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虎・咆哮

ー/ー




「タイガーの奴、最近来ねぇけど……学校には来てたのか?」
「学校には、普通に来ていた」


 今は、3月26 日。

 一昨日から春休みに入ったが、ステルスは修了式の日も普通に居た。相変わらず目立たなかったけど……


 いつの間にか来て、いつの間にか帰る………ステルス登校&ステルス帰宅……


「じゃあ、仕事が忙しいのか?」
「いや、そういわけでもないらしい「人も増えて(・・・・・)楽になった」って、言ってたくらいだ」

「人が増えた?小笠原の姉御、新しい弟子でも取ったのか?」
「いや、出戻り(・・・)だ………俺も一度会ったことのある連中だよ……」


 もっと言えば、同じ服着て一緒に仕事(?)した。

 別に悪い奴等ではないんだけど、共に過ごした思い出が悪すぎる……


「…………なんか……訳あり臭いな。それはひとまず置いて、タイガーは忙しいわけじゃないんだな?」
「そうだよ、学校には来てたし、仕事も忙しくないが修業には来なくなったんだよ」
 

 普通なら嫌になって、諦めたと考えるのが自然ではある。あるけども………
 

「じゃあ、 “森” に籠もってるのか……?」
「多分……」



  
    ◇◇◇


「へぇ、ここが……初めて来るけど、本当の森みたいだな」
「長い時間を掛けて、植えた木が拡がって行ったからな。もう、自然の森と変わらないだろ」


  “街中” に広がる鬱蒼とした森を眺めながら呟く雪之丞へ、俺も持ってる知識を交えながら返す。目の前にある巨大な鳥居が、現実と異界を隔てる入り口のように聳えていた。


 現在、夜の9時過ぎ。

 ちょうど近場で仕事を終えた俺達は、そのままのついででステルスの籠もってるであろう森の前まで来てる。
 
 仕事を終えた後なんで、当然格好は爺さん特性の霊障用スーツ。車を停めた近場のコインパーキングから、ここまで来る間に何度か通行人に奇異の目で見られたが、もう気にしないことにした。

 隣のこいつ(雪之丞)が普通に羨ましい。こいつも同じ物を着てるが、普段着と全く見た目が変わらないからな……

 
「さ〜て、じゃあ虎探しでも始めっか♪」
「居りゃいいな……」


 もし、あいつがここに居るとすりゃあ、目的は多分修業だろう。ここまで自然豊かな場所なら霊的修業には持って来いで、都心に近いとなりゃ通いやすくていい。


「もし、これでタイガーでなかったら何が居んだろうな?」
「さあな、でも被害が出てるわけじゃないから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思う」
 

 軽い雑談をしながら森の中………と言っても、整備されてる道を並んで歩く。

 あいつが修業すると言ったら、こう言った道や施設から外れた場所だろうけど、どこにいるか解らない以上当てずっぽうに森(70ヘクタール、サッカー場100個分くらいある……)を歩いても見つからないと思ったからだ。

 まぁ、それ以上に面倒くさいからってのが本音なんだけどな………


 ステルス本人に、この事は聞かなかった。

 気にはなってたけど、あいつの問題である以上協力はしても、こっちからどうこう詮索するのは違う気がしたからだ。

 ここに来たのも、本当に “たまたま” この森の近くに来たからだ。探してどうしようか特に考えてるわけでもないし、見つからなくてもいいと思ってる。途中で面倒臭くなったら、帰るつもりだ。


「学校でのあいつって、いつもどんな感じなんだ?」
「全く目立たない。要は、いつも通りだ。少なくとも落ち込んでたり、自棄になってる感じじゃないな……」

「いつも通りは、いいとして……目立たないのか?」
「お前だって、何回か会ったんだから解るだろう?あいつは良い奴だけど、デカい癖にやたら控えめで悪く言えば自信が無くてオドオドしてる所がある」


 自信が持ててないのは、俺も一緒なんだけどな………


「そうか……無意識に自分を抑えてるのかもしれないな」
「なるほど。確かに言われりゃ、そんな感じもするな。あいつが修業を言い出したのも、その辺が関係してんのかな?」

