ep124 ヘッドフィールド③

ー/ー



「キラース! キサマァァ!」

 思わずカレンが怒声を上げる。

「なんでお前が今ここにいる?」

 女ギャングが嫌疑の目をキラースに向けた。

「おいおいアイちゃん。オレが手助けしてやろうってのにつれねえな」

「手助けだと?」

「いくらアイちゃんとヘッドフィールドのギャングでもよ。魔剣使いと魔法剣士さまを同時に相手にするのは賢くねえな」

「魔法剣士? 勇者の妹のことか?」

「そこのローブの女だよ。まっ、オレもまさかカレンちゃんがここにいるとは思わなかったが」

 キラースはカレンを指さしてニヤけた。

「キラース……!」

 カレンは今にも斬りかかりそうだ。

「それとエレサァ!」ここでキラースはエレサを指さしていやらしく笑った。
「テメー、魔剣使いに乗り換えたんだなぁ。まったく節操のねえ尻軽なオンナだぜ」

「……!」

 エレサは無言のまま俺に寄り添ってくる。彼女は恐怖と嫌悪に震えていた。

「そこのエレサはオレがオモチャにしていたダークエルフだ。コイツの闇の魔力はかなりのモンだぜ」
 キラースは再び女ギャングに視線を戻す。
「つまり、アイちゃんは魔剣使いと魔法剣士とダークエルフを同時に相手にすることになる」

 含みがある言い方だ。
 ギャングの女…アイは苛立ちを見せはじめた。

「何が言いたい」
 
「だからオレが助太刀してやるってハナシだよ」

「……目的はなんだ?」

「顔馴染みを助けたいだけだよ」

「つまらんウソをつくな。外道が」

「相変わらずきっついなーアイちゃんは。わかったわかった。そんじゃ言うぜ? ぶっちゃけヘッドフィールドとジェイズは〔フリーダム〕をよく思っていない。違うか?」

 アイの目尻が微かにひくっとなる。

「まわりくどいな。さっさと目的を言え」

 キラースはわざとらしく勿体ぶるように間をおいて、ニヤリとする。

「オレはなぁ、この前、勝手に勇者軍とやり合った。そこの魔法剣士さまとな。フリーダムの幹部連中はそれをよく思わねえだろう。だから幹部会議にも行ってねえ。そこでだ。フリーダムに対抗するために、ヘッドフィールドと独自の同盟を結ぼうって提案だ。もちろんオレの部下たちも全員含めてだ。差し当たってはここでさっそくオレ自身が手を貸す。どうだ? 悪くねえハナシだろ?」

「お前……わざわざうちのボスがいない所にそんな提案を……わかってやっているな? ならこれもわかるだろう。あたしに決められることではないということを。つまり……さしずめここで手を貸して協力した既成事実を作った上で改めてボスに提案を迫るつもりだろ? うちのボスが義を通したがるところにつけ込むつもりなんじゃないか?」

「さすがはよくわかっているじゃねえか」

「まあいい。決めるのはボスだ。手助けしたいなら勝手にしろ」

「そうこなくっちゃな」

 キラースは蛇のように狡猾に微笑んだ。

「……」

 俺はヤツらのやり取りを見ながら思考を巡らせた。フリーダムのことやヘッドフィールドのこと。キラースの立ち位置やまだ見ぬジェイズという男のこと。どうやら俺を取り巻く状況は、いささか複雑になってきているらしい。さりとて今の俺のやるべきことはただひとつだ。そう。シヒロを取り返すことだ!

「……これは確かにシヒロの字だ。でもだからなんだ。さっさとシヒロを返せ」

 俺はもう一度剣を突き立てた。アイは先ほど以上に厳しい表情をしている。おそらく彼女も様々に思考を巡らせているのだろう。キラースに対しても明らかな警戒を示している。
 
「魔剣使い。ひとつ提案がある」

 アイが意外な一言を放った。

「提案?」

「お前の仲間…シヒロを返すことはできない。そもそもそれはボスが決めることだからあたしには決定権もない。だが彼女の身の安全は必ず保証する」

「信じられるのか?」

「この後、面会だけはさせてやろう」

「!」

「そのかわり、いったん剣をおさめてもらえるか? ハッキリ言って、今あたしたちとお前たちがやり合うのは双方に利がない」

「……」

 俺はなにも返答しなかった。しかしカレンがロープを脱いで顔を晒すと一歩前に出た。

「わかった。本意ではないがその提案を飲もう。その後はジェイズが戻ってくるまで大人しく待つ。お前たちも私たちに手を出さない。それでいいんだな?」

 意外だった。国際平和維持軍の隊長でもあるカレンがいち早く合意を示した。

「さすがに話が早くて助かる。魔法剣士カレン。久しぶりだな」

「久しぶりだな、アイ」

 おやと思った。どうやらカレンとアイは面識があるようだ。ということは、カレンはジェイズとも直接の面識があるのか?
 いずれにしてもカレンとアイの間には多少なりとも親交があるらしい。まったくの想定外だったが、カレンを連れてきたことが功を奏した。

「なるほどねぇ」とキラースは邪知深い眼で彼女たちをジロリと見据えていた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む ep125 再会


