ep122 ヘッドフィールド

ー/ー



 空は濃紫色になり、街の灯りがぼんやり光る。

「よし。街の入り口だ。私たちはここで降りるぞ」

 カレンが降車をアナウンスする。

「隊長様!」
 馬上から御者が叫んだ。
「ホントにあっしは行っちまっていいんですね!?」

「もちろんだ。むしろこんな所に長居すべきでない」

「す、すんません!」

 俺たちが下車すると、馬車はトンズラするようにすたこらさっさと街から去っていった。
 
「なあカレン。もう夜だから御者と馬も街で休ませたほうが良かったんじゃないのか?」
 俺は街へ向かって歩きながら尋ねた。
「なぜあんな急ぎ足で行かせるんだ?」
 
「ここはギャングの街だ。ジェイズによって秩序は保たれているが、カタギの人間がいるべき場所ではない。それでは街へ入るぞ」

 まるでヤクザの事務所にでも入っていくような言い草だ。実際はどうなのか、否が応でもこれからすぐにわかるだろうが。
 カレンに先導され、俺たちは〔ヘッドフィールド〕へ足を踏み入れた。意外にも簡単に入れた。

「ここがヘッドフィールドか」

 周囲を見渡した。無造作に傷んだ街路、不規則に点滅する灯り、点在する薄汚れた建物を見るにつけ、
「やはり豊かではないんだな……」
 ある意味で予想通りの印象を受ける。
 また、街ゆく人々はギャングの街にふさわしい風体だ。盗賊なのか山賊なのか荒くれた冒険者なのか……そんな眼つき顔つきの悪い連中がゴロゴロいる。
 
「こんな街にシヒロが……」と俺がつぶやいた時だ。

「よぉネーチャン。イイ女じゃねえか」
「今夜おれたちと遊ばねえか?」
「気持ちよくさせてやるからよ」

 チンピラ風の男三人組が後ろのエレサに絡んできた。

「なんだオマエら。わたしはオマエらなんかに興味ない」

 エレサはにべもなく突き放した。

「ああ? なんだこの生意気な黒エルフは」
「いいからおれたちと一緒に来ればいいんだよ」
「いいから来やがれ」

 ひとりの男がエレサの腕をグッと掴んだが、即座に彼女はそれを払い除けた。嫌悪感たっぷりに、まとわりつく小虫を振り払うように。

「ああ? あんだこのクソ生意気な女は?」

 腕を払われた男がキレだした。案の定、ガラが悪い。
 
「おいおい」
「揉めたくねえのによぉ」

 トレブルとブーストが困惑しながらも仲裁に入ろうとする。

「チッ、下衆どもが……」

 実に腹立たしげに舌打ちしたカレンも一歩足を踏み出した時。
「〔グラディウス〕」と俺は〔魔導剣〕を顕現させる。そのまま迷うことなく男へ向かって剣を突き立てた。

「彼女へ謝罪しろ。その娘はお前らチンピラ風情が手出しできるような代物じゃない」

「お、おいクロー! やめろ! いきなりなにをしているんだ!」

 驚いたカレンが思わず俺を制止した。

「え? クロー?」

 きょとんとしながらもエレサはどうしてか女らしい目つきを俺に向けた。

「んだテメーこらぁ! やる気かオラぁ!」

 男は完全にブチ切れた。やはりチンピラ。予想通りだ。

「オイオイまたあいつケンカしてやがるぜぇ!」
「ギャッハッハ! やっちまえやっちまえ!」
「いーぞいーぞ殺し合えや!」

 辺りも野蛮にザワついてきた。俺はそんな様子などには目もくれず、制止するカレンも無視して単刀直入に切り出す。

「お前みたいな末端のチンピラじゃ話にならない。〔狂戦士〕に会わせろ」

 俺の台詞に、カレンもトレブルもブーストも、さらには相手もツレも街の連中も皆、虚をつかれる。

「クロー! 何を考えている!? 我々は人質を取られている状態なんだぞ!?」
「だ、ダンナ!」
「マジかよ……!」

 カレンとトレブルとブーストが慌てるのも無理はない。だが俺は気にしない。
 次第に、相手の男を含めて街全体が殺気立ってくる。

「銀髪ヤロー。テメーごときがなに言ってやがる。テメー、このまま私刑だぜ?」

 男はドス黒い眼をギロリと光らせた。

「クロー……」

 そんな中、なぜかエレサだけは女の顔で俺を見つめていた。
 俺はおもむろに剣をびゅんと地面へ振り下ろすと、目の前の男のみならず街の連中全員を殺気を込めて睨みつけた。

「俺は魔剣使いクロー。ヘッドフィールドのボス、ジェイズ・キングに用があってこの街へ来た。つべこべ言わずジェイズを呼んでこい。あともうひとつ。もし人質に手を出したらお前ら全員皆殺しにする!」

 これにより、街全体が完全に臨戦態勢に入る。殺気立ったギャングどもがぞろぞろと集まってきた。
 もはや戦闘は避けられないだろう。でも構わない。俺に残された時間は少ない。敵地に乗り込んで来てまでチンタラやっているつもりはない。俺にあるのは、何がなんでもシヒロを取り返すということ。それだけだ。
 それに、これは決して無謀というわけではない。なにせ〔魔剣使い〕が〔狂戦士〕に会いに来ているんだ。これぐらいジェイズとやらは想定済みだろう。