「大いにあるだろうな………あいつなりに、自分の殻を破りたいのかもしれねぇ」
「……なのに、修業には来なくなった」

「ここに、その答えがあるのかもな♪」
「ああ………」


 居りゃあだけどな……




     ◇◇◇


「何分くらい歩いた……?」
「40分くらい」


 少しウンザリした感じの声で聞く雪之丞に、俺は傍に立つポール時計を見ながら答えた。

 季節は3月の下旬。

 この時期にする夜の散歩は、割と涼しくて快適ではあるが、ここまで長くなるといい加減飽きてくる。夜で他に人も居ねぇし、傍から見りゃただの物好き。俺の格好を加味すりゃ変質者にすらなり得る……


「居ねぇな……このままじゃ、もうすぐ一周りしちまうぞ」
「今日は、来てないのかもな」


 あいつだって仕事や生活があるんだ。来ない日があっても不思議じゃない。最悪、一度も来てない可能性だってあるんだ。本人に確認したわけじゃないんだし……


「居たけど、気付かず通り過ぎちまったかな?」
「あるかもな……奥で瞑想でもしてりゃ気付かねぇよ」


 そもそも、そこまで本気で探してたわけじゃない。あれからも、整備された道を雪之丞とどうでもいいこと話しながら歩いてただけだ。

 虎の咆哮が聞こえるって言うから、歩いてりゃそのうち何か聞こえて来るだろうなんて思ってたけど、何にも聞こえてこねぇ。

 楽観的過ぎたな……


「どうする……?一周したら、もう一回探すか?」
「嫌そうな声で聞くなよ」

「じゃあ、元気に聞けば行くのか?」
「どっちでも嫌だよ。面倒くせぇ……」


 仕事でもねぇのに、何で夜の森なんか探索しなきゃいけねぇんだ………!


「思ったんだけどよぉ……」
「うん?」

「あいつって、虎みたいに鳴くのか?」
「…………わかんね」


 そういや、そうだな……仕事中は毎回虎の顔(精神感応)になるけど、別に虎に成り切ってるわけでもないし、普通に喋るからな…………唸り声とかなら上げてた気もするけど、どうだったかな……?

 こうなってくると『虎の咆哮=ステルス』は、安直過ぎる気さえしてきた。


「帰るか…………?」
「ああ……何か疲れた」
 

 予想を外して、ただのくたびれ(・・・・)儲け……互いにそう思って、白けながら帰路に着こうとした時だった…………


 
“グァオォッーーー!”



「「!!?」」


 森の奥から響く何者かの咆哮……?


「…………聞こえたな」
「………………ああ」


 噂をすれば影ってか…………
 

「あの声は、タイガーか?」
「解らねぇ……行ってみよう」


 そうして道から外れて、森の中を進む俺達。

 舗装もなくなり、当然街灯も無い。ただ、幸いにも空に出てるのは満月。普段よりは明るい……それでも視界がいいとは言えねぇな。


「見えるか……?」
「何とかな」


 木々を掻き分けながら、隣を歩く雪之丞の声に答える。 

 互いに霊視は余り強くないが、それでも夜の森を駆け回る特訓だってしてる。こんな、平地の人工林を歩くだけならそこまで難しくはない。


「電灯持ってくりゃ良かったぜ……」
「ねぇもん言っても仕方ねぇ」

 
 元々は見つかりゃラッキーくらいの気持ちで来てただけだしな。怨霊や妖怪なら、奴等の発する気で問題なく見えるんだが、単に夜の景色だけだとそうも行かない。


 “グゥオオォォーーーー!!!”


「………でも、迷うことはなさそうだな」
「ああ……」


 聞こえる声が少し近くなってる。どうやら、方向はこっちで合ってるらしい……
 

「妖怪や怨霊の線も残っちゃいるが……奴がタイガーとして、何してんだろうな?」 
「だから……修業だろ?」


 今更何を言ってんだ?
 

「虎の真似して叫ぶ修業か?」
「んなこと、わざわざしねぇと思うけど……」

「じゃあ、何の為に叫ぶんだ?」
「それは……」


 確かに何でだ……?

 声の正体がステルスと仮定しても、明確な答えが出てこない。

 さっきまで聞こえた咆哮を、改めて思い出してみる。何だか興奮してるようにも感じたが……


 “グゥオオオオォォーーー!!!!”


