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不安・二

ー/ー



 準備の出来た俺は直ぐに外へ出た。

 目的地は勿論、あいつ(萩原)の家だ。行って、あいつの安否を確かめる。

 俺の思い過ごしなら、それでいいと思うし、我ながら考えが大袈裟だとも思う。だとしても、これで何かあった場合、俺の信念……ひいては、俺の存在意義そのものが揺らぎかねない。


 だから、俺は自分から動くことにした。





    ◇◇◇


 萩原の家は、俺の部屋から3駅程離れた所にある。

 行ったことはないから、すぐに見つかるか不安だったが、そんなことはなく直ぐに見つかった。時間にすれば30分くらいだろう。


「着いたのは良いけど、どうすっかな……?」


 あいつの自宅のあるファミリーマンションを見上げながら、そう呟く。

 電話してから時間も経ってるし、もしかしたらジョギングから帰ってるかもしれない。それなら、それでいいけど問題はそれをどうやって確かめるか?

 普通にインターホン押して確認すりゃ一発なんだが、さっき初めて電話した人間がいきなり夜訪ねてくりゃ本人はともかく家族が驚くよな?


 萩原は、余り話を大きくしたくないみたいだし、出来ることなら避けたい。

 なら、公衆電話から電話して……って、アホか!それじゃ、さっきと変わらねぇ。


「仕方ねぇな…………」


 少し迷ったが、まごついてる間に何かあっても嫌なんで、俺は “禁じ手” を使うことにした。

 
 文珠を1つ取り出して、文字を刻む…………『覗』と……

 
 嫌な記憶が蘇る……あの娘(氷室絹)におもくそビンタされた、あのアホな記憶が…………100%自分が悪いとは言え、温厚な彼女を激怒させて事実は、当時の馬鹿な俺すらマジ凹みさせた。


 …………マジで死にたい。


 いやいやいや、もう切り替えろ!プライバシーの侵害だけど、これは安否を確認するだけだ。


「3-4って言ったら、あそこか?」


 気を取り直すとクラス名簿に書いてあった、部屋番号を思い出しながら該当する部屋近辺に文珠を投げて発動する。


 それと同時に部屋の内部の情景が、明確に頭に流れ込んでくる。

 2LDK~3LDKって所か……どこにでもある家族向けの広さだけど、俺の部屋と比べりゃ雲泥の差がある。

 この緊急事態(?)に全く関係ない虚しさを覚えながら、1部屋ずつ確認していく。


 …………駄目だ、帰ってない。

 リビングに3人、萩原の両親と弟と思われる人間がテレビを見ているだけだった。どうでもいいけど、さっき話した母親は萩原に良く似ていた。

 あいつは、母親似なんだな……



「また、空振りかよ……!」


 そう吐き捨てながら、文珠を解除する。

 どうも、今回はこんなことが多い。確認しようとしても、対象が自分の手から滑るように抜けて上手くいかない。本当に偶然か……?

 ただの思い過ごしかもしれない………そう自分に言い聞かせても焦燥感ばかり募る。


「運動公園だったな……」


 あいつは確か電話で母親には「運動公園に行く」と伝えてた。そこに行こう。帰って来るあいつに会えるかもしれない。

 ここで待つと言う選択肢は取らなかった。事態がはっきりするまで、とことん自分から動いてやる。



 
    ◇◇◇


 結構飛ばし目に走ったら運動公園にはすぐ着いた。

 多分10分も掛かってないだろう。女がジョギング程度の速さで走れば、15分程度掛かるかもしれない。

 当然だが、ここに来るまで萩原には行き合ってない。既に入れ違いになった可能性もあるけど、公園内に入って確認するしかないだろう。
 

 この運動公園は、他の一般的な公園と同様敷地の真ん中にサッカーグラウンド、多目的グラウンド、テニスコートなどのエリアが併設してあって、それらをぐるっと取り囲むように歩道が整備されている。所々に該当も設置されており、十分に明るい。

 散歩やジョギングをする人間は、大抵この歩道を利用する。萩原が本当にジョギングに来たとしたら、この道を利用するだろう。
 
 俺は、あいつが道を時計周りに行ったと想像しながら走り出す。もし、その逆なら完全に空振るわけだが、迷ってる時間は無かった。

 電話してから、既に1時間を回ろうとしてる。その事実が気ばかり焦らせて、俺から余裕を奪っていたからだ。



 人が集まってる……!?



