それは何の変哲もない、いつもの朝だった。
飯を食って、顔を洗って、それでも眠気の残る体を強引に引きずるようにして学校へ向かう。
全く代わり映えのしない、それでいて平和な日常………
奴等が来るまでは…………
「おいっ!フック!!」
「ん?」
いきなり、前から現れた男に戸惑う俺……
横島……?何だ?朝っぱらから、血相変えて…………ってか、あいつん家こっちだっけか??
「ここに居たんジャぁっ!!」
ビクッとするようなデカい声に振り向くと、これまたデカいシルエットが両眼に飛び込んで来る。
「た、タイガー!?」
こ、怖ぇ……!?
いつも、デカい上に無駄に引き攣った顔して色んな意味で怖い男が、今日は普通に顔を怒らせてる。
なんなんだ?マジで恐怖を覚えた。
そして、何で怒ってるんだか聞こうと口を開きかけた時……
「いや〜、探したぞぉ♪」
「まだ、出んのかよ!?」
T字路の横から出て来たのは、渡辺…………こいつだけは、満面の笑みだ。
…………いや、それよりも何なんだ!?この状況?何で、家がバラバラの連中が俺の通学路に??
ひょっとして、逃げ場なしって奴?
「お、おい!一体何が?」
まるで合点が行かないが、連中は俺のことなんてお構いなしだった。
「この野郎!!」
近付いて、いきなりガシッと俺の肩を掴む横島!
「はっ!?何だっ?いきなり!!?」
この野郎とは、何だ!?
それより痛ぇ!そう突っ込もうとすると後ろから……
「糞野郎!!!」
「なっ!?」
今度は両腕をガシッと掴まれる!こいつも痛ぇな!!
それに、俺が糞だと!?ってか、お前キャラ変わってね!?いや、そんなことより…………
「馬鹿野郎!!!!」
「ああぁぁぁーーーーっ!!!!」
特に何かされたわけじゃねぇけど、お前のニヤついた顔、マジ腹立つ!!
ってか、何?何だ!!?何なんだっ!!!?もぅ、本当に何なの?こいつら!!?
俺が、一体何をしたっっ!!?
前後から掴まれて、全く身動き出来なくなった俺……全く理解出来ない。全く状況が把握出来ない。いや、寧ろ深まって、落ち着く気配がまるで無い!!
これから、どうな__
「うおっ!?」
今度は、3人に担がれる俺!?視界に入るのは、雲一つ無い大空………
…………ん?この体勢って、ひょっとして…………
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「おおぅ!!」
やっぱり!!理由も解らず、宙を舞う俺の体。抜け出したいが、危なくて逆に動けない。
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「何っ?何っ?何で胴上げっっ!!?」
戸惑う俺………いや、ずっと戸惑いっぱなしで一度も納得出来てない!!
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「だああぁ〜〜〜っ!いつまでやる気だよ!?」
何度聞いても、こいつらは何も答えない。そもそも、人の話を聞いてる気配がない。
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
人がこのまま酔い潰れるまで、やる気__
……………………だが、俺はここで気付いた。気付いてしまった……
宙を舞うたびに、落下するまでの時間が長くなっていることに……!!
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「えっ!?何っ!!?高いっ!?高過ぎる!!!?」
宙を舞う到達点で横を向くと、民家の2階の屋根が映る。ってことは、既に10メートル以上放り投げられてるってこと!!?
あの3人の何処にそんな力が!?
いや、そうだ!
横島とタイガーは霊能者だ。人並み外れた怪力でも、おかしくない。
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
霊能者=怪力なんて図式、聞いたこともねぇけど意味不明な連中なのは確かだ。何を起こしても不思議じゃねぇ!
実際、今まで何度も意味解んねぇ事態引き起こしてるじゃねぇかぁ!!?
…………意味解んねぇったら、渡辺も十分その範疇……って、そんなことはどうでもいいぃぃーー!!!
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「止めろっ!降ろせ!!落ちたら死ぬってっ!!」
声を張り上げて、必死に叫ぶ!叫んだところで、こんな連中が人の言う事なんか聞くとは思えない。
だが、内から溢れる恐怖心から叫ばずにはいられなかった。
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「誰でもいいから、助けてくれぇ〜〜〜っ!!!」
眼鏡!眼鏡!!って眼鏡なんか、既にどっかに飛んでるっつうんだ!心の中でそう突っ込んでみても、不幸なことに状況は全く好転しない。
落下のたびに長くなる浮遊感に、俺のメンタルは既に崩壊しかかっていた。今に至っては、俺を放り投げる手に怒りよりも、受け止めてくれた安心感を覚える始末だ……
お、終わりだ…………俺は、このまま意味解んねぇ連中に、意味の解らねぇ死を貰うんだ。
何だったんだ……俺の人生?
ただ、何となく学校行って、何となく友人と駄弁って、大学行って、普通に就職する人生を想像してたけど何がいけなかったんだろう?
ぶっちゃけ、ただ流されるように生きてきたが、それがいけなかったのか?
人の人生なんて、大抵そんな平凡なもんだろうとタカを括ってるとこがあったけど、そこがいけなかったのか?
…………平凡?
俺の周りに居る連中って、俺が思うような平凡な連中だったか?
