“グァオォッーーッ!グァオオオォッッーーーッ!!”
一心不乱に吠えまくるステルス………それを俺達は物陰から覗いていた。
「…………どう見ても、冷静じゃねぇよな?」
「ああ、完全に我を失ってる……」
あいつは力(精神感応)を使いすぎると、封印された本性が暴れ出す。
…………でも今、精神感応なんか使ってるか?
虎の姿を取っちゃいるが、周りの景色は特に変わらないぞ。鬱蒼とした森が広がってるだけだ。
そう思ってると、雪之丞が夜空を見上げながら呟く。
「あの “月” が悪さしてんのかな?」
「月……満月を見て、興奮してるって言いたいのか?」
反応して俺も空を見る。確かに満月の晩は、感情や霊力が高まるって言うけど………
「いや……今まで、そんなことは無かった」
「今まで無くても、実際月に向かって吠えてるじゃねぇか。何か関係は、あると思うぜ」
「………………」
一理あるか…………でも、疑問は解決するどころか深まるばかりだ……
「そういや………前に1度あいつ暴走したんだよな?その時は、どうやって止めたんだ?」
「先生が神通棍で羽交い締めにして、小笠原さんが霊体撃滅波をぶつけて止めた」
とは、言っても…………
あの時の暴走と、今回の暴走を果たして一緒にしていいもんだろうか?明らかに “質” が違うぞ。
「マジか!?一流所が2人掛かりで、やっと止まったってか?タイガー、本当は凄かったんじゃねぇか♪♪」
「嬉しそうだな……」
なんか、流れ的に次の言葉が予想出来る………
「って事は、あいつを倒しゃ俺は姐さん達より強いって事だよな?」
「出来ればな……それと倒すんじゃなくて、止めるんだ」
不安は尽きない……と言うか深まってるけど、こいつがこう言い出した以上俺も腹括るしかねぇな。
「余り時間は掛けらんないぞ!騒ぎが長引くと警備員が来る。後、霊波砲も撃つな。森に傷がつく」
ここは、ただの森じゃない。
歴史的にも文化的にも価値の高い場所なんだ。ここから少し離れた本殿には、 “もの凄く偉い人間” が祀られてる。森を荒らしただけでも、捕まったら洒落じゃ済まねぇ……
「了解♪なら、殴って速攻で済ませる!」
そう言って、奴の方へ歩を進める雪之丞。あれが速攻で済むとは思えねぇけど、本当に速攻で済まして欲しい。
…………まぁ、幸いにも文殊のストックには余裕がある。長引きそうなら、隙を見てステルスを正気に戻せばいいか。
「おおぉぉっ!!魔装術!!」
そして奴の数メートル手前まで行くと、掛け声と共に霊気の鎧を纏う。仕事で纏うのは数ヶ月前のテロリスト以来か……
※『ザンス編』参照
“グルルッ……!?”
さっきまで夢中になって吠えていたステルスだったが、いきなり現れた雪之丞が視界に入った瞬間、唸り声を上げながら警戒心を露わにする。
………我を失っても警戒心はあるらしい。でも、眼の前の相手が自分の友人とは気付いてない。見た目通り野生の虎になってやがる。
「俺が、誰か解るか?いや、解らなくていい……俺と勝負しようぜ!タイガー!!」
「グルルルッ……!!」
そう言って構えをとる雪之丞に対して、ステルスもそれに合わせるように極端な前傾姿勢を取る。力の籠もる両手がもう少しで地に着きそうだ。これまた、飛び掛かろうとする虎って感じだな……
言葉は喋らないけど、言葉は解るのか?いや、本能…………?
…………そうして、互いに構え始めてから睨み合うこと十数秒………先に動いたのは、ステルスだった。
「グラアァッ!」
「「!!?」」
勢いよく地面を蹴って突進するステルス!
俺達の前で見せたようなドタドタ走りじゃない。肉食獣を思わせるような、豪快かつしなやかな足運びで一瞬で距離を詰めた!
そして……
「おおぉっ!!」
ジィッ!!
薙いだ……雪之丞と交差する刹那、右の剛腕をもの凄い勢いで振り抜いた。
雪之丞は身を捻って躱すが…………躱し切れなかった。掠るように接触した爪が胸の装甲を僅かに削る。
「うっひょ~、疾ぇなぁ♪こりゃ、姐さん達が苦戦すんのも解るぜ!」
…………違う。あの時より、今の方が明らかに疾い。砲弾みたいだ。
雪之丞も軽口を叩いちゃいるが、そこまで余裕はなんかない。声に籠もる緊迫感がいい証拠だ。
あのガタイで、あの疾さ…………まともに喰らったら、一溜りもねぇぞ。
………………いや、それも間違いなくヤバい……だけど、同じくらい気になることが一つある。
今、あの “長く伸びた爪” で頑丈な鎧を傷付けたんだよな?
あの爪は、精神感応で作られた幻の筈だ。殺傷力なんて、あるわけない。指に霊気を纏わさて引っ掻いたのか?それとも、傷自体が幻……?
