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節分

ー/ー



「へぇ……そりゃ楽しそうだな」


 そう言って、隣の席で楽しそうに喋る愛子に相槌を打つ。

 紡いだ言葉に嘘はないが、余りにも直球と言うか捻りがなさ過ぎて我ながら呆れちまった。

 まぁ、上機嫌の本人はそんな俺の内証なんて気にもならない様子だったが……


「そうよ、楽しかったわ♪友達の部屋で簡単な豆撒きしただけだけど、そう言う何気ない何気ない行いの中に『青春』は潜んでいるのよ」


 ………まぁ、否定する気はない。

 確かに当たり前に出来る事が実は凄く幸せな事と言うのは良くある話だ。素晴らしい事だとも思う。

 ただ、巡り合わせと言うかタイミングと言うか……とにかく、この時の俺は微妙な気分に成らざる得なかった。


「横島君達は何かした?」
「豆は炒ったよ……」


 ………まぁ、炒ってくれたのはマリアだけど。

 節分つっても、俺や雪之丞……爺さんに至っても特に何かする気は無かった。

 ただ、マリアが何故か積極的だったんで流された感じだ。


「炒った……?撒いたんでしょ?」


 まぁ、節分で豆を炒ったんなら、そのまま撒くのが流れだよな………

 そんな事を考えながら、怪訝な顔をする愛子に返す。


「撒こうと思ったんだけどな……」


 そう………皆、マリアが持って来るまでは取り敢えずそんな空気ではあった。


「撒かなかったの?」
「掃除すんのが面倒くさくなっちまって……」


 マリアの持って来た量が余りに多過ぎて、全員でドン引きした。

 タライ一杯に……いや、山盛りはやり過ぎるだろ?あんなもん撒いたら、事務所が豆だらけになっちまう。


「…………それで止めたの?」
「そうだよ。でも、勿体ないなから皆で食べた」


 でも、食い切れなくて(当たり前だ)、まだ少し残ってる。


「撒かないと “穢れ” が取れないわよ」
あそこ(事務所)にどれだけ結界張ってると思ってんだよ?穢れなんて、端から湧かねぇよ……」


 前から言ってるが、事務所の一歩でも外に出ればそこは悪霊怨霊のオンパレードだ。だから、連中が入って来れないように中は、至る所に隙間なく結界という名の札を張り巡らせてる。

 少しでも、隙間があれば奴等は遠慮なしに入って来るんだ。年中行事で豆しか撒かない連中に比べて、かなり気を使ってるぞ。寧ろ、豆で何とかなるなら毎日奴等に撒くわ………


「じゃあ、本当に一粒も撒かなかったの?」
「いや、でも流石にあれなんで少しは撒いたよ……」


 撒かないとマリアのロケット・アームが普通に火を吹きそうだったからな。仕方なく、各階にチョロっと撒いて、直ぐに拾った。そして、拾った豆を別の階に撒いて、最後はゴミ箱へ……凄くリーズナブル?


 あの娘は自動人形(オートマータ)だけど、心はある。だから、嬉しければ喜ぶし、不満があれば普通に怒る。

 表情は全く変わらないが、一緒に過ごす時間が増えた事で最近は内面の変化が何となく解るようになって来た……


「そんな、ズボラなのに良く炒る気になったわね……」
「炒った本人は、やる気満々だったんだよ」


 でも、肝心の撒く俺達がその気にならなかっただけだ……だけど、ちゃんと食べてるんだからマリアの行為は無駄にしてないぞ。

 そんな風に思ってると………



「俺も撒いてないぞ」
「そうか……」
「渡辺君………?」


 いや、聞いてねぇから。

 何か、また面倒くせぇのが来た……


「何か言えよ」
「…………何で撒かないの?」


 糞うぜぇ……


「俺は渡辺だ」
「………だから?」


 糞どうでもいいけど、シカトするともっと面倒くさいんでそいつの方は見ずに答える。

 今の俺、顔がかなり引き攣ってんな……

 だが、そいつは俺の心情お構い無しに………いや、寧ろ得意げになりながら続ける(鬱陶しい)。


「除霊仕事してる癖に知らないのか?平安時代に最強の鬼とされる『茨城童子』は、『渡辺綱(わたなべのつな)』と言われる侍に腕を斬り落とされたんだ。以来、鬼の一族は『渡辺』と聞くだけで逃げ出すんだぞ♪」
「そりゃ、すげえや……」


