ep123 ヘッドフィールド②

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「あれは……」

 皆が目をやった方向から何者かが歩いてきた。モーゼの十戒のように人混みはその者のために自然と道を開ける。

「クロー。あいつだ」
 エレサが静かに言った。
「シヒロを攫った女だ」

「女ギャング?」

 俺は徐々に近づいてくる襟足の短い金髪の女ギャングを見つめる。その雰囲気、まわりのギャングどもの姿勢から、瞬時に彼女が只者でないことを理解する。

「魔剣使い。よくヘッドフィールドへ来てくれたな」

 女はあと十歩ばかりの距離で立ち止まり口をひらいた。上下のまつ毛に囲まれた怜悧な目は凛としていて、その中の緑色の瞳が美しくも鋭く光っている。

「シヒロを攫ったのはあんたなんだろ? シヒロは無事か?」

 俺はビッと剣を向けて開口一番問いただした。

「彼女は無事だ。もともと危害を加えるつもりもない」

「本当か」

「本当だ。あくまで目的は魔剣使い、お前だからな」

「わかった。ならさっさとジェイズを呼べ。もしくは俺をそいつのところへ案内しろ。そしてシヒロを返してもらう」

「その前にあたしからも言わせてもらう。その剣はなんだ? 早速あたしたちとやろうというのか?」

「黙ってシヒロを返すならやらない。だが、返せないというのならやる」

「魔剣使い。お前は考えて行動しているのか? 人質を取られた者の行動ではないぞ? もしそれで人質の身に危険が迫ったらどうするんだ」

「そんなことしようもんなら街ごとお前たちを潰す」

「その立場で逆にあたしたちを恫喝するつもりか? 思っていたよりもムチャクチャなヤツだな……」

「早くしろ」

「人質を今すぐ返すことはできない」

「なに?」

「今、あたしたちのボスはこの街にいない。だから返すことはできない」

「そんな理由で納得できると思うのか」

「これを見ろ」

 女は俺に向かって折りたたまれた一枚の紙をピッと投げつけた。
 俺がそれをキャッチすると女は言った。

「読んでみろ」

「……」

 剣を下ろし無言で紙を開くと、はたとする。

「これは……シヒロの字。……ぼくは無事です。だから戦わないでください。シヒロより……」

 紙に記されている字は、確かにシヒロによるものだった。俺はシヒロの執筆ノートを何度も見せてもらったことがあるから、彼女の筆跡は確かに記憶していた。

「クロー。それは本当にシヒロによって書かれたものか?」

 カレンが念を押してきた。俺は小さく頷く。

「俺はシヒロの字を覚えている。これは本当にシヒロの手紙だ」

 俺は数秒に満たない間にどうするかをあれこれ逡巡した。
 シヒロにより書かれたものだとしても、シヒロの意志で書かれたものかはわからない。それを相手に問いただしたとして、その返答が真実かどうかもわからない。
 どうする?

「クロー! 何者かが来る!」

 突然、エレサが声を上げた。
 俺は上空をパッと見上げた。カレンも相手の女も同様に見上げた。 

「ギャッハッハァ!」

 男の下品な高笑いが聞こえた。こちらに向かってバサーッと羽ばたいてきた鳥獣型の魔物の上から、それは発せられていた。

「ヤツは……」と俺が言いさした時、エレサに袖をぎゅっと掴まれた。彼女の手は震えている。

「なんでお前が…」

 女ギャングが嫌悪感を含んだ声を発した。鳥獣の魔物はちょうど俺たちと女ギャングの間あたりの上空で停止する。それからある程度降下してくると、バッと男が飛び降りてきた。

「どーもどーもみなさん」

 男は片方だけの紫色の長髪をなびかせて残忍な笑みを浮かべた。


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「あれは……」
 皆が目をやった方向から何者かが歩いてきた。モーゼの十戒のように人混みはその者のために自然と道を開ける。
「クロー。あいつだ」
 エレサが静かに言った。
「シヒロを攫った女だ」
「女ギャング?」
 俺は徐々に近づいてくる襟足の短い金髪の女ギャングを見つめる。その雰囲気、まわりのギャングどもの姿勢から、瞬時に彼女が只者でないことを理解する。
「魔剣使い。よくヘッドフィールドへ来てくれたな」
 女はあと十歩ばかりの距離で立ち止まり口をひらいた。上下のまつ毛に囲まれた怜悧な目は凛としていて、その中の緑色の瞳が美しくも鋭く光っている。
「シヒロを攫ったのはあんたなんだろ? シヒロは無事か?」
 俺はビッと剣を向けて開口一番問いただした。
「彼女は無事だ。もともと危害を加えるつもりもない」
「本当か」
「本当だ。あくまで目的は魔剣使い、お前だからな」
「わかった。ならさっさとジェイズを呼べ。もしくは俺をそいつのところへ案内しろ。そしてシヒロを返してもらう」
「その前にあたしからも言わせてもらう。その剣はなんだ? 早速あたしたちとやろうというのか?」
「黙ってシヒロを返すならやらない。だが、返せないというのならやる」
「魔剣使い。お前は考えて行動しているのか? 人質を取られた者の行動ではないぞ? もしそれで人質の身に危険が迫ったらどうするんだ」
「そんなことしようもんなら街ごとお前たちを潰す」
「その立場で逆にあたしたちを恫喝するつもりか? 思っていたよりもムチャクチャなヤツだな……」
「早くしろ」
「人質を今すぐ返すことはできない」
「なに?」
「今、あたしたちのボスはこの街にいない。だから返すことはできない」
「そんな理由で納得できると思うのか」
「これを見ろ」
 女は俺に向かって折りたたまれた一枚の紙をピッと投げつけた。
 俺がそれをキャッチすると女は言った。
「読んでみろ」
「……」
 剣を下ろし無言で紙を開くと、はたとする。
「これは……シヒロの字。……ぼくは無事です。だから戦わないでください。シヒロより……」
 紙に記されている字は、確かにシヒロによるものだった。俺はシヒロの執筆ノートを何度も見せてもらったことがあるから、彼女の筆跡は確かに記憶していた。
「クロー。それは本当にシヒロによって書かれたものか?」
 カレンが念を押してきた。俺は小さく頷く。
「俺はシヒロの字を覚えている。これは本当にシヒロの手紙だ」
 俺は数秒に満たない間にどうするかをあれこれ逡巡した。
 シヒロにより書かれたものだとしても、シヒロの意志で書かれたものかはわからない。それを相手に問いただしたとして、その返答が真実かどうかもわからない。
 どうする?
「クロー! 何者かが来る!」
 突然、エレサが声を上げた。
 俺は上空をパッと見上げた。カレンも相手の女も同様に見上げた。 
「ギャッハッハァ!」
 男の下品な高笑いが聞こえた。こちらに向かってバサーッと羽ばたいてきた鳥獣型の魔物の上から、それは発せられていた。
「ヤツは……」と俺が言いさした時、エレサに袖をぎゅっと掴まれた。彼女の手は震えている。
「なんでお前が…」
 女ギャングが嫌悪感を含んだ声を発した。鳥獣の魔物はちょうど俺たちと女ギャングの間あたりの上空で停止する。それからある程度降下してくると、バッと男が飛び降りてきた。
「どーもどーもみなさん」
 男は片方だけの紫色の長髪をなびかせて残忍な笑みを浮かべた。