 敷地を半分くらい周ったくらいだろうか?歩道から少し逸れた先にある敷地から複数のエンジン音に人の喧騒、そしてライトが目に入ってきた。

 ここに来た時に見た見取り図を思い出すと、多分あそこは第2駐車場だろう。そこに結構な人数とバイクが集まってる。


 こんな時間に、けたたましい(・・・・・・)騒音を撒き散らしやがって。

 遠目に見ただけで解る。

 ありゃ “族” だ……全員、白の特攻服を身に着けていて、その周りには明らかに違法改造されたであろうバイクが所狭しに並べてあった。


 普通なら、気付いた時点で引き換えしていたと思う。

 あんな連中と関わるだけアホだ。あいつ(萩原)がここに来ていたら、迷わず俺と同じ選択肢を取るだろう。

 ただ、この時の俺は冷静じゃなかった。昼間から、漠然とあった不安感が大きくなり過ぎて。慎重さを奪っていたんだ。


 萩原が連中に捕まっている。

 それが、極端な妄想に過ぎない事は自分でも解っていた。ただ、可能性が0でない以上、そんな最悪の事態が頭に浮かんできて離れない……

 だけど、それだけならまだ良かった。さっき萩原のマンションでしたように、『覗』の文珠で遠目から連中を探れば良かったからな。


 この時は、それを思いっ切り失念して、奴等に近付き過ぎた……

 

「おいっ!!?」


 遠目から確認してるつもりだったが、奴等の1人と思い切り目が合っちまった。

 その瞬間そいつは、どう贔屓目に見ても友好的とは真逆と尖った大声をあげて俺に近付いてくる。足をドスドスさせて、威嚇する気満々じゃねぇか。

 完全にしくったわ…………


「おっ!?なんだなんだぁ」


 馬鹿の声に反応して、そいつに付いてくるように数人の男がさっきと同じように耳障りな声をあげて近寄って来た。合計4人の男が俺を取り囲む。

 始めに来た男以外はニヤニヤしながら俺を眺めてる。不用意に近寄ってきた鼠を複数で痛ぶろうとしてるのが見え見えだぜ。雪之丞が、最も嫌うタイプの人種だな。

 
「テメェ!こっち見てたろ……!!?」
「ええ。女の子を探してるんですけど、ここ辺に来ませんでしたか?」


 不必要に顔を近づけて、睨め上げるよう喋る馬鹿に一応丁寧に返してみる。

 ビビらせたくて仕方ないんだろうが、無理だよ。お前等なんて低級霊にも劣る。出来ることなんて、精々俺の不快感を煽るくらいだ……


「ああっ!?女だぁ?お前、舐めてんのかぁ!!?」


 …………何で、そういう理屈になるんだよ。大方予想に反して俺がビビらねぇのが、気に入らねぇんだろうな。低能が……!


「テメェ!何だ?その顔っ!!」


 俺の呆れた感情が思い切り顔に出てたのか、馬鹿が更に激昂した様子で俺に胸倉を掴んで来る。


「おいおい、怒らせるなよ♪そいつ、何するか解らないよ〜♪♪」
「土下座でいいよぉ♪」
「そうそう♪お兄ちゃん早く謝んないとバイクで引き摺ら__  “ヴァンッ! ”  ぶっ「「「おおあっ!!?」」」!!?」