最近何故か美女の居る事務所を辞めたら、やる気を出したキ◯ガイ野郎。女を見る度にを絶叫するエセ獣人。特徴がねぇのが、特徴の癖に地味にウザい馬鹿…………こんな連中、平凡の “へ” の字もねぇじゃねぇかぁっっ!!!!
その他にも、人間と吸血鬼との混血やら、人を喰う机妖怪とか細かいのを含めたら枚挙にいとまがねぇっっ!!
そうか……そうだったのか…………
何のことはねぇ……俺は、付き合う人間(?)を間違えたんだな。
だから、こんな意味解らねぇ最後を迎えるんだな……思い返してみりゃあ、最後まで意味解らねぇ人生だったぜ。中学まで、割と普通だった気がすんだけどな。
でも、それも終わる。意味解らねぇ連中の意味の解らねぇ気まぐれで…………
「…………良い訳ねぇだろ!!そんなのぉ!!!」
魂を込めて絶叫する!!
何で俺だけ、こんな目に合うんだよ!!?クラスには、他の生徒も沢山居んだろっ!!!俺が死ぬなら、そいつらも全員不幸にしろやぁっっ!!!!
「「「め〜〜が〜〜ね!!め〜〜が〜〜ね!!」」」
「こんな最後、納得出来るかぁ〜〜っ!!!!」
そう叫んだ瞬間、状況が変わる。
もぅ、何度目になったか解らない着地(手)の時だった。連中の手の力のベクトルが上から、 “別の方向” に変わった。
このベクトルの先には…………
「「「横ワッショイ!!イエーーィ♪♪♪」」」
「壁じゃねぇかぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
「眼鏡!」
「眼鏡!!」
「眼鏡!!!」
「「「眼鏡っ!!!!」」」
「お前等ああぁぁぁーーーーーっっっ!!!」
◇◇◇
「ぎゃ〜〜〜〜〜っ!!」
ドサッ……!
全身に伝わる凄まじい衝撃、激痛、部屋に響く俺の絶叫…………あれっ?
思ったよりも軽い……痛いけど、そこまででもない。そもそも、これってコンクリートの感触?
恐る恐る目を開ける。そこに広がるのは埃で薄汚れたカーペット……もっと小まめに掃除しなきゃな……ってか、ここは俺の部屋!?
横に目を向けると、そこにあるのは乱雑に布団の乱れたベッド……高さは精々4〜50センチ…………
「落ちた……のか?」
ぼ〜っとする頭を必死に回転させる。
いや、それしかねぇな…………寝相悪くて、昔はよくやってたけど寝てる間にまた落ちちまったか……
◇◇◇
「あれっ?今日は早ぇな、フック……」
「………………」
最悪の寝覚めをした俺は寝直す気にもなれず、そのまま飯を食って登校したら、いつもより大分早く学校に着いた。
「おいっ、無視すんなよ……」
うっせぇ!今は、お前と口をきく気にならん……
「田嶋君、おはようジャ〜」
「………………」
お前も一緒だ。エセ獣人!
「どうした?不機嫌な顔して……朝飯食えなかったのかぁ?」
「………………」
…………テメェは、挨拶もしねぇでいきなり質問かよ?糞ウゼェ……
「どうしたんですか?田嶋君、様子が変ですよ。目に隈もあるし……」
「………………」
ピートか……お前は歌以外良いやつかもしれないけど、やっぱり “あっち” 側の人間(?)だからな。
※『音痴』参照
「何があったの田嶋君?悩みがあるなら、聞くわよ。青春じゃない?」
「………………」
そこは「友達」って言えよ。
今日は、お前の姿が獲物をおびき寄せる深海魚のアレに見えて来たぞ。
何であんな糞夢を見たんだか、正直解らない。でも、何らかの警告な気がするんだよ。
“お前等と関わっちゃ駄目だ” って言う………
だから、スマン。
お前等との付き合いは、今後は良く考えないといけないと思う。
「俺は、これから真面目に生きるんだ……」
「「「!?」」」
真剣な顔で1字ずつ、はっきりと言葉にする。連中に俺の意思が伝わるように。
「お前等は悪い奴等じゃないのかもしらんが、一緒に居たらいつか “とんでもない目” に合う気がして仕方ないんだ……だから、悪いが俺のことは放って置いて欲しい」
「「「………………」」」
全員何も答えない。戸惑ってるのかもしれない。中には怒ってる奴もいるかも……だが、スマン。これが俺の意思なんだ。
俺は連中の反応は、見届けず席に着く。
人生に出会いや別れなんて、付き物。例え、毎日顔を合わせていたとしても、それは同じことなんだ。
これならの学校生活は、今までとは違った物になるだろう……
「田嶋と喧嘩でもしたのかな?」
まだ言うか、テメェ……こいつこそ、真っ先に縁切りすべきたった。
「きっと変な物を食べて、おかしくなったんジャ」
オメェと一緒にすんなよ。パンの耳なんか喰いやがって、糞虎!
「 “アレ” の日だろ?」
アレの日って、何の日だよ!?テキトー過ぎだろ!!
「呪われてる感じには、見えませんけど……」
だから、人生真剣に考えてるの!オカルトから離れて!!
「何か青春っぽくて面白そう♪皆で彼が不機嫌な理由を探しましょう♪♪」
「面白くねぇよ!せめて、聴こえないように言えやっ!!」
何なの?もう、何なの??こいつら……夢じゃなくても、糞ウゼェ…………!!