 ……………………そう言やあったな。んな “迷信” ………

 まぁ “豆撒き” そのモノが迷信なんだが……


「詰まんねぇ野郎だな。もっと、リアクションしろよ」
「じゃあ、鬼退治する時お前を呼ぶから」

「…………鬼……退治すんの?」
「時と場合によっては」


 いや、嘘だけどな。

 昔はともかく、今はGS協会が中心になって鬼と人間達で平和条約みたいなもん結んでるから、出会っていきなり襲い掛かかるなんて事にはならない。

 でも、こいつには教えない。


「期待してるぞ。渡辺君、君が居れば鬼は逃げるんだろ?」
「い……いや、退治すんのに逃がしちゃ不味いだろ?」

「沢山出ると困んだよ。お前盾にすりゃ、皆逃げるからその間に親玉叩く」
「き、危険だぞ……」

「大丈夫だろ?豆撒きしなくても、平気なんだから」
「いや、やっぱいいわ。じゃあ!」


 そう言って、そそくさと自分の席に戻るモブ……


「やれやれ……」
「可哀想じゃない。もっと、構ってあげなさいよ」

「じゃあ、お前がやれよ。何で、黙ってたんだ?」
「い…いや、何か面倒臭そうだったから……」


 お前も同じじゃねぇか………


「まぁ、いいや。それは、そうと……」
「どうしたの?」

「豆、まだ大量に残ってんだよ。正直、暫く豆はノーサンキューなんだけど……食べる?」
「えっ!?ま、豆を?」

「他に何を食うんだよ?」
「そんなにあるの?」

「タライを埋め尽くすくらい」
「はぁっ!?何でそんなに炒ったのよ??」

「知らん!炒った奴に聞け。これでも、3人で結構食べたんだぞ。明日持って来るから、お前も友達とどうだ?」
「いや、豆だけはちょっと……」


 そりゃ、そうだよな。

 と、そんな所に……


「横島さん」
「うおっ……!」
「びっくりした……」


 いきなり現れたら2メートル超の大男にビビる、俺と愛子……


「来てたのか?ス…タイガー……」


 てっきり、今日は遅刻だと思ってた。


「いや、横島さんより先に来てたんジャー」
「マジか……!?」
「気付かなかったわ」


 こいつのステルス性能は、今日も際立ってんな。

 そんな、俺達の反応にデカい体を小さくするように悄気るステルス。


「うぅ……2人とも酷いんジャー………」
「いや、話に夢中になってたから……」
「そ、そうね……」

「本当ですカイ?」
「そ、それよりどうかしたか?」


 いちいち誤魔化すのも面倒臭いんで、逆に質問した話題を逸らす。


「ああ……横島さん、豆が余ってるってさっき言ってたもんですから………」
「ひょっとして、食べたいの……?」


 食べてくれるの?


「恥ずかしながら、今月は割とピンチで……」


 何か恐縮したように言ってるけど、要は金欠って事よな?

