俺は、空中からゆっくりと砂地に降り立つ。
霊盾爆破によって凸凹の無い綺麗な更地になった地面に足跡を着けることには少し……いや、かなり抵抗感を覚えたが、それを強引に頭から振り払う。
砂棲が今ので仕留めきれたか気になるし、爆発に巻き込まれた氷雅も気がかりだ。まぁ、余波だから多分大丈夫だと思うが………
「あいつが居たのは……」
直前の記憶を頼りに氷雅が立っていたであろう、地点まで向かう。少し掘り返せば出てくるかな?
………と思っていたが。
「ぶはっ……」
クレーターの外縁、やや内側の砂地からは頭を出す氷雅が居た。ダメージは無さそうだ。霊的爆発は砂棲が全て吸収したろうから、こいつが喰らったのは砂と衝撃くらいだろう………それでも、少し痛いか?
「無事みたいですね」
「………………」
俺の声に振り向くが、ジト目で見るだけで答えない。怒ってるのか?
「…………わざと巻き込みましたの?」
「偶然ですよ……すみません」
若干剣呑とした物言いの氷雅に素直に謝った。やるつもりなら、追撃掛けてるしな……
「ところで……」
気を取り直しながら、立ち上がって衣服の砂を払う氷雅に問い掛ける。
「奴は、今ので消えましたか?私では判断出来ない」
「私より向こうの心配ですか?多分、消えたと思いますが……」
氷雅はまだ、ブツブツ言いながらもクレーターの中心付近へ行くと刀を抜いて、砂地へ刺す。
そして、数十秒程して……
「…………居ませんわ」
「移動した可能性は、ありませんか?」
「探ってみますわ……」
そうして、場所を変えて数回同じことを繰り返したが結果は同じだった……
どうやら、あの一撃で仕留められたらしい。でも、万が一の可能性もあるから、明日まで完全閉鎖は続けた方が良いと協会には申告するか。
◇◇◇
「ありがとうございました。今回は助かりましたよ」
全ての探索を終えた後、俺は氷雅に礼を言った。
こいつが居なきゃ、俺は砂棲に気付くことなんて出来なかった(そもそも知らなかった)し、この浜に居る雑魚霊を殲滅も出来なかった。
絶対次の晩(満月)に後回しにして、砂棲を強大化させちまったろう。そんな相手に俺とマリアじゃどうなってたか解らない。
「世話になった人の為と言ったでしょ、あなたの為じゃありませんわ……!」
たが氷雅は、予想通りの素っ気ない返答。始めと同様、距離も数メートル保ったまま。
まぁ、元々仲良くするような間柄でもないし、お互いギスることも無く協力出来ただけで良しとするべきだな。
「でも……」
ん……?ツンツンしながら言い終えて、今度は目を逸らしながら言い難そうに口を開く。
「あなたが居なければ、世話になった人に恩返し出来なかったですわ…………その事については……感謝いたしますわ」
「………………」
素直じゃねぇな……この辺も、あの糞女と良く似てる。でも言いたいこと、言い合える分だけこいつのがマシか………
「それでは……」
俺は氷雅一礼して、背を向けた。時刻は朝の4時を回ろうとしている。流石に疲れ__
「ちょっと……!?」
面倒くせぇな、この女……向き直るのもアレなんで、首だけで振り向く。
「何です……?まだ、何かあるんですか?」
「いや……無いですけど」
「じゃあ、良いでしょ」
寂しがり屋かよ。いや、拗らせ女だったな……
「いや、ありますわ!」
どっち、なんだよ……?