 俺が手を合わせた瞬間、全身から発した霊気で全員が数メートル吹っ飛ぶ。

 会話するだけ時間の無駄………いや、成立しないだろうな。

 こいつらの何人かから、接着剤の臭いがプンプンして来やがる。間違いねぇ。こいつらシンナー吸ってラリってる。


 だから、『肢体爆弾』を……ぶっ放してやった。

 低級霊を数体消滅させる程度の威力まで絞ったけど、霊的防御のない人間には大層応えたろうな。しかも、この至近距離だ。

 全員失神するか、呻き声をあげながら藻掻いてる。胸倉掴んできた馬鹿は、一番重症だ。多分、アバラや鎖骨が何本も “いった” ……


「クセェ息吐くんじゃねぇよ。糞が……!」


 こっちには、時間がねぇんだよ!下らねぇことに、霊気使わせやがって。

 だが………



「おいっ!?」
「何だ?今の音!?」
「おめぇか!?」



 ………………まぁ、そうなるよな。

 今の爆音で、他のゾロゾロ集まってくる。大体30人ちょっとか……さっき、ぶっ飛ばした馬鹿共を含めりゃ40人弱。


 ただ、俺の方も穏便に済ますことは既に諦めてる。時間を掛けてる間がないんで、 “速攻” で潰すことにした。


「おいっ!てめぇ、今何しやがった!?死ねてぇのか!?」


 真ん中のいかつい(・・・・)野郎が、声を張り上げる。

 こいつがリーダー格か?さっきの胸倉掴んだ野郎と、言ってることが殆ど変わりゃしねぇ……もっと、言えば全員が同じ顔に見える。

 勿論、んなこたねぇんだろうが、こんな連中の顔いちいち識別なんかしたくない。


「……1回しか言わないから、よく聞け!俺は、人を探してる。ここに高校生くらいの女の子は来なかったか?素直に話すなら、加減くらいしてやるぞ」


 一瞬の沈黙…………そして……


「女だぁ?意味解んねぇだよ!!」


 だろうね……アホみたいに喚くこいつからも、シンナーの臭いがプンプンする。恐らく、このまま放っときゃ直ぐに襲い掛かってくるだろう。蹴散らすの簡単だけど、流石に時間が掛かり過ぎる。
 
 だから、もう霊盾を生成して何時でも撃てる状態にしてある。俺の周囲には無数の目玉が漂ってるんだが、不幸(もしくは幸運)なことに霊視が出来ない連中には見えてない。


「黙ってねぇで何「………行け」か言__」


 ヴォンッ! 「ごばっ!」 ヴァンッ! 「うげっ!」


 ヴァウッ! 「ぐうっ!」ドゴォンッ! 「ぐぁっ!」 ヴァンッ! 「ぐぎっ!」 ボォグォン! ヴァウッ! 「ぐぁっ!」ドゴォンッ!「うげっ!!」ヴァウッ! 「ぎゃあっ!」ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!


 馬鹿に追尾眼が着弾する度に湧き上がる破裂音と奴等の悲鳴………見えない衝撃は、さぞ恐怖だろうな。

 しかも、殆ど音を上げずに消滅する雑魚霊と違って、こいつら悲鳴をあげる。悲鳴が上がる度に伝染する恐怖。それが、冷静さを奪い更なる恐怖を煽る。

 連中が今の倍の数でも居れば、もっとパニックを起こしたかもしれない。


 そんな感じで、1分もしないうちに奴等は全滅した。辺りには、始めの4人同様全員が呻きながら這いずり回ってる。


「お、お前っ!?一体何をっ…………!!」
「しっ!」


 辛うじて上体を起こした、リーダー格の男にゴルフボール大の霊盾を放ってやる。


「ぶっ……!!」


 顔面のど真ん中で爆発を起こされた男は、ものの見事な “エビ反り” を披露しながらぶっ倒れる。それでも、ヒィヒィ言いながら手足をバタつかせて俺から遠ざかろうとする。

 始めの勢いは、どこにもねぇ。こいつの顔に写るのは恐怖と敗北感(あと鼻血と涎)だけだ。


「………で、どうなんだ?」
「へ……?」
 
「「へ?」じゃねぇよ!」


 ヴァキッ!


「ヒィッ!!」


 俺が声を掛けると共に男の顔のすぐ横のアスファルトが弾け飛ぶ!

 霊手の人差し指を伸ばして突いただけだ。けれども、見えないってだけで恐怖を煽るには十分過ぎる。まして、こいつは直前までラリってた上に、さっきの爆発の後だ。もう、正常な判断なんて出来るわけなかった。


「さて…………次は、何処に穴を開けようか?足か?腕か?それとも腹にするか……?」
「助けてぇ!助けてぇ……!!」


 …………泣き出しやがったよ。

 もう、体裁を気にする余裕もどっかに失せたらしい。

 なんだか、以前の自分を見てるようで情けない気分になる。俺はここまで醜悪だったのか……?


