大分慣れてきたか?動きに無駄が無くなってる。
2階の窓から犬っ娘の跳ね回る姿を見て、俺は単純にそう思った。
初めて来た時は、雑魚霊の数の多さに右往左往してたけど、今は的確にポジショニングして自分に優位な状況を作り出せてやがる。
こういう順応力の高さも人狼の能力なのか、それとも単にあいつが優れてるのか?
そんな事を考えてる間にも奴は右手の妖波刀で一体、また一体と雑魚霊の数を減らして行く。
表情も何処か活き活きとしてて、除霊と言うより遊んでるようにすら思える。
…………実際、奴にとってあれは遊びなのかもな……
◇◇◇
「腕を上げたじゃねぇか、シロ!」
俺は1階まで降りると、玄関として使ってる勝手口を開けてシロに声を掛けた。雑魚霊は大分数を減らしていて、もう普通に話しても問題ないレベルだ。
それに、奴等を間引いてくれるのは嬉しいんだが、全滅させられても少し困るからな。
そんな俺の声が聴こえると、シロはケツの尻尾をブンブン回しながら満面の笑顔で振り向いて、こっちに近寄って来た。
褒められたのが嬉しかったのか?この辺の仕草は、マジモンの犬だな。本人に言や、キレるらしいが……
「おお〜!武威殿♪ご無沙汰しておりました!犬塚シロ、今日も修行に参りましたぞ!」
「1ヶ月振りくらいか?」
1月に初めて来て、そこから偶に顔を出すようになったんだが、ここの所ご無沙汰だったから大体そんくらいな筈……
俺がそう言うと、シロは少し悄気た顔をしながら(ついでに尻尾も、元気なく垂れ下がる)答えた。
「正確には解らないでござるが、久しくなってしまいましたな……実は、2週間くらい前にも来たのでござるが、その時は皆様方がお留守だったので、除霊だけして帰ったのでござる!」
「…………やっぱり、あれはお前だったのか……」
話の途中から、誇らしげな気分になったのか腰に手を当てて鼻息を上げるシロに対して、俺は若干だがゲンナリして答える。
あの日、爺さん達はどっかに外出。俺と鴉は地方に仕事に出てて、夜に帰って来たら悪霊達が全部居なくなってたんだよな……
「そうでござる♪拙者のお陰で皆様、除霊の手間が省けたで御座ろう!」
「…………すまねぇな。でも、気持ちは嬉しいんだが、今度やる時は少し残しといてくれ」
再び尻尾を振り出したシロに、俺はなるべくやんわりと注意する。こいつは褒めて貰いたいんだろうが、必要なことは言っておかないと不味いからな。
「どうしてで、ござるか?」
「屋上に……っても、ここからじゃ見えねぇが、ある装置があるんだ。所謂、自動除霊機みたいなもんで毎日、それに数体の雑魚を吸わせなきゃいけない」
怪訝な顔をするシロに、屋上を指さしながら説明する。
「す…吸わせないと、どうなるのでござるか?」
「シャワーが使えなくなる」
まぁ、シャワーは出るんだけど水になるからな……
「……い、意味が解らないでござる。では、悪霊が居ないと皆様は、シャワーが浴びれないのでござるか?何故?」
「貧乏だから……?」
いや……開いた当初に比べたら、そこまででもねぇか。
ただ、色んな事情が絡み合った結果としてこうなってんだが、子供のこいつに解るように話すのが難しい。
「何故、貧乏なのでござる?」
「それは…………知らん!とにかく、全部倒すんじゃねぇ。それで、納得しろ!」
「うぅ〜……武威殿も美神殿と似て、理不尽な所があるでござるぅ〜…………」
「馬鹿言え!俺の方が何百倍も優しいぞ!!」
ただの人である、この俺を “理不尽の女神” と同列に並べるとはどう言う了見だ!?
「うぅ〜……解ったでござる…………所で、鴉先生は?」
「学校だよ」
1時半くらいだから、午後の授業に入ったくらいか?ついでに言うと、爺さんもマリアもどっかに行ってて、今は俺1人だ。
「はぅわっ!!?とんだ盲点でござったぁっ!!」
「今日、平日だろうが……」
まぁ、仕事が入りゃ平日でも休むけど、基本は学校だしな……
「大体、絹だって今日は学校だろうに?」
俺がそう聞くと、今度は頭を抱えながら、空を見上て叫びだす。
「しまったぁ!!お絹殿が居ない時点で気付くべきでござったぁ!!」
…………何で、気付けねぇんだよ?
