ザァァアアアアーーーー!!
俺の起こした爆発の衝撃を受けて、急激に盛り上がる砂粒。そして、巻き上がった砂埃が治まると砂棲の全容が露わになる。
高さ7〜8メートル、横幅4〜5メートルってところか………一言で言えば、そいつは砂の “怨霊” だった。
形の定まらない流動的な体、中途半端な髑髏のオブジェを思わせる簡単な作りの顔。その下の首に相当する部分が砂地と繋がってる。
俺達が除霊現場で良く見る低級霊の顔を大量の砂で作れば、あんな感じになるかもしれない。
その顔が俺達を見下ろしている。その目に当たる窪みの部分から漏れる紫の虚ろな光からは、元の怨霊達の無念や怨嗟が溢れ出ていて、ずっと見てると気が滅入りそうだった……
「文献程じゃないけど、結構大きいですね」
こいつは文献の半分程だが、それでも俺達を完全に凌駕するデカさに少し圧倒されながら呟く。
「ええ、でも明日よりはマシなはずですわ……」
………その割には、声音に余り自信を感じないんたが大丈夫か?
しかし、どうする?元が怨霊の集合体なら普通に霊的な攻撃は通るだろうが、このサイズじゃあな……
「何か弱点のようなものは無いんですか?」
「 “砂の精髄” と呼ばれる核がありますわ!それを突ければ、崩せるはず……」
「何処にあるんです?」
“核” と言うからには、やっぱり頭の中心か?それとも、あの紫の目……?
「身体中を常に移動させてますわ」
「……どうやって、突くんです?」
弱点を速攻で突く案はなしか…………まぁ、見た目はでかいけど、そこまで妖気は感じない。外からチマチマ霊盾を当てて行けば、いずれ削り切れそう__
グバァッ!
そんな算段を立ててる最中に、砂棲が大きな口を開いた!ヤベェ、何か来る!?
ボオォッッ!!
「チッ!」「くっ……」
巨大な砂の塊を吐き出してきた!ただの砂じゃない、しっかりと妖気を伴った攻撃だ。
俺と氷雅は咄嗟に二手に分かれて、それを躱す。
ドォゴオンッッ!!
さっきまで俺達の立っていた砂地に激突する、砂塊!
おいおい、今の本当に砂同士のぶつかる音か?こんなもん喰らったら、全身骨折どころじゃ済まねぇぞ…………
「シッ……!」
だが、俺も奴と対峙していた間に何もしてなかったわけじゃない。右手に作っていた霊盾を砂の仕返しに投げ返してやる。
“!?” バアァンッッ!!
時間が短かったんで余り高威力のは作れなかったが、それが奴の側頭部にヒットする。
””“オオオォォォ〜〜〜〜〜!!!”””
爆発の威力で少ないながらも、砂が飛び散り頭の一部が吹き飛ぶ……
それなりに効いてるみたいだな。奴の苦悶の叫び声がノイズのように聞こえてくる。複数の声が重なって聞こえるのは、元が怨霊の集合体だからか…………?
「!?」
奴の体が崩れていく……!?
ダメージは入ったけど妖気は依然としてあるのに。
「潜り込む気ですわ!」「チッ……」
氷雅の声に舌打ちする俺。砂に潜り込まれたら、こっちには攻撃する手段がねぇ。
だが、そんな焦燥を抱く僅かな間にも砂棲の体はどんどん砂地に潜り込み、瞬く間に周りと同化しちまった。
そして…………
ザァァアアアアーーーー!!
バグンッ!
いきなり大口ヲ開けて、俺達の目の前に飛び出す砂棲!俺達を飲み込む積りだったんだろうが、事前に移動して事なきを得る。
妖気の流れがダダ漏れなのと、上の砂地が波立つせいもあって判別が容易なのに救われた。
しっかし、厄介だな。
動きは緩慢だが、砂に潜られると移動は割と速い。俺達は元々10メートル程離れて対峙してたのを、1〜2秒程で詰めてきた。
「はあぁぁ〜っ!!」
ザシュッ!
今度は砂棲を挟んで向かい側にいる氷雅が、刀で奴の横っ面をを斬り付ける!
…………ダメージは通ったとは思うが、刀じゃ効果は薄いな。
ただ、それを解った上で俺も霊手で奴を引っ掻く!霊盾だと生成に時間が掛かって、咄嗟に対応出来ないからだ。
ガリッ!
………案の定だが、表面の砂を幾分か削り取っただけで砂棲に大した効果は無い。
””“オオオォ〜〜!!!”””
グゥオォッ!
「「!?」」
噛みつきが不発に終わった次の瞬間、今度は頭の下の首(?)に当たる部分を思い切りくねらせて来た!
「くっ……」
間一髪、それを咄嗟に砂地に這って躱す!
それと、ほぼ同時くらいにさっきまで俺の居た空間を巨大な質量を伴った砂塊が通過する。
不味い……接近戦は完全に不利だ。
距離を取ろうにも、こう足場が悪くちゃ直ぐに追い付かれちまう。
氷雅の方は大丈夫か…………?