 …………まぁ、いい。今は、萩原優先だ。


「だったら質問に答えろ!!女はどこだ?何処に隠したぁっ!」
「し……しし知らない!い…いや、知りませんっ!女なんか見てないし、隠してもいません!!」

「……………………」
「ほ、本当ですっ!!本当に、何も知らないんです!おお、おい?お前等……何か知らないかぁ!?」


 そう言って、慌てながら周りの呻いてる連中に声を掛ける。だが、辛うじて答えれる連中も全員が震えながら首を振る。


 ただ、この反応はある意味予想通りでもあった。

 ここに萩原が居ないのは途中から解ってたし(可能性があるなら、そもそも追尾眼は撃たない)、目の前の男が噓を言ってるようにも見えない。

 だから…………
 

 

「…………よし。一つだけ、 “種明かし” をしてやろう」
「た……種明かし?」

「ああ、そうだ。俺は今……… “ある物” を右手に持ってる。さっき投げたのと同じ物だ……と言っても、お前等には見えないだろうがな…………」


 そうして俺は、判りやすく右手を掲げる。
 

「そこでだ………正直に答えたご褒美として、お前達にも見えるよう、より強く “具現化” してやる……!」

※『GS美神』の『横島』ではなく、『幽遊白書』の『鴉』の声をイメージして脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい。


 キュイイィィィン………!


 俺は既に形を成している霊盾に、更に霊気を送り込む。より強く、馬鹿共にも見えるように……

 そして……


「そっ……それはっ!!?」


 霊気の固着化が進み、 “ソレ” を認識出来たところで奴等の恐怖に歪んでいた顔が更に引き攣る。

 

「爆弾だ(三連式ダイナマイト)……!」



「ま、待っ「じゃあな……」て………!!?」


 俺は、恐怖で懇願する馬鹿の前に霊盾を放ってやった。

 
「いやあああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」



 ドゴォォォォーーーーーーーンッッッ!!!
 
 



