再び木へ飛び移るステルス。
高低差を使って攻められると厄介過ぎる。以前討伐した猿の妖怪が、周りの樹木を利用した戦法使って来たけど、それに似てるな。
※『狒狒』を参照
でも状況は、あん時よりも悪いぞ。ステルスの方が猿よりパワーもスピードも上だ。おまけに “ステルス・ハウリング” (仮名)なんて飛び道具まで、持ってやがる。
ステルス……お前は自分を “張り子の虎” なんて自虐してたけど、とんでもねぇな。今のお前は、立派な “ステルス・タイガー” じゃねぇか………
※「ステルス」から離れられない男
「糞っ、またか……」
“グラアアアァァーーーー!!!”
さっきと同じように飛んでくる霊波咆哮を、悪態をつきながら躱す雪之丞……それは、いいんだが…………
ズドオオォォーーーンッ!!
ああっ……また………!
木には当たらなかったが、今度は地面を穿ちやがった。
“ガルゥッ!”
「ちぃっ……」
これまた、同じように雪之丞の避け際に襲い掛かるステルス。だが、流石に予想は付いてたようで躱し切る。
「しゃらくせぇっ!!」
“ガゥッ!”
そして、お返しとばかりに回し蹴りを放つが、これまた跳躍して躱される……なんつー反射神経とバネだよ!キリがねぇぞ。
ただ、そうに感じてるのは俺だけじゃない………
「デケェ癖にちょこまかすんなっ!!」
「止せっ!撃つな!!」
「ちっ……」
勢いで霊波砲を撃とうとする、雪之丞を慌てて止める。撃ち合いになったら、それこそ終わりだ。収拾が着かなくなって、2人で逃げることになりかねない。
俺達はそれでもいいけど、あいつは良くて逮捕。悪けりゃ………洒落抜きで射殺……?
“ガアッ!グルァッ!”
ただ、そんな俺の心配お構いなしにステルスは吠えまくる。
この野郎、溜め撃ちから小出しに切り替えて来やがった。ますます森に傷が付くじゃねぇか、人の気も知らねぇで……!!
ズドンッ! ズブォンッ!
「あんの……糞虎、調子に乗りやがって!!」
………………大分苛ついてるけど、元を辿ればお前が喧嘩吹っ掛けたんだからな……
ボゴォンッ! ドォゴォンッ!
ただ、呆れてばかりもいられねぇ。
これが長引いた分だけ、森がエラい事になる。おまけで奴がブチ切れたら、それこそさっき想像した最悪の未来一直線だ。
とにかく、今すぐにでも奴を止めないと不味い……!
「文殊を使うっ!合図したら離れろ!!」
そう言って、ポケットにある文殊に手を伸ばす。
「糞が!目ぇ覚ましたら、ぶっ飛ばしてやる……!」
それに対して、不承不承頷く雪之丞………勝負なら、また出来る。今回は我慢しろ。
ズドンッ! ズブォンッ! ズガァンッ!……
…………落ち着け。
降りてきた瞬間決めれば、一瞬で勝負は付く。俺は気を鎮めながら、ステルスの動きを注視する。
そして……
“グラアァッ!!”
木上から、雪之丞に襲い掛かるステルス。
ここだな……着地する瞬間なら身動き取れねぇ。
「今だっ!」
掛け声と同時に『眠』と刻んだ文殊を投擲!雪之丞もそれに合わせて、後ろへ跳ぶ。
ちょうど、ステルスの死角を突いた。
後は、発動させて決まる。そう思った瞬間だった……
「グガァッ!」
「!?」
やべぇ…………思うと同時に、反射的に木の裏に飛び込む!
ヴアアァァーーーーンッ!!
「ぐおっ……」
奴の手前で、文殊が破裂した!
ステルスの振り向き様に放ったステルス・ハウリングを受けた文殊が、霊的不安定に陥って爆発しちまったんだ。
木が遮ってくれたお陰でダメージはなかったが、軽くない耳鳴りが残る。
俺の声と雪之丞の動きから、反射的に何かあると勘付かれたか!?それとも、仕掛けるには距離が遠すぎたのか?
………………多分両方だ。
あいつの野性的超感覚は、余程のことをしないと不意を衝けねぇらしい。
いや……それよりも、2人はどうなった?俺よりも距離は近かった筈…………
慎重に………ゆっくりと立ち上がり、木の陰から視線を覗かせる。
「マジかよ…………!!」
結論から言うと……2人共立っていた。だが、無事と言うわけじゃなく、どっちもダメージは避けられなかったようだ。衣服や鎧は焼け焦げて、煙が上がってる。当然、軽傷じゃないだろう。
ただ、気力は両者とも衰えてなかった。腰を落として睨み合う2人から立ち昇るのは、煙だけでなく闘志のオーラ…………少なくとも俺には、それを含んでるように見えた。
……どうするか?
今なら、もう一回文殊を投げれば簡単に片が着きそうだけど…………
「…………………………」
“……………………………”
………………もう少し待ってみるか……ここで連中に水を差すのは、少し違う気がした。
「……………………」
“グルルル…………”
どっちが先に動く?