 ………………いつも、じゃねぇか。まあ、いいや。


「わかった。明日、持って来る。でも、あれだ。もし、雪之丞達が食ってたら持って来れないから、それは許して欲しい」


 絶対食わないだろうけど………


「それで、結構です。では、宜しくお願いします」


 そう言って、頭を下げるとすごすご(・・・・)と席に戻るステルス。


「…………豆を食う虎か」
「『青春』……なのかしら?」


 何なんだ、本当………




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「へぇ……そりゃ楽しそうだな」
 そう言って、隣の席で楽しそうに喋る愛子に相槌を打つ。
 紡いだ言葉に嘘はないが、余りにも直球と言うか捻りがなさ過ぎて我ながら呆れちまった。
 まぁ、上機嫌の本人はそんな俺の内証なんて気にもならない様子だったが……
「そうよ、楽しかったわ♪友達の部屋で簡単な豆撒きしただけだけど、そう言う何気ない何気ない行いの中に『青春』は潜んでいるのよ」
 ………まぁ、否定する気はない。
 確かに当たり前に出来る事が実は凄く幸せな事と言うのは良くある話だ。素晴らしい事だとも思う。
 ただ、巡り合わせと言うかタイミングと言うか……とにかく、この時の俺は微妙な気分に成らざる得なかった。
「横島君達は何かした?」
「豆は炒ったよ……」
 ………まぁ、炒ってくれたのはマリアだけど。
 節分つっても、俺や雪之丞……爺さんに至っても特に何かする気は無かった。
 ただ、マリアが何故か積極的だったんで流された感じだ。
「炒った……?撒いたんでしょ?」
 まぁ、節分で豆を炒ったんなら、そのまま撒くのが流れだよな………
 そんな事を考えながら、怪訝な顔をする愛子に返す。
「撒こうと思ったんだけどな……」
 そう………皆、マリアが持って来るまでは取り敢えずそんな空気ではあった。
「撒かなかったの?」
「掃除すんのが面倒くさくなっちまって……」
 マリアの持って来た量が余りに多過ぎて、全員でドン引きした。
 タライ一杯に……いや、山盛りはやり過ぎるだろ?あんなもん撒いたら、事務所が豆だらけになっちまう。
「…………それで止めたの?」
「そうだよ。でも、勿体ないなから皆で食べた」
 でも、食い切れなくて(当たり前だ)、まだ少し残ってる。
「撒かないと “穢れ” が取れないわよ」
「|あそこ《事務所》にどれだけ結界張ってると思ってんだよ?穢れなんて、端から湧かねぇよ……」
 前から言ってるが、事務所の一歩でも外に出ればそこは悪霊怨霊のオンパレードだ。だから、連中が入って来れないように中は、至る所に隙間なく結界という名の札を張り巡らせてる。
 少しでも、隙間があれば奴等は遠慮なしに入って来るんだ。年中行事で豆しか撒かない連中に比べて、かなり気を使ってるぞ。寧ろ、豆で何とかなるなら毎日奴等に撒くわ………
「じゃあ、本当に一粒も撒かなかったの?」
「いや、でも流石にあれなんで少しは撒いたよ……」
 撒かないとマリアのロケット・アームが普通に火を吹きそうだったからな。仕方なく、各階にチョロっと撒いて、直ぐに拾った。そして、拾った豆を別の階に撒いて、最後はゴミ箱へ……凄くリーズナブル?
 あの娘は|自動人形《オートマータ》だけど、心はある。だから、嬉しければ喜ぶし、不満があれば普通に怒る。
 表情は全く変わらないが、一緒に過ごす時間が増えた事で最近は内面の変化が何となく解るようになって来た……
「そんな、ズボラなのに良く炒る気になったわね……」
「炒った本人は、やる気満々だったんだよ」
 でも、肝心の撒く俺達がその気にならなかっただけだ……だけど、ちゃんと食べてるんだからマリアの行為は無駄にしてないぞ。
 そんな風に思ってると………
「俺も撒いてないぞ」
「そうか……」
「渡辺君………?」