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 準備の出来た俺は直ぐに外へ出た。
 目的地は勿論、|あいつ《萩原》の家だ。行って、あいつの安否を確かめる。
 俺の思い過ごしなら、それでいいと思うし、我ながら考えが大袈裟だとも思う。だとしても、これで何かあった場合、俺の信念……ひいては、俺の存在意義そのものが揺らぎかねない。
 だから、俺は自分から動くことにした。
    ◇◇◇
 萩原の家は、俺の部屋から3駅程離れた所にある。
 行ったことはないから、すぐに見つかるか不安だったが、そんなことはなく直ぐに見つかった。時間にすれば30分くらいだろう。
「着いたのは良いけど、どうすっかな……?」
 あいつの自宅のあるファミリーマンションを見上げながら、そう呟く。
 電話してから時間も経ってるし、もしかしたらジョギングから帰ってるかもしれない。それなら、それでいいけど問題はそれをどうやって確かめるか?
 普通にインターホン押して確認すりゃ一発なんだが、さっき初めて電話した人間がいきなり夜訪ねてくりゃ本人はともかく家族が驚くよな?
 萩原は、余り話を大きくしたくないみたいだし、出来ることなら避けたい。
 なら、公衆電話から電話して……って、アホか!それじゃ、さっきと変わらねぇ。
「仕方ねぇな…………」
 少し迷ったが、まごついてる間に何かあっても嫌なんで、俺は “禁じ手” を使うことにした。
 文珠を1つ取り出して、文字を刻む…………『覗』と……
 嫌な記憶が蘇る……|あの娘《氷室絹》におもくそビンタされた、あのアホな記憶が…………100%自分が悪いとは言え、温厚な彼女を激怒させて事実は、当時の馬鹿な俺すらマジ凹みさせた。
 …………マジで死にたい。
 いやいやいや、もう切り替えろ!プライバシーの侵害だけど、これは安否を確認するだけだ。
「3-4って言ったら、あそこか?」
 気を取り直すとクラス名簿に書いてあった、部屋番号を思い出しながら該当する部屋近辺に文珠を投げて発動する。
 それと同時に部屋の内部の情景が、明確に頭に流れ込んでくる。
 2LDK~3LDKって所か……どこにでもある家族向けの広さだけど、俺の部屋と比べりゃ雲泥の差がある。
 この緊急事態(?)に全く関係ない虚しさを覚えながら、1部屋ずつ確認していく。
 …………駄目だ、帰ってない。
 リビングに3人、萩原の両親と弟と思われる人間がテレビを見ているだけだった。どうでもいいけど、さっき話した母親は萩原に良く似ていた。
 あいつは、母親似なんだな……
「また、空振りかよ……!」
 そう吐き捨てながら、文珠を解除する。
 どうも、今回はこんなことが多い。確認しようとしても、対象が自分の手から滑るように抜けて上手くいかない。本当に偶然か……?
 ただの思い過ごしかもしれない………そう自分に言い聞かせても焦燥感ばかり募る。
「運動公園だったな……」
 あいつは確か電話で母親には「運動公園に行く」と伝えてた。そこに行こう。帰って来るあいつに会えるかもしれない。
 ここで待つと言う選択肢は取らなかった。事態がはっきりするまで、とことん自分から動いてやる。
    ◇◇◇
 結構飛ばし目に走ったら運動公園にはすぐ着いた。
 多分10分も掛かってないだろう。女がジョギング程度の速さで走れば、15分程度掛かるかもしれない。
 当然だが、ここに来るまで萩原には行き合ってない。既に入れ違いになった可能性もあるけど、公園内に入って確認するしかないだろう。
 この運動公園は、他の一般的な公園と同様敷地の真ん中にサッカーグラウンド、多目的グラウンド、テニスコートなどのエリアが併設してあって、それらをぐるっと取り囲むように歩道が整備されている。所々に該当も設置されており、十分に明るい。
 散歩やジョギングをする人間は、大抵この歩道を利用する。萩原が本当にジョギングに来たとしたら、この道を利用するだろう。
 俺は、あいつが道を時計周りに行ったと想像しながら走り出す。もし、その逆なら完全に空振るわけだが、迷ってる時間は無かった。
 電話してから、既に1時間を回ろうとしてる。その事実が気ばかり焦らせて、俺から余裕を奪っていたからだ。
 人が集まってる……!?
 敷地を半分くらい周ったくらいだろうか?歩道から少し逸れた先にある敷地から複数のエンジン音に人の喧騒、そしてライトが目に入ってきた。
 ここに来た時に見た見取り図を思い出すと、多分あそこは第2駐車場だろう。そこに結構な人数とバイクが集まってる。