「こうなればやむをえまい。トレブル、ブースト、ダークエルフ。やるぞ!」

 カレンも剣に手をかけた。

「しょーがねえな!」
「ああ!」

 トレブルとブーストも武器を構えた。

「女隊長に言われるまでもない」

 エレサは魔力を練りはじめた。
 その時だ。

「待て!」

 女の声が街を突き抜けるように響いた。


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 空は濃紫色になり、街の灯りがぼんやり光る。
「よし。街の入り口だ。私たちはここで降りるぞ」
 カレンが降車をアナウンスする。
「隊長様!」
 馬上から御者が叫んだ。
「ホントにあっしは行っちまっていいんですね!?」
「もちろんだ。むしろこんな所に長居すべきでない」
「す、すんません!」
 俺たちが下車すると、馬車はトンズラするようにすたこらさっさと街から去っていった。
「なあカレン。もう夜だから御者と馬も街で休ませたほうが良かったんじゃないのか?」
 俺は街へ向かって歩きながら尋ねた。
「なぜあんな急ぎ足で行かせるんだ?」
「ここはギャングの街だ。ジェイズによって秩序は保たれているが、カタギの人間がいるべき場所ではない。それでは街へ入るぞ」
 まるでヤクザの事務所にでも入っていくような言い草だ。実際はどうなのか、否が応でもこれからすぐにわかるだろうが。
 カレンに先導され、俺たちは〔ヘッドフィールド〕へ足を踏み入れた。意外にも簡単に入れた。
「ここがヘッドフィールドか」
 周囲を見渡した。無造作に傷んだ街路、不規則に点滅する灯り、点在する薄汚れた建物を見るにつけ、
「やはり豊かではないんだな……」
 ある意味で予想通りの印象を受ける。
 また、街ゆく人々はギャングの街にふさわしい風体だ。盗賊なのか山賊なのか荒くれた冒険者なのか……そんな眼つき顔つきの悪い連中がゴロゴロいる。
「こんな街にシヒロが……」と俺がつぶやいた時だ。
「よぉネーチャン。イイ女じゃねえか」
「今夜おれたちと遊ばねえか?」
「気持ちよくさせてやるからよ」
 チンピラ風の男三人組が後ろのエレサに絡んできた。
「なんだオマエら。わたしはオマエらなんかに興味ない」
 エレサはにべもなく突き放した。
「ああ? なんだこの生意気な黒エルフは」
「いいからおれたちと一緒に来ればいいんだよ」
「いいから来やがれ」
 ひとりの男がエレサの腕をグッと掴んだが、即座に彼女はそれを払い除けた。嫌悪感たっぷりに、まとわりつく小虫を振り払うように。
「ああ? あんだこのクソ生意気な女は?」
 腕を払われた男がキレだした。案の定、ガラが悪い。
「おいおい」
「揉めたくねえのによぉ」
 トレブルとブーストが困惑しながらも仲裁に入ろうとする。
「チッ、下衆どもが……」
 実に腹立たしげに舌打ちしたカレンも一歩足を踏み出した時。
「〔グラディウス〕」と俺は〔魔導剣〕を顕現させる。そのまま迷うことなく男へ向かって剣を突き立てた。
「彼女へ謝罪しろ。その娘はお前らチンピラ風情が手出しできるような代物じゃない」
「お、おいクロー! やめろ! いきなりなにをしているんだ!」
 驚いたカレンが思わず俺を制止した。
「え? クロー?」
 きょとんとしながらもエレサはどうしてか女らしい目つきを俺に向けた。
「んだテメーこらぁ! やる気かオラぁ!」
 男は完全にブチ切れた。やはりチンピラ。予想通りだ。
「オイオイまたあいつケンカしてやがるぜぇ!」
「ギャッハッハ! やっちまえやっちまえ!」
「いーぞいーぞ殺し合えや!」
 辺りも野蛮にザワついてきた。俺はそんな様子などには目もくれず、制止するカレンも無視して単刀直入に切り出す。
「お前みたいな末端のチンピラじゃ話にならない。〔狂戦士〕に会わせろ」
 俺の台詞に、カレンもトレブルもブーストも、さらには相手もツレも街の連中も皆、虚をつかれる。
「クロー! 何を考えている!? 我々は人質を取られている状態なんだぞ!?」
「だ、ダンナ!」
「マジかよ……!」
 カレンとトレブルとブーストが慌てるのも無理はない。だが俺は気にしない。
 次第に、相手の男を含めて街全体が殺気立ってくる。
「銀髪ヤロー。テメーごときがなに言ってやがる。テメー、このまま私刑だぜ?」
 男はドス黒い眼をギロリと光らせた。
「クロー……」
 そんな中、なぜかエレサだけは女の顔で俺を見つめていた。
 俺はおもむろに剣をびゅんと地面へ振り下ろすと、目の前の男のみならず街の連中全員を殺気を込めて睨みつけた。
「俺は魔剣使いクロー。ヘッドフィールドのボス、ジェイズ・キングに用があってこの街へ来た。つべこべ言わずジェイズを呼んでこい。あともうひとつ。もし人質に手を出したらお前ら全員皆殺しにする!」
 これにより、街全体が完全に臨戦態勢に入る。殺気立ったギャングどもがぞろぞろと集まってきた。
 もはや戦闘は避けられないだろう。でも構わない。俺に残された時間は少ない。敵地に乗り込んで来てまでチンタラやっているつもりはない。俺にあるのは、何がなんでもシヒロを取り返すということ。それだけだ。
 それに、これは決して無謀というわけではない。なにせ〔魔剣使い〕が〔狂戦士〕に会いに来ているんだ。これぐらいジェイズとやらは想定済みだろう。
「こうなればやむをえまい。トレブル、ブースト、ダークエルフ。やるぞ!」
 カレンも剣に手をかけた。
「しょーがねえな!」
「ああ!」
 トレブルとブーストも武器を構えた。
「女隊長に言われるまでもない」
 エレサは魔力を練りはじめた。
 その時だ。
「待て!」
 女の声が街を突き抜けるように響いた。