「盛んだねぇ♪何が出てくるか楽しみだぜ!」
「……羨ましい話だな」


 相手の正体が解らねぇのに、よく嬉しそうに出来るな。こっちは、寧ろ不安になってきたってのに……



 
   ◇◇◇
 
 
「近いな……どうやら、妖怪の線は消えたみたいだぜ」
「ああ、霊気を感じる」


 森に入ってから、慎重に歩を進めること10数分……相手の霊気を感じることが出来るようになってきた。

 …………雪之丞は妖怪の線を否定した。奴も何者かの霊気は感じてるは間違いない。でも、 “誰の” 霊気とまでは断定出来てない。それとも、心当たりはあるけど慎重になって黙ってるのか?

 俺は、この感じに心当たりがある。普通ならそれをすぐ口に出すとこなんだが、喉まで出掛かったところで躊躇してる。
 

 この感じ…………奴に似てはいるけど……何か違う。あいつに無い “嫌な感じ” の何かがある……




   ◇◇◇


 それから更に少し進んで、俺達は木々の少し開けた所に出た。

 そして、その場の中央に “奴” は居た……
 



「グゥオオオオオオオォォォォォーーー!!!!」

  


 地面に仁王立ちになり、ひたすら月に向かって猛り狂う一匹の虎が…………


「ははっ…………こりゃ、どういうこった……?見ても、イマイチ信じらんねぇ。お前は、気付いてたのか?」
「いや、似てるとは思ったけど確信が持てなかった……」


 2メートルを越える巨体、丸太のように太い手足、指先から生える鋭い爪、口から覗く鋭い牙……全身から溢れ出る力感や迫力に、離れてるこっちが気圧されそうになる。


 この姿は何度も見てる筈なのに発する気が違うだけで、こうまで変わって見えるのか?

 そして、極めつけは奴の眼……その眼には…………理性と言う光がまるで灯っちゃなかった。
 
 いつもの人の良さなんて何処にもない。あそこから感じられるのは凶暴さと残忍性だけだ。


 一体どうしたら、そうなるんだよ?ステルス……

 