 こんな時間に、|けたたましい《・・・・・・》騒音を撒き散らしやがって。
 遠目に見ただけで解る。
 ありゃ “族” だ……全員、白の特攻服を身に着けていて、その周りには明らかに違法改造されたであろうバイクが所狭しに並べてあった。
 普通なら、気付いた時点で引き換えしていたと思う。
 あんな連中と関わるだけアホだ。|あいつ《萩原》がここに来ていたら、迷わず俺と同じ選択肢を取るだろう。
 ただ、この時の俺は冷静じゃなかった。昼間から、漠然とあった不安感が大きくなり過ぎて。慎重さを奪っていたんだ。
 萩原が連中に捕まっている。
 それが、極端な妄想に過ぎない事は自分でも解っていた。ただ、可能性が0でない以上、そんな最悪の事態が頭に浮かんできて離れない……
 だけど、それだけならまだ良かった。さっき萩原のマンションでしたように、『覗』の文珠で遠目から連中を探れば良かったからな。
 この時は、それを思いっ切り失念して、奴等に近付き過ぎた……
「おいっ!!?」
 遠目から確認してるつもりだったが、奴等の1人と思い切り目が合っちまった。
 その瞬間そいつは、どう贔屓目に見ても友好的とは真逆と尖った大声をあげて俺に近付いてくる。足をドスドスさせて、威嚇する気満々じゃねぇか。
 完全にしくったわ…………
「おっ!?なんだなんだぁ」
 馬鹿の声に反応して、そいつに付いてくるように数人の男がさっきと同じように耳障りな声をあげて近寄って来た。合計4人の男が俺を取り囲む。
 始めに来た男以外はニヤニヤしながら俺を眺めてる。不用意に近寄ってきた鼠を複数で痛ぶろうとしてるのが見え見えだぜ。雪之丞が、最も嫌うタイプの人種だな。
「テメェ!こっち見てたろ……!!?」
「ええ。女の子を探してるんですけど、ここ辺に来ませんでしたか?」
 不必要に顔を近づけて、睨め上げるよう喋る馬鹿に一応丁寧に返してみる。
 ビビらせたくて仕方ないんだろうが、無理だよ。お前等なんて低級霊にも劣る。出来ることなんて、精々俺の不快感を煽るくらいだ……
「ああっ!?女だぁ?お前、舐めてんのかぁ!!?」
 …………何で、そういう理屈になるんだよ。大方予想に反して俺がビビらねぇのが、気に入らねぇんだろうな。低能が……!
「テメェ!何だ?その顔っ!!」
 俺の呆れた感情が思い切り顔に出てたのか、馬鹿が更に激昂した様子で俺に胸倉を掴んで来る。
「おいおい、怒らせるなよ♪そいつ、何するか解らないよ〜♪♪」
「土下座でいいよぉ♪」
「そうそう♪お兄ちゃん早く謝んないとバイクで引き摺ら__  “ヴァンッ! ”  ぶっ「「「おおあっ!!?」」」!!?」
 俺が手を合わせた瞬間、全身から発した霊気で全員が数メートル吹っ飛ぶ。
 会話するだけ時間の無駄………いや、成立しないだろうな。
 こいつらの何人かから、接着剤の臭いがプンプンして来やがる。間違いねぇ。こいつらシンナー吸ってラリってる。
 だから、『肢体爆弾』を……ぶっ放してやった。
 低級霊を数体消滅させる程度の威力まで絞ったけど、霊的防御のない人間には大層応えたろうな。しかも、この至近距離だ。
 全員失神するか、呻き声をあげながら藻掻いてる。胸倉掴んできた馬鹿は、一番重症だ。多分、アバラや鎖骨が何本も “いった” ……
「クセェ息吐くんじゃねぇよ。糞が……!」
 こっちには、時間がねぇんだよ!下らねぇことに、霊気使わせやがって。
 だが………
「おいっ!?」
「何だ?今の音!?」
「おめぇか!?」
 ………………まぁ、そうなるよな。
 今の爆音で、他のゾロゾロ集まってくる。大体30人ちょっとか……さっき、ぶっ飛ばした馬鹿共を含めりゃ40人弱。
 ただ、俺の方も穏便に済ますことは既に諦めてる。時間を掛けてる間がないんで、 “速攻” で潰すことにした。
「おいっ!てめぇ、今何しやがった!?死ねてぇのか!?」
 真ん中の|いかつい《・・・・》野郎が、声を張り上げる。
 こいつがリーダー格か?さっきの胸倉掴んだ野郎と、言ってることが殆ど変わりゃしねぇ……もっと、言えば全員が同じ顔に見える。
 勿論、んなこたねぇんだろうが、こんな連中の顔いちいち識別なんかしたくない。
「……1回しか言わないから、よく聞け!俺は、人を探してる。ここに高校生くらいの女の子は来なかったか?素直に話すなら、加減くらいしてやるぞ」
 一瞬の沈黙…………そして……
「女だぁ?意味解んねぇだよ!!」
 だろうね……アホみたいに喚くこいつからも、シンナーの臭いがプンプンする。恐らく、このまま放っときゃ直ぐに襲い掛かってくるだろう。蹴散らすの簡単だけど、流石に時間が掛かり過ぎる。