2人とも余力はねぇ。次の一撃で決まるだろう……
「おおおーーっ!!」
“グゥアアァァーーッ!!”
同時か……!
ドガァッ……!!
数メートルの距離を一瞬で潰して、両者が激突…………そして………
“グゥァ…………”
ドサッ………………
倒れたのはステルスだった……
リーチこそ奴の方が長かったが、それが雪之丞に届くことはなかった。雪之丞の方が、一瞬早く掻い潜ったからだ。
その勢いのまま繰り出された拳は、ステルスの鳩尾に深々と突き刺さり、一気に奴の意識を刈り取っていた。
………しっかりと決着を見届けてた俺は、2人に近づく。
「不満そうだな………」
「実質、2対1だからな。出来れば、もっと五分の条件でやりたかったぜ……」
まぁ、文殊の誤爆を俺の攻撃とすれば2対1かもな。
雪之丞も一緒に喰らったけど、ステルスは至近距離に居た分ダメージも深かったか。
でも…………
「機会な__」
“機会ならいくらでもある” ……そう言おうと思った瞬間に、遠くから見える光に思わず口を噤む。
「やべぇ!!」
「騒ぎ過ぎたな……!」
こんなこと言い合ってる間にも近付いて来る、複数の足音…………
◇◇◇
「なんだ、これは………!?」
「酷いな……一体何があったんだ?」
「何かが、爆発したあとにも見えるけど……見えたか?」
「いや……音だけだ。とにかく警察を呼んだ方がいいな」
その後も警備員達は辺りを懐中電灯で照らしていたが、数分もすると立ち去っていった。
「行ったな……?」
「ああ…」
小声で話す雪之丞に、俺も同じように小声で返す。
俺達はさっきまで一応物陰に隠れちゃいたが、懐中電灯で何回も照らされた。
普通なら、速攻で見つかってたろう。
普通ならな……
「バレないのは良いんだけど……全然見えねぇな」
「俺もだよ。ステ……タイガーそこに居るよな?」
「ここに居るよ」
「だから、どこだよ?」
その辺に寝そべってないか、軽く足を振ってんだが全く当たらない。
「俺の声のする方だよ!踏むなよ」
「いや……踏むなよって」
グニッ……
「ぐえっ……」
「あっ、踏んだ……ここか」
取り敢えず踏んだ辺を手で弄ると、ステルスのどっかに触れた。ちなみに後で知ったが、俺はステルスの鳩尾を踏んだらしい……許してくれ。
何言ってるか解らないと思うが、隠れる間の無かった俺達は、ステルスを含めて全員文殊で “透化” してる。
要するに、警備員達に見つからないよう透明になったわけだ。お陰で連中の目を誤魔化す事は出来たが、お互いも見えなくって四苦八苦してるのが最中だ。
隠形には便利だけど、複数じゃ使えねぇな。これ……
「持ったか?」
「持った!連中が来る前に逃げよう」
そんな事を考えつつも、俺達は前後でステルスを担ぎながら森を一気に抜ける。
出口を出た頃には、パトカーのサイレンが聞こえて来た。間一髪だったぜ……
後、ステルスの破壊した森は文殊で修復しておいた。
完全に元通りには行かなかったけど、あれくらいならそう騒ぎにもならないだろう。
◇◇◇
「さてと……こいつは、どうする?」
未だ気絶してるステルスを見ながら、雪之丞が呟く。
当たり前だが、もうこいつは人間に戻ってる。こいつのタフさなら、何もしなくてもそのうち起きるだろうな……
コインパーキングまで戻ってきた俺達は、取り敢えず車の荷台にこいつは横にして、それぞれ座席にいる。付け加えると身体も透明状態から戻ってる。
「事情を聞くのは、起きてからでいいだろ?送ってやろうぜ」
「家……知ってるのか?」
「知らん」
ステルスが俺の部屋に来ることはあっても、その逆は今まで無かった。今度押しかけてみるか?
「何処に送る気だよ……?」
「ここからなら、小笠原さんの事務所に近い。行ってみよう」
「閉まってたら?」
時刻は既に11時過ぎ……確かに、やってないかもしれないな。
「俺の部屋に泊めてやるよ。お前の事務所よりは近いだろ?」
◇◇◇
「何だ?こんな時間………そ…そいつは、タイガー!?」
幸いにも事務所の明かりは、まだ点いてた。
そして、ステルスを担いで来た俺達に驚いているのは、3人組の傭兵の1人『ボビー』
この男は屈強な3人の中では、比較的小柄な男で眼鏡が特徴…………あれ、眼鏡は『ジョー』だったかな?
駄目だ……忘れた。一度一緒に仕事をした…………やらされただけだしな。
正直な所、隊長格のヘンリー以外ぶっちゃけ印象が薄い。
何故、ヘンリーは覚えてるかと言うと……余り思い出したくないから、いいや…………
「武威、後は頼む……」
「ああ」
とにかく後のステルスの事を雪之丞へ押し付けると、俺はそそくさと退散した。
ボビーだかジョンだか解らねぇ野郎はともかく、ステルスや゙小笠原さんにこの格好を見られたくないからな……