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「学校には、普通に来ていた」
 今は、3月26 日。
 一昨日から春休みに入ったが、ステルスは修了式の日も普通に居た。相変わらず目立たなかったけど……
 いつの間にか来て、いつの間にか帰る………ステルス登校&ステルス帰宅……
「じゃあ、仕事が忙しいのか?」
「いや、そういわけでもないらしい「|人も増えて《・・・・・》楽になった」って、言ってたくらいだ」
「人が増えた?小笠原の姉御、新しい弟子でも取ったのか?」
「いや、|出戻り《・・・》だ………俺も一度会ったことのある連中だよ……」
 もっと言えば、同じ服着て一緒に仕事(?)した。
 別に悪い奴等ではないんだけど、共に過ごした思い出が悪すぎる……
「…………なんか……訳あり臭いな。それはひとまず置いて、タイガーは忙しいわけじゃないんだな?」
「そうだよ、学校には来てたし、仕事も忙しくないが修業には来なくなったんだよ」
 普通なら嫌になって、諦めたと考えるのが自然ではある。あるけども………
「じゃあ、 “森” に籠もってるのか……?」
「多分……」
    ◇◇◇
「へぇ、ここが……初めて来るけど、本当の森みたいだな」
「長い時間を掛けて、植えた木が拡がって行ったからな。もう、自然の森と変わらないだろ」
  “街中” に広がる鬱蒼とした森を眺めながら呟く雪之丞へ、俺も持ってる知識を交えながら返す。目の前にある巨大な鳥居が、現実と異界を隔てる入り口のように聳えていた。
 現在、夜の9時過ぎ。
 ちょうど近場で仕事を終えた俺達は、そのままのついででステルスの籠もってるであろう森の前まで来てる。
 仕事を終えた後なんで、当然格好は爺さん特性の霊障用スーツ。車を停めた近場のコインパーキングから、ここまで来る間に何度か通行人に奇異の目で見られたが、もう気にしないことにした。
 隣の|こいつ《雪之丞》が普通に羨ましい。こいつも同じ物を着てるが、普段着と全く見た目が変わらないからな……
「さ〜て、じゃあ虎探しでも始めっか♪」
「居りゃいいな……」
 もし、あいつがここに居るとすりゃあ、目的は多分修業だろう。ここまで自然豊かな場所なら霊的修業には持って来いで、都心に近いとなりゃ通いやすくていい。
「もし、これでタイガーでなかったら何が居んだろうな?」
「さあな、でも被害が出てるわけじゃないから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思う」
 軽い雑談をしながら森の中………と言っても、整備されてる道を並んで歩く。
 あいつが修業すると言ったら、こう言った道や施設から外れた場所だろうけど、どこにいるか解らない以上当てずっぽうに森(70ヘクタール、サッカー場100個分くらいある……)を歩いても見つからないと思ったからだ。
 まぁ、それ以上に面倒くさいからってのが本音なんだけどな………
 ステルス本人に、この事は聞かなかった。
 気にはなってたけど、あいつの問題である以上協力はしても、こっちからどうこう詮索するのは違う気がしたからだ。
 ここに来たのも、本当に “たまたま” この森の近くに来たからだ。探してどうしようか特に考えてるわけでもないし、見つからなくてもいいと思ってる。途中で面倒臭くなったら、帰るつもりだ。
「学校でのあいつって、いつもどんな感じなんだ?」
「全く目立たない。要は、いつも通りだ。少なくとも落ち込んでたり、自棄になってる感じじゃないな……」
「いつも通りは、いいとして……目立たないのか?」
「お前だって、何回か会ったんだから解るだろう?あいつは良い奴だけど、デカい癖にやたら控えめで悪く言えば自信が無くてオドオドしてる所がある」
 自信が持ててないのは、俺も一緒なんだけどな………
「そうか……無意識に自分を抑えてるのかもしれないな」
「なるほど。確かに言われりゃ、そんな感じもするな。あいつが修業を言い出したのも、その辺が関係してんのかな?」
「大いにあるだろうな………あいつなりに、自分の殻を破りたいのかもしれねぇ」
「……なのに、修業には来なくなった」
「ここに、その答えがあるのかもな♪」
「ああ………」
 居りゃあだけどな……
     ◇◇◇
「何分くらい歩いた……?」
「40分くらい」
 少しウンザリした感じの声で聞く雪之丞に、俺は傍に立つポール時計を見ながら答えた。
 季節は3月の下旬。
 この時期にする夜の散歩は、割と涼しくて快適ではあるが、ここまで長くなるといい加減飽きてくる。夜で他に人も居ねぇし、傍から見りゃただの物好き。俺の格好を加味すりゃ変質者にすらなり得る……
「居ねぇな……このままじゃ、もうすぐ一周りしちまうぞ」
「今日は、来てないのかもな」
 あいつだって仕事や生活があるんだ。来ない日があっても不思議じゃない。最悪、一度も来てない可能性だってあるんだ。本人に確認したわけじゃないんだし……