 いや、聞いてねぇから。
 何か、また面倒くせぇのが来た……
「何か言えよ」
「…………何で撒かないの?」
 糞うぜぇ……
「俺は渡辺だ」
「………だから?」
 糞どうでもいいけど、シカトするともっと面倒くさいんでそいつの方は見ずに答える。
 今の俺、顔がかなり引き攣ってんな……
 だが、そいつは俺の心情お構い無しに………いや、寧ろ得意げになりながら続ける(鬱陶しい)。
「除霊仕事してる癖に知らないのか?平安時代に最強の鬼とされる『茨城童子』は、『|渡辺綱《わたなべのつな》』と言われる侍に腕を斬り落とされたんだ。以来、鬼の一族は『渡辺』と聞くだけで逃げ出すんだぞ♪」
「そりゃ、すげえや……」
 ……………………そう言やあったな。んな “迷信” ………
 まぁ “豆撒き” そのモノが迷信なんだが……
「詰まんねぇ野郎だな。もっと、リアクションしろよ」
「じゃあ、鬼退治する時お前を呼ぶから」
「…………鬼……退治すんの?」
「時と場合によっては」
 いや、嘘だけどな。
 昔はともかく、今はGS協会が中心になって鬼と人間達で平和条約みたいなもん結んでるから、出会っていきなり襲い掛かかるなんて事にはならない。
 でも、こいつには教えない。
「期待してるぞ。渡辺君、君が居れば鬼は逃げるんだろ?」
「い……いや、退治すんのに逃がしちゃ不味いだろ?」
「沢山出ると困んだよ。お前盾にすりゃ、皆逃げるからその間に親玉叩く」
「き、危険だぞ……」
「大丈夫だろ?豆撒きしなくても、平気なんだから」
「いや、やっぱいいわ。じゃあ!」
 そう言って、そそくさと自分の席に戻るモブ……
「やれやれ……」
「可哀想じゃない。もっと、構ってあげなさいよ」
「じゃあ、お前がやれよ。何で、黙ってたんだ?」
「い…いや、何か面倒臭そうだったから……」
 お前も同じじゃねぇか………
「まぁ、いいや。それは、そうと……」
「どうしたの?」
「豆、まだ大量に残ってんだよ。正直、暫く豆はノーサンキューなんだけど……食べる?」
「えっ!?ま、豆を?」
「他に何を食うんだよ?」
「そんなにあるの?」
「タライを埋め尽くすくらい」
「はぁっ!?何でそんなに炒ったのよ??」
「知らん!炒った奴に聞け。これでも、3人で結構食べたんだぞ。明日持って来るから、お前も友達とどうだ?」
「いや、豆だけはちょっと……」
 そりゃ、そうだよな。
 と、そんな所に……
「横島さん」
「うおっ……!」
「びっくりした……」
 いきなり現れたら2メートル超の大男にビビる、俺と愛子……
「来てたのか?ス…タイガー……」
 てっきり、今日は遅刻だと思ってた。
「いや、横島さんより先に来てたんジャー」
「マジか……!?」
「気付かなかったわ」
 こいつのステルス性能は、今日も際立ってんな。
 そんな、俺達の反応にデカい体を小さくするように悄気るステルス。
「うぅ……2人とも酷いんジャー………」
「いや、話に夢中になってたから……」
「そ、そうね……」
「本当ですカイ?」
「そ、それよりどうかしたか?」
 いちいち誤魔化すのも面倒臭いんで、逆に質問した話題を逸らす。
「ああ……横島さん、豆が余ってるってさっき言ってたもんですから………」
「ひょっとして、食べたいの……?」
 食べてくれるの?
「恥ずかしながら、今月は割とピンチで……」
 何か恐縮したように言ってるけど、要は金欠って事よな?
 ………………いつも、じゃねぇか。まあ、いいや。
「わかった。明日、持って来る。でも、あれだ。もし、雪之丞達が食ってたら持って来れないから、それは許して欲しい」
 絶対食わないだろうけど………
「それで、結構です。では、宜しくお願いします」
 そう言って、頭を下げると|すごすご《・・・・》と席に戻るステルス。
「…………豆を食う虎か」
「『青春』……なのかしら?」
 何なんだ、本当………