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「キラース! キサマァァ!」
 思わずカレンが怒声を上げる。
「なんでお前が今ここにいる?」
 女ギャングが嫌疑の目をキラースに向けた。
「おいおいアイちゃん。オレが手助けしてやろうってのにつれねえな」
「手助けだと?」
「いくらアイちゃんとヘッドフィールドのギャングでもよ。魔剣使いと魔法剣士さまを同時に相手にするのは賢くねえな」
「魔法剣士? 勇者の妹のことか?」
「そこのローブの女だよ。まっ、オレもまさかカレンちゃんがここにいるとは思わなかったが」
 キラースはカレンを指さしてニヤけた。
「キラース……!」
 カレンは今にも斬りかかりそうだ。
「それとエレサァ!」ここでキラースはエレサを指さしていやらしく笑った。
「テメー、魔剣使いに乗り換えたんだなぁ。まったく節操のねえ尻軽なオンナだぜ」
「……!」
 エレサは無言のまま俺に寄り添ってくる。彼女は恐怖と嫌悪に震えていた。
「そこのエレサはオレがオモチャにしていたダークエルフだ。コイツの闇の魔力はかなりのモンだぜ」
 キラースは再び女ギャングに視線を戻す。
「つまり、アイちゃんは魔剣使いと魔法剣士とダークエルフを同時に相手にすることになる」
 含みがある言い方だ。
 ギャングの女…アイは苛立ちを見せはじめた。
「何が言いたい」
「だからオレが助太刀してやるってハナシだよ」
「……目的はなんだ?」
「顔馴染みを助けたいだけだよ」
「つまらんウソをつくな。外道が」
「相変わらずきっついなーアイちゃんは。わかったわかった。そんじゃ言うぜ? ぶっちゃけヘッドフィールドとジェイズは〔フリーダム〕をよく思っていない。違うか?」
 アイの目尻が微かにひくっとなる。
「まわりくどいな。さっさと目的を言え」
 キラースはわざとらしく勿体ぶるように間をおいて、ニヤリとする。
「オレはなぁ、この前、勝手に勇者軍とやり合った。そこの魔法剣士さまとな。フリーダムの幹部連中はそれをよく思わねえだろう。だから幹部会議にも行ってねえ。そこでだ。フリーダムに対抗するために、ヘッドフィールドと独自の同盟を結ぼうって提案だ。もちろんオレの部下たちも全員含めてだ。差し当たってはここでさっそくオレ自身が手を貸す。どうだ? 悪くねえハナシだろ?」
「お前……わざわざうちのボスがいない所にそんな提案を……わかってやっているな? ならこれもわかるだろう。あたしに決められることではないということを。つまり……さしずめここで手を貸して協力した既成事実を作った上で改めてボスに提案を迫るつもりだろ? うちのボスが義を通したがるところにつけ込むつもりなんじゃないか?」
「さすがはよくわかっているじゃねえか」
「まあいい。決めるのはボスだ。手助けしたいなら勝手にしろ」
「そうこなくっちゃな」
 キラースは蛇のように狡猾に微笑んだ。
「……」
 俺はヤツらのやり取りを見ながら思考を巡らせた。フリーダムのことやヘッドフィールドのこと。キラースの立ち位置やまだ見ぬジェイズという男のこと。どうやら俺を取り巻く状況は、いささか複雑になってきているらしい。さりとて今の俺のやるべきことはただひとつだ。そう。シヒロを取り返すことだ!
「……これは確かにシヒロの字だ。でもだからなんだ。さっさとシヒロを返せ」
 俺はもう一度剣を突き立てた。アイは先ほど以上に厳しい表情をしている。おそらく彼女も様々に思考を巡らせているのだろう。キラースに対しても明らかな警戒を示している。
「魔剣使い。ひとつ提案がある」
 アイが意外な一言を放った。
「提案?」
「お前の仲間…シヒロを返すことはできない。そもそもそれはボスが決めることだからあたしには決定権もない。だが彼女の身の安全は必ず保証する」
「信じられるのか?」
「この後、面会だけはさせてやろう」
「!」
「そのかわり、いったん剣をおさめてもらえるか? ハッキリ言って、今あたしたちとお前たちがやり合うのは双方に利がない」
「……」
 俺はなにも返答しなかった。しかしカレンがロープを脱いで顔を晒すと一歩前に出た。
「わかった。本意ではないがその提案を飲もう。その後はジェイズが戻ってくるまで大人しく待つ。お前たちも私たちに手を出さない。それでいいんだな?」
 意外だった。国際平和維持軍の隊長でもあるカレンがいち早く合意を示した。
「さすがに話が早くて助かる。魔法剣士カレン。久しぶりだな」
「久しぶりだな、アイ」
 おやと思った。どうやらカレンとアイは面識があるようだ。ということは、カレンはジェイズとも直接の面識があるのか?
 いずれにしてもカレンとアイの間には多少なりとも親交があるらしい。まったくの想定外だったが、カレンを連れてきたことが功を奏した。
「なるほどねぇ」とキラースは邪知深い眼で彼女たちをジロリと見据えていた。