「居たけど、気付かず通り過ぎちまったかな?」
「あるかもな……奥で瞑想でもしてりゃ気付かねぇよ」
 そもそも、そこまで本気で探してたわけじゃない。あれからも、整備された道を雪之丞とどうでもいいこと話しながら歩いてただけだ。
 虎の咆哮が聞こえるって言うから、歩いてりゃそのうち何か聞こえて来るだろうなんて思ってたけど、何にも聞こえてこねぇ。
 楽観的過ぎたな……
「どうする……?一周したら、もう一回探すか?」
「嫌そうな声で聞くなよ」
「じゃあ、元気に聞けば行くのか?」
「どっちでも嫌だよ。面倒くせぇ……」
 仕事でもねぇのに、何で夜の森なんか探索しなきゃいけねぇんだ………!
「思ったんだけどよぉ……」
「うん?」
「あいつって、虎みたいに鳴くのか?」
「…………わかんね」
 そういや、そうだな……仕事中は毎回虎の顔(精神感応)になるけど、別に虎に成り切ってるわけでもないし、普通に喋るからな…………唸り声とかなら上げてた気もするけど、どうだったかな……?
 こうなってくると『虎の咆哮=ステルス』は、安直過ぎる気さえしてきた。
「帰るか…………?」
「ああ……何か疲れた」
 予想を外して、ただの|くたびれ《・・・・》儲け……互いにそう思って、白けながら帰路に着こうとした時だった…………
“グァオォッーーー!”
「「!!?」」
 森の奥から響く何者かの咆哮……?
「…………聞こえたな」
「………………ああ」
 噂をすれば影ってか…………
「あの声は、タイガーか?」
「解らねぇ……行ってみよう」
 そうして道から外れて、森の中を進む俺達。
 舗装もなくなり、当然街灯も無い。ただ、幸いにも空に出てるのは満月。普段よりは明るい……それでも視界がいいとは言えねぇな。
「見えるか……?」
「何とかな」
 木々を掻き分けながら、隣を歩く雪之丞の声に答える。 
 互いに霊視は余り強くないが、それでも夜の森を駆け回る特訓だってしてる。こんな、平地の人工林を歩くだけならそこまで難しくはない。
「電灯持ってくりゃ良かったぜ……」
「ねぇもん言っても仕方ねぇ」
 元々は見つかりゃラッキーくらいの気持ちで来てただけだしな。怨霊や妖怪なら、奴等の発する気で問題なく見えるんだが、単に夜の景色だけだとそうも行かない。
 “グゥオオォォーーーー!!!”
「………でも、迷うことはなさそうだな」
「ああ……」
 聞こえる声が少し近くなってる。どうやら、方向はこっちで合ってるらしい……
「妖怪や怨霊の線も残っちゃいるが……奴がタイガーとして、何してんだろうな?」 
「だから……修業だろ?」
 今更何を言ってんだ?
「虎の真似して叫ぶ修業か?」
「んなこと、わざわざしねぇと思うけど……」
「じゃあ、何の為に叫ぶんだ?」
「それは……」
 確かに何でだ……?
 声の正体がステルスと仮定しても、明確な答えが出てこない。
 さっきまで聞こえた咆哮を、改めて思い出してみる。何だか興奮してるようにも感じたが……
 “グゥオオオオォォーーー!!!!”
「盛んだねぇ♪何が出てくるか楽しみだぜ!」
「……羨ましい話だな」
 相手の正体が解らねぇのに、よく嬉しそうに出来るな。こっちは、寧ろ不安になってきたってのに……
   ◇◇◇
「近いな……どうやら、妖怪の線は消えたみたいだぜ」
「ああ、霊気を感じる」
 森に入ってから、慎重に歩を進めること10数分……相手の霊気を感じることが出来るようになってきた。
 …………雪之丞は妖怪の線を否定した。奴も何者かの霊気は感じてるは間違いない。でも、 “誰の” 霊気とまでは断定出来てない。それとも、心当たりはあるけど慎重になって黙ってるのか?
 俺は、この感じに心当たりがある。普通ならそれをすぐ口に出すとこなんだが、喉まで出掛かったところで躊躇してる。
 この感じ…………奴に似てはいるけど……何か違う。あいつに無い “嫌な感じ” の何かがある……
   ◇◇◇
 それから更に少し進んで、俺達は木々の少し開けた所に出た。
 そして、その場の中央に “奴” は居た……
「グゥオオオオオオオォォォォォーーー!!!!」
 地面に仁王立ちになり、ひたすら月に向かって猛り狂う一匹の虎が…………
「ははっ…………こりゃ、どういうこった……?見ても、イマイチ信じらんねぇ。お前は、気付いてたのか?」
「いや、似てるとは思ったけど確信が持てなかった……」
 2メートルを越える巨体、丸太のように太い手足、指先から生える鋭い爪、口から覗く鋭い牙……全身から溢れ出る力感や迫力に、離れてるこっちが気圧されそうになる。
 この姿は何度も見てる筈なのに発する気が違うだけで、こうまで変わって見えるのか?
 そして、極めつけは奴の眼……その眼には…………理性と言う光がまるで灯っちゃなかった。
 いつもの人の良さなんて何処にもない。あそこから感じられるのは凶暴さと残忍性だけだ。
 一体どうしたら、そうなるんだよ?ステルス……