まぁ、学校行ってねぇ奴に曜日の感覚なんてないか……俺も高校はおろか、中学も殆ど行かなかったから何となく解るけどな。
「うぅ〜……折角の休みだったのに、無駄足になってしまったでござる……」
「ああ?馬鹿言うな、俺が居るだろ♪今日は鴉が居ない分、俺が相手してやるよ」
今度は一転して肩を落とすシロに、明るく伝えてやる。
俺も、そろそろ体を動かそうと思ってた時だし、ちょうどいいな。
「仕方ないでござる……武威殿、どうかご指導の方を宜しく頼むでござる」
「任せろ♪」
いい返事じゃねぇか!
そのまま悄気て帰っちまうかと思ったけど、即座に切り替えて来た。そういう姿勢は嫌いじゃねぇぜ♪
◇◇◇
「うぅ〜〜……今日も、完封されてしまったでござる……」
「そりゃ、そうだ!んな簡単に当てられちゃ、こっちも立つ瀬がねぇぜ♪」
あれから、数時間……時計は、既に5時に迫ろうとしていた。
その間、外で殆どノンストップの手合わせをしてた訳だが、シロはさっき言ったように、俺に一撃を当てることが出来なかった。
結果だけ見りゃ、初日と変わらねぇ。けど、シロは言葉程落ち込んでもいねぇし、ボロボロにもなってない。
内容は、確実に上向いてるからな。
まだ、当てることは出来なくても、当てられる回数は減って来てる。この辺も、順応力の高さに依るもんだろう。
始めは暇潰しくらいの気持ちでやってたけど、俺も結構良い運動になったぜ。
それに、こいつをもっと鍛えりゃ俺達の修行にもなるかもしれないな。これって、思わぬ収穫じゃねぇか?
「そう言えば武威殿、今何時でござる?」
「4時47分」
「左様でござるか!では、そろそろお暇せね__」
ぐぅ~〜!!
「デケェ音だな……」
「腹が空いたでござる……」
腹を押さえて、必死に空腹に耐えてやがる。やられまくった事より、腹が減った事の方がキツそうだな……
「……ビーフジャーキーあるけど、喰いながら帰るか?」
確か保存が効くからって理由で、結構沢山買い溜めしてたはずだ。
「忝のうござる。今は、粗末な干し肉でもありがたいでござる……」
「粗末で悪かったな………!!」
テメェ、姐さんのとこで普段何喰ってんだ!?今度来たら、残飯でも喰わしてやろうか…………
◇◇◇
「ほれでふぁ、おふぇわにぬぁりむぉした!」
「喰ってから、喋れ……」
再び事務所の外。口に目一杯頬張って喋れないシロに、そう言った。
ついでに言うと口だけじゃない。両腕にも、大量のビーフジャーキーを抱えながらだ…………
この雌犬が………溜めといた分、全部取りやがった!
ガキンチョ相手に遠慮しろとは、言い難いけど流石に喰いすぎだろ?今度から、授業料の代わりに餌代でも出させるか?
でも、こいつ金持って無さそうだしなぁ……かと言って、姐さんに請求するのは “まだ” 恐すぎる。
「ゴクンッ!これは、失礼しもうした!拙者は、これからも強くなると同時に、武士としての品位も身に付けねばならぬでござるな」
「そうだな……」
いや……そこは、武士以前に人としてだと思うが…………まぁ、いいか。
だが、そんな俺の想いとは裏腹にシロの熱弁は続く。スイッチ入ったのか?
「武士の道は、一日して成らず。拙者、これからも日々成長していく所存でござる!一日も無駄には出来ないでござるよ」
…………子供らしい、純粋で良い眼だな。
成長する事、成長した事に喜びを感じてる顔だ(尻尾も上にピンと伸びてる)。そんな顔を見ると、柄にもなく “応援は” してやりたくなる。
「お前の一日……?」
「そうでござる!拙者も若輩者ながら、武士として日々規則正しい毎日を心が__」
「朝起きて、飯喰って、散歩して、昼飯喰って、昼寝して、散歩して、夕飯喰って寝る……?」
「武威殿!それでは、ただの犬ではござらぬか!!?」
…………大体、合ってんじゃね?