 無骸も一緒に居んのに、自己紹介なんてする訳にも行かねぇし、そのまま逃げたら普通に怪しまれる。
 ただ、状況は待ってはくれない。
 俺がそう逡巡してる間にも、彼女と一緒に居る鬼道が口を開いたので、それを遮る形で口を開く。向こうに主導権を握られるのは、不味い。
「こ、この方は__」
「『六道冥子』女史……名門六道家の次期当主にして、最強の式神使いだ」
※『GS美神』の横島ではなく、『幽遊白書』に出てる鴉の囁くような声を想像して脳内補完して下さい←ウザっ
 …………大好物を撒いてやったぞ。さぁ、食い付け|戦闘狂《馬鹿》。
「「さ、最強(……)!?」」
 …………予想外なのも一緒に食い付いてきた。ニュアンスは、真逆だったが………
「最強って……冥子!お前、ガキっぽい癖にそんな凄い奴だったんだな♪」
「え……あ、いや………」
 いきなり、名前呼びでそれかよ……しょうのねぇ野郎だな。
 まぁ、いい。女史も鬼道も|マスク《虚吸の面》のお陰で俺=横島と気付いてない様だし、そうと分かれば追撃だ。
「武威、その人を舐めるなよ。数分で、高層ビルを更地に出来る破壊力(暴走)を持ってるお方だ。油断すれば、お前も塵になる」
「はっ、上等だ!ますます、やり合いたくなってきたぜ♪」
「……………………」←無骸
「あ……あの………」
「お、おい……」
 いきなり変に持ち上げられて(嘘ではないが)、戸惑う本人とその間に入ろうとする鬼道。その鬼道へ、俺は更に先回りする。
「フフ……ご心配なく。この男も、解っていますよ。互いに取り込み中だし、今ここで仕掛けたりはしません」
「当たりめぇだ。俺だってそのくらいの分別はある」
「……………………」←無骸
 ……本当か?
 いや、本当であって欲しい………
「そ、その……」
「ここでって……」
 当然2人とも納得してないが、それでいい。納得されても困るし、混乱してる内に退散だ。
「仕掛ける時は場所を選ぶし、不意打ちなんかしねぇ。それでいいだろ?」
「そうだ。お前と女史がぶつかり合えば、周りの被害は甚大だ。ちゃんと人の居ない所でやれよ」
「……………………」
「え……えぇ………!?」
「おい、そんな勝手に……」
「それでは女史、私達はこれで」
「じゃあな冥子……と、もう一人♪」
「……………………」
「あ、あの……ちょっ………」
「おい、あんたら!」
 言うだけ言うと、何事も無かったように回れ右をして足早に退散する。2人の声なんて、当然ガン無視だ。
 鬼道が追い掛けて来たら本気で走って逃げようかと思ったが、幸いにも奴は追っては来なかった。
    ◇◇◇
「……あんな、その場しのぎで大丈夫だったのか?」
「いいんだよ。あの場さえ乗り切りゃ、後はどうとでも言い訳出来る」
「……………………」
「じゃあ、後で何て言い訳する気だ?」
「茸でも採ってたって、言えば良いだろ……?」
「……………………」
「マジかよ!?雑だなぁっ!!」
「雑で良いんだよ。完璧にしようとすりゃ粗が目立つ」
「……………………」
    ◇◇◇
《後日美神除霊事務所》
「玲子ちゃ〜ん……」
「何よ……?」
「あたし、襲われるのかしら〜〜?」
「し、知らない……」