だが、それを気にする余裕は無かった。見上げた瞬間、砂棲が空振った頭を今度は俺に打ち付けようとしてるのが目に入ったからだ……
「噓だろ……」
あれを喰らえば確実にペシャンコだ!でも、この這った状態で躱すのは不可能…………仕方ねぇ。
ボォゴオオオォォ!!!
…………ギリギリ2連発……
『飛』と刻んだ文珠で滑空した次の瞬間に、大きな衝撃と轟音と共に大量の砂煙が巻き上がる。
俺は、その勢いのまま砂棲の向かい側に回り込む。
すると、同じように這って躱したんだろう……砂地から立ち上がろうとしてる氷雅の姿があった。
「こっちだ!」
「!?」
霊気で作った漆黒の片翼で飛ぶ俺に氷雅は驚愕の表情を浮かべたが、それでも差し出した左手を掴んだ。
そのまま氷雅を引っ張り、砂棲の攻撃が届かない空域まで急上昇する。奴は俺達を見失い右往左往している。
「本当に……何でもありですわね」
「そう、ポンポン使える力じゃありませんがね……」
空を飛ぶ俺の手にぶら下がりながら、驚いてるようにも呆れてるようにも聞こえる氷雅の言葉に、俺も “やれやれ” と言った感じで返す。
取り敢えず離れたはいいが、どうするか?
遠くからだと、砂塊を飛ばしてくるし。近くに行けば、歯が立たない。
一旦氷雅を避難させて、その後は霊盾で削るのが一番か?でも、その間に奴が砂に隠れちまえば俺には見つけらんねぇしな……
「……あの眼を潰せれば、それなりに効果があるかもしれませんわ」
俺が、そう考えてるのを余所に氷雅が呟く。あの紫眼か……どんな生き物でも、眼は弱点だが…………
「……確かなんですか?」
「そんなの解りませんわ!でも、他に何かあるんですの?」
ムキになんなよ。
ちょっと可愛いと思っちまった…………まぁ、いいか。外から削るのは最後の手段だ。
「なら、私が右でいいですか?」
「ええ、左は任せて下さい!」
若干アホな事を考えつつ、お互いの意思を統一すると、再び砂棲な向かって急下降。キョロキョロしていた奴も俺達の接近に気付き大口を開けた。
「来ます!」
「ええっ!」
ヴォンッッ!!
放たれる砂塊!
だが、口を開けた時点で既に射線上からは回避してる。攻撃は強いが、動きが読み易いのは救いだな。
「今です!!」
そして、氷雅の掛け声に従って奴を砂棲の方へ離す!
その勢いのまま、俺も砂棲へ突っ込む。砂棲はまた、大口を開けたままだ。
俺は、霊手をいつもの鉤爪ではなく剣状に伸ばす。その右腕を剣道の “逆胴” の様に構えると、砂棲とすれ違い様に…………
ザシュッ!!
””“オオオォォォ〜〜〜〜〜!!!”””
「上手く入ったな……」
斬った直後、上に回避しながら呟く。
右腕に残る、砂ではなく霊体を斬ったような感覚がそれを物語ってい。
氷雅の方も、上手くやったらしい。俺が斬り付ける時に、奴の刀が砂棲の眼を一閃しているのが視界の端に映っていた。
””“オオオオオオォォォォォ〜〜〜〜〜!!!!”””
初撃よりも、強い苦悶の声を上げる砂棲。眼の窪みのには、もう紫の光は無い。ただ、くぐもった黒い闇が映るだけ……痛みと、視界の喪失でパニクったような体をくねらせる。
眼を失えば、誰でもあんな反応にはなるだろうが、それは奴も例外じゃなかったらしい。
「今です!砂に逃げられる前に早く!!」
「解っています!!」
飛び降りてから、既に砂棲から離れた所に退避してる氷雅が俺に叫ぶ!
言われなくても解ってる。
奴の眼を斬り付けた、次の瞬間に既に霊盾の生成を開始済…………そして、それは今終わった(5連式ダイナマイト形は気分……)!
「外は硬そうだが、口の中ならどうなんだろうな……?」
俺は、そう呟くと……
「はああぁぁぁーーー!!」
作った霊盾を、未だ苦悶の声を発し続ける砂棲の大口へ放り込む!!
そして…………
””“オオオォォ……!?”””
ドォゴオオオォォォーーーーン!!
「くぉっ……!!」
強くやりすぎたか?
さっきの一撃で砂棲は内側から、完全に吹き飛んだ。あれなら、氷雅の言ってた “砂の精髄” とやらも消し飛んだろう。
ただ、吹き飛ぶ砂粒と爆風が思った以上に強すぎた。
空中に居た俺は咄嗟に腕で防ぐも耐え切れず、俺は数メートルくらい後ろに回転しながら吹っ飛んで何とか体勢を整える。
「ふぅ…………ヤベェヤベェ……威力を計算しないと自分も巻き添えを喰うわな」
俺は下に広がる大きな(半径15メートル程)クレーターを見ながら呟いた。
砂地だから綺麗に広がったな……正直、もっと感慨に浸って眺め続けたいとこだが、砂棲をちゃんと仕留めたか確認しないといけない。
見た感じ、妖気は感じ取れない。ただ、奴は潜むのが得意だから、この辺は氷雅に確認して貰わな…………
……………………
「氷雅、どこ行った……?」