 だから、もう霊盾を生成して何時でも撃てる状態にしてある。俺の周囲には無数の目玉が漂ってるんだが、不幸(もしくは幸運)なことに霊視が出来ない連中には見えてない。
「黙ってねぇで何「………行け」か言__」
 ヴォンッ! 「ごばっ!」 ヴァンッ! 「うげっ!」
 ヴァウッ! 「ぐうっ!」ドゴォンッ! 「ぐぁっ!」 ヴァンッ! 「ぐぎっ!」 ボォグォン! ヴァウッ! 「ぐぁっ!」ドゴォンッ!「うげっ!!」ヴァウッ! 「ぎゃあっ!」ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!
 馬鹿に追尾眼が着弾する度に湧き上がる破裂音と奴等の悲鳴………見えない衝撃は、さぞ恐怖だろうな。
 しかも、殆ど音を上げずに消滅する雑魚霊と違って、こいつら悲鳴をあげる。悲鳴が上がる度に伝染する恐怖。それが、冷静さを奪い更なる恐怖を煽る。
 連中が今の倍の数でも居れば、もっとパニックを起こしたかもしれない。
 そんな感じで、1分もしないうちに奴等は全滅した。辺りには、始めの4人同様全員が呻きながら這いずり回ってる。
「お、お前っ!?一体何をっ…………!!」
「しっ!」
 辛うじて上体を起こした、リーダー格の男にゴルフボール大の霊盾を放ってやる。
「ぶっ……!!」
 顔面のど真ん中で爆発を起こされた男は、ものの見事な “エビ反り” を披露しながらぶっ倒れる。それでも、ヒィヒィ言いながら手足をバタつかせて俺から遠ざかろうとする。
 始めの勢いは、どこにもねぇ。こいつの顔に写るのは恐怖と敗北感(あと鼻血と涎)だけだ。
「………で、どうなんだ?」
「へ……?」
「「へ?」じゃねぇよ!」
 ヴァキッ!
「ヒィッ!!」
 俺が声を掛けると共に男の顔のすぐ横のアスファルトが弾け飛ぶ!
 霊手の人差し指を伸ばして突いただけだ。けれども、見えないってだけで恐怖を煽るには十分過ぎる。まして、こいつは直前までラリってた上に、さっきの爆発の後だ。もう、正常な判断なんて出来るわけなかった。
「さて…………次は、何処に穴を開けようか?足か?腕か?それとも腹にするか……?」
「助けてぇ!助けてぇ……!!」
 …………泣き出しやがったよ。
 もう、体裁を気にする余裕もどっかに失せたらしい。
 なんだか、以前の自分を見てるようで情けない気分になる。俺はここまで醜悪だったのか……?
 …………まぁ、いい。今は、萩原優先だ。
「だったら質問に答えろ!!女はどこだ?何処に隠したぁっ!」
「し……しし知らない!い…いや、知りませんっ!女なんか見てないし、隠してもいません!!」
「……………………」
「ほ、本当ですっ!!本当に、何も知らないんです!おお、おい?お前等……何か知らないかぁ!?」
 そう言って、慌てながら周りの呻いてる連中に声を掛ける。だが、辛うじて答えれる連中も全員が震えながら首を振る。
 ただ、この反応はある意味予想通りでもあった。
 ここに萩原が居ないのは途中から解ってたし(可能性があるなら、そもそも追尾眼は撃たない)、目の前の男が噓を言ってるようにも見えない。
 だから…………
「…………よし。一つだけ、 “種明かし” をしてやろう」
「た……種明かし?」
「ああ、そうだ。俺は今……… “ある物” を右手に持ってる。さっき投げたのと同じ物だ……と言っても、お前等には見えないだろうがな…………」
 そうして俺は、判りやすく右手を掲げる。
「そこでだ………正直に答えたご褒美として、お前達にも見えるよう、より強く “具現化” してやる……!」
※『GS美神』の『横島』ではなく、『幽遊白書』の『鴉』の声をイメージして脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい。
 キュイイィィィン………!
 俺は既に形を成している霊盾に、更に霊気を送り込む。より強く、馬鹿共にも見えるように……
 そして……
「そっ……それはっ!!?」
 霊気の固着化が進み、 “ソレ” を認識出来たところで奴等の恐怖に歪んでいた顔が更に引き攣る。
「爆弾だ(三連式ダイナマイト)……!」
「ま、待っ「じゃあな……」て………!!?」
 俺は、恐怖で懇願する馬鹿の前に霊盾を放ってやった。
「いやあああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」
 ドゴォォォォーーーーーーーンッッッ!!!