「何です?今から、あなたと第2ラウンド始めるんですか?今日は疲れたから、帰りたいんですけど」
「今日は……結構ですわ…………」
それは良かった……こいつも、それなりに消耗してるらしいな。
「なら、家か事務所に来て下さい。学校は勘弁ですよ。私にも生活があるんです」
「今度はGS試験ですわ!」
「………………」
…………そういや、そうだった。
もう、4ヶ月もねぇな。確かにトーナメント戦である以上、この女とやり合う可能性も零じゃないか。
にしても、こいつ……俺が免許無くしたことまで知ってんだな。ストーカーか?いや、取ってから一年足らずで事務所を辞めりゃ、想像なんて簡単につくな。
「次は……負けませんわ…………!」
氷雅の眼に強い決意を感じる。去年見せた、軽蔑や傲慢の色は無い………
「今度は……斬れると、いいですね」
俺は、それだけ言って今度こそ、その場を後にした。
…………参ったな。
ああ言う “隠し技” の多そうな奴に、慎重になられたらマジで厄介だ。対策を取ろうにも、何があるか解らねぇ以上やりようがねぇ……
◇◇◇
「別に……!斬りたいとなんか、思ってませんわ…………」
浜辺を去る彼の背中を見ながら、小声で呟く。
あの男は、まだ私が自分を恨んでると思っているみたいだけど、そんな気持ちはとっくに消えてる。
ただ、認めさせてやりたかった……本当の私の剣を…………
何で、あの男にそんな想いを抱くんだか自分でも解らない…………でも、あの時……
あの男は、私の剣を「美しい」と言ってくれた。
…………それが、私には妙に嬉しかった。
◇◇◇
「氷雅ちゃん……!」
私の姿を確認して、自宅の縁側から立ち上がる彼女を姿を見て私は驚いた。
「おばあさま……起きてらしたんですか?」
彼が立ち去るのを見届けた私は、その後20分ほど掛けて、ここ数日お世話になった民家へ帰って来た。
時刻は、既に朝の4時半を回っている。この家を出たのが昨日の夜9時過ぎだったから、彼女は徹夜してしまったと言う事だろう。
いつから外で待っていたかわからないけど、申し訳ない気持ちで一杯になる……
「心配で眠れないよ……中々、帰って来ないんだもの」
「ごめんなさい、ちょっと様子を見に行くだけの積りが大事になってしまって……」
「とにかく無事で良かったよ……なんだか浜の方から花火みたいに大きな音が聞こえてきたから、何があったのかと心配になって、気が気じゃなかったんだよ」
「ハハハ……」
彼の爆弾の音ですわね……最後、少し巻き込まれた掛かったけど、これは言わない方が良さそうですわね。
「私は、大丈夫ですわ……それと浜辺の除霊は成功しました。これで、夜怯える心配はありませんわ」
この家は浜辺の目と先にあるせいで、夜になると窓を眺めるだけで怨霊達の姿が目に入る。
奴等がここまで来ることは無いでしょうけど、一般人……しかも、高齢で一人暮らしのおばあさまが不安になっていたんで除霊を申し出たのだけれど、役に立てたようで良かった。
…………まぁ、彼が居なきゃどうにもならなかったんですけど。
それにしても……本当に彼は “化け物” ですわね………あれだけの攻撃を連発して、まだ余力があった。いえ、それ以上にあそこまでハッキリと霊気を具現出来る人間を私は見たことがない。
《魔装術》も霊気の具現化だけど、あれには《魔族の血》と言う媒介が絶対に不可決。それを彼は、自分の霊気だけで完遂していた……
「真正面から霊気のぶつけ合いになったら、まず勝ち目がないですわね……」
さっきは、何であんな無茶な宣戦布告したんでしょう?自分で理解に苦しみますわ……
でも、彼を後ろから斬るような真似だけはしたくない。しては、いけないと思う。
本当に、矛盾してますわね…………
「本当かい……!?まぁ、それより早くお上がりよ、寒かったろう?何か温かい物でも作るよ」
「そんな!そっちこそ、体を冷やしては毒ですわ……早く中へ……」
◇◇◇
「グォホッ、グォホッ……」
布団に包まりながら、もう何度目になるか解らない咳をする。
糞が……やっぱ、俺にも移しやがったなジジィ…………!!
現在38.7℃……身体が熱い、関節が痛む、喉はイガイガ、気分は最悪だ。
昨日、除霊から帰ってきてから何か変だなぁと思ってたんだが、朝起きたらこの通り。
まぁ、事務所の2人がダウンした時から予感はしてたんだよ。俺だけ都合良く移らないわけ、ないって……
昨日の内に医者でも行きゃよかったんだが、近所の内科医は日曜でやってねぇし、白井総合までわざわざ行くのは何となく面倒でそのまま寝ちまった。
後悔先に立たずとは行ったが、今更どうにもならねぇな……除霊中にダウンしなかっただけ、良しとするか。
…………とは言ったものの、苦しいのはどうにもならない。だから、こうやって事務所にも学校にも行かずに寝込んでる。
でも、悪いことばかりじゃないわけで……
「良くなりま……良い訳ないですよね?」
「そうだね…………でも、助かったよ」
キッチンでお粥を作って来てくれた、小鳩ちゃんにお礼を言う。
朝、医者に行く時に偶然…………だよな?
とにかく登校する彼女と鉢合わせして、風邪を引いたと言ったら、こうして夜に夕飯を作りに来てくれた。
正直、病弱な母親と住む彼女に風邪を移したら洒落にならねぇんで、始めは断ったんだけど、何か押し切られた。
いや、とてもありがたいんだけどな……彼女の優しさに涙が出そう……本当、マジで…………でも……
「本当にこんな寒い中、仕事なんて大変ですよね……」
「いや、仕事じゃなくて事務所の馬鹿共に移されただけだから」
「お前なら風邪を引いても気付かんと、思うとったんだがな………」
「貧ちゃん……」
「お前、今すぐ消滅しろ……!!」
小鳩ちゃんの傍らに浮く、貧相な自称 “福ノ神” の疫病神に呪詛を送る……何で、お前まで一緒に来んだよ?
(小鳩の阿呆が……!!折角のチャンスなのに「1人じゃ勇気が持てない」とか抜かしよって…………)