駄目だ、解らん…………
ただ、こっちが奴の手札が解らなくても、奴はいちいち待っちゃくれない。ステルスは再び前傾姿勢を取ると、すぐさま襲い掛かって来た。
“グガァッ!! ”
さっきと同じように、巨体を物ともせずに疾駆するステルス。そして、振りかぶった爪を今度は振り下ろして来る。
「はんっ、同じ手は喰うか!」
対する雪之丞も今度は、足を使ってステルスの側面に回り込むようにして躱す。奴の爪は掠ることなく空を切る。さっきの一撃で疾さを把握して、すぐさま動きを修正したか。
“グルルルッ!”
セカンドコンタクトも不発に終わり、三度対峙する2人……
さて、どうする?躱すことは出来ても、これじゃステルスを止めれねぇぞ。
「受けるだけっての性にあわねぇ、行くぜ!!」
“グガァッ!!”
掛け声と共に飛び掛かる雪之丞。
……まぁ、そうなるよな。お前が受け身に徹するなんて、あり得ない。
対するステルスも迎えつんじゃなくて、雪之丞に合わせるように踏み出す。
「おおぉぉーーーっ!!」
“グゥワラアアァァァーーッ!!”
グァッッ!!
お互い腕をクロスさせて、ぶつかり合う2人。そこから拮抗して動かない。
互角………いや、ステルスは勢いがトップに乗るまで距離が足らなかったか。
「だらぁっ!」
“グルウァッ……”
そこから雪之丞が押し切る。
先に動いた分、ステルスより優位な姿勢で入れたのが大きいな。そして、流石にふっ飛ばされることはなかったが、僅かに体勢を崩すステルス………ただ、それを見逃すあいつじゃない。
「おおっ!!」
バァゴッ! バガァッ!!
おおっ……!
ガラ空きになった腹に2発いいのが入った。そこから、更に追撃……
“グガァッ!”
「おっと……」
…………それほど甘くはねぇか。
かなり、まともに入ったのに止まること無く剛腕をブン回して来た。ダメージがないのか?
……………………いや、怒りの中に僅かながら苦悶の表情も見える。それなりに効いてはいるんだ。
「タフだなぁ………こりゃ、倒し甲斐があるぜ♪」
“グルル……”
だから、倒すんじゃなくて止めんだよ………大丈夫だろうなぁ?
「おらっ、どんどん行くぜ!」
“グァッ!!”
跳んだ!?
巨体を疑わせるような跳躍で、雪之丞を避けるように近場の木の枝に乗り移った。
「あん?逃げる気か!?」
そんなに効いてる感じはしなかったけど、思ったよりダメージが深いのか?
…………だとしたら、やべぇな……あの姿で街中に出られたら騒ぎになる。
だが、そんな不安は一瞬だった。すぐに、次の攻撃に移って来たからだ。
“ガアアアアァァァァァーーーーーー!!!”
一度大きく息を吸った後、雪之丞へ大口を開けて極大の咆哮…………
違うっ!咆哮じゃない!!
「避けろっっ!!」
俺は反射的に叫んでいた。
違和感は、息を吸い込んだ時からあった。その時から、奴の霊圧が大きく上がっていたからだ。
ブォオオオオオッーーーー!!!
ステルスの口から放たれる、強力な霊気の奔流。
多分、自分の咆哮に霊波を乗せてきたんだ。『ステルス・ハウリング』!?
野郎、いつの間にこんな技を……
※ステルス全く関係ないです
「ちっ……」
ただ、俺が叫ぶよりも先に雪之丞の動いていた。
まぁ、傍から見てる俺が気付くんだから、対峙してる奴がステルスの違和感に気付くのも当然だな。
ドォゴオオォーーーン!!
横に跳んで何とか霊波は躱すが…………そのまま外れた霊波は、後にある巨木に命中……
バギバキバキッ…………ドォサウウウウゥゥ〜〜ン!
………………おいおいおいっ、やっちまったよ!この森は、貴重な文化財なんだぞ……
「ちっ、やってくれる「上だっ!」 “グルァッ!!” ぜ……うおっ!!」
躱した直後の体勢の整わない雪之丞に、間髪入れず飛び掛かるステルス!
バキッ!
雪之丞は更に転がるようにして逃れるが、今度は肩に一撃を受ける。
「大丈夫か……!?」
「ああ、問題ねぇ!」
確かに、肩自体にダメージはなさそうだが、装甲に胸以上にくっきりと引っ掻き傷が出来てる。そして、俺は疑念を確認するように更に口を開く。
「……その傷、本物なのか?」
「当たる瞬間に霊気を感じた、こいつは幻なんかじゃねぇぞ!」
霊気を感じたか……
だとしたら、あの爪……… “ステルス・クロウ” は俺の霊手と似たようなもの?それを幻術で爪に見立ててるのか?
そう考えると、あの口に生えた “牙” …… “ステルス・ファング” も警戒したほうがいいかもしれねぇ……
※だから、ステルス全く関係ないです
「だったら、爪だけじゃねぇな。牙にも注意しろ」
「解ってる!」
“グオッ!”
意思を統一して警戒を強める俺達だったが、ステルスはそれを他所に再び跳んで木の上へ…………どうやら、殴り合いから一撃離脱戦法に切り替える気らしい。
「面倒くせぇな……」
本当だよ。
余り長引くと騒ぎがデカくなって収拾が着かなくなる。早